月夜の河川敷で2人の少女は真っ向からぶつかる――それは共に同じ男を愛したがゆえの避けられない悲しい出会いであった。
互いに攻守を入れ替えながら交錯は何時までも続くかと思われた。
だが片方の影から細長く伸びた一筋がもう片方を刺貫いた瞬間、
「当た――」
「――る訳無いでしょがこのマヌケえええええええええええええええええええええええええっ!!」
眩い閃光。
続いて落雷にも似た空気を引き裂く渇いた破裂音が轟く。
「!!」
そして全てが消え去り静寂が辺りを支配した時、
「ふん。これで勝負有ったわね」
御坂美琴は脇に挟んだままの海軍用船上槍(フリウリスピア)を地面に落した。
更にそれをいともたやすく2つに踏み折る。
「う、あ」
その様子を地べたに這いつくばって見ていた五和が呻き声を上げた。
危険を感じて槍から手を放してこの威力。五和は今全身が痺れて身動きが取れない。
それでも、
「まだ…ま……ける……わけに……」
カリ、カリ、と河原の石に爪を立てる。
例えその石が握れたとしても美琴に敵う事は万に一つも有り得ないのに……それでも五和には引けない理由が有ったのだ。
だが、
「その根性は認めるけどさぁ……正直アンタじゃ役不足なのよね、私の相手」
頭上でするその声に目だけを上に向けると美琴がすぐ側に立っていた。
そんな彼女の足が五和の掌を軽く踏み付ける。
「ぁ……?」
霞む視線の先に革靴が見えた。
その事の意味を確かめる様にもう一度視線を上げようとしたその時、
「おやすみ、クソったれのクソ豚ちゃん♪」
踏みつけた個所から今度こそ五和に止めを刺すべく強力な電撃が流し込まれた。
「あがががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががが!!!!!!」
五和の口から人のものとは思えない叫び声が上がる。
それは彼女が意識してのものでは無く、肺が勝手に委縮して喉から音を絞り出しているに過ぎない。
「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――」
河原の砂利を巻き上げて滅茶苦茶に跳ねまわる五和はバネの壊れた人形の様だ。
とそんな五和の喉がひゅっと鳴って、それきり声はぷっつりと途切れた。
それを見て美琴も電撃を止める。
うつ伏せのままピクリとも動かない五和。
美琴はそんな少女の腹に爪先を突っ込むとごろんと仰向けに転がしてみた。
そしてしゃがみ込んで苦悶の表情を浮かべて白眼をむいた五和の首筋に手を添え、次に口元に手を翳してみる。
「ふぅ、息はしてるみたいね」
加減する気は無かったが殺すのはちと目覚めが悪いので美琴は少しホッとした。
生存を確認して立ち上がると改めて五和を見下ろす。
自分よりずっと女らしい体。いつかは追い越すだろうが今は敵わないこのスタイル。
すると突然、美琴の髪が風も無いのにふわっと浮いた。
続いて辺りがざわめき始めると共に、2人を取り囲む様にゆらりと黒い影の様なものが地面から立ち上がる。
それは美琴が操る砂鉄――命令ひとつで刃にも盾にも変化するそれは、シャラシャラと音を響かせながらその輪をぐっと縮めた。
とそれは円から黒い蛇へと変わって、五和のシャツの胸元やすだれの様なダメージジーンズの中に潜り込んで行く。
そして――バンっと五和の衣服がまるで紙吹雪の様に内側から弾け飛んだ。
それが服の内側に潜り込ませた砂鉄の仕業だと知るのは美琴だけ。
今やピンクの水玉模様のブラに純白のパンティーのみとなった五和が河原特有の荒い砂利の上に横たわる。
「ふん」
美琴が面白く無さそうに鼻を鳴らしてから五和の側にしゃがみ込む。
その指先にはナイフ程の大きさの砂鉄の剣が。
それが五和の胸の谷間をシュッと滑ると途端に内側から弾け飛ぶように白い乳房がまろび出た。
だらしなく広がらずに形をとどめるその姿に同じ女の筈の美琴は固唾を飲んだ。
自分とは違う女性らしさを示すそれ。
「何よっ、わ、私だって直ぐにこれ位になるんだからっ!」
自分からそうしておきながら今更突き付けられた現実に憤る。
だが、そんな美琴の顔が狡猾そうに歪んだ。
それは五和の胸の頂き。ピンク色のそれがツンと立ち上がっている。
指先で軽く弾くと振動がさざ波の様に乳房を揺らすのを見ながら、
「黒子のヤツも立つのよねぇ……そんなものなのかしらね……?」
