上条当麻は困惑していた。  
それと言うのも――――、  
 
「は、早くして欲しいかも……。こ、この格好は私でも結構つらいんだよ」  
修道服に包まれた小さく可愛らしい尻がもじもじと目の前で揺れている。  
四つん這いの姿勢から上体だけを床に付けて尻を高く上げる様なポーズのインデックス……。  
「不幸だ……」  
上条はいつもの言葉を口にするのだった。  
 
 
 
 
 
事の発端は数時間前にまでさかのぼる。  
「先生どうなんですかインデックスは?」  
気が急いていた上条は、診察室に呼ばれて勧められた椅子に座ると直ぐにそう切り出した。  
インデックスが自宅で腹痛を訴えて倒れ、彼がここに運んで来てから既に1時間近く経っている。  
一刻も早く少女を楽にしたかったのだ。  
それなのに、  
「ふむ」  
カエル顔の医者――上条の掛かり付けであり彼が最も信頼する医者――はカルテを眺めるだけで一向に話をする気配が無い。いや本当はそんな事は無いのかもしれないが、とにかく焦っている上条の目にはそう映った。  
歯痒さに奥歯をギリッと噛締め、  
(何で黙ってんだよ先生……何でこっちを見て話してくれないんだ……)  
今すぐ胸倉を掴んでこちらを向かせてインデックスの事を聞きだしたい……だが僅かな理性がそれを押し止める。  
上条はズボンの膝をギュッと握りしめて医者の答えを待った。  
と、そんな彼のシャツの袖を誰かが引く。  
「!?」  
意識が集中していたのでドキッとする。  
「とうまぁ」  
さらにそこへか細い声が……振り返ると不安そうな表情を浮かべたインデックスがいた。  
何時もの元気は何処に行ってしまったのだろう。  
「心配するなインデックス。大丈夫だからな」  
そう言って上条は少女の頭を優しく撫でる。  
全く根拠の無い言葉……それでも言わずにはいられなかった。  
「うん」  
自分の掌の下でインデックスが小さく頷く……と2人がそんなやり取りをしていた時、  
「うん、そうだね?」  
とカエル顔の医者が、上条達に椅子を勧めて以来初めて言葉らしい言葉を口にした。  
その自己完結でもした様な呟きに上条は期待の眼差しを向けて、  
「何か判ったんですか!?」  
その側でインデックスが固唾を飲んで医者の言葉を待つ。  
 
そしてカエル顔の医者は上条に……では無くインデックスに向かって、  
「お嬢さん、最近お通じはどうかな?」  
「お、つう、じ……?」  
インデックスはその言葉にキョトンとしながらオウム返しに呟く。  
医者が、そして上条が注目する。  
そんな中インデックスは2人から目を逸らし、そして肩と首を竦めて窮屈そうに背中を丸めて「うぅ……」と呻いた後、  
「と、とうまぁ……」  
くるりとこちらに振り返ったインデックスに上条はキョトンとして、  
「どうしたインデックス?」  
「お……、『おつうじ』って何かな?」  
「…………」  
上条は暫く沈黙した後、カエル顔の医者に助けを求める様な瞳を向けた。  
すると医者は軽く息を吐いて、  
「ふぅーむ……、じゃあ質問を変えるけどいいかな?」  
「は、はい!」  
先程の事が有ってかインデックスが俄かに緊張する。  
そして上条も同じく緊張する中、  
「君は1日に何回トイレに行くのかな?」  
その瞬間インデックスの顔が真っ赤になった。  
そして上条の方をチラリと見ると、上条も丁度視線を向けた所だったので、顔を真っ赤にした2人の視線がばっちりと合う。  
お互いにビクッと体を震わせて――先に逸らしたのは上条だった。  
(まずい……)  
上条の本能がここにいてはいけないと知らせて来る。  
それに従ってそそくさと退席しようとしたのだが、そのシャツの裾をまたインデックスが掴む。  
「イ、インデックスさん?」  
「何処へ行くのかなとうまは……?」  
「い、いやパーソナルな秘密を共有するには僕達はまだ早いかなぁと思いまして……」  
「むぅ」  
思わず本当の事を言ったらインデックスの表情が不機嫌なものに変わる。  
しかしこのままここにいても少女に恥ずかしい目を合わせる事は確実である。  
となればどっちにしても結末は……と上条が1人虚空を見つめて冷や汗を流す中、カエル顔の医者がインデックスに手招きをした。  
「?」  
それにつられてインデックスは医者の元へ。  
そして2人はお互いに耳打ちし合いながら会話をする。  
凍りついた上条は放置される事暫し――、  
「うん、僕の見立て通りだったね?」  
「へ?」  
上条が正気に戻った時には全て終わってしまったらしい。  
インデックスの方を向くと彼女は顔を見られないようにするためなのか俯いていた。  
なので上条はカエル顔の医者に向き直る。  
 
