料理を作っているとインデックスが近づいて来たのを感じる。またつまみ食いか、と五和が居候していた時を思い出して、純白少女と見比べる。  
「む、失礼な事考えてるかも」  
いや、その通りだけど迂闊に同意も出来ない。  
「そうだ、とうま。こっち向いて欲しいかも」  
いや、料理している最中に振り向けと言われてもな。  
「今、包丁使ってるから、」  
小さな声が聞こえたような気がした。「だからかも」って。  
その時は声に含まれた僅かな色に気づけなかった。  
だから、無理矢理、振り向かされた。インデックスは俺に抱きつくような体勢、いやようなではない。包丁を持った俺に抱きついて来た。  
弾力のある皮を破り、肉に刃が飲まれる。『不幸』にも、何度も研がれ小さくなった包丁は肋骨があるはずの胸に刺さったにも関わらず、固いものに当たる感触はなく柄がインデックスの体に触れる。  
例えばインデックスが無防備で、俺に殺意があったら、最低でも十回の半分、下手したら八回位は肋骨に阻まれる。  
「良かった」  
何がだよ! 自分の状態分かってるのかよ!  
あの時とは違うんだ。『歩く教会』は俺が壊したんだ。  
「何がだよ。訳分かんねえよ」  
虚ろな瞳を見て怖くなった俺は一歩下がってしまった。  
深い刺傷の場合は、手当てが出来る準備ができるまで刃物を抜いてはいけないんだ。  
白い肌、白い服にまき散らされる新鮮な血の赤。  
普段見るような茶色がかった赤ではなく、鮮やかで絶望的な、紅。  
「だって、こうして刃が通るのは、とうまが私の事、恨んでないからだよね」  
目の前の少女は何を言っているのか、理解できない。いや、正確に言えば、理解したくない。  
俺の『不幸』を逆手に取って、試したなんて。俺に僅かでも殺意があれば絶対に死なないから。こんな運試しみたいな方法なら。  
「だから、良かった。で良いのかな」  
良くないだろ。くそ、救急車呼んで止血して、後は何が出来る。  
そうだ! 五和。 まだ学園都市にいるはずだ。  
五和なら回復魔術が使える。  
1コール、2コール。僅かな時間も惜しい。  
携帯電話を叩き落とされた。  
血の気が引いて、目も虚ろで、多分もう立ち上がれないんじゃないか。そんなインデックスに。  
携帯のスピーカーから五和の声が聞こえる。  
 
今、携帯を手に取り、ほんの少し走ればインデックスはもう追いつけない。  
なのに、俺はそれが出来なかった。インデックスが万全なら、逆に楽勝だ。  
多分、それをしたら、いや、しゃがんだ瞬間に飛びつかれる。傷が開くのなどお構いなしに。  
それをどう振り払えば良いんだ。  
「とうま、せめて少しの間位は『こっち向いて欲しいかも』」  
ああ、さっきの言葉は聞き方を変えればそんな意味になるのか。  
俺はインデックスだけを見てはいなかった。その報いか。  
だけど、助ける方法はある。着ていた服を噛むと右手をまな板にのせ、左手の包丁に力をいれる。  
「何をしてるのかな。とうまに傷ついて欲しくないかも」  
慌てて立ち上がろうとするインデックスを怒鳴りつける。  
覚悟を固めるために。俺自身が引けないようにするために。  
「右手を切って、俺が魔術とやらを使う」  
小萌先生と比べれば、俺は魔術側に染まっている。だから、後先考えなければ、  
「十万三千冊、それがお前を救うんだ」  
力を入れても殆ど刃が進まない。何でだよ!  
「とうま、無駄な事は止めた方が良いかも。自殺者にはお墓も建てられないんだよ?」  
その言葉、を頭から振り払う。  
後ろ半分は自分に言っているようにしか聞こえない。  
通話状態の携帯の前でこれだけ騒げば五和はこちらに向かってるはずだ。  
はっきり言えば俺が右手を切り落とせたところで、五和に助けられてしまう。  
回復魔術が効くだろうし、科学的にも手首から先の切断程度なら数分は持つ。止血すればさらに長く。  
蘇生だけなら一時間経ってもあのカエル顔の医者なら出来そうだ。  
「インデックス、お前……」  
 
インデックスは笑っていた。穏やかにだけど、虚ろだった目に力を込めて。  
「本当はとうまにお願いしたかったけど仕方ないかも」  
よろよろと窓へ向かうインデックス。止めなければいけない。止める術が分からない。  
やることが多すぎる。インデックスを止めて、右手を落として、どう考えてもインデックスが出血で死ぬ方が早い。  
それに止めるのにインデックスの血を失わさせてはいけない。  
俺に出来る事があるなら、それは……  
 
 
「馬鹿としか言いようがないかも」  
俺はインデックスを抱いて、窓から飛び出した。  
インデックスだけは悲しませちゃいけないのに、俺は悲しんでいることにさえ気づかなかった。  
なあ、五和、インデックスが助からないなら俺を助けないでくれ。その時は一緒に逝けないから。  
なあ、ステイル、インデックスを助けて、ついでに俺を殺しに来てくれ。今度は是非受け入れさせて貰うよ。神裂でも構わない。  
なあ、インデックス、本当にこんな方法しかなかったのかよ。  
なあ、『上条当麻』お前ならどうした? やっぱりインデックスを救えたのか? だってお前は本物のヒーローだもんな。  
 
 

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