敬虔なシスター様は言いました。
「……布団がないなら、一緒に寝ればいいかも」
軽口も叩けず、叱咤も出来ず。冗談にしてはぐらかすことも拒否することもせず。
当然のようにいつも律儀に空けられた『誰か』のスペース。そこに、俺は足を踏み入れた。
片膝を乗せると、ぎしりと重い音が部屋に響く。
甘い匂いのする銀髪が流れるパジャマの肩が、わずかに震えたように見えた。
―――― 馬鹿じゃねえの。
酷薄な声が、頭の中に響く。これは、誰の声なんだろう。
薄いタオルケットの中に滑り込むように、身を横たえた。目を閉じる。
「おやすみなさい、とうま」
俺のすぐ後ろで、彼女が囁く。
「おやすみ」
返す声が、自分の声なのにやけに遠く聞こえるのがおかしい。
眠りがやってくるまでの空白は、否応なしに、俺に現実を意識させる。
背中と背中の間に広がる5センチの距離。
狭いベッドの中で、身を縮めて。反対の端に寄るようにしてつくった、シーツの上の透明な境界。
これが多分、俺の思いやりで、狡さで、理性で、臆病で、意地で―――― 精一杯なんだ。
闇に溶けいるように静かな寝息の合間、彼女の寝言が柔らかく響いた。
「…………とうま…………」
なあ、敬虔なシスター様。
俺はお前の理解なき博愛がいたいよ。