「それでどうだったんですかインデックスは?」  
初めと同じ質問を繰り返した少年にカエル顔の医者はふむと小さく息を吐いてから、  
「便秘だね?」  
「は?」  
「うんちが出ていないんだよね? 彼女」  
「え?」  
「これがレントゲンの結果なんだけどね? ほら彼女の腸、排せつ物でパンパンだよ?」  
指差されても良く判らないが確かにその部分は他より真っ黒だ。  
「処方箋は特別に僕が用意して来るよ? 君達はここで待っていてくれるかい?」  
そう言ってカエル顔の医者が席を立って居なくなっても上条は暫く呆然としていた。  
そして、  
「よかったぁ……」  
上条は椅子の背もたれにドカッと体を預けて力を抜いた。  
良かった。今はそんな言葉しか思い浮かばない。  
一時は何の病かと気も狂わんばかりだったが、何だ聞いてみればただの『便秘』。  
上条はチラリとまだ下を向いたままのインデックスに視線を向けると、  
「インデックスお前何時から何だよそのうんこ出ないの? もしかして偏食のせいか? そしたらお前がうんこ出ないのは俺のせいだな。そうか食生活改善でも考えますか……」  
そう言いながらインデックスの頭に手を乗せようとした。  
頭を撫でよう……としたのだが、れより一瞬早くにインデックスが椅子から立ち上がった。  
「ん?」  
ゆらりと立ち上がった少女の姿に、もしかしてトイレに行きたくなったのかなと思ってそれを口に出そうとしたその時、  
「とぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉまぁぁああああああああああああああああ!!」  
唐突にインデックスの怒号が診察室に轟いた。  
「い!?」  
その瞬間すかさず椅子ごと後ずさるが、さほど広くも無い場所では直ぐに逃げ場を失ってしまった。  
「ま、待てインデックス!?」  
手で制そうとするがそんな手を退けてインデックスは鼻先も触れんばかりに顔を近付けて来る。  
「うぐ!?」  
思わず反射的にのけ反る――だが直ぐ壁に阻まれ、どころか頭を打ち付けて呻く事に。  
「ごがっ!?」  
そして痛みにしかめられた瞳を開けば、そこには顔を真っ赤にして目元には涙まで浮かべたインデックスが、  
「私はこれでもレディーなんだよ……そんな私の前でう……、ううううううう……」  
「どうしたインデックス? うんこしたくなって来たのか?」  
今度は言った。  
言ってしまってから言ってはいけない言葉だと思って、  
「あぁー……、レディーの場合は『花摘み』でしたっけ? 先日もそれでビリビリにキレられ――」  
上条は慌てて直ぐに言い直そうとしたのだが、  
「もうとうまなんか許さないんだからああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
次の瞬間正面からがっちりとホールドされた上条の頭部にインデックスの真っ白な歯が食いこんだ。  
 
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
「へふはふぃほはいほうははふははううはううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!  
(デリカシーの無いとうまなんか大っ嫌いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!)」  
「不幸だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
 
