唾液の交換に疲れた舌がぴりぴりと痺れる。
合わせていた唇と唇が離れると、近すぎた距離が正されて海原の目の奥を覗けた。
冴えた黒い瞳を見つめながら、弾んだ息を整える。大きく息を吸って、吐く。
程良い冷たさの外気が、温まりすぎた口内を冷した。
後頭部に添えていた彼の右手が、頭の丸みをなぞるようにするすると滑る。
そうして辿り着いた左の耳朶を親指と人差し指で挟み、擽るように愛撫する。
余った三本の指も使って耳の後ろをなぞられると堪らなかった。
耳元でざわざわと騒ぐ空気と、薄い皮膚を優しく嬲られてぞくぞくと煽られる性感。
慣れた官能の回想。未知の刺激への期待。じわりと芯が疼く。
導入部は悪くない。
小さく腰を揺らして、彼の太腿に乗せていたお尻を擦り付ける。
膝で硬い脇腹を撫でてやると、それに応えるように耳を弄っていた手が項を掠めながら首筋を巡り、鎖骨から肩、肩甲骨の形をなぞりながら下降する。
淀みなく、焦りのない仕種だ。
これはアタリかもしれない。
目を閉じて心地よさに酔っていると、突然、ぐいと髪を引かれる不快な感触に水を差された。
首がガクリと傾ぎ、走る衝撃に反射的に目をあける。
眼前には、笑う海原。常に胸の内を隠してその表面を覆うように柔和な笑みを貼り付ける男が、左手の指で細いヘアゴムを摘み玩んでいる。
己の胸元まで視線を落とすと、二つに分けて結ばれていた髪の一束が解かれ、腰まである長い赤毛がさらさらと流れた。
「ああ、やはり映えますねえ」
「……ちょっと、」
「とても綺麗ですよ、結標さん」
あからさまに刺のある声を出したのに。
独りよがりな賛美を私に捧げた男は、満足したような息を漏らすとさっさと胸元にかかる髪を後ろに流した。
その手で下から胸のふくらみを掬い、手のひらでぐっと押しつぶすように包む。
やわやわと、むにむにと、きゅっと。緩急つけて乳房を揉みしだきながら、乳首を転がす手際の良さと言ったら!
は、ぁ…………やっぱりハズレかもしれない。
腹の底から迫り上る溜め息を、ついにはサラシ越しに乳首を食み始めた男の頭部に遠慮なく吹き付けた。
ねぇ、
「はやく解いてよぉ」