ここはとあるカラオケ店の一室。暗い室内をぼんやりとディスプレイの明かりが照らしている。
そんな中には3人の男達が、皆が皆思い思いにくつろいでいたのだが、
「なあ」
そう呼びかけたのは上条当麻。ここに皆を集めた首謀者だ。
「何だよ?」
一方通行は視線だけを送り、浜面仕上はカラオケの選曲を止めて顔を上げて返事を返す。
「お前らさぁ……、俺に嫁貸さない?」
「ぶっ!!」
一方通行は相変わらず無表情、そして浜面は派手に吹き出してから、
「ふざけ……、お前自分が何言ってんのか判ってんのか!!」
浜面は感情のままに上条を怒鳴り付けた。
ところが上条は全く意に反さずどころか、
「最近上条さん性生活にマンネリ感じて来ちゃったんでせうよー」
「お前のチンケな性生活なんか知ったこっちゃねぇんだよ!!」
浜面の言う事はもっともだが上条は一向に悪びれる様子さえ見せず、
「んだよケチだなお前……」
「ケチとかそういう問題じゃねぇ!!」
と今まで黙っていた一方通行が、
「……おい」
その声に上条と浜面は同時にそちらを振り返り、
「そうだ一方通行からもなんか言ってやれ!」
浜面は一方通行に援護射撃を期待した……しかし、
「見返りは?」
「は?」
一方通行の言葉に唖然とする浜面を余所に、
「自分の女ァ差し出すンだ。タダって事ァ無ェだろ」
すると上条は丸くしていた目を、こんな顔も出来るのかとすうっと細めて、
「流石一方通行は話が判るってもんですよ」
そう言って脇に置いてあった袋から分厚いファイルバインダーを取り出した。
「やっぱりな……」
「?」
したり顔の一方通行に、浜面は1人訳が判らないと言う顔をする。
だがファイルバインダーを開いた瞬間、彼も全てを理解した。
中から出て来たのは女性達のバストアップの写真。しかもご丁寧に自らスリーサイズの書かれたプラカードを掲げていて、
「ここから選べってかァ?」
「嘘だお前……こ、こんなより取り見取りで何処に不満なんか……」
「贅沢な自分が妬ましい……不幸だ……」
一方通行は熱心に、浜面は唖然呆然、上条は我が身を嘆く、そんな三者三様のリアクション。
そんな中まず一方通行が動いた。
「おい」
「はい?」
「2人ってのもアリなのか? 例えば超電磁砲と白いガキとか……」
「別に……それは構わないけど?」
上条の答えに一方通行は下唇をペロリと舐めてから、
「結標に黄泉川付けてどォだ?」
「商談成立」
上条は迷わない。
「「ふっ」」
上手く行ってニヤリと笑みを交わす2人。
その横で浜面は1人苦悩していた。
(何だよこの何処を取っても死角はありませんちゅう様な世界規模の美女美少女軍団は……!)