 
そして病院から自宅である男子寮に帰って来た2人だったが、  
「もう本当に信じられないんだよあんな言葉を連呼するなんて……。とうまには心底呆れたかも!」  
そこに響き渡る少女の声……そう、インデックスはまだご立腹だった。  
病室を出てからずっと黙ったままだったから、また腹の具合でもと心配していた上条だったが、  
「はぁ……、何だまだ怒ってただけか……良かったぁ」  
取り越し苦労だった事にホッと胸を撫で下ろす。  
「な、何を良かったとか……そ、それに怒っている『だけ』!? 『だけ』ってどういう意味なのかなとうま!」  
インデックスが怒り心頭でギャンギャン喚くがそんな事はどうでも良かった。  
それより彼は、  
「良かったなインデックス」  
「?」  
急に頭にポンと手を乗せられたインデックスがピタリと動きを止めた。  
その少し目深に被ったフードの下から碧い瞳がこちらを見つめて来ると、上条は少し照れくさそうに笑いかけながら、  
「病気で誰かを心配する事ってあんま無いからさ……その……、少しビビっちまった」  
「え?」  
「ほら病気とかそういうのは俺の右手じゃどうにもならねぇだろ? こればっかりは上条さんもお手上げでしたよ」  
やっぱり照れくさいと上条はインデックスから視線を逸らす。  
「とうま……」  
「ま、薬で直ぐ良くなるって言うし、良かったよなインデックス」  
最後にくしゃくしゃっと少女の頭を撫でたのはその照れくささを誤魔化したかったからだ。  
「うん……」  
視線を外していたからインデックスが返事をした時に少し頬を染めていたのには気が付かない。  
だが、  
(何とか機嫌は直ったみたいだな)  
と、そこで忘れていた今日の騒動の結末を思い出して、  
「それでどんな薬貰ったんだっけか?」  
上条はそう言うと医者から直接処方された薬の袋を鞄から取り出す。  
それを持ってテーブルに着くと神妙な面持ちのインデックスが寄り添って来た。  
「?」  
その表情がちょっと気になったが、まず中身をと袋の口を開いて逆さにしてみる。  
すると中からは、四つ折りになった説明書とチューブ薬とビニールに入ったピンポン玉の先端にストローが付いた容器と何故だかコンドームが2つ……。  
「!?」  
上条は慌ててコンドームだけ袋に戻す。  
「どうしのとうま? 今何を仕舞ったの? それに何だか顔が赤いんだよ」  
「な、何でもありませんの事よ!?」  
「?」  
若干声が裏返って誤魔化し損ねた感もあるが上条は押し通す事にした。  
 
ガッと説明書を掴むとバッと開こうとしたのだが、  
「あ、あれ? クソっ、上手く行かねぇぞこいつ……」  
先程のショックが大きいのか指が震えて上手く広げられない。  
それでも何とか説明書を広げて、  
「さ、さてこの薬の使い方は……」  
さっき出て来たコンドーム(あれ)は何かの間違いだと念じながら文字を目で追う。  
「えぇーと何々……『浣腸の仕方』はっとぉ……」  
そこまで読んでからもう一度見出しとなる部分を読み直して上条は、  
「か、浣腸ぉっ!!?」  
「ふえぇ!?」  
インデックスも上条に釣られて一緒に驚いた。  
驚いてから、  
「で、とうま。『浣腸』って何かな?」  
 
 
そして最初に話は初めに戻る。  
「不幸だ……」  
上条は内心で頭を抱えてしまう。  
あの後、説明書を読み終えて途方に暮れる上条に向ってインデックスは、「とうまがして」と小さな声だが確かにそう言った。  
そして彼がその言葉の意味を理解しない内にこんな事になっていた。  
インデックスが内容から想像して取った治療ポーズ……決して上条から頼んだ訳では無い。  
「イ、インデックスさん?」  
「今集中しているのだから話しかけないで欲しいかも」  
「だ、だけどなぁ……」  
上条は恥ずかしくてインデックスの事が直視出来ない。  
幾ら治療だからとか修道服を着ているからとか言われてもこの格好は余りにも刺激が強すぎる。  
ついでに言えば治療の際のポーズは左側を下にして横に寝て膝を軽く抱える様な姿勢であり、こんなエロ漫画の様な格好では断じて無い。  
「ねぇ、私は覚悟を決めたんだから……女の子に恥をかかせないで欲しいんだよ」  
「うっ」  
上条は何とかえしていいのか判らず言葉に詰まってしまう。  
だがしかし、このまま突き進んでしまうのはイチ男子コーコーセーには荷が勝ち過ぎる。  
(そうだぜ……いきなり女の子に浣腸するなんて……物事には順序ってもんが有るだろ!?)  
何かおかしい気がしないでも無いがとにかく現状を受け入れる訳にはいかない上条は、今一度説得してみる事にした。  
「いやぁ……なぁ、素直に病院に行かね?」  
「嫌なんだよ!」  
「嫌って……そんな事言われてもなぁ、ほら餅は餅屋って日本のことわざにもあるだろ? お前だってそっちの方が安心しないか?」  
些か真剣さが薄いのはこの信じられない様な不幸に辟易していたからであり、別にインデックスに対して何か含む所があった訳では無い。  
だが、  
「とうまは私の事が嫌いなんだね。私の事面倒くさいって思ってるんでしょ?」  
「は?」  
気が付けば上体を起こしたインデックスがこっちを睨んでいた。  
 
