(・・・ここは・・・どこだ?)  
一方通行が目を開くと、そこには白い世界が広がっていた。  
「おはようございます。一方通行。気分はいかがですか?」  
黒いスーツを着こなした品のよさそうな中年の男が話しかける。  
(あ〜・・・そうか、あのあと気絶させられて・・・病院か?ここは)  
「チョーカーの電源は入っているはずですが・・・聞こえていますか?」  
一方通行は目を男に向けると、  
「あァ、聞こえてンよ。ンで、俺はまず何をすれば良いンだ?」  
「話が早くて助かります。実は、貴方に本来やっていただきたい仕事があったのですが、こちらも人手不足でして・・・急遽、別の仕事をこなしていただきます。」  
「そんな話はどうでも良い。何をするのかを聞いてンだよ。」  
「はい。貴方には、我々の計画遂行に必要不可欠な人間の護衛をして頂きます。本人には気付かれないように、ね。」  
「護衛?この俺が?それも、反射すら時間制限がある俺に護衛しろと?頭大丈夫か?」  
一方通行の皮肉をことも無げに男は返す。  
「ご心配いただきありがとうございます。まだ言っていませんでしたが、あなたの御坂ネットワークを使用した代理演算装置のバッテリーが完成致しまして、  
フルに能力使用していても1時間、さらに、交換用のバッテリーもいくつかご用意させていただきました。今貴方の首にすでに付いています。ご確認ください。」  
一方通行は己の首に指を這わすと、丸く軽い金属のような物に指が触れる。  
軽く押すと、チリィン、と音がした。  
「あァ・・・?鈴?なンだこれ」  
男はポケットから細長い筒のようなものを取り出す。  
「それがバッテリーになります。このケースにそれと同じものが10個程、入れることが可能になっていますので、ご活用ください。」  
「おいおい、こんなものいつの間に作ったンだ?あの医者はそんなもンが出来たなンてかけらも言ってなかったぞ?」  
「でしょうね。我々としては、貴方をフルに活用するために必要だからこそ、総力を挙げて作らせて頂いたのです。といっても、バッテリーしか作ることはできませんでしたが。  
お気をつけください。もし、チョーカー自体に問題が発生した場合、我々ではどうすることも出来ません。」  
「ハッ、十分だよ。」  
(こんなもんがあれば、あのガキをあんな目にあわせる必要もなかったろうに)  
「ンで、どこのどいつを護衛すれば良いんだァ?」  
「その前に、まず貴方には変装をしてから対象の通っている学校へ転入生として行って頂きます。」  
 
「変装?」  
「はい。貴方は仮にも、一度指名手配された身ですからね。こちらの制服を着ていただきます。」  
男は背後から一般的なとある制服を取り出した。  
「ブッ」  
「お・・・おま・・・それ・・・!」  
「はい。セーラー服ですね」  
「俺にそれ着ろッてか!?」  
「はい。それで変装して学校へ転入し、〈上条当麻〉を護衛するのがあなたの最初の任務となります。」  
(上条当麻・・・誰だ、それ?)  
(いや、その前に俺がセーラー服って・・・)  
一方通行の脳内に、セーラー服を着て笑いながらクルクル回っている自分の姿が思い浮かぶ。  
(あり得ないあり得ない!おれが?セーラー服?ちょ・・・おま!)  
「お前、俺が〈セーラー服〉って正気か!?」  
「何か問題でも?」  
問題などあるはずも無いというように、男は返した。  
「すでに、転入の手続きは済んでいます。こちらにマニュアルを用意したので、そちらをご覧ください。」  
男は一方通行に携帯電話のようなものを手渡す。  
「こちらもあまり時間があるわけではないので、これで失礼します。  
何か用があれば、そのマニュアルについているボタンを押せば、私の携帯端末と通話することが可能ですので、そちらをご利用ください。では」  
男は扉を開けると、そのまま出て行ってしまった。  
「本気かよ・・・オイ」  
茫然自失、といった表情で一方通行はマニュアルを見る。  
指で操作していると、  
「申し訳ありません。伝え忘れたことがありました。」  
男が戻ってきた。  
「転入する予定の日は3日後です。後必要なことはすべてマニュアルに書いてあります。それから、ベッドの下に書類や教科書や体操服など、必要なものがあるはずです。それでは。」  
一方通行が何か云う暇もなく、男はしゃべり、そのまままた出て行ってしまった。  
 
