昼休みもすっかり過ぎた時刻、上条当麻は1人公園の木陰の下で昼食を取ろうとしていた。
「まさかこんな豪勢なもんが昼を過ぎてもまだ残っていようとは……今日の俺ってばなんてラッキーなんだ」
そんな上条の手には樹脂製の丼があった。
いつもの様に不良達に絡まれて散々追いかけられて、やっと振り切った所で空腹に気が付いた。
それで適当に入った店で見つけたのがこの弁当だ。
「『百合丼弁当』なんて不思議な名前だけど一体何が入ってんだ……?」
期待を込めて蓋をパカッと開けてみた。すると、
「く、黒子アンタや、め、な、さ、いぃ……」
「う、ぐぐぐ……抵抗されればされる程燃え上がる……それが愛ですわお姉様……」
何故かピッカピカの白米の上で押し倒されてなお抵抗する御坂美琴と、抵抗されてもなお諦めない白井黒子が入っていた。
「ごちそうさまでした」
上条はパタンと丼の蓋を閉じた。
だが次の瞬間丼の蓋が独りでに開いて――等とは生易しくひと筋の光と共にバギョンと粉々に吹き飛んだ。
「!?」
ギョッとして、恐る恐る丼の中を覗き込むと……、
「何蓋閉じてんのよアンタは!!」
いつもの様に地団太を踏む美琴と、
「あ゛う゛……きょ……も……はげし……い……」
その足元で幸せそうに震える白井がいた。
「不幸だ……」
そう嘆く上条の目掛けて電撃が飛ぶが、無意識に動いた右手がかき消す。
「危っ!?」
「無視してんじゃないわよアンタは!!」
「小さくても一緒だなお前は……」
器の中を再度覗いてしみじみと呟いた上条は、
「で、何してんだよビリビリ」
「ビリビリ言うなビリビリ!!」
「んな事どーでもいいから説明しろって」
「どーでもいい訳有るか!! 私には御坂美琴ってちゃんとした名前が……」
「判った判った……じゃあ、美琴さんはどーして丼の中になんかいらっしゃるんですかー?」
上条は扱くめんどくさそうに小指で耳をほじりながら適当に聞き直した。
だが、
「み、みこ……」
「おい?」
気が付けば美琴がぷるぷると肩を震わせ、
「ふにゃあ……」
ぽてっと崩れ落ちた。
(うわああ……、マジでめんどくせえ……)
最速捨てて帰ろうかとキョロキョロとゴミ箱を探していると、
「うへへへ……」
不穏な笑い声に上条は器の中を覗き込んだ。
すると白井が放心状態の美琴のスカートを覗き込んでいた。
「あの……」
「うへへへ……無防備なお姉様、む、ぼウび、ナ、お、ネえ、さま……」
白井の言葉がどんどん変になって行くのに、上条は不安しか感じられない。
「白井さーん、もしもーし、もしもーし!」
「こ、これは神がわたくしの願いを聞き入れてお与えくださいました贈り物では……!?」
「…………」
上条はこれ以上見てはいられず、右手を振りかざすとそのまま器に振り下ろした。
するとパキィィンと乾いた音と共に器は佐藤細工の様に砕け散り、それと呼応して美琴と白井が中に忽然と姿を現す。
「え?」
「は?」
気を失った美琴はともかく、悪戯中の白井と気配を察して見上げた上条は同時に声を上げた。
「きゃあああああああああああああああああああああ!!」
「おぶふぅっ!!!?」
美琴はキャッチしたが直後に白井が背中に振って来て上条は押しつぶされた。
「な、何でこんなお前らと……不幸だ……」
「痛たたたた……」
上条と白井が口々に言葉を発する中、
「う、うーん……」
気を失っていた美琴が夢から覚めた。
「あれ?」
キョロキョロと辺りを見回して、最後に自分お腹の辺りを見た。
「起きたか御坂?」
上条の顔がある。
「え?」
美琴は暫し考えた末、
「ア、アンタ何で私を押し倒して……」
「何処をどう見たらお前を押し倒して見えるんだこれが?」
上条はその言葉に心底がっかりした。
そして、
「で、これは一体何だったんだ?」
上条は美琴と白井を捕まえて今回の事件を問いただすと、
「願い事をしたのよ」
「お前の将来は丼になるのが夢か?」
「んな訳有るか! ただちょっと友達から絶対願いが叶うって聞いたから……」
願いが叶う……その言葉に上条は引っ掛かるものを感じて、
「1つ聞いていいか?」
美琴がこくりと頷いたので、
「その友達って学園都市の人間か?」
すると今度は黙って首を左右に振った。
「不幸だ……」
これは多分じゃ無く絶対に魔術だ――と上条はそれだけで心が重くなって来る。
「ね、ねえアンタ!」
「おう、何ですか? 上条さん今猛烈に疲れてるから手短にな」
「うっ」
早くも蚊帳の外な空気に美琴は一瞬腰が引けてしまう。
だが今回は簡単には引き下がれない。
何故なら、
「食べて!」
その言葉に上条は美琴を見て、その差し出された手に何も無いのを見てとって、さぁーと血の気が引くのを感じた。
「カ、カミジョーさん申し出は大変うれしいのですが最初は友達からのお付き合いが嬉しいかなぁーと……」
「は?」
「(お姉様、アレを忘れておりますわ)」
白井の助言にハッとして、側に転がっていた鞄の中から布の包みを取り出して、
「作ったの」
「作ったって現実問題コウノトリでもキャベツ畑でも子供は作られて……へ?」
正気に戻った上条は美琴の手の中にあるものを見た。
「何これ?」
「お、お弁当よ!」
上条は今一度美琴の手の中にあるものをまじまじと見つめて、
「で?」
「食べろ」
「お、おう」
鬼気迫る美琴に気押されて弁当を受け取った。
実際腹も減っていたし何でも有難いと蓋を開けた上条は、
「く、黒子アンタや、め、な、さ、いぃ……」
「う、ぐぐぐ……抵抗されればされる程燃え上がる……それが愛ですわお姉様……」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
上条が目を覚ますとそこはいつもの病室だった。
(夢か……)
まだ心臓がドキドキしていて体が鉛の様に重い。
特に下半身はぼんやりと感覚が曖昧で……。
「ん?」
自分の体にしては下半身が盛り上がり過ぎているし、先程のぼんやりとした感覚から段々ムズムズして来た。
「おいおい、一体どうなってんだ俺の下半身は?」
まさか謎の老婆がしがみ付いていましたとかそんなベタな怪談ネタなのか。
(それはそれで怖いけど……)
上条は意を決して恐る恐るシーツをめくってみた。
するとそこには、
「なん……で?」
シーツ下から現れたインデックス、美琴、姫神秋沙、更にその後ろには白井、御坂妹+妹達3名、吹寄制理の姿が。
ベッドの上の3人の顔には何かがべったりとこびり付いて、微かに生臭いにおいがする。
「おはようなんだよ、とうま」
「今は夜。こんばんはが正しい」
「あ、あははははは……」
上条はこの時、いっそ怪談のベタネタの方がずっとマシだと思った。
「不幸だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
おわれ