仲良くなった日  
 
 
平日の放課後、ショッピングセンターにて御坂美琴はあまり知り合いには見られたくないお店を回っていた。  
テナント内は妙にピンク色の多い空間で周りは幼児や小学生女子が多く女子中学生は美琴一人。  
動物をモチーフした筆記用具や玩具。シール、リボンの付いたレターセット、メルヘンなキャラクターの雑貨。  
いわゆるファンシーグッズのショップにしてもどちらかといえば低年齢向けな所に美琴はいたのだった。  
(初春さんや佐天さんとはいけないのよねー。黒子はなんか引いた目で見てくるし)  
自分でも子供っぽい趣味というのはわかってはいたが可愛いという感情は止めれるはずもない。  
とは言っても見栄もあるわけで、友人の誰も誘えずに一人でうろうろとしていた。  
 
「ねーとうまー。本当にいっちゃうの?」  
「しょーがねーだろ。補習があるの忘れてたんだって」  
美琴がテナントを出ると、親しいとも親しくないとも言い難い二人がいた。  
上条当麻とインデックスだ。  
「なんだってこんなとこいんのよアンタたち」  
「いや、おめーこそこんな毒々しいピンク色の店で何してんだ」  
「こんにちわなんだよ。短髪」  
今一歩噛み合っていない挨拶だ。  
「いや、でもちょうどよかった!御坂さん、ちょっくらインデックスの面倒見ててくんねーか!」  
「はっ?」  
呆然とする美琴に上条はまくしたてる。  
「インデックスと適当にどっかで遊ぶ約束してんだけどさ。  
 俺、補習があったの忘れてて小萌先生……担任にだな。呼ばれちまったんだよ。  
 インデックス連れて行って待たせるのもなんだし、インデックスを見ててほしいんだ」  
両手を合わせて拝む上条。  
「こいつ一人じゃ携帯もろくに使えないし、絶対迷子になっちまうに決まってやがる!」  
「むむ、すっごく子供扱いされてる。でもここがダンジョンなのは否定できないかも」  
特に高級というわけでもないが色々なテナントが立ち並ぶセンター内は  
インデックスの目を引くものが多かった。  
完全記憶能力があっても、品々に目が移り続けていっては道の記憶すらできない。  
 
(なんで私が……ん?)  
美琴は突然の申し出に難色を示すが、ふと思いついた。  
「アンタさー、こういうとこどう思う?」  
出てきたばかりのショッキングピンクな店内を親指で指す。  
インデックスは疑問符を浮かべた。店外からは見てもよくわからないのだ。  
「ヌイグルミとか可愛いのあるんだけど一緒に見て回る?」  
インデックスの顔がぱぁっと輝いた。  
上条とはそういうファンシーでミッフィーでディズニーだったりするお店を見た事などない。  
つまり学園都市で一度も見た覚えが無いという事だった。  
「見る!」  
即答するインデックスに話はついたのかと上条も頷いた。  
「いいのか。じゃあすまん御坂!行ってくるぜ。一、二時間で戻ってくる」  
「はいはい、いってらー」  
「じゃあね、とうま!」  
二人をおいて上条は突っ走っていった。  
美琴とインデックスは店内へ入っていく。  
この時ばかりは上条との関係も諍いもなく二人とも笑顔だった。  
美琴は誰かと一緒にファンシーショップに入るのが久しぶりで。  
インデックスは見慣れなくも興味を惹かれるものがいっぱいで。  
仲良くお店を見て回っていった。  
 
