嫌な夢を見た。  
流れてくる負の感情に押しつぶされそうになりながらも、足掻き、叫ぶ。助けて、誰か助けて。  
ひとりきりの世界。他の妹達とは違うのだという、疎外感。自分が消えていく、そんな感覚。  
死ぬのは怖くなかったはずだった。ひとりきりでも平気だったはずだった。では、何故こんなにも気分が悪いのだろうか。  
誰でもいい、だから、ミサカを助けて――  
 
 
――――  
―――  
 
 
「番外個体!!」  
「っ、」  
 
カッと目を見開く。目の前に最終信号がいて、こちらを覗き込んでいた。  
「最終……信号」  
「大丈夫? あなたすごくうなされてたよってミサカはミサカは報告してみる」  
うなされる、か。まだ働かない頭で、無理矢理醒まされた悪夢を思い出す。どんな内容だったかなど、もう覚えていないのだから単純なものだ。  
ただ、異様に嫌だった。じっとりと滲んだ汗だけが、夢の証拠といったところだろうか。額を拭い、ごろりと寝返りをうつ。  
「お水持ってこようかってミサカはミサカはあなたに尋ねてみたり」  
「……いらない」  
最終信号と番外個体は同室である。最近この家庭に引き取られることになった、いわゆる新参者である彼女が最終信号の部屋に押し込められたと言った方が正しいかもしれない。  
文句言える立場ではないが、苛立ちは更に募った。こんなガキに自分の弱みを見せることになるとは、しかも気を遣わせるなど。最終信号は製造日こそ自分より先だが、肉体的・精神的にまだまだ幼く未熟な、ただの子供に過ぎないのだから。  
「ねぇ番外個体、」  
「……煩いんだけど。ちょっと黙りなよ」  
苛々していたせいか、普段よりキツい言葉しか出ない。これに最終信号が気分を悪くしたら面倒だ。お喋りでガキな彼女は、赤いほっぺたを膨らませて「もう、番外個体! 心配してるんだよってミサカはミサカは…」という感じにでもなるに違いない。  
頼むから放っておいてくれ。ただでさえ胸糞悪いんだから。  
「番外個体」  
「煩いってば!」  
苛立ちに身を任せ、突き放す言葉。だが、待っていたのは不貞腐れた幼女の怒りではなく、小さな手だった。  
ぽんぽん、と番外個体の頭を撫でる。  
 
 
「怖い夢だったね」  
 
 
「な……に、それ」  
「怖いときはちゃんと言っていいんだよってミサカはミサカはお姉さんぶってみる」  
「馬鹿……言わないでよ。あなたなんてガキのくせに」  
「むむ、身体は子供でもミサカはお姉ちゃんなんだよってミサカはミサカは末の妹を甘やかしてみたり!」  
最終信号の手が、彼女の頭から消える。その瞬間、ほんの少し番外個体は寂しく感じた。が、すぐにゴソゴソと動いたかと思えば、そのまま小さな身体が布団の中に潜り込んできた。  
「……何勝手に入ってきてんの」  
「あなたが怖い夢をみないようにミサカが傍にいるよってミサカはミサカはあなたに伝えてみる」  
「はっ、夢なんざ怖い訳ないでしょ。馬鹿にしないでくれる?」  
「ミサカもね、さっき見たよ。今でもたまに見るの。痛くて悲しくて苦しかった時の夢。怖くて一人じゃ眠れないよね」  
「……って、怖がってるのはミサカじゃねーってことか、このクソ最終信号」  
「そうとも言うかもねってミサカはミサカは事実を認めたり……だけど、あなたにも影響があったはずだよね?」  
最終信号の悪夢が、ネットワークを通じて自分にアレを見せたということか。あの寂しさと悲しさと息苦しさ――彼女から流れ込んできた、感情。  
ぎゅっと、やけに暖かい体温が伝わってきた。  
「抱きつかないでくれる? 暑苦しい」  
「いやだってミサカはミサカは即答してみたり!」  
小さな身体はどこまでも温かい。これが子供体温というやつか。べったりとくっつかれ、煩わしいと思う反面で、最終信号の小さな身体が心地よいとも感じてしまうのは、夢が最悪だったせいであり、決してこの小さな姉に絆されてしまった訳じゃない。  
「誰かと一緒にいるって安心するねって、ミサカはミサカはあなたに語りかけてみたり」  
「……次こそ、変な夢見ないでよね」  
 
