ここはとあるオープンテラスのあるカフェ――。  
「と言う訳ですの。いかがですか佐天さん?」  
そう言ってから白井黒子は目の前のジュースのストローを吸う。  
対してテーブルの向いに座る佐天涙子は、難しい顔をして腕を組んでいた。  
白井の話は大体理解している。  
彼女にしては珍しく男性を紹介してくれると言うのだ。  
そこにどんな意図があるかは判らないが、元来何よりも好奇心が先に立つ佐天は、  
「それって白井さんの彼氏ですか?」  
「うぶぉほっ!?」  
「うわっ!?」  
白井が突然飲み物を噴き出したのをかわして白井の背中をさする。  
「大丈夫ですか?」  
「ごほ、けほ、し、失礼いたしましたわ、ありがとうございますですの」  
「いえいえ。それでさっきの男の人の話なんですけど、あれってやっぱり白井さんの……」  
「ち、違いますですの!!」  
「わっ!?」  
急に立ち上がった白井に驚いて佐天がのけ反る。  
「あんなあんなあああああああああああああああああああああああああああんな類人猿のとうへんぼくがわたくしの思い人である筈などございませんの!!  
 あんなとっかえひっかえ会う度会う度学園内から学園外から万国年齢問わず女性を連れ歩く様なケダモノがわ、わわ、わたくしいいいいいいいのおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」  
「お、落ち着いて、落ち着いて下さい白井さん!? と、とりあえず水でも飲んで落ち付きましょうよ」  
焦点の定まらない目で睨まれては堪らない――佐天は取り合えず白井を席に座らせて水を勧める。  
「ぶはっ!」  
「落ち着きましたか?」  
「ええ、まあ。重ね重ね申し訳ありませんですの」  
「いえいえどういたしまして。それでその白井さんの彼氏の話なんですけど」  
「だからわたくしの彼氏などとは一度も申しておりませんですの!!!!!!」  
「まあ良いじゃありませんかそんな事」  
「いいえ! そこはきっちりと拘っておきたいんですの!」  
「じゃあ、御坂さんの彼氏としましょうか?」  
「もっと問題ありですの!!」  
 
「(めんどくさいなぁ……)」  
(素で面倒くさいって言われてしまいましたわ……)  
無自覚に白井を凹ませた佐天は、  
「それでその誰かの彼氏さんてどんな人なんですか?」  
「……どうしても『彼氏』って所に拘るんですのね」  
「えへへ……まあいいじゃないですか。で、どうなんですか?」  
すると白井は一枚の写真を取りだした。  
斜め上から撮られたその写真は縦に半分にカットされていた。  
それでも写っている人物の特徴は大体把握できる。  
黒髪をツンツンに立たせた髪型に、学生服姿の少年は見た感じパッとしない感じに見えた。  
「ふーん」  
「あら、お気に召しませんですの?」  
そう言われて思わずハッとする。  
顔に出てしまったかと佐天はペロッと舌を出して、  
「いや本当に何処にでもいそうな普通の人だなぁって」  
「学園に住むほとんどの人間がそうですわ」  
「いやぁ、白井さんに言われてもねぇ……」  
「それではまるでわたくしが人と違っている様に聞えますの」  
「まあ、風紀委員(ジャッジメント)だと言うのを差し引いても大能力者(レベル4)のパンチラ製造能力……」  
「わたくしの能力は空間移動(テレポート)ですの!!」  
「そんな事言ったって巷じゃ「何処からともなく現れて美味しいローアングルを披露する空間移動能力者」の噂がですね」  
「げっ!?」  
そんな噂が、と白井が真っ白になって固まる中、  
「まあともかくそれはどーでもいいですね」  
(わたくしの一大事が軽く流されましたわ!? 佐天涙子……恐ろしい子)  
また別の意味で白くなった白井に佐天は写真を指差して、  
「この人の名前は何て言うんですか?」  
「は?」  
「名前ですよ。な、ま、え」  
佐天の言葉に白井が凍りついた。  
 