「私はとうまにして欲しいって言ったんだよ! 他の誰でも無い……とうまにっ!」  
「い、いや、だからそれは……」  
「それが嫌なら……私の事面倒くさいなら初めっから放っておくか玄関の外にでも放り出してくれれば良かったかも!!」  
インデックスの言葉に上条はギョッとする。  
慌てて振り返ると何故か彼女も驚いた顔をしていて、  
「インデッ――」  
だが名前を予備終わる前にふいっと視線を逸らされてしまった。  
この態度に上条はカチンと来た。  
自分はこんなに心を割いているのにインデックスと来たら我儘を言った上に、自分が彼女を疎ましく思っているとまで言ってのけたのだ。  
そうか、ならば自分が取る道は一つしか無い……と上条は覚悟を決めて、  
「そうかよ。俺はお前が傷付くかと思ったから遠慮したのにお前はそういう風に取るんだな……。ああ判ったよ。そうかよ。嫌なら放り出せってか……ふんっ」  
「…………」  
冷めた様な目で見下ろしながら淡々と喋る彼に、インデックスは押し黙ったまま何も言わない。  
すると上条はインデックスの側に膝を付くと少女の肩を掴んで顔を向けさせた。  
その瞬間視線が交わり、  
「とう、ま……」  
先程と打って変わって熱い……力強い眼差しにインデックスが唇を震わせる。  
「舐めんなよインデックス。俺は一度助けた人間を放り出すなんて出来ねぇんだ……だから、お前も覚悟しろ」  
上条の怒りは自分自身へのものだった。  
大切である筈の彼女を結果として追い詰めたのは自分だと気が付いたから。  
「いいな」  
何時に無く低い声は……インデックスを救うと言う決意の表れ。  
するとインデックスはごくりと唾を飲み込んでから、  
「わ、判ったんだよ」  
彼の気持ちが伝わったのか真剣な表情で短くそう答えた。  
 
 
色々と手間取ったが、2人は改めて治療の準備を始める事に。  
まず場所は部屋からトイレの側に移動した。  
そこにたまたま家にあったレジャーシートを敷いて、インデックスはその上に左肩を下にして横になる。  
服装はいつもの修道服から上条のワイシャツ一枚を羽織った。もちろん不要な下着は付けていない。  
これで準備万端……と行きたい所だがシャツの裾から覗く白い太ももに上条は、  
「インデックスちょっと俺は水を浴びて心を清めて来ます!」  
「え?」  
「(これからの事を考えればこれくらいで心がグラついてはインデックスの覚悟に申し訳が……)」  
「…………」  
ぶつぶつと念仏を唱える様に浴室に消える上条の気味悪さにインデックスは黙って見送る事にした。  
そんなこんなでやっと準備は整い、インデックスは枕に頭を載せて膝を抱える様なポーズを取る。  
「いくぞ」  
「う、うん」  
インデックスが小さく返事を返したのを合図に、上条はワイシャツの裾の部分をそっと捲り上げた。  
 
するとその下から現れたのは真っ白な尻。  
先程まで身に付けていた下着の後など微塵も無い、張りのある瑞々しい尻たぶが目の前にさらけ出される。  
その様子に喉が勝手にごくりとなった。  
「い、痛くしないでね」  
か細い声が誘っている様で、上条は軽い眩暈を覚えた。  
だがそんな事をしている暇は無い。  
 