「いやー、アンタなかなかいける口ね」  
「面白かったんだよ!」  
二人はきゃっきゃと騒きながらフードコートでテーブルを挟みくつろいでいる。  
店を幾つか巡り一時間半ほど経ったとこで、上条へメール連絡をし休憩しているのだった。  
ちなみにクレープを二人とも食べているが付き合ってくれたお礼としての美琴の奢りである。  
「しかしさっきのアンタ面白かったわ。子供が滅茶苦茶くっついてたじゃない」  
途中、インデックスとシスター服が物珍しくて、グッズ商品よりもインデックスにくっついている子供達がいて  
美琴もインデックスも子供好きだから引き連れて見て回っていたものだった。  
「歩く教会が人気なのは予想外だったかも」  
妙に大きい安全ピン共々最初は売り物と間違えられたりもしていた。  
「短髪の、常盤台中学校っていうのも人気なんだね」  
「別にたいしたもんじゃないんだけど、そう見られるのよ」  
学園都市きっての名門校である常盤台中学は子供だってみんな知っているレベルだ。  
それだけにああいう店内では目立つしお嬢様お嬢様と幼い女の子達が憧れの目で見てきたりする。  
つまるところ二人とも目立っていたのだった。  
 
「ぱくっ……美味しかったー♪」  
そうこうしてると美琴が半分も食べ終わらないうちにインデックスはクレープを食べ終わってしまう。  
あんまり幸せそうにに食べるものだから美琴も  
「まだなんか食べる?」  
「食べる!」  
ついつい甘やかしてしまった。  
フルーツパフェ、アイスクリーム、ハニーワッフル、イタリアンジェラート  
アップルパイ、チーズケーキ、イチゴタルト、ポンデリング、  
やたらと洋菓子が並ぶテーブルを一匹の獣と化した少女が凄い勢いで食らっていく。  
「流石にやりすぎたかしら……でもコイツ全部食べそうね」  
インデックスがお菓子の写真を見てどれがいいか物凄く悩んでいたせい  
というのもあるが、美琴自身思ったよりも楽しくて気分がよかったらしく  
美琴さんに任せない!と言わんばかり全部買ってあげてしまったのだった。  
美琴も幾つかつまんでいるが、流石にこうは食べれない。  
「美味しいんだよッ!美味しいんだよ……!」  
ちょっぴり涙を流すほど感動して食べる様子はわりと異様だが  
美琴もここまで喜んでもらえるのなら悪い気分ではなかった。  
「なんかついてるわよ、ほら紅茶も」  
美琴がティッシュで口元を拭いてあげる様子は、あまり年が変わらないのに子供にしてあげるみたいだ。  
むぐむぐと口元をされるがまま拭かれて、差し出されるまま飲んですぐに食べ始めるインデックス。  
なかなかの子供様っぷり、むしろ拭かれるのに慣れているよう。  
 
チンッと軽い音をたてて最後の仕事を終えたフォークが皿に置かれた。  
「ああ、天にまします我らが父よ。あなたの施しで私は今日も生きていけます。  
 でもちょっと苦しいので、食後のお祈りは省略するのをお許しください。げふっ……」  
「ずいぶんアバウトな神様ねぇ」  
インデックスは満腹感と満足感でなんだかキラキラ輝いていた。  
「ありがとうなんだよ、短髪。すごく、すっごく美味しかった」  
「はいはい、どういたしまして。しかしアイツまだこないのね」  
おおよそ二時間と少し経ったが上条はまだ戻ってこないようだ。  
「とうま、よく補習に行ってて、いつも遅いんだよ……」  
見るとインデックスは歩き回った後、満腹になったためか眠そうに船を漕いでいた。  
「アンタ、関心するぐらい本能に生きてるわ」  
美琴はそう言いながらもテーブルを片していく。  
「もうちょい待ったらアイツもくるでしょ。それまで寝てていいわよ」  
黒子以外の後輩にも「お姉様、御坂様」と好かれてるのは伊達ではなく面倒みのよい美琴。  
インデックスを見る目もどこか優しい。  
「うん……」  
インデックスはテーブルに腕を置いて、枕にすると頭を横にした。ほどなく寝息を立て始める。  
 