「え?」  
それに気が付いた佐天が不思議そうな顔をすると、  
「あ、え、えーと、そう! 上条……当麻! そう上条当麻さんですわ!」  
「何かぎこちないですね。本当に知り合いなんですか?」  
「おほほほほほほ! し、知り過ぎる位知っておりますの! 全っ然問題ありませんですわ!」  
「うーん……」  
今一釈然としない佐天だったが、  
「上条当麻さんですね」  
そう口にした途端何故か白井がビクッと身体を震わせた。  
「どうかしました?」  
「い、いえ。あんまり殿方さんを名前で呼ぶ習慣が有りませんので、そうさらっとお名前を口にされると変な気分と言うか……」  
普段の白井からは想像つかない歯切れの悪い感じに、  
「上条当麻」  
「はう!?」  
「上じょー、当麻っ!」  
「あ、ああ……」  
「とうまぁ♪」  
「ひぃ!?」  
最後は我ながら……と言う位心をこめて言ってみたら白井が耳を塞いで蹲ってしまった。  
「白井さん?」  
「有り得ませんですわあんな男がわたくしの心をかき乱すなんて……そりゃあ殿方さんは命の恩人ですわ。  
お礼だってちゃんと言いたかったし正直あの時は見とれて……それなのに、それなのにあの方と来たら『もう少し食べたほうが良いぞ』なんて……わたくしがどれ程の思いをしてこの体型を維持しているとお思いですの?  
 そんな物、二次性徴が来ればボンキュボンですの!  
  そんなわたくしをつかまえて抱き心地云々で推し量ろうとするならば受けて立つ所存ですの!  
 目にモノ見せてくれますわあの類人猿……お姉様がモノにする前にわたくしが貴方をモノにして差し上げ――」  
「お取り込み中失礼しますね」  
「?」  
何か1人の世界に落ちた白井の頭を両手でがっちりと挟んだ佐天は、  
「えい!」  
掛け声と共にとある一件で知り合った常盤台女子寮寮監直伝の護身術で白井の首をグキリと捻った。  
 
「が!?」  
短い叫びと共に白井の瞳がグルンと反転した。  
そんな白井を椅子に座らせ、その手に伝票を握らせた佐天は、  
「うふふふ、これは面白くなって来たわよぉ」  
何せ相手はどうやら白井のみならず御坂美琴も手玉に取る様な男らしい。  
平凡な自分を変えられる大チャンスかもしれない――、  
「もしもし初春? ちょっと調べて欲しい事が有るんだけど……」  
そんな事を携帯に向かって話しながら、佐天はその場を後にするのだった。  
 
 
 
 
「と言う訳なんですよ上条さん」  
「え?」  
街中でいつもの様に不良に絡まれていた少女を助けたら何故かその少女は御坂や白井を知っていて、手料理でお礼がしたいと言われてのこのこついて行ったら何故か部屋に監禁された。  
部屋の唯一の鍵は先程目の前の少女が窓から放り出してしまって無い。  
「な、何でこんな事……」  
「もちろんあなたに興味があるからですよ♪」  
そんな言葉を可愛い少女から言われても全くときめかない自分が悲しくて、  
「不幸だ……」  
「何ですか、不幸だってこんな可愛い女の子と2人っきりになって何が不満なんですか?」  
「不満だらけだよ! 大体こういう時は物騒なお願いが付いて回るんだ、お前だって何を言い出すのか……国を救ってくれとか世界を守れとかそんな事言いだすんじゃないだろうな?」  
その言葉に少女はキョトンとしてから、ぷぷっと噴き出した。  
「な!?」  
「上条さんておっかしいんだぁ。だって世界を救うとか一介の学生にそんなファンタジーみたいな事ある訳無いじゃないですか?」  
「…………」  
少女の言葉的を射ている。  
しかし現実はちょっとどころか相当ファンタスティックな様で、  
「俺があんたに監禁されるのも相当現実離れしてると思うけど?」  
「あはは、それはそうですね」  
 
そう言うと少女は少し離れた場所にある二段ベッドに腰掛けた。  
そして、  
「出たいですか?」  
「ああ出たい」  
「鍵はあります」  
「何処に?」  
「あたしが持ってます」  
その言葉に上条はゆらりと立ち上がる。  
「渡してくれないかな?」  
「いいですよ」  
その言葉に上条は直ぐには飛びつかない。  
この程度のやり取りならかつて何度もやっている。  
往々にして事後に来るのは、  
「どうぞ」  
少女が両手を広げて見せる。  
「何の意味だ?」  
すると少女ははにかんで見せて、  
「上条さんが……その……見つけてください」  
「!?」  
言っている意味が良く判らない。  
いや判る様な気もするが上条の心のどこかが理解する事を拒否している。  
「な、に……?」  
すると少女はベッドの奥からボストンバックを取り出して、それを上条の目の前に頬り出した。  
それはどうやら口が開いていたらしく、上条の目の前で中身がぶちまけられる。  
それは、マッサージ器やプラスチックのシリンダーや縄やロウソクや鳥のくちばしに似た金属の器具や穴の開いたボールに革ベルトが付いたモノや、バッグの中にはまだまだ沢山入っている様で、  
「女の子って沢山ポケットが有るんですよ。出来れば丁寧にじっくり探してくれると嬉しいです☆」  
にっこりとほほ笑んだ少女を前に、上条はこれが夢だといいなと真剣に思うのであった。  
おしまい。  
 
 

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