 
――――便秘を馬鹿にするもんじゃないよ? あれも死に至る病気なんだからね。  
 
 
カエル顔の医者の言葉を思い出し、先程の決意と清めの冷水シャワーを思い出して正気を振るい起す。  
「よし!」  
上条は改めて気合を入れ直して治療を始めた。  
「まず良く手を洗って、その指にコンドームを付ける」  
言葉に出して反芻しながらそれを実行して行く。  
「次にチューブのワセリンを指に塗り付ける」  
言葉通り絞り出した黄色みがかった半透明の薬をまんべんなく塗り付ける。  
「ふぅ。そして……」  
そこでインデックスの方をチラリと見る。  
(落ち着いてるなインデックス)  
その横顔を見て上条は無言で頷く。  
だがいざ尻に視線を向けると、  
(エ、エロいな)  
思わず生唾をごくりと飲み込んでから、そんな自分に気が付いて慌てて頭をぶんぶんと振った。  
(何回同じ事を繰り返してるんだ俺は!? 目の前にいるのは病人だぞ!)  
そう自身を叱咤すると、「インデックス」と小さく呼びかける。  
すると少女の背中がピクンと跳ねた。  
「う、うん」  
「今からちょっと気持ち悪いかもしれないけど、我慢してくれるか?」  
「うん、大丈夫。とうまだから安心してるよ」  
この言葉に上条はガツンと頭を殴られた気がした。  
インデックスは自分を信じている。それに答えないで何が男だ。  
「おう! 任せとけ!」  
「う? うん」  
無駄なテンションに少女が戸惑っている様な気がしたが気付かない。  
上条は少女のま白い尻たぶにそっと左手を添える。  
「ひっ!?」  
「動くなインデックス」  
「う、うん」  
上条はインデックスの返事を待ってから、ゆっくりと尻を捲る様に押し開いた。  
 
何処にもくすみ1つ無い真っ白な肌、その中で唯一皺がより赤みを帯びたすぼまりを見つける。  
その側にひと筋の亀裂も見えたが上条は全力でそれを見なかった事にして、そして先程のすぼまりにワセリンの着いた指先をそっと押し当てる。  
「んっ」  
先程よりは小さいがインデックスが声を上げる。  
「動くなよ、動くと手元が狂う」  
そう言いながらも心配で目だけを動かして様子を伺うと、それが伝わったかの様にインデックスが小さな手をひらひらと振って見せた。  
(インデックスの奴……)  
そんな姿にチョットだけ救われた上条はくすりと小さく笑う。  
そして今一度気を引き締めると右手にそっと力を込めて行った。  
 
 
 
 
 
インデックスは、お尻に感じるムズムズした感覚を我慢する為に奥歯をギュッと噛締める。  
上条に全てを任せると言って焚き付けたのは自分自身。  
だがしかし、いざこうして寝転がって自分も見た事が無い場所を指でまさぐられると、背筋を駆け上がる悪寒と共に膨らむ不安を抑えきれない。  
(信じなくっちゃ……とうまの事を信じなくっちゃ……。父なる神よお願いします。どうか私にとうまを信じる力を御貸し下さい)  
湧きおこる不安をかき消そうと心の中で神に祈る。  
だが上条の指がぬるりと押し込まれた瞬間――、  
「ひぁっ!?」  
口から抑えきれない声が漏れた。  
背筋を駆け上がる悪寒に全身が粟立つ。  
そこへ反射から無意識に上条の指を締めつけてしまったインデックスは、  
(これが……とうまの指……ゆ、び……ぃ!?)  
それを意識した瞬間、彼女の中で何かがパチンと弾けた。  
「イ、イヤぁっ!!」  
インデックスが突然上条から身を遠ざけようとあがき出す。  
「インデックス動くなって!?」  
そう言われてお尻をギュッと掴まれると余計に体が……そして心が反応してしまう。  
「だ、駄目っ! ぬるって……ぐにゅってして……ヘ、ヘンなんだよっ!」  
そう叫ぶ合間にも意識は上条の指と、そこから湧き上がる異物感に支配される。  
人差し指の第一関節も入っていない……だがそんな事など知る由も無いインデックスは、体の中に目一杯何かを詰め込まれた様な錯覚を覚える。  
「抜いてっ! とうま駄目っ! 破裂しちゃう! は、早くっ、指を早く抜いてぇっ!」  
今、彼女の頭に病気の事も上条との約束も無かった。  
あるのは、ただただ背筋を走る嫌悪感とそこから一刻も早く逃げ出したいと言う気持ちだけ――。  
「イヤぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」  
 