「・・・どうしろッてんだよ、クソッ」  
 
 
「はいはーい、それじゃホームルーム始めますよー。ー」  
子萌先生が教室に入ってきたころには、生徒の全員が着席していた。  
「えー、出席を取る前にクラスのみんなにビッグニュースですー。なんとまたもや今日から転入生追加ですー」  
おや?と、クラスの面々の注目が子萌先生に向く。  
「ちなみにその子は女の子ですー。おめでとう野郎どもー、残念でした子猫ちゃん達ー」  
おおおお!!とクラスの面々がいろめき立つ。  
「とりあえず顔見せだけですー。詳しい自己紹介とかは朝礼が終わった後にしますからねー。さあ、転入生ちゃん、どーぞー」  
子萌先生がそんなことを言うと、教室の入り口がガラガラと音を立てて開かれた。  
いったい、どんなヤツがやってくるんだ、と上条が視線を向けると、  
 
そこには  
花のブローチを頭につけて  
へそ出しセーラー服を来て  
首に鈴が付いたチョーカーをつけた  
鈴科百合子が立っていた  
 
「おおおぉぉぉぉ!」  
クラスの野野郎共がざわめく  
青髪ピアスが叫ぶ  
「灼眼白髪美少女キターーーー!!!11」  
吹寄制理もついでに上履きを投げつけながら叫ぶ  
「何わけの分かんないことを転入生に向かっていってるのよッ!!」  
バゴォッ! とすさまじい音がして青髪ピアスが倒れた。  
(おいおいなンなンですかこのハイテンションなクラスは。それともこれが普通だってのか!?)  
「え、えーと、とりあえずみんな落ち着いてくださいー、転入生ちゃんが困っちゃいますよー」  
子萌先生が泣きそうな顔で叫ぶ  
「ホラッ!先生泣いちゃったでしょ!そこの馬鹿!静まれ!」  
 
「それでは、転入生ちゃんの自己紹介を始めるですよー」  
みんなの注目が、鈴科百合子の元へ集まる。  
「こ、こンにちは、お・・・僕は鈴科百合子です」  
「僕っ子キtひでぶっ」  
青髪ピアスに吹寄の鉄拳がとんだ。  
僕っ子転入生の衝撃は凄まじかったらしく、クラスの野郎共の8割は席を立って何事かを叫び、青髪ピアスと土御門に至っては僕っ子の素晴らしさとメイド義妹の素晴らしさについて拳を交えながら議論している。  
(やっぱり僕は不味かったか・・・私にすれば・・・いや、もう遅いか)  
鈴科百合子は己の発言によって巻き起こった暴動を中ば呆れながら、寧ろ引きながら観察している。  
「よ・・・よろしくお願いします」  
「では、挨拶も済んだところで席に着いてもらいますー。上条ちゃんの隣が空いているので、そこに座ってくださいですー」  
(上条当麻・・・そういえば、顔写真がなかったンだよな・・・見ればわかるから必要ないって・・・何考えてやがンだ・・・っと、こいつか。とりあえず挨拶はしておくか)  
「宜し・・・く!?お前は!?」  
「え?俺がどうしたの?」  
ジロリとクラスの注目が上条当麻に集まった。  
またお前かとでもいうような視線が妙に痛いと感じる上条当麻であった。  
(今度は本当に知り合いじゃないんだけど・・・)  
と心の中で思ってみても、鈴科百合子はまるで幽霊でも見たかのような顔で上条当麻を見ている。  
「あの・・・えっと・・・どうしたの?」  
「ハッ」  
「?」  
「いやあの・・・えと・・・な、なんでもないよ」  
必死に笑顔を作ろうとしたが、健全な笑顔なんて何年もしてないせいで、変に顔が引きつっている。  
見ようによっては、その笑顔はまるで10年前に別れれずっと思い続けた幼馴染に再会してはにかんでいる表情に見えたのであった。  
かくして、休み時間には青髪ピアス・土御門その他恵まれない男子生徒によって制裁を受けた上条当麻であった。  
 
