結標淡希は1人夜の街を徘徊していた。  
「ようようオネェチャン! そんな寒そうな格好で何処行くんだよ?」  
「何なら俺達が温めてやろうか? ぎゃははははははは――」  
 そんな下卑た言葉を吐いた連中は皆、最寄りの川で自分の行動の愚かさを自覚する事になる。  
「下品な男って嫌いよ」  
 そうひとりごちてから、手にしていた軍用の大型ライトを腰に戻すと彼女は再び歩き出す。  
 暗部が解体されてから、彼女は毎日の様に夜の街を……特に光の届かない様な暗闇を好んで歩きまわっていた。  
 その目的はただ1つ。  
「私が更生させるに相応しい可愛い男の子は何処にいるのかしら?」  
 そこでホッと小さな溜息を1つ。  
 それからキョロキョロと辺りを見回して、ふと目に付いたベンチに腰掛けた。  
 誰が置いたのだろう大通り(むこう)からは死角になるが、路地裏(こっちから)は人の通りが良く見える。  
 そこで結標はポケットからスマートフォンを取り出して、それにイヤホンを取り付けると自分の耳に装着した。  
 それから画面を操作しながら、空いた手はスカートのポケットの中に。  
「はぁ、はぁ」  
 じっと画面を見つめていた結標が荒い息継ぎを始めたのは、それから暫く立ってから。  
 ポケットに突っ込んでいる方の肘が小刻みに動いている。  
「んっ……そこっ、あ、上手よ……」  
 言葉と共に唇の端から唾液が零れる。  
 暗闇中にスマートフォンの光に照らされて、上気した結標の顔が浮かぶ。  
「ステキ……、いいのよ……そのまま中に出して……一番奥が好きなの……」  
 まるでうわ言のように呟くと同時に、小刻みに震えていた腕が更に激しさを増して――、  
「あうっ!」  
 ひと際大きな声と共に、結標は白い喉を見せてのけ反った。  
 そのままぶるっ、ぶるるっっと身震いすると、ベンチに崩れる様に横たわり、  
「ふぅぅ……、止められないわね外でオナニーするの……」  
 そう言って余韻に浸っていた彼女の耳を、何の前触れも無しに轟音が貫いた。  
「きゃっ!?」  
 驚いた拍子に余韻もすっかり吹き飛んだ結標は慌てて飛び起きる。  
「な、何? 今の雷の音は一た……」  
 その疑問の答えは言い終らない内に目の前に姿を現す。  
「待ちなさいよアンタあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  
「あ、あれは御坂美琴!?」  
 かつてとある計画が水の泡と消える原因を作った因縁の相手……。  
「ふ、今はどーでもいい事ね」  
 全ては終わった事だと結標は一笑に付す。  
 それよりも気になるのは美琴が誰を追いかけているかと言う事だ。  
「まさか私好みの男の子だったりとかしないわよね」  
 なんて事を言って、自分であははと笑い飛ばした次の瞬間、彼女の体はとあるビルの屋上にあった。  
「さぁって、何処にいるのかしら私のカワイ子ちゃん」  
 
 高い位置から見渡す事暫し、街の一角に雲1つ無い夜空だと言うのに雷が落ちる。  
「もう、本当に派手好きなんだからあの子……お陰でこっちは特定しやすくって助かっちゃうんだけど」  
 結標の姿が屋上から消える。  
 そして次に現れたのは街路樹の陰。  
 そこからチラリと顔を覗かせると、向こうから誰かが走って来る。  
「ビンゴ♪」  
 結標はタイミングを見計らって街路樹から飛び出すと、愛用のライトの光を向ってくる相手に向けた。  
「だ、誰だ!?」  
 眩しいのか相手は咄嗟に両腕を顔の前で交差して顔覆う。  
 だがその声は少年のそれ。服装は学生服と来ては、結標に引き下がる理由は無い。  
「私は正義の味方よ。悪の手先に追われている貴方を助けに来たの」  
「そういうのは間に合ってます。それじゃ!」  
 少年はそう言って踵を返すと、ツンツン頭を揺らして走り去ろうとした。  
「待ちなさい」  
 結標の手にあるライトが少年の背中に照準を合わせた。  
 後は彼女の思う通り、少年は自分の腕の中に……、  
「あれ?」  
 しかし彼女の意に反して少年は走り去って行く。  
 結標は咄嗟に側にあったゴミ箱を少年の頭上に飛ばした。  
 そして、それは思い通りの場所に姿を現す。  
「うぉわぁ!?」  
 少年が地面を転がって避ける横で、ゴミ箱が派手な音共にぶちまけられる。  
「何なんだ一体……」  
「何だも何も、これが私の能力よ」  
「うわわっ!?」  
 目の前に現れた結標に、少年は地面を這って逃げようとする。  
「そんなに驚かないでよ。傷付くわね」  
 その目の前に再び結標が現れた。  
 ここで初めて少年の顔を見た。  
 何処にでもいそうな平凡な顔立ちの少年。  
 少なくとも可愛いと言う感じでは無いのだが――と少年がおやっと言う様な顔をした。  
「あれ? あんた……」  
「ん?」  
 こんな子に知り合いがいたかしら、と結標が記憶を掘り起こそうとする前に、少年の方が彼女を指差して言い放つ。  
「あの時の露出狂!?」  
「露出狂って失礼ね。これは能力を使う為に必要な格好なのよ」  
 失礼な子ね、と結標がぷっと頬を膨らませる一方、少年はおおっと小さく口の中で呟くと、  
「そうなんだ。それは悪かった」  
「随分あっさり納得するのね」  
「俺の周りにそういう奴多いから」  
「ああ、そうなの」  
 
