「それにしても暑いわね」
美琴の言葉ももっともで、一昔前のヒートアイランド現象もかくやと言った具合だ。
「ここまでの異常気象ですと、最新技術も焼け石に水ですわね」
ふと、何かを思いついたような顔になる白井。
「そうですわ、最近出来たプールに参りませんか?」
グロッキー気味な初春がそれを慌てて止める。
「そこら辺の喫茶店にでも入りましょうよ……」
学区を越えての移動となれば少なからず外を歩く羽目になる。初春にしても確かにプールは悪くないのだが。
「どうせ混んでるわよ、黒子。それに病み上がりの春上さん連れてくには向かないでしょ」
それでも諦め悪く、思案顔の白井。思いついたように手を叩く。
「春上さんは私が空間移動で連れて行きますわ」
美琴が止めたのは病み上がりだからプールに入れない、『のではなく』どこまで体力が落ちているか分からないから下手に無茶が出来ない、という話だ。
帰りも含め白井が運ぶなら、後は本人次第だろう。
「どうします、春上さん。確か水着もタオルも販売してますから今からでも行けますけど」
言外に嫌がる、初春。同僚が自分を運んでくれそうにないのは確信していた。
「水着姿が見たいだけ、なの?」
春上は首を傾げ爆弾を投下する。
「そんなこと、ありませんわ。大体、わたくし達女同士ですのよ」
微妙に美琴の表情が変わると同時に、春上が口を開く。
「ありえそうね、変態だし。なの」
誰かの口調、あるいは思考をそらんじるように言葉にする。
「お姉様、まさか、そのような事をお考えに……」
語尾が小さくなる黒子に慌てて初春が話しかける。
「白井さん、そんなことありませんよ。御坂さんが白井さんを変態だ何て言うはずないじゃないですか」
その言葉に頷く、美琴。
「そうそう、有り得ないから」と更にフォローを加える。
「流石に白井さん、傷つきますし」
「そうそう、……えっ?」
戸惑う美琴を無視して、春上の方へ向き直る初春。
「レベル2だと、『よほど』強い思念しか分かりませんよね?」
疑問ではなく半疑問。同意を求める言葉に春上は『やはり』頷いた。
「お姉様、わたくしは、わたくしはただ……」
半泣きで走り出す白井。空間移動を使わないのは追いかけて欲しいからだろうか。
「あ、ここのチーズケーキ美味しいらしいですよ」
「楽しみなの」
「えっ? えっ?」
「御坂さんは何にします?」
遠くの方で「お姉様〜お姉様〜」と哀しげな声が響いた。