一時間目。  
特殊な催眠音波でも発生させる能力を持っているのではないかと疑ってしまうほどの催眠効果を持った授業を行う数学教師がやってきた。  
「起立。礼。」  
「えー、では、教科書の47Pから始めます。あ、鈴科さん。教科書はありますか?」  
「あ、はい。ありま・・・あれ?」  
鞄を見るが、数学の教科書は無かった。  
とりあえず、すべての教科書を鞄に入れて持ってきたはずなのだが。  
しかし、無いものはないので家に忘れてきたのだろう、と思い、教師に答える。  
「すいませン。家に忘れてきてしまったようです。」  
「あぁ、それなら今日は隣の席の人に見せてもらいなさい。  
もしかしたら注文漏れがあったのかもしれないから、探してなかったら担任の教師に言うように。  
上条、鈴科さんに教科書見せてやれ。」  
「あ、はい。わかりました。え・・・と、鈴科、でいいんだよな?」  
「あ、うん。別に百合子でも構わないけど。ありがと」  
(別に教科書なんて無くたってこの程度のレヴェルなンざ、問題無いンだがなァ)  
面倒くさい、と思う。  
そして上条は、  
(苗字で呼ばれるの好きじゃないのか?まぁ、そういう人もいるかもしれないし。  
ジェントル上条さんは相手の言葉に隠された意味を読み取って気を利かせることができるのだ!)  
「あ、そうか。わかった。じゃ、百合子で良いか。ほい、教科書」  
「ン、ありがと」  
話が終わり、鈴科と上条の机がくっついたのを確認して、教師が授業を再開する。  
 
 
 
(ね・・・眠い)  
そして上条は、凄まじい威力を誇る数学教師の催眠音波に必死で耐えていた。  
(ね、寝るな寝るな。鈴科に教科書を見せているこの状況、さすがに寝ちゃうわけにはいかんだろう。紳士として)  
「そういえば百合子、なんでこんな時期に転入してきたんだ?」  
「え、と・・・前の学校でトラブルがあったので・・・」  
「トラブル?」  
「うン。その、ちょっと言いにくいことだから・・・」  
「あ、ごめん。」  
「ン、大丈夫。いいよ」  
「・・・」  
「あ〜・・・そういえば百合子はどんな能力もってんの?」  
「ベクトル変換」  
「ベクトル変換?珍しいなー」  
「え?」  
「いや、ベクトル変換なんて能力者、俺はほかに一人しか知らないからなー」  
「そ、そうなンだ・・・」  
「・・・」  
(間がもたねぇー)  
ウダーと机に突っ伏して、どうすれば会話が弾むかを必死に考える  
鈴科は鈴科で変なことを言ってしまわないかとドキドキしながら、ベクトル変換の事を言ってしまったことを後悔していた。  
 