 結標は相槌を打ちながら少年が立ち上がるのに手を貸してやる。  
「あ、ありがとう。それじゃ」  
「待ちなさい上条君」  
「え?」  
 結標の言葉に少年――上条当麻は驚いた様な顔をしている。  
「あんた何で俺の名前……」  
「それは秘密よ」  
 実は以前に一方通行(アクセラレータ)にぶちのめされた時に、病院に自分を運んでくれたのが彼だと言う事は知っていた。  
 それ以上に彼女は、彼の事を知っている。  
 それはそれは深くて暗くてドロドロとしているのだが。  
「良いじゃないそんな事」  
 結標は話を切り上げると上条の腕に自分の腕を絡める。  
「え?」  
「貴方だなんて私ラッキーだったわ」  
 戸惑う上条ににっこりと微笑みかけたその時、  
「見つけたわよアンタっ!!」  
 闇の中から現れた美琴が紫電をまとって啖呵を切る。  
「げっ、御坂!?」  
「あら御坂さん」  
 驚く上条と、余裕の結標。  
 そしてやっと状況を理解した美琴が、結標を指差す。  
「ア、アンタ……」  
「お久しぶりね。元気にしていたかしら? と言う質問は愚問みたいね」  
 その言葉にパクパクと口を動かしていた美琴だったが、ふぅーっと大きく息を吐きだしてから、落ち着いた様子で結標に話しかける。  
「今度は何を企んでいるの?」  
「あら人聞きの悪い。何も企んではいないわよ」  
 などと言いつつ上条の肘に自分の胸を押し付ける。  
「うおおっ!?」  
「は、離れなさいよ!!」  
 美琴から余裕が消えて、まなじりを吊り上げて怒り心頭の表情に変わって行く。  
 その様子がおかしくて結標は思わずぷっと噴き出してしまった。  
「な、何かおかしい!?」  
「うふふ。貴女本当にこの間私と殺りあった御坂さん? あの時に比べると随分判りやすいわよ」  
「な、何が判りやすいって言うのよ!!」  
 歯をむいて今にも噛みついて来そうな美琴があんまり可愛いものだから、結標はからかいたくて仕方が無い。  
 取り合えず上条の手を両手で掴むとサラシの隙間から、掛け声と共にその中に突っ込んだ。  
「えい☆」  
 その次の瞬間美琴から雷撃が上条達目掛けて迸る。  
「うおわあっ!!」  
 だがそれはすんでの所で上条の右手に打ち消されてしまう。  
 
(あの雷撃を一瞬で消した……この目で見るのは初めてだけど……)  
「危ないだろ御坂!!」  
「アンタそこどきなさいよ!! アンタが邪魔でそいつを殺れない!!」  
「ふざけんな、どう見たって俺がお前らに巻き込まれてるんだろ!! お前が何とかし、お、え?」  
 美琴に言いかえしている最中の上条の腕を引いて結標が走り出す。  
「あ、ちょっと待ちなさい!!」  
 そこからは暫く追いかけっこ。  
 しかもそれはあくまで美琴を誘導する為のおとりでしか無い。  
 最終的に3人は、とある廃屋の中に紛れ込んでいた。  
「もう逃げ場は無いわね」  
 そこは廃墟の筈なのに、どう言う訳か微かに生活臭が残っている、そんな場所だった。  
 ここがかつてグループのアジトの1つとして使われていた事を知るのは結標のみ。  
 そしてそんな結標は、  
「八方塞がりな貴方達に小石を1つ」  
 そう言ってライトを軽く振るうと、上条と結標、そして美琴の目の前に、壁に添って置かれていた筈のベッドが出現した。  
「「なあっ!?」」  
 驚く上条と美琴。  
 そんな2人の前で結標は1人小さくほくそ笑む。  
「上条君」  
「は、はい!」  
「私の事好きにして」  
「「は、はあっ!?」」  
 結標の言葉に上条と美琴が同時に声を上げる。  
 更に美琴は結標を視線で殺す様な勢いで睨みつけた。  
「何言ってんのよアンタ!! 見た目通りの尻軽クソ豚女だったって訳!?」  
 それに対する結標の返事は扱く覚めたもので、  
「はいはい、負け犬負け犬」  
「……その顔弾いてぶっ殺してやる、このクソったれ……」  
 美琴は小さく呟くとスカートのポケットに右手を突っ込もうとした。  
 だがそれより一瞬早く結標が動く。  
「女の嫉妬って醜いわよ。同じ見せるんなら彼に喜んでもらえるものにしなさい」  
 その言葉と共に美琴のスカートが消えた。  
 美琴の右手が無い筈のコインをまさぐり、  
「…………」  
 自分がスカートを穿いていない事に気が付くまできっかり10秒。  
「ひやっ、あ……」  
 ストンと床に座り込んだ美琴に、結標はちょっとがっかりした顔を見せる。  
「スカートの下に短パンなんてどれだけ鉄壁なのかしら。でもその白くて細い脚……じゅるり」  
「!?」  
 美琴は結標の視線に同室の少女と同じ妖しい光を見て鳥肌を立てた。  
 