――――  
―――  
 
 
殺気で目醒める心地の悪さは、悪夢にひけをとらない。  
そんな知りたくもなかった事実を知ることになったのは、翌朝のことだった。  
ぴりぴりと肌に刺さるような殺気。こちとら第三次製造計画によって戦闘タイプに調整された個体であるため、目を醒まさずにはいられない。  
 
「――よォ、よく眠れましたかァ?」  
 
「……なーんで第一位がミサカ達の部屋にいる訳? 夜這いにしちゃ、遅すぎる気がするんだけど?」  
「そンなことどうでもいいンだよ」  
いや、どうでも良くねーよ第一位。女の部屋に勝手に入ってきて、そんなことで済ますんじゃねーよ。思いっきり睨みつけるも、一方通行の視線は番外個体ではなく、その胸元に注がれていた。  
小さな頭が、腕の中に入っている。いつの間にか、抱き枕にしていたらしい。  
「随分仲良くやってンじゃねェかオマエら」  
「え? 何? 嫉妬? これは俺の抱き枕だー!! って言いたいのロリコンさん?」  
人を嫌な形で起こしておいて、ガキをご所望とはいいご身分だ。というか、朝早くから他人の部屋に入ってきてやることかっての。  
と、このピリピリした空気の中でも暢気に寝息を立てていた、腕の中のガキが身じろぎをする。  
「んー……おはよ、番外個体」  
番外個体に挨拶したその瞬間に、一方通行の手からチョップが繰り出される。  
「いっ、いたぁ!! えっ、ええ?」  
「二人でオネンネたァ楽しそうだな、ガキ」  
「な、な、何であなたがここにいるのってミサカはミサカはびっくりしてみたり!!」  
「ホント、何でかねぇ親御さん?」  
「……オマエらこそ何で一緒に寝てンだ」  
「あ、あのね、ミサカはまたあの夢を見て……だから番外個体と一緒に寝てもらったんだよ。ほら、あなたを夜中に起こすと怒るでしょ?」  
定期的に見るらしい悪夢。最終信号はその度に、第一位の布団に潜り込んで抱き枕をやっていたらしい。  
つまりは、素直じゃない性格が災いして、新参の自分に添い寝の位置を盗られた嫉妬……くだらねー、くっだらねーよ第一位。  
第一位の苦痛とは、案外簡単なところにあったらしい。「俺様のクソガキ」の保護者の座さえ奪えば良かったのだ。  
ぎゅっと最終信号の身体を抱きしめる。  
 
「きゃはっ。そういうことだから、第一位」  
 
「ほォ?」  
一方通行の手が、最終信号の頭を掴んでぐりぐりと引っ張る。「いたいっ!! ミサカの頭が取れちゃうってミサカはミサカは猛抗議してみたり!! もげるっ!!」とバタバタ暴れ出す打ち止めと、一歩も譲る気のない両者。  
「ミサカとお姉ちゃんとの時間を壊さないで欲しいんだけどー?」  
「都合のいい時だけ妹面してンじゃねーよ」  
「じゃあ次はヨミカワとヨシカワのところに行くねってミサカはミサかは怒られた理由が全く分からないけど妥協案を出してみたり」  
「その必要はないよ、最終信号ー」  
「……オイ」  
 
ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人組に対し、リビングでは二人の女性がコーヒーを啜っていた。  
「全く、何やってるのかしらね?」  
「可愛い妹の取り合い?」  
「妹は番外個体の方なんだけどね」  
「うーん、なんかあいつらよく似てるじゃん?」  
苦笑いした黄泉川に、芳川も頷く。打ち止めという存在が一方通行を変えたように、この家の中で番外個体も変わっていくのだろう。教育者としては何よりのことだと、黄泉川は微笑む。  
 
「学園都市は今日も平和じゃん」  
「朝っぱらから騒ぐのは近所迷惑だけどね」  
 
 
おしまい。  
 
 
 

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