(なんていうか子供よねー)  
美琴も肘をつき、インデックスの寝顔を見ながらそう思う。  
ただそれは純粋だとか無垢だとかそういう風に表されるもので。  
(アイツはそういうのがいいのかな……)  
自分にはとてもないものだな、なんて思ってもしまう。  
「……って、違うわよ!」  
思わず考えた事を否定すると大きな声が出てしまい、インデックスの身体がぴくんと動いた。  
(あ〜もう)  
声を潜めてインデックスを見ていると、ふと髪にお菓子の破片がついているのに気づく。  
(まったく、女だからちゃんとしなさいよ)  
破片を取ってあげようと髪を持ち上げてみたら  
(うわ、ナニコレ。やわらか……つーか細っ!そのくせ痛んでないし)  
蒼みがかかった銀髪は絹のようなサラサラとした感触があって  
一房持ち上げてみると、流水のような色と相まって光に透けてしまいそう。  
髪質そのものが日本人とは違う感じだ。  
そもそも綺麗な銀髪なんてそういないわけだし。  
 
顔をまじまじと見てみると眠っているためか表情が静謐でまた雰囲気が違ってみえた。  
なんとなくほっぺに触れてみればやたらと張りがあって柔らかい赤ちゃん肌。  
「……素材はいいのよね。しかしこう見てると……」  
幼い頃に見ていた女の子向けアニメのキャラみたいだ。  
アニメだと髪の色は銀じゃなくて青かったりピンクだったりするけど  
科学最先端の学園都市で何故かシスター服だし、食いしん坊で携帯も使えず  
ちっちゃくて、妙に子供っぽかったりと、魔法少女か何かかと  
ほっぺをぷにぷにしながらなんとなく笑ってしまう。  
 
「御坂さん……?」  
「うぉぅっ!」  
背後から囁かれて、女の子らしくない声をあげた。  
「いきなり驚かせてんじゃないわよッ!」  
「いやだって、寝てるインデックスの顔触ってニヤニヤしてるからよ。  
 どう声をかければいいか迷っちまって」  
上条さん百合展開は未体験ですのことよ。と気持ち悪くしなを作る上条。  
「ちょうぶっとばしてぇ」  
やたらドスの効いた響きを持つのも致し方なかろう。  
「わりぃわりぃ、とにかく遅くなっちまったな。おいインデックス起きろ」  
「……おはよう、とうま」  
揺さぶられて顔を起こすと寝起きはいいのかわりとしゃっきりしていた。  
「今日は二人で何してたんだ?」  
「うんとね、ヌイグルミ見たり、絵本読んだり、動物の玩具触ったり  
 子供達と一緒に遊んだりしてた。楽しかったんだよ」  
「へえー、よかったなインデックス」  
上条は美琴に向き直りながら  
「御坂ありがとな。一緒に遊ぶんならやっぱ女の子同士のほうが気があうみたいだ」  
「……たいしたことじゃないわよ」  
美琴はそっぽを向いた。女の子と評されたのがちょっとだけ嬉しかったのだ。  
 
「それとね、短髪にいっぱいお菓子食べさせてもらったよ」  
それを聞いた瞬間、保護者の暖かさを持ち合わせていた上条の笑顔が  
ギシリと音を立ててひび割れる。  
「……いっぱいってどれくらいなんでしょうか?」  
恐る恐る問いかけると美琴は指を何本も折って数えた。  
「パフェにクレープにアイスクリームに…………まあ十個ぐらい食べさせたわね」  
「イ ン デ ッ ク スーッ!」  
「なんでとうまが怒るのかな!」  
キシャーと襲いかかるポーズにインデックスはきゃあっ!と頭を隠すよう抱える。  
「なんでもクソもあるか!そこらの売店見ると一個300円もするじゃねえか!  
 十個食えば3000円。それだけあれば一週間は暮らせるぞ!」  
「いや、それはどうなのよ」  
美琴の金銭感覚はわりとゆるいので、上条の気持ちはわからない。  
切り詰めればまだイケるなんてわからない。  
「インデックス、明日からもやし生活だ。朝も昼も晩も、もやしがオマエを待っているぞ」  
「も、もやしは嫌いじゃないけどッ!せめてお肉を!」  
インデックスは年貢を取られた農民のように、上条の服を引っ張りすがりつく。  
「ダメだ」  
最後通牒が突き付けられガクリと頭を落とした。  
「すまん御坂。今はちょっと払えないけど必ず返すから。  
 きっと返すからインデックスを許してやってくれ」  
上条は頭を下げる。  
 
