「・・・というわけで、アナタにはミサカをエスコートする義務があるわけ」
「いや、何がというわけなのか全然分からないんだが」
学園都市の往来にてとあるツンツン頭の高校生を眼前に見据えて
きっぱりと宣言する茶髪の少女が1人。年齢は16歳ほどであろうか。
痩せぎすで目つきが異常に悪く、瞳はらんらんと輝いていて今にも噛みつかんばかりだ。
何故かアオザイ衣装を身に纏っているが、彼女の雰囲気とは果てしなく掛け離れていた
つまり、有り体に言えばあまり似合ってはいなかった。
「アナタはミサカの自尊心をいたく傷つけた。よって責任を取らなければならない」
「だからお前が何を言っているのかさっぱりわからないんだって!そもそもお前とは殆ど会ったこともなかったろーが!」
少女は傍目にも呆れたような顔をして深くため息を洩らし、指を一本ずつ立てながら口を開いた
「そのいち、アナタは10032号の意図するところをまるで解さず、薬指を遊ばせてしまい、ささやかな夢を打ち壊した」
「そのに、アナタは20001号に対しデリカシーの無い発言を連発し、乙女心を深く傷つけた」
「そのさん、アナタはアナタに会うために5000m上空まで参じた10777号の存在をまるで無視し、オリジナルのみとコンタクトを取った」
「そのよん・・・
「待て待て待て!ちょっと待て!それは他の妹達であってお前とは関係ないだろう?」
「関係あるし。ミサカはミサカネットワークの悪意を抽出するように造られた存在。
すなわち、10032号や10777号がアナタに対して望む『会いたい気持ち』『してほしい気持ち』『むしろしたい気持ち』
『某専門誌で勉強した知識をここぞとばかりに披露するために必死で頑張ってきたのに裏切られた気持ち』などの
黒い感情、有り体に言えば欲望や願望を蓄積してしまう存在だったりするわけで」
「何か不穏当な単語が混ざっていたような気がするがここは全力で聞かなかったことにしておこう」
「よってここはミサカがこれらの要望を全て叶えてもらうしかないという結論に至り」
「何かが色々間違っているっっ!!!!」
会話は噛み合っているようで全然噛み合ってはいなかった
と言うより合わせる気など最初から無く、100%自分の抑え切れない欲求不満を
その元凶に対しぶつけに来ているわけだから、今さら彼が何を言おうが
気持ちに収まりがつくはずはなかった。
「というわけで納得してもらったところでご休憩がいいかお泊りがいいか選んでも貰おう」
「うぉいっ!お前もう実は前置き並べるの面倒くさくなってないか!段階すっ飛ばすにも程があるぞ!!」
「御託は後。ミサカが『満足するまで』帰れないことを覚悟するべきだね」
「お前が何を望んでいるのかさっぱり見えないっ!!っていうか知りたくないっ!!」
こうして少年は首根っこを引っつかまれて往来をずるずる引きずられていった。
事態を最終信号に感知され、部屋に踏み込まれる間の約2時間の空白の間に
彼らの身に何が起こったのかは、真っ白になった少年は頑として何も語ってくれなかったと言う。