「それでは、今日の最後のホームルームを始めるですよー。」  
朝と同じように全員が着席していた。  
子萌先生が各種連絡事項を伝え、  
「それではみなさん、車に気を付けて帰ってくださいねー。ばいばいですー」  
「気をつけ。礼。」  
「先生さよならー」  
「さよならー」  
「またねー」  
「また明日ー」  
クラスの人口密度が一気に減り、上条も教室から立ち去ろうとしてた。  
(護衛ってこたァ、帰りの道も一緒に帰った方が良いんだよなァ)  
「あ、上条くん。家まで一緒に帰らない?」  
「「「え?」」」  
さりげなく発せられた、普通に考えれば爆弾的な発言に姫神・吹寄・3バカが驚愕した。  
「ちょ・・・上条当麻!転校初日の転校生に何してんのよ!」  
「うわー!まさかこんなにも早く上やんの能力に汚染されていたとはー!」  
「・・・不潔。」  
「いやあの、ちょっと?俺も何がなんだかわからないんですがー!って聞いてねぇしー!」  
「上条ちゃん、確かに、上条ちゃんくらいの年頃になるとだれしも女の子に興味をもつものです。でも、上条ちゃんはちょっとやりすぎたと思うのですよ」  
「だーかーらー!俺の意思は置き去りですかー!?ついでに百合子もぼーっと突っ立ってないで何か弁護をプリーズ!」  
ピタッと空気が固まった。  
「「「百合子・・・?」」」  
「出会ったその日に名前で呼ぶとは上やん能力は既にその領域にー!」  
「くっ・・・上条当麻・・・!」  
「・・・不潔っ」  
鈴科のことは完全に置き去りにして騒ぐ上条当麻とゆかいな仲間たち。  
「・・・あァもう!いいから一緒に帰るぞ!当麻!」  
え?っと戸惑う上条を強引に引っ張っていく鈴科。  
こんなのにぼこぼこに負けたのだと思うと、なんだか悲しくなる鈴科であった。  
 
「あの・・・百合子さん?どうしたのでせう?」  
いきなり雰囲気が変わった鈴科にちょっとおびえている上条。  
「それで、当麻の家はどっちなの?」  
スルーですかー!と叫んでいても気にしない鈴科。  
「どっちって聞いてるんだけど?」  
「こっちです・・・。」  
鈴科の放つ強大なプレッシャーに負け、素直に従う上条。  
 
「ここだよ、ここ。一応女子禁制だから。」  
言ってから、そういえば男子寮なんだよなぁと思う。  
「そう。わかったよ。それじゃ」  
「あぁ、それじゃ、また明日」  
あっさりと鈴科は去って行った。  
なんだかなぁ、と首をかしげながら腹ぺこシスターのいる家へと帰った。  
 
 
そして土曜日。  
転校生転入イベントも、一週間経てばすっかり落ち着き、いつもどおりに一日が過ぎる。  
この一週間最後の学校が終わり、人口密度が下がり、今ではすっかり鈴科と家まで帰るのが日常となってしまった。  
「上条くん、帰ろうか」  
「だなー。ところで鈴科、今日暇?」  
「え?」  
「いや、鈴科がこっちに来て初めての休日だし、一緒にどっかで遊ばないかなーと思って。  
ほかに誰か誘いたいやついたら誘ってもいいぞ。土御門と青髪ピアス以外で。で、大丈夫かな?」  
「うん、大丈夫だけど・・・いいの?」  
「あぁ、鈴科がよければだけどなー」  
考える  
打ち止めのような人間の世界を守るために、闇の最も深い場所まで来た自分が、こんな光に溢れた世界に居ていいのかと。  
「何か予定あった?」  
(でも、護衛だし・・・別に、行くこと自体は問題ないよなァ)  
そんな考えが浮かぶこと自体が、自分が変わったということであることに気付かぬまま、  
「いいよ」  
鈴科百合子は答えていた。  
 
「これは?」  
「これ?え〜っと・・・説明を見る限りだと、自分の能力をこれにぶつけて、レベルを判定する装置らしいぞ」  
「へぇ・・・」  
(これはやめた方が良いな)  
「別のやってみようよ」  
「ん。んじゃ、これとかどうだ?」  
そこには、とある格闘ゲームが置いてあった。  
 
「これ、どうやるの?」  
「なんだ、百合子はやったことないのか。えっと、そこに簡単な説明書いてあるから読んでみ」  
「うん・・・大体わかったよ」  
「早ッ!」  
「とりあえずやってみようか」  
「あ・・・あぁ」  
 
