携帯をしまい、ふと上条の方へと視線を向けると、やけに感心したような目で白井を見つめていた。  
「…いかがなさいましたの?」  
「いや、白井って真面目に仕事してんだなぁってさ」  
「失礼な方ですわね…」  
その言葉に一瞬白井の眉根が寄るが、  
「悪い意味じゃねーって、つか普段御坂とバカやってるとこしかみたことねーからな」  
「…ぅっ…!」  
言われて怯んだ。  
確かに彼の前では愛しのお姉様にじゃれついてばかりだった気がする。  
「なんつかさ、カッコイイんじゃね? とか思ったんだよ」  
そう言われて悪い気はしなかった。  
 
どちらかと言えば褒められたわけではないのだが、何となくそんな気にさせられ少しだけ頬が緩んだ。  
「……白井ってそんな風に笑うんだな」  
笑ったところは何回か見たことがあるのだろうが、それは山賊みたいなものだったり、嘲笑だったり、お姉様にたかる悪い虫を駆除できる愉悦の笑みだったりと、まともな笑顔ほとんどなかったように思える。  
「………っ…!」  
ぼふっ、と煙を上げんばかりに赤くなる頬。顔に熱が一気に集中するのがわかった。  
恥ずかしい?  
いや違う。  
 
上条の言葉があまりにストレートで、素直に『嬉しい』と感じてしまったのだ。  
何故?  
コイツはお姉様の心を奪った人間なのに。  
わたくしの恋敵なのに。  
 
(……………敵……?)  
 
嫌だ、と思ってしまった。  
何が嫌かはわからない。とにかく嫌だと思ってしまったのだ。  
またも思考のイタチごっこ。  
美琴と上条のことも、嫌だと思った理由も、考えれば考えるほど胸の奥がもやもやしてくる。  
すっきりしない。  
「そういやぁ、今まで白井が普通に俺の名前呼んだこと無かったよな?」  
と、唐突に告げる上条。  
 
「何をおっしゃってますの? そんなこと…」  
言われて考える。  
(………あれ?)  
よくよく考えてみると彼の名前をマトモに聞いたためしがないような…。  
そもそも『アンタ』とか『アイツ』とか『あのバカ』とか、美琴から正確な上条の名前を聞いたことがない。  
気がする。  
「…………もしかして、知らない?」  
上条の言葉にビクリと白井の肩が跳ねる。  
「まぁ、しょうがねぇか…俺らってそんな接点ある訳じゃねーからな」  
白井の反応を気にした風でもなく普通に会話を続ける上条。  
 
「上条だ、上条当麻。呼ぶときは苗字でいいだろ。面倒なら呼び捨てでもいいぜ」  
ニッと笑いながら上条が改めて自己紹介をする。  
「…わかりましたわ」  
申し訳なく思いつつも素直に答える白井。  
「では参りましょうか上条さん、お礼をさせてほしいのですわ」  
そうして、仕切直すように白井は告げたのだった。  
 
 
上条と白井は並んで地下街を歩いていた。  
お礼を、とは言ったもののすぐに何か思い浮かぶ訳もなく、とりあえずの対応策として地下街をうろつくことにしたのだ。  
 
「…お食事、というのもありきたり過ぎますわね〜。でも他にいい案も思いつきませんし…」  
「飯? ならもう食ったぜ?」  
「…そうなんですの? 困りましたわね…」  
といった具合に少しずつ候補を潰していってはいるが、むしろ時間の方が余分に潰れている。  
「そう言えば、仕事はいいのか? 白井」  
歩きながら思い出したように口にする上条。  
「もう全て終わらせましたわ。その後に考え事をしていたらあの騒動に巻き込まれたんですの」  
なるほど、と上条はその答えに苦笑した。  
(…ツイているのかツイていないのかわからない日ですわね…)  
 
上条の苦笑を眺めながら、そうぽつりと思った白井だった。  
 
 
その後しばらく無言で地下街を歩く二人。  
(…お礼してもらう云々の前にこの状態を何とかしねーとなぁ…)  
『この状況』とは無言で地下街を歩く、という状況である。  
さして互いを知っている訳ではない上条と白井。二言三言言葉を交わすと大体の場合会話が途切れてしまう。  
何と言うかその無言の合間が、非常に居心地悪いのである。  
話題を探して辺りを見回す上条少年。  
ふとその視線が地下街のとある一角を捕らえた。  
 
(…ん〜…まぁ、それなりに手持ちもあるし…このまま地下街を練り歩くよりはマシか…)  
考え、  
「なぁ白井、ゲーセン行ったことあるか?」  
「ゲーセン? 行ったことありますけど、それがなにか? ですの」  
不思議そうな顔で上条を見返す白井。  
「どうせならゲーセンで遊ばねーか? このまんまうろついてるよりは有意義だろ」  
ポケットに手を突っ込み財布を漁る。  
「…ですが、お礼はどうしますの…?」  
少しだけ視線を白井に向けると、若干眉をしかめながら呟く。  
「つかさ、お礼目当てで助けた訳じゃねーんだし…そこまで気にすんなよ」  
 
まだしばらく渋っていたが、上条が折れないとわかったのか、渋々ながらそれに従った。  
「折角だし思いっきり遊ぶぞー!」  
「おー! ですわー」  
ぶっちゃけて言えばこれがトラブルの火種になるのだが、上条動けば必ずトラブる。  
むしろ巻き込まれてトラブル起こす。  
何もしていなくても被害を被る。  
これ上条少年の哀しき性である。  
知り合いの女性との遭遇比率が確率変動中の上条さんは、一体何連チャンするのだろうか。  
 

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