「つーかなんでアンタが払うって言ってるのよ。あとこの光景、私が悪者みたいだからやめい!!」  
長椅子でorzしているインデックスと、これ以上ないぐらい真摯に頭を下げる上条。  
肘をついた美琴はさながら組織のボスが失敗者の処分をどう決めようかしているのを  
ほどほどの処分で許してくださいと部下に懇願されているみたいだった。  
「私がコイツに奢ってやったんだから、アンタが口を挟むことじゃないわよ  
 私もわりと楽しかったから、お礼ってヤツよ。そんだけ」  
ふんっと横を向く。  
こんな大仰に言われるとお礼とか口に出さないといけなくて、なんかこう恥ずかしい。  
「……あー悪かったな」  
美琴が素直にお礼を言いにくい性質なのがなんとなくわかる。  
「じゃあ明日のご飯は豪勢にッ!」  
「なんねえよ!」  
顔を起こしたインデックスはマイペースすぎだった。  
 
なにはともあれ、もう夕方から夜にさしかかってる時間だ。  
「結局、補習受けただけだけどしょうがねえか。おし、帰るぞインデックス」  
「うんっ!」  
満足しているインデックスを見てると上条も嬉しかった。  
「今日はほんとありがとな」  
「たいした事じゃないってば」  
笑顔を向けられた事があまりない美琴は少しだけ照れくさい。  
「楽しかったんだよ短髪。ありがとう」  
美琴はおうと手をあげた。  
「それさー、ずっと気になってたんだけど短髪ってどうなのよ」  
今日インデックスと遊んでいたが、何度もそう呼ばれると美琴も言いたくもなる。  
「私は御坂美琴って名前があるんだからそっちで呼びなさい。  
 アタシも、アンタをインデックス……でいいのよね。そう呼ぶから」  
ちゃんと自己紹介もしてなかったのだ。  
インデックスは言われると笑顔を作り  
「うんっ!じゃあまたね。みこと!」  
「おし、また付き合ってよねインデックス」  
美琴も笑顔を返して二人は楽しい一日を終えたのだった。  
 
 
おまけ  
 
「ねえ黒子、ちょっといいかしら」  
「なんですかお姉さま、えっ!?」  
柔らかすぎて音も立てない常盤台寮ベッドに二人の身体が沈む。  
「な、な、なにを、お姉さまっ!?」  
押し倒され仰向けの黒子に美琴が近づき首筋辺りの髪をすくう。  
「あっ……」  
うなじに一瞬触れられ黒子はゾクリと身体を震わせた。  
「黒子の髪、綺麗ね」  
髪を撫でる美琴の細い指。  
(何故かわかりませんがわたくし、ついにお姉さまと……!)  
目をつぶり黒子は美琴を受け入れた。が、しかし  
「やっぱ違うわね」  
「え゛」  
何事もなく美琴は身体を起こす。  
「あ、もういいわよ黒子」  
「お、お姉さま……?」  
なにがなんだかわからない黒子。  
「なんか百合がどうこうアイツに言われたから、んなわけねーよって試しに」  
「試しにッ!」  
泣き崩れた。  
「弄ばれたッ!わたくしお姉さまに弄ばれたですのー!」  
「ちょっとした冗談じゃない」  
「けれどッ!お姉さまに弄ばれるって倒錯的でなんだか官能的ッ!でへへ……」  
「やっぱ平気そうね……」  
黒子は今日も平常運転だった。  
 
 

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