 
「な・・・こ、これがゲーム初心者の力・・・そんな馬鹿な!」  
「はは・・・弱いなァ、当麻くん」  
「く・・・まだだ!まだ終わらんよ!もう一回!」  
げし、どし、ばき、ぐしゃ  
「わ・・・ワンサイドゲームだとぉ・・・だが所詮はビギナーズラック!3度目の正直!」  
「別に何回やってもいいよー」  
げしげしげしげしげし、ぐしゃ  
「ぐわぁーーー。馬鹿な・・・馬鹿なぁ!・・・ふっ、だが今のはあくまで今までの上条!本気の上条当麻に勝てるかな!」  
「てい」  
「ぐぼおぁあーーー」  
 
「見事だ・・・百合子よ・・・もう、私が教えることは何もない・・・がく」  
「あはは、なに言ってるンだよ、上条くん」  
一週間前はまともに笑うことができなかった一方通行は、いつの間にか普通に、普通の人間のように笑っていた。  
その笑顔は、好きな人と一緒にいる、年相応の少女の笑顔だった。  
 
 
日曜日  
先日、上条当麻と今日も会う約束をした鈴科は、彼の家に向かおうとしていた。  
その時  
「おはようございます。一方通行さん」  
頭の中に、直接響くような声が聞こえた。  
「あぁ、この機能を使うのは初めてでしたね。貴方に渡してあるマニュアルに付属している、通話機能です。  
基本的に反射を適用している貴方には通常の連絡手段が通じない場合がありますので、感応能力を応用した通信手段を用いています。  
マニュアルに向かってしゃべって頂ければ、こちらと会話が可能です。」  
その声は、あの黒い紳士の声だった。  
「一体、何の用だ?」  
「あなたに実行して頂いている護衛ですが、何とかこちらの折り合いもつきまして。  
来週には本来の任務を行っていただくことになりますので、お知らせいたしました。」  
「な・・・ンだって?」  
「ですから、本来の任務です。まさか、8兆円の負債が彼の護衛だけで返済できるとは思っていないでしょう?  
確かに彼は重要ですが、彼の護衛もある程度の能力者がつけば事足りる程度のものです。  
わざわざ、あなたがずっと付いている必要はありませんからね。」  
それは、現在の光に満ちあふれた世界から、再び暗い世界に戻ることを意味していた。  
「どうしました?」  
「何でもねェ。わかった。来週のいつだ?」  
「はい。来週の日曜日の午前0時。その時にあなたの後任の方に引き継がれます。それでは。」  
それきり、頭の中には何も聞こえなくなった。  
(元からわかってたことじゃねェか・・・。俺みたいな奴が、あの光の中にずっといられるわけがねェんだ。)  
しかし、そう思っても頭の中は晴れなかった。  
 
「・・・クソッ・・・」  
 
その日、楽しいはずの上条との1日は、どこか虚しさを感じる1日になっていた。  
彼と話していても、どこか上の空といった状態で、結局この日、何をしたのか良く分からないまま終わってしまった。  
「今日、何かあったのか?」  
「ううン・・・そういう訳じゃないよ。ごめんね」  
そのまま、鈴科は当麻の護衛という任務を忘れ、家に帰ってしまった。  
 
そして月曜日。  
以前上の空の鈴科は、上条の必死に話しかけてきているのにも殆ど反応できなかった。  
そんな上条が冷たい眼で吹寄や姫神に冷たい目で見られて(たまに殴られて)いるのも気にできず、惰性のように一緒に帰って、そのまま1日が終わった。  
 
上条当麻のことばかりが頭に浮かんだ。  
次の日もその次の日も、やがて来る日曜日の午前0時にわかれらければならないことを考えると、憂鬱だった。  
「なぁ、百合子。どうしたんだ、一体」  
「ごめんね」  
拒絶。  
鈴科は、彼の優しさを感じながら、しかし、彼を拒絶しつづけた。  
 
