ヒーロー。私にとってそれは駒場のお兄ちゃんのことだった。  
過去形なのは、ヒーローが帰って来ないから。大体、その空席に座ってくれた人がいる。  
浜面、今の私の、ヒーロー。  
助け出されて、一番初めてしたことは抱きしめる事。その後で浜面の顔を引き寄せて、唇を重ねた。  
脇役だって言ってた。もっと大きなお話を知ってるからかも知れない。駒場のお兄ちゃんが何に負けたのか知らない。お姉ちゃんがどうしてたのかも分からない。  
だけど、小さな私の小さなヒーローにはなってくれた。  
ヒーローには向いていないと言われた私も、小さなヒロインにならなれるかもしれない。  
「ちょ、えっ? 何を、」  
見てて笑いそうになるほど、慌ててる。キスくらいで。  
大体、それじゃあこの先のこと出来ないよ。  
引きつりそうな顔の筋肉に無理やり命令して笑顔を作る。  
浜面の手を私の胸に引き寄せる。浜面が変身スーツを着たままなのを思い出す。  
「スゴくドキドキしてる。大体、浜面は分からないかも知れないけど」  
さらに顔が赤くなり慌てる浜面。今の姿からヒーローなんて言葉は浮かばない。  
でも、それで良い。大体、普段からヒーローなら何人もヒロインがいるはずだから。  
「初めて、貰って? 私のヒーロー」  
 
 
浜面に連れられてホテルの一室、みたいな部屋にいる。大きなベッドがあって、壁紙がピンクで。  
シャワー浴びてくるように言われた。きっと浜面はベッドに腰掛けてオドオドしてそう。  
泡を流しながらベッドの方を向く。大体、私だってどういう場所か想像はついてる。  
ボタン一つでバスルームがマジックミラーになることも聞いたことがある。  
私の裸を見て、興奮してるならそれで良い。ちょっと受け入れるの辛いかも知れないけど。  
 
バスルームから出るとベッドサイドのスイッチをあれこれ弄る浜面と透けた壁が目に入った。  
大体、手持ちぶさたに触って直し方が分からないといったところかな。  
「これは、その。見てない、見てないからな」  
聞いてる私が申し訳なくなる位の慌て方。本当に情けなくて笑えてくる。  
「大体、この後好きなだけ見れるのに」  
そう言って浜面が待つベッドに向かう。固まってる浜面にキスする。さっきみたいに触れるだけじゃなくて、舌を絡ませる。  
 
少しして浜面も応じてくる。粘液が絡み合う音がいやらしい。  
浜面の肩に手をかけてベッドに倒す。つもりが体を入れ替えられ、私が下になる。  
浜面、やる気になってくれたんだ。  
凹凸のなだらかな胸に唇をつけられる。舌の感触がこそばゆい。  
少しして不思議な感覚に襲われた。大体、浜面がやっている事は、今までと変わらない。それなのに少しずつベッドから浮いて行くような不安定な。  
「にゃ、にゃ、にゃ」  
声が抑えられない。意識が飛びそう。  
浜面と目が合った。妹か何かを見る目じゃない。男の目だ。  
ゾクゾクと中から何かが登ってきた。言葉にならない叫び、それを必死にかみ殺す。  
浜面がズボンに手をかけようか戸惑っているのが見える。大体、背中を押せば来てくれる。  
「最後まで、して欲しい。にゃあ」  
媚びていると言われた口癖。大体、それは多少の効果があった裏返し。  
ズボンを脱ぎ捨てた浜面が私の蕾にソレをあてがう。まだ躊躇いがあるのか挿入して来ない。  
助けに来てくれること以外は頑張って磨かないといけないかも。  
「焦らさないで……」  
瞳に涙を溜めて浜面を見上げる。直後、身体を引き裂くような痛みに襲われた。  
「――――!」  
声とは呼べない。高周波みたいな音が口から漏れた。  
また、浜面が止まっちゃうか不安だったけど、そんなことなかった。何かに耐えるような表情で震えてる。  
試しに腰を動かす。短い呻きを上げる浜面。大体、これじゃあどっちが初めてか分からない。  
「ヤバい、ちょっと待ってくれ」  
焦りが伝わってくる。  
「どうしたの?」  
何か問題でもあったのか。  
「ゴム、付け忘れた。一回、抜くぞ」  
肩すかしを食らった気分になる。大体、私には関係ないし。  
しかも、抜こうとして間際で熱いモノを吐き出した。  
「わ、わ、わ、悪い!」  
ほっとくと土下座しそうな浜面を抱きしめて止める。そのまま耳元で囁く。  
「私、まだだから。好きなだけ出して良いよ」  
その言葉で何かが切れたのか、手綱の切れた暴れ馬みたいになる。  
奥へ浜面が入って来ると、痛みと訳がわからない感覚が混ざって流れ込む。  
最奥、赤ちゃんの揺りかごの入り口にノックされると良くわからない感覚の方が強くなる。  
水の上に浮かぶような浮遊感。だけじゃない? 身体の中から何かが来る。  
「にゃーー!」  
 
声が抑えられなかった。まだ不思議な感覚が残ってる。浜面も短い呻きを上げて欲望を吐き出した。  
中に感じる暖かさが、浜面と並べたことを感じる。大体、幸せかも知れない。  
 
 
疲れたのかいつの間にか寝てしまったみたい。布団をかけてくれたのは優しいけど、ベッドサイドで電話するのはどうかと思う。  
相手、女の子みたいだし。  
浜面の手から携帯を奪い言葉を発する。  
「浜面は、私『だけ』のヒーロー。にゃあ」  
自分の口癖が同性にどう思われてるか知ってる。だからこそ使った。  
そして携帯のボタンに指をかける。  
「大体、浜面はあんな事シた後で他の女の子と電話するなんて……」  
浜面はポリポリと頭を掻くと白々しい言葉を言った。  
「はいはい、俺が愛してるのはフレメアだけですよ〜。だから携帯返してね〜」  
子供扱いに普段なら腹を立てたと思う。でも今は笑みを抑えるので精一杯。  
だって、浜面の携帯のスピーカーから震える声で、『大丈夫、はまづらを信じてるから』という言葉が聞こえてきたから。  
 
 
 

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