だが、そんなインデックスの腕を上条の手が不意に掴んだ。  
「!?」  
ビクッとして振り返ると真剣な顔をした上条と目が合う。  
向けられた事など一度も無い刺貫く様な眼差し……それだけでインデックスの頭がすうっと冷えて来る。  
「とうま……」  
「我慢しろインデックス。直ぐに終わるから」  
「で、でもぉ……」  
「俺を信じろ」  
先程の声とはまた違う低い声にインデックスは身がすくむ。  
(とうまが怒ってる……)  
そうとしか思えなかった。  
いや怒られるのは今日が初めてでは無い。  
だがこんな静かに、ふつふつとわき上がる様な怒りをぶつけられるのは初めて……。  
困惑したインデックスの目が泳ぐ。  
先程の混乱はどこへ消えたのかなどそんな事はどうでもいい。  
問題は今、彼女の目の前にあるのだから。  
「う、ううううううううううううううううううう……、うん」  
インデックスは逡巡する様子を見せたが直ぐに頷く。  
結局そうするしか無いと思った。  
それに少し冷静さが戻って考えてみると、  
(とうまを信じるって決めたんだからとうまを困らせちゃ駄目。それにこれは私の為なんだから私が頑張らなくちゃいけないんだよ)  
本来彼女は前向きな人間だ。  
不安はまだあるが考えても無駄そうなので諦めた。  
それに、  
(またヘンになったらとうまが何とかしてくれる)  
他力本願だがそれでいいと思う事にした。  
「インデックス?」  
「!?」  
そんな事を考えていたら不意に名前を呼ばれた。  
視線を向ければ先程の表情はどこへやら、心配している様な上条がこちらを見つめている。  
インデックスは黙って、ごめんなさいも言わずにゆっくりと体を横たえた。  
ぼふっと枕に頭を預けた所で上条の溜息が聞えたが、溜息のひとつやふたつ吐いた所でどうという事は無いと思う。  
これからきっと自分はもっと彼に溜息を吐かせる。  
それが現実。  
「いくぞ」  
「うん」  
インデックスの返事と共に、忘れかけていた上条の指が自分の中で動き出す。優しく、腫れものに触れる様に、じれったい位にゆっくりと。  
「ん、んん、ん、ん」  
自分の内側を撫でられる感触に声が漏れる。  
 