そして土曜日。  
今日が終わる時、鈴科は護衛を終了し、彼の前から姿を消す。  
学校が終わった。  
いつもどおり、彼と彼女はともに寮へと向かった。  
「百合子。」  
「何?」  
「今日こそ、話してもらいたい。一体どうしたんだ」  
「・・・ごめん。後で会おう。」  
無理に笑って、それだけ告げると彼から離れていこうとする。  
しかし  
「待ってくれ。」  
腕を掴まれた。  
「俺が何かしたんなら謝る。もし、俺に関係のない、別のことで悩んでいるのなら俺が全身全霊で力になってやる。いや、力になれないかもしれない・・・。でも、力になりたいんだ。頼む。何があったか、何がいけないのか、教えてくれ」  
「当麻くん・・・。」  
うれしかった。  
自分の事を心配してくれる気持ちが。  
鈴科百合子は、だからこそ迷った。  
すべてを打ち明けて、楽になりたい。  
だが。  
「ごめン。本当に大丈夫だから・・・ごめん。」  
謝った。  
ごめん、と。  
「鈴科・・・」  
「ごめンね。でも・・・ありがとう。」  
鈴科百合子は決めた。  
すべてを打ち明けずに、彼の、彼との世界を守るために、彼の前から消えよう、と。  
打ち止めのような人間を守るだけではない。  
自分が愛した一人の人間を、ただ一人の人間を守る為に、彼の前から姿を消そうと。  
そして、決してこの光の世界に戻れなくなろうとも、彼の為に暗い世界で生きようと。  
 
「当麻くん、僕の家に来てくれる?」  
「え?」  
「話したいことがあるから・・・。」  
「あ・・・あぁ。わかった。」  
若干戸惑いながら、しかし、迷うことなく彼は答えた。  
「ありがとう。」  
 
そこは、鈴科が当麻の護衛をする際の拠点として使われていた部屋。  
「こっちへ。」  
「あぁ」  
「ふふ・・・殺風景な部屋でしょ?」  
「いや・・・」  
「気を使わなくていいよ。この部屋にいたのは、2週間だけだから。」  
「2週間前に転校してきたばかりだからな。」  
「うん・・・そしてね、今日。また行っちゃうんだ」  
 
「え?」  
当麻は、うまく反応できずに聞き返した。  
今、何と言ったのか。  
「今、なんて・・・」  
「僕は今日、また、転校しちゃんだよ。」  
「そんな・・・ウソだろ・・・」  
「本当だよ。だから・・・ずっと、悩んでた。」  
「そんな・・・ウソ・・・だよな?」  
確かに嘘だ。鈴科は転校するのではない。  
そして、もう会えなくなる。  
「ごめんね。今まで、言えなくて。」  
「いや、そんなことは良いんだ・・・。また、会えるよな?」  
鈴科は首を振って、  
「だから・・・最後に、思い出を・・・頂戴?」  
そう言った。  
 
 
「え・・・?」  
聞き間違えたのかと自分の耳を疑う当麻を、鈴科はベッドに押し倒す。  
「嫌だったら・・・ごめン。でも、最後に・・・思い出が欲しいから・・・」  
「さっきから最後最後って・・・なんだよ別に、転校するだけなんだろ?」  
彼の問いに、百合子は首を振る。  
その顔に、哀しそうな笑みを浮かべ、  
「この、光の世界の中では、貴方と、もう、二度と会えない。」  
 
「なっ・・・!」  
「ごめんね」  
今日だけで何度言ったかもわからない謝罪の言葉を伝えると、  
「ごめんって・・・っ!」  
彼の追及を、唇でふさぐ。  
「ンっ・・・ンふっ・・・ちゅっ・・・ンン・・・」  
「(ふ・・・ふひほ、はひほ、んむ・・・)」  
まるでそれが答えだというように、深く、深く唇を吸う。  
「んっ・・・!?」  
彼の唇を舌でこじ開け、舌を入れる。  
歯の裏を舐め、舌と舌を絡ませ合う。  
 
「ふ・・・ふひほ、はひほ、んむ・・・」  
当麻は、人生初めての深いキスを味わっていた。  
ただ、唇を合わせただけとは思えないほどの濃厚な口づけ。  
そして、百合子の舌は巧みに彼の口をこじ開け、舌を絡ませてきた。  
(うぁ・・・なんだ・・・これ・・・)  
百合子は唾液を当麻の口内へ入れ、そして彼の唾液をすする。  
1分もたっていないはずの、しかし、当麻にとっては10分、20分よりも長いと思える時間。  
そして、百合子の深い口づけから解放される。  
「ぷはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」  
頭がボーとした。  
何も考えられない。  
まるで、今の口づけで唾液と一緒に意識の大半を百合子に奪われてしまったかのように。  
 