 だが結標は目先の欲望には流されない。  
「まあ、2兎追うものはと言う諺もあるし」  
 そして改めて上条の顔を見上げて、  
「上条君」  
「はい」  
「セックスしましょう」  
「は?」  
 上条が呆けた顔で隙を見せた瞬間、トンと肩を押すと同時に足を引っ掛ける。  
「うおっ!?」  
 その叫びと共に上条がベッドの上に倒れこむと、結標はすぐさま上条の足元に馬乗りになった。  
「私に任せておけば安心よ」  
 そして手馴れた様子でベルトを外し、金具を外し、チャックは歯で器用に下ろす。  
 すると中から蒸れた雄の臭いがするテントが現れる。  
「うん、元気が有っていいわね」  
「ちょ、ちょっと止め……」  
 上条が止めようと上体を起こすが、それよりもちょっとだけ早く、結標はパンツの上から固いものを咥えた。  
「あぐっ!?」  
 そしてそのまま音を立てて、ジュルジュルとパンツごと熱いものを吸いあげる。  
「うあ、ちょ、やめ」  
 上条が抗おうと伸ばす腕を払って、結標は口から手に変えて上条を責め立てる。  
「あ、ああ、あ」  
「どう? 悪く無いでしょこう言うの?」  
 結標は楽しそうに聞くが、上条は何かを我慢する様に首を横に振る。  
 そんな仕草も結標にはほほえましく映って見えた。  
「我慢強い子って好きよ」  
 そう言いながら上条を責める手は厳しく早く上下運動を繰り返す。  
「は、は、は、は、は」  
 荒く短い息遣い。  
 パンツに広がる黒い染みは、結標の唾液か、それとも上条自身から漏れたそれなのか。  
「あ、ぐ」  
 結標の手の中の上条が震えた。  
(そろそろ限界ね)  
 それが判ると結標は上条から手を離す。  
「あ……」  
 逝くのをすかされた上条が苦しそうに見つめて来る。  
「そんな顔をされると虐めたくなっちゃうわよ」  
 結標はそう言うと上条のパンツをずり下ろした。  
「くっ」  
 パンツから跳ね出る上条自身から、粘っこいものが飛んで、それは結標の顔を汚す。  
 
「あらあら思ったより立派。入るかしらね」  
「え?」  
 上条が何がと、呆けた顔をするのをベッドに押し倒して、結標はその上に馬乗りになる。  
「覚悟はいいわよね上条君」  
 こうなった時の男は収まりが付かないのを誰よりも知っている結標は、それでもあえて上条の覚悟を聞いてみたかった。  
 はたして上条から帰って来た言葉は――、  
「やめ、よう」  
「だぁめ♪」  
 にっこりと笑って否定した結標が、軽く自分の頭を振った。  
 2つに結んだ長い髪が彼女を中心に円を描く。  
 そして気が付いた時には結標はその身に何一つ身に付けていなかった。  
「さあ私と1つになりましょう」  
 そう言って結標は自分の股間に手を当てた。  
 そしてぴったりと閉じていたそれをぐっと左右に押し開く。  
 人間の中はきっとこんな色をしているのか。薄いピンク色をした複雑な肉の重なりが姿を現す。  
「あ、ああ……」  
 上条がその光景に思わず声を上げる。  
 そしてもう1つの上条も、待ちわびるかのように天に向かってそそり立つ。その距離わずか数センチ。  
 そんな上条の様に結標はくすりと笑いを漏らす。  
「良いわね男の子は素直で……それに引き換え女の子は面倒……」  
 そこで結標はチラリとベッドの下に視線を向けた。  
 するとそこには涙で頬を濡らして、じっとこちらを見つめる少女の姿が有った。  
 そんな姿に結標は呼びかける。  
「御坂さん」  
 その声にぼんやりとした瞳が自分の方を見たのを見計らって結標はある提案をした。  
「彼の童貞と貴女の処女。貴女はどっちが大切かしら?」  
 
 
 
 

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