電撃が無効な美琴には判らない感覚。
少女はそう呟きながら硬さを確かめる様に人差し指と親指で挟んで揉む。
「ぅ、ぅ……」
「ん……感じてるのかしら? それじゃあ……」
五和の唇から微か漏れる声に美琴の笑みが増した直後、五和の硬くなったしこりと指の間に細い光が走った。
「ぎあッ!」
途端に悲鳴を上げて海老の様に背中を逸らせた五和から美琴はひょいと体を離す。
そしてそのまま立ち上がるとぐったりとした五和の足元に回り込んだ。
そして足で器用に五和の太ももを右へ左へと開けさせて彼女の股間を露わにさせると、
「いやだ……漏らしてんじゃないの……」
言葉の割に黒々としたシミを見つめる美琴の表情は楽しそうだ。
そんな美琴の爪先が、まだ布で覆われた部分から女の最も敏感な部分探す様になぞる。
「ぁ、ぅ」
身動きひとつせずに成すがままに悪戯される五和の口から小さな呻きが漏れる。
暫くそうして突きまわしていると、
「いぅ、んっ」
同じ力で突いていたのに五和の声が大きくなった。
「ここね……」
靴先が深く、そして執拗にそこへ食い込むと、
「あ゛、ぐぅ」
身動きのできない五和の口から苦悶の声が漏れる。
だが美琴は止めない。むしろ嬉々として爪先を捻じ込む。
すると、
「ふ、んっ……」
五和の声音に艶が含まれ始める。
それと共に布越しにも判る湿った音。
「ん?」
その変化に気付いた美琴が靴の先を見ると微かに濡れている。
五和の股間に目をやれば土汚れとも先程までの汚れとも違う新しいシミが広がっていた。
美琴の唇に残忍な笑みが浮かぶ。
彼女は靴先を再び湿った部分に押し当てると、
「美琴様を舐めんじゃないわよこの売女。何が「上条さんは渡しません」よ。アンタなんかに任せたらアイツの命がいくつあったって足りないじゃない」
ぐりっとひと際靴先が喰い込む。
「ぎぁ」
「いい? これからアンタの手足を切り落としてやる。それからこのっ!」
更にぐりぐりっとまるで下着と靴ごと押し込もうと言うかのように体重を掛ける。
「ぎびっ、い゛い゛ぃ」
「クソったれな穴にギッチリ砂鉄を詰め込んで何処かの路地裏にでも棄ててやる……。ふふふ……、もしかしたら誰かが拾ってくれるかもね?
だあって、喋る豚なんて珍しいじゃない? だ、か、らぁ、今からアンタをブヒブヒ鳴ける様に調教してあげるから感謝しなさい!!」
その言葉の終わりと共に唐突に責め苦が止む。
「あ゛……、はぁぁ……」
靴による責めから解放された五和の口から泡と共に明らかに解放された事への安堵の溜息が洩れた。
だがそれは新たな責め苦への前段階に過ぎない事は、美琴のまだ消えない残忍から笑みが明らかだ。
(死ぬほど後悔させてやる)
息は喉が焼けるかのように熱く燃え、呼吸は不規則に浅く短く、心臓の鼓動は早く早くと急く様に打ち鳴らされる。
およそまともな状況で無いこの状況が美琴を鬼へと変えて行く。
「あは♪ それじゃあ手始めにその不要な手足を斬り取ってあげる♪ あ、勝手に死んでもちゃんと蘇生させてあげるから安心してね」
その言葉が終わると同時に五和の手足に砂鉄がまとわりついた。
「う゛……」
「「う」じゃ無くて「ブヒブヒ」でしょこのクソ豚ちゃん♪ さっき教えた事も忘れちゃったのかしらぁ?」
美琴は声を上ずらせながら五和の下腹部を足で踏みつけて押さえつけた。
朦朧とした五和はただされるがまま虚ろに夜空を見つめている。
「さあ、いっくわよぉ♪」
その言葉と共に美琴は高らかに右手を突き上げた。
その先には3本の指。
「3……、2……、1……」
実に嬉しそうに指を折ってカウントダウンをする美琴。
今彼女の中で絶頂にも似た高揚感が駆け上がっていた。
(いきそ……)
だがその背後に影が立つ。
そして美琴は気が付かないで、
「ゼ――」
ゼロ、と高々と宣言する前に頭にゴチンと衝撃を受けて美琴はその場に蹲った。
そんな少女の頭上から、
「何やってんだこの大馬鹿野郎!!」
「ひぃっ、ア、アンタぁっ!?」
自分の操るイカヅチよりも恐ろしい雷に美琴は別の意味で頭を抱えた。
恐る恐る見上げれば、そこには上条当麻が苦虫を噛み潰したような顔をして立っていた。
もうそれだけで美琴は涙目になって、
「ア、アンタぁ!?」
「アンタじゃねえよこの不良娘っ!!」
「ひっ! だ、だってこのクソ豚、わわっ、私の事殺そうとしたんだからね! ね! ね! 私悪くないでしょ?