放心している当麻の下半身へと体を移す。  
ズボンの上からでもわかる、彼のモノ。  
そっと手を触れると、ズボンの上からでも分るほど堅く、熱く脈うっていた。  
ジッ・・・ジジッ、ジジー・・・。  
そっと、ズボンのファスナーをあける。  
トランクスから当麻のモノを取り出すと、それを確かめるようにそっと、大切そうに両手で握る。  
「堅い・・・それに、熱い・・・」  
その言葉に反応したのか、それとも百合子の手に反応したのか、当麻が正気を取り戻した。  
「ゆ・・・百合子、一体何を、・・・!?」  
彼は気づいた。  
己の体を覆う違和感を。  
「僕の能力で、ちょっと体に細工をしたの。後遺症が出ない程度に、体の中の血液を操って・・・  
でも、その右腕には効かなかったみたい。だから、その手で体に触れば自由に動けるよ。  
だから、僕の事が・・・僕とするのが嫌だったら、そうして。そうしたら、僕はあきらめる。  
そのまま、貴方と別れて、貴方の事を思って、でも、貴方と違う場所で生きる。」  
驚愕している。  
目を見開いて、自分を見ている。  
やがて、口が動いた。  
「わかった。俺も、お前としたい。だから、しよう。俺と、お前で。・・・だけど、ひとつだけ。」  
「何?」  
「何か、もし何かあったら。百合子だけじゃどうにもならないことがあったら、俺に相談してくれ。  
そうしたら、絶対に助ける。力になる。守る。どんな手段を使ってでも。俺は、お前を。  
だから・・・そんな、哀しそうな貌をしないでくれ・・・泣かないでくれ。」  
え?っと百合子は返す。  
悲しそう?泣いている?自分が?  
確認するように、そんなはずはないと思いながら、手を顔に当てる。  
濡れていた。  
目からこぼれてくる、水のようなもので。  
(あァ・・・俺にもあったのか・・・涙が。泣けたのか・・・1万人を殺した、血にまみれた自分が。)  
彼の右手が、彼が唯一動ける彼の右手が、自分の頭をなでていた。  
泣くまい、と思う。  
泣いてはいけないと、思う。  
自分に涙を流す資格はない。  
それも、屈辱や、苦しみによる涙では無い。  
幸福感。幸せによる、涙。  
1万人を殺した自分が、1万人を救った人間に好意を抱いた。  
そして、1万人を救った人間が、1万人を殺した自分を守ると言ってくれた。  
だから。  
ようやく、百合子は確信した。  
やはり、自分は彼が好きなのだと。  
彼を愛しているのだと。  
しかし。  
確信してしまった。  
彼を愛していることを。  
だから。  
決めた。  
 