正直この中だったら誰でもお願いしたい。
だけどそれには我が秘蔵の嫁達を差し出さなければいけないのだ。
(お、俺に、俺にあいつらを裏切れって言うのかあああああああああああああああああああああ……)
だが時は無常だ。
「お前は興味無いんだろ? 返せよリスト」
浜面の苦悩など関せぬと上条は手を差し出した。
「ま、待てよ……い、今俺は人生における大事な選択を迫られ……」
「いいよいいよ無理しなくって。浜面が嫁大好きなのは解ったから。だからリスト返せって」
「ちょ!? 待て待て待てって! 3人は決まってんだ……た、ただ俺の方から……」
「3人て?」
「この人とこの人と……この子……」
「オリアナ、神裂、と……アンジェレネか?」
(どォしてもガキは外せねェか……こいつの闇も深ェなァ……)
上条と浜面のやり取りを傍観者気取りで一歩通行は見ていた。
一方、
「ふぅーん……」
上条は浜面の選んだ女性達の写真を抜き出して暫し眺めて、
「いいぜ」
「え?」
「オッケーだって事。今回嫁は勘弁してやるよ」
「は……」
浜面はその言葉に呆然としたまま暫し頭の中で反芻して、
「いぃぃぃヨッシャああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
(喜びすぎだァ、カッコ悪ィ)
かつてこんな良いガッツポーズを彼は見せた事が有るだろうか。
だが、
「ただし条件」
「お、おう」
上条の一言に浜面は冷や水を浴びせられたかの様に顔を強張らせた。
そんな浜面に上条は小型のカメラを取り出して手渡すと、
「このビデオでハメ撮りして来てくれ」
「お、か」
「浜面は顔出しNGでいいよ」
「あ、ああ……」
(あからさまにホッとしやがったなこいつ)
一方通行の指摘通り浜面はホッとしていた……しかし、
「後、」
「ま、まだ何かあんのかよ?」
そう身構える浜面に上条はさらりと、
「お前、母さんとヤッたろ?」
「ぶぼほっ!!」
むせかえる浜面には思い当たる所が嫌という程あった。
――――あらあら、浜面君はこんなにおっきくして……、御坂さんだけでは満足できないのかしら? 若いって本当に、良いですねぇ。
と言うか思い出したくない記憶だ。
「今度母さん紹介しろよ。お前との関係を盾に取れば最後までいけそうな気がするんだ」
(外道だ)
(ど外道がいやがる)
口には出さなかったが浜面と一方通行は全く同じ意見だった。
と、そんな時一方通行は奇妙な、そして1度と無く味わった事のある予兆を感じとった。
それはチョーカーとミサカ・ネットワークが遮断される瞬間――、
「がっ!?」
「何だ!?」
「ど、どうした第一位!?」
「あのひとは無力化したよ、ってミサカはミサカは事務的に報告してみる」
普段は見せない様な冷たい表情をした打ち止めが側に立つ相手を見上げる。
「後はアイツだけね」
そうひとりごちた御坂美琴に、
「それが一番問題だろーが。それでも駄目もとで太いのブチ込んでみるか?」
麦野沈利は面倒そうに目の前にある雑居ビルを指差した。
「太……」
美琴が急に頬を染めたのを見て打ち止めはキョトンと、麦野はチッと舌打ちして、
「ったく浜面の野郎マジビンゴとはね……、妻が妊娠すると夫は浮気に走るって統計まんざら嘘じゃないって所か……」
そう。あれだけやりまくればと言う事で滝壺理后は妊娠した。
そしてインデックスも妊娠。
こちらの場合は上条が何時までも自宅軟禁しようとしたので、総出で押しかけて両者の意向を無視して病院に入院させていた。
「ん?」
スカートの裾を引かれる感じに麦野が現実に引き戻されると、
「ミ、ミサカは……?」
その言葉と泣きそうな瞳に言葉に詰まった。
だが、
「ほ、本人に聞いてみようね……」
美琴に助けられて内心ホッとする。
「で、どうするよ超電磁砲?」
「やるわ!」
ぐっと拳を握りしめる美琴に麦野はひゅーっと口笛を吹いて、
「おーおー勇ましいわねお嬢さん。そんじゃ私もいっちょ付き合ってあげますか」
「アンタ……」
「気色悪いからそんな顔で見んな。勘違いして濡れちまうだろ」
「ば、馬鹿っ!」
目の前で真っ赤になる美琴を見ていると素直でいいなあなんて場違いな事を感じながらも、
「さてヘマすりゃ間違い無く私達のオシオキ確定すっから気合い入れてくぞ」
「お、おー」
「おー! ってミサカもミサカもノリノリで拳を振り上げてみたりー」
3人はカラオケ店のある雑居ビルに突入して行く。
(さて、いざとなりゃ腹の子供を盾に取れば浜面はこっちに付くだろ……たく手間ぁかけさせやがる)
(お、おしおき……おしおきだって……)
(あのひとにミサカの女っぷりをみせてやるぜ! ってミサカはミサカは……うふ、ふふふふ……)
各々の内に心を秘めたまま……。
おわり。