気持ち悪い――信じても我慢してもゾクゾクする感覚はやはり消せない。  
上条はその声を苦しいのだと感じたのか「我慢してくれ」と何度も言葉を掛けてくれた。  
それだけを頼りにインデックスは早く終わりが来る事を念じる。  
だが、  
「今から回すからな」  
「ん? う、うん」  
内側の感触にすっかり気を取られていて、上条に何を言われたのか理解しないまま生返事を返してしまう。  
そして上条は今の返事を合図にして、ぐるりとゆっくり手首に捻りを加えた。  
「ひゃうんっ!?」  
指が出入りする刺激だけでも目一杯だったのにそこへ回転が加わったのだからインデックスは堪らない。  
口からは悲鳴が飛び出し、体は小刻みに震えだした。  
既に慣れたと思った感覚が一気に元の状態に引き戻されて、  
「ひひぃ……っ!」  
「我慢してくれインデックス!」  
そう言われても声が止まらない……ならいっその事と自らの口を手で塞いだ。  
「ん゛……、ん゛……」  
内臓を掻き回される錯覚。そこから湧き上がる新たな恐怖と嫌悪……しかし少女の中で芽生えたのはそれだけでは無かった。  
「ん゛っ、ん゛ん゛、うぶっ? んんっ、ん」  
苦痛の中に混じった新たな感覚は、今までとは違ってじんわりと腰の奥に残った。  
(何?)  
その感覚を追いかけてみると不思議と嫌悪感が和らいで行く。  
(これいい!)  
少女は天の助けと一も二も無くそれに飛びついた。  
「ん、んん、ふぅ、ん」  
苦痛が徐々に和らぐ。  
更に指は大胆に中に潜り込んで来が、一度解放されたインデックスには余裕だった。  
そんな余裕の表れか、少女は不意にある事が気になった。  
(とうまは今どんな気分なんだろう?)  
顔を見れば判るかもしれない――それを確認する為、少女はチラリと横目で上条の表情を伺ってみた。  
すると先程と同じ、真剣な彼の顔が見える。  
(とうま頑張ってる……)  
胸の奥がじんわりと熱くなる。  
だがその時不意に上条がぺろりと唇を舐めた。  
緊張の為に渇いた唇を潤した――そう何の事は無い動作の筈が、  
(とうま!?)  
インデックスにはチラリと見えた彼の舌が妙に艶めかしく見え――、  
「ん゛ぅっ!?」  
先程まで温かかった場所に電気が走った。  
裏返った声に慌てて身を縮めて耐えようと身構えたインデックスだったが、  
「ん゛、ん゛、ん゛」  
全身が小刻みに震える。  
 
上条の指に操られる様に体が反応してしまう。  
インデックスは今更思い出した……この感覚は己を慰めた時のそれと良く似ていた事に……。  
否、それは全部錯覚なのだとインデックスは漏れ出る嬌声を噛み殺しながら幻想を打ち消そうとする。  
(だ、駄目っ! これは治療なの! とうまは一生懸命頑張ってる! それを私がエッチな気持ちに考えるなんて失礼なんだよ!)  
だがそんな事を考えれば考える程インデックスは自分の中の上条を意識してしまう。  
苦痛よりも恐ろしい拷問に少女は身震いした。  
「っ! っ!」  
ともすれば叫びそうになる声を必死に封じ込めながら治療に耐える。  
(早くっ……早く終わって……)  
だがインデックスの心情と裏腹に上条は丹念にワセリンを塗り込んで行く。  
「ん゛ぐふぅ……」  
「ここが痛いのか?」  
特にインデックスが苦しそうな声を上げる所には特に念入りにワセリンを塗り付ける。  
「ん゛お゛っ! ん゛ごお゛ぅっ!!」  
「こ、ここが痛いんだな?」  
(止めてぇ、違うのぉっ!!?)  
実は気持ち良くなるスポットを擦られて不意に漏れた嬌声とも知らずに。  
頭の中が真っ白になる。  
せり上がって来る快感はもう縁まで一杯でいつ溢れてもおかしく無い。  
「ん゛っ、ん゛っ、ん゛っ、ん゛っ、ん゛っ」  
息継ぎがどんどん短く早くなって来ると限界は唐突にやって来た。  
(だめ、いっちゃだめ、とうまだめ……、とうま、とうま、とうまとうまとうまとうまああああああああああああああああ――)  
「お終いだ。終わったぞインデックス」  
「ふぇ?」  
その言葉と共に訪れた開放感に逝きそびれたインデックスは思わず拍子抜けしてしまう。  
(お……おわったの……?)  
それを確認する様にお尻に力を入れてみる。  
(うぅ……ヘンなんだよ……まだお尻の中にとうまがいるみたいで……)  
もう一度確認する為に力を入れたり緩めたりしてみたが、  
「ん、ん? ……んぅ」  
やっぱり何かが入っている様な感覚に、思わずお尻に手を伸ばして確認したくなる衝動を我慢するのがもどかしい。  
(何だろう? スースーするし……、すっごく気になるんだよ……)  
インデックスは目を閉じて、唇をもじもじと動かしながらそんな事を考えていた。  
実はそうやって力を入れたり抜いたりする度に、小さなすぼまりがパクパクと口を開いたり閉じたりしていたのだが、誰にとっての幸いなのか上条に気付かれる事は無かった。  
 
 

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