百合子は、迷いのない笑みを顔に出す。  
「ありがとう。頑張るから・・・気持良くなって?」  
そう、彼に告げるとともに、指を彼のモノに這わせ、軽く扱く。  
そして、いきなり口に含んだ  
「はひゃっ!?」  
動かないはずの彼の体が飛び跳ねる。  
「ゥわっ・・・ごめん、痛かった?」  
心から心配しているような表情で当麻を見る百合子  
「いや・・・その、気持ち良くて・・・」  
「そう・・・ありがとう」  
「(自分でする時と全く違うレベルの気持ちよさだったけど・・・人にして貰うとこのくらいの快感が普通なのか?)」  
「何か言った?」  
「いや、何でもない・・・続けてもらって良いか?」  
「うンっ」  
また指を這わし、今度は軽く彼のモノを扱く。  
「(く・・・すご・・・)」  
「はむ」  
また、いきなり当麻のモノを口に含む。  
「うあっ・・・!」  
とてつもない快感が彼の頭を駆け巡り、思考能力を容赦なく奪う。  
「はむ・・・ン・・・ふっ・・・」  
百合子の舌がまるで生き物のように蠢き、ぎこちない、初めてこの行為をする者とはとても思えないほどの快感を当麻に与え続ける。  
実は、無意識にベクトルを操り、当麻に最高の快楽を与え続けているのだが、お互いに全く気付いていない。  
百合子の奉仕が開始してからわずか10秒。  
「ぐ・・・もう・・・ごめんっ!」  
「っ!?」  
迸る。  
口の中は彼から迸る白濁によっていっぱいになる。  
必死にそれを飲み込むが、量が多すぎてすべて飲み込めない。  
「けほっ」  
「ご・・・ごめん!大丈夫か、百合子!」  
「う・・・うん、大丈夫・・・でも・・・」  
「ん?」  
「その・・・こういうのって・・・」  
「?」  
「早漏、っていうんだよね?」  
「なっ!」  
「あはは、気にしなくていいよ、お互いに初めてだし。」  
当麻がさりげなく発せられた百合子の会心の一撃に身も心も砕かれていると、  
「でも・・・まだ、元気みたいだね?」  
「あ、あぁ・・・」  
「はむっ」  
「ぐは!?」  
またもいきなり当麻のモノに、しゃぶり付く百合子。  
今度は、ゆっくり、丹念に当麻のモノを舐めまわす。  
すぐに終わらないようにとの気遣いから、ゆっくりとやっているつもりだったのだが・・・。  
ベクトルを操作して、常に最高の快楽を頭に叩き込んでいるこの状態では、ほとんど意味がなかった。  
「ふ・・・ちゅっ・・・あむ・・・ンン・・・ンッ!?」  
「うぅ・・・申し訳ない・・・」  
またも迸る白濁。  
今度は百合子の顔を汚していく。  
「その・・・ドンマイ?」  
「うわぁぁぁぁぁ!」  
そして会心の一撃が急所に当たり即死判定。  
こうして、彼の男のプライドは恐るべきテクニックを持つ百合子に完璧に粉砕された。  
 
そして、土曜日の午後10時。  
「それじゃァ・・・だいぶ遅くなったけど、気をつけてね?」  
「あぁ。一応、引っ越しの準備とかで明日はいるんだろ?」  
「うン。だから、心配しないで今日は帰って大丈夫だよ」  
「ん、わかった。」  
「じゃあ、また明日。」  
「またなー」  
百合子の家の玄関から離れる当麻。  
そこを、  
「待って。」  
「ん?」  
百合子が駆け足で近寄ってくる。  
そして。  
 
触れ合うような  
やさしい  
キスをした。  
 
「百合子?」  
「・・・」  
当麻の問いに、何も答えない。  
そして・・・  
「バイバイ」  
上条当麻の体が崩れ落ちた。  
 
「ごめんね。君の事が好きだから・・・そして、君が僕のことを好きでいることを知っちゃったから・・・。」  
彼を背負い、彼の寮の部屋の玄関口まで運ぶ。  
「覚えていたら、きっと辛いから・・・」  
百合子は、当麻の頭に手を当て・・・。  
百合子と過ごした、2週間の記憶を  
 
消した。  
 
午前0時。この瞬間、学園都市は土曜日から日曜日へと変わった。  
「当麻くん・・・君との思い出は大事にしたい・・・だけど、きっと・・・。  
覚えていると、いつか光の輝く世界へ、行きたくなっちゃうから・・・。」  
また、会いたいなと、思い。  
そして、もう、会えないと、思う。  
百合子の口から、言葉が漏れた。  
「ばいばい。上条当麻。」  
自分の頭に手を当て、ベクトルを操る。  
頭を走る電気信号を操作し、そして。  
そして、鈴科百合子は、一方通行となった。  
 
打ち止めと、打ち止めのような世界で暮らす人間と、そしてなにより  
上条当麻を守るために  
 

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