って美琴は言ってみたり……?」
「中途半端に御坂妹の真似して媚ってんじゃねぇよ、ったく、こっちは取り返しのつかない事になったらと思って心配したんだぞ?」
その一言を美琴は都合のいい様に曲解した。
いや上条の言葉はあながち間違いでは無い。ただ美琴『だけ』とは一言も言って無いのだが、
「アンタっ!!」
美琴はぶわっと瞳から涙をあふれてさせて嬉しそうに上条目掛けてタックルした。
「ぐはッ!?」
「もうっ!! アンタが私の心配するなんて千年早いのよ!!」
「なっ!? 何言ってんだ御さ――」
「感謝しなさいよ!! 私だけがアンタの味方なんだからね!! 判ってる!?
判ってるんなら返事をしろコラああああああああああああああああああああああああ!!」
「ツンだかデレだかわっかんねえんだよお前はああ!! つか帰ったらお前はお仕置きだかんな!! お、し、お、きっ!!」
そう言って上条が美琴を振り払う。
そして振り払われて尻もちをついた美琴は暫くぼぉーっとした後、
「え? おしおき?」
「あったりまえだっ!! 覚悟しやが……って逃げてんじゃねえぞ御坂ああああああああああああああああああああああああ!!」
脇目もふらずに逃げて行く美琴の背中に向かって上条が怒鳴り声を上げた。
そんな2人の側では――、
(河川敷の砂利ってひんやりして冷たいんですね……)
身動きも取れずに五和が1人さめざめと黄昏ていた。
ここはとある学生寮。
そこの小さなユニットバスの更に小さな浴槽には2人の少女が、手足を縛られた上で仲良く背中合わせで腰まで湯船に浸かっている。
「さあ、こいつはとある病院からお前達の為にとっくべつに分けてもらった学園都市製のウナギだ」
明らかに説明口調の上条の手には水槽が。
そして中には言葉通りにょろにょろうねうね動く白黒ツートンカラーの生き物が蠢いている。
その中々に生々しい姿に2人の少女は同時に顔を引き攣らせ、
「あ、あの、私……、その、ウナギはちょっとぉ……、苦手、かな? あ、あはは♪」
美琴はそう言ってへらへらっと笑い、
「か、上条さん……そんなものを用意するって……」
明らかに先を予想して怯える五和。
そんな2人の頭上へと上条は水槽を持ち上げて、
「『鰻風呂』……存分に味わって反省しやがれこの大馬鹿共!!」
その叫びと共に水槽の中身を浴槽の中にぶちまけた。
「「ひいいッ!?」」
ぴちぴちうねうねとしたものが体のあちこちに触れる度に美琴と五和が悲鳴を上げる。
とそんな浴槽から器用に一匹を掴みだしたのは――、
「ん? どうしたインデックス」
「とうまぁ、これ食べられないの? 美味しそうなんだけど」
「ん……そうだなぁ……、今こいつらが隠し味を付けてくれるから1時間後な」
「ひあっ♪ い、いちじか……んにゃぁ……」
「は、はいってっ、はいって、くふっ、う、あぁ!?」
もはやどちらの悲鳴か嬌声かも判らない大騒ぎをじっと見つめたインデックスは、
「うん♪」
これでもかと言う位いい笑顔で返事をしたのだった。
続かないんだよ。