ここは学園都市にあるとある男子寮。  
 その一室で宿題に追われていた上条当麻は、突然鳴り響いたチャイムの音に、  
「おいインデックスちょっと……」  
 とそこまで言って顔を上げると、  
「そういやあいつ出掛けちまってたんだけ」  
 彼がそう漏らした様に、インデックスは姫神秋沙が迎えに来て出掛けてしまっていた。  
 自らその事を思い出した上条は、手にしていたペンをテーブルの上に置くとよいしょと立ち上がって自分が玄関に向かう。  
「はいはーい、ちょっと待ってくださいねー……」  
 ドアの向こうにいる誰かに返事を返しながらチェーンを外し、鍵を開けると躊躇無くドアノブを回して通路に向かってドアを押し開けた。  
 そして自らドアの隙間から顔を覗かせながら、もう一度返事をする。  
「はい、何の御よ……」  
 その声が尻すぼみに消えたのは、目の前に立っていた相手のせいだ。  
 何故ここにいるのだろう、と上条は咄嗟に考えを巡らせようとするが、その答えが出るより早く少女がドアを引っ張った。  
 当然ドアノブを掴んでいた上条は外に引きずり出される格好になる。  
「うおっ!?」  
 更につっかけただけの靴に足を取られて前のめりに倒れそうになり、何とか踏みとどまろうと宙を泳いだ手が何かを掴んだが、それは上条を支えるには至らず、よって少年は正面から通路に倒れた。  
「ふ、不幸だ……」  
 と呟きながら強打して赤くなった顔を上げた上条は、伸ばした手に何かを握っている事に気が付く。  
 青っぽい色のひらひらした布には非常に見覚えがある。  
 まだ曖昧にしか思い出せないが、とある少女達が同じような服装をしていた様な記憶があった。  
 そしてその記憶を確定付ける声が、彼の頭上から優しく掛けられる。  
「やですねぇ、感極まっていきなり脱がしに掛かるなんて……そんなに我慢出来なかったんですね」  
 その声に、上条は不覚にも見上げて、そして絶句した。  
「…………」  
 そこにはスカートを失ってパンツ丸出しで妖しく微笑み掛けるレッサーが立っている。  
「何か仰る事はありますか?」  
「……………………………………………ごめん」  
 レッサーの問い掛けに上条がそう答えた瞬間、彼の顔面目掛けて赤い三角の布が内包された質量ごと振って来た。  
「もがっ!? レッ……、おま、ふざけっ……」  
「さあ責任もって私を楽しませて下さいよ。あは♪ 大事な所に貴方の熱い息が掛かるのが判ります! さあ後は劣情に任せて喰いやがれってんだコノヤロー!!」  
「ばかっ、ど、どけっ! ぐごっ、ふごうだあああああああああああああああああああああああああ――――」  
 
 
 
 
 
 玄関先の騒動から数分後、上条はレッサーを不承不承ながら家に招き入れていた。  
 そうしないと彼かレッサーが公然猥褻の罪で捕まっていた所だ。  
「別にここの治安維持部隊程度なら余裕で何とか出来ますけど?」  
「いや別に何とかして貰わなくて結構です」  
 けろっとした顔で恐ろしい事を言うレッサーを嗜めながら、彼女の前にお茶代わりのパック入りのジュースを差し出す。  
 
 因みに彼女のスカートだが、幸い代えをいくつか持っていたのでそれに穿き代えて頂いた。  
「はぁ」  
 自然と溜息が零れる。  
 ジュースをおいしそうに飲んでいる姿を見ると、歳相応の少女らしい可愛らしさが溢れている。  
 だが、その実上条をイギリスに引き込もうと、主に自分の身体を餌にしてあれやこれや画策するどうしようもないエロエロ少女だ。  
 西欧人特有の白い肌も、先端の方だけ三つ編みにして束ねた艶やかな長い黒髪も悪くは無い。  
 本人が自慢している通り、案外メリハリのあるボディは、彼女の無頓着さも有ってかしばしば目のやり場に困る事もある。(だけどあれだろ? 恥じらいってもんが大事だと思うんですの事よ。何でもエロきゃいいってもんじゃねえ!!)  
 今も膝を立ててスカートの中を見せようとするレッサーから全力で目を逸らした上条は、ギュッと拳を握りしめてあらぬ方向に心の内を力説した。  
 とその視線がふとあるものに止まる。  
 それはレッサーが持ち込んだ大きな2つのスーツケース。  
 そして上条の視線に気が付いたレッサーが、ジュースの残りを一気に飲み干してから立ち上がった。  
「じゃっじゃーん!! お待ちかねのぉ、お土産開封たぁーいむ!!」  
 その声に上条が振り返ると、左手を腰に、右手を天高く突き上げてブイサインをする少女の姿が。  
「はぁ?」  
 唖然とする上条にレッサーは可愛らしくウインクすると、会場となるスーツケースの置かれた場所まで移動する。  
「ここに持って来るまでホントに大変だったんです。見たいですか? ワクワクしていますよね!」  
 さも勿体ぶる様にスーツケースを撫でながら頬擦りまでするレッサー。しかし、上条は何処までも素っ気ない。  
「いや出来ればそのまま持って帰ってくれ」  
「あっはー! いきなりのつれない言葉☆」  
 そう言ってレッサーは自分の額をペチンと叩く。  
「そんな事言わないで下さいよぅ。なんせ生モノなんですから、出来れば早く出してあげたいです」  
「生モノ……」  
 その言葉に上条が思い描いたイメージは、スーツケースの中からダイオウイカが暴れ出して、その長い腕でレッサーをぐるぐると締めあげていた。  
「そ、そんなん聞いたら余計に見たく無くなって来た! 持って帰れ! ついでにお前も帰って下さい!!」  
 上条は慌てふためいてレッサーを追い返そうとした。  
 だがレッサーはスーツケースを盾にして上条を寄せ付けないようにしながら、どんどん話を勧めて行く。  
「そんな事言わずに、ほら、白い葛篭と、青い葛篭と、どっちが先が良いですか?」  
「だから持って帰れって言っているだろうが!!」  
「もう、欲張りさんはどっちがいいって決められないんですね♪」  
 一瞬心が折れそうになる。だが上条は諦めず、  
「いやだから持って帰れって言って……」  
「それじゃあ貴方の代わりに不詳このレッサーめが独断と偏見で――」  
 それでも上条はまだ諦めきれず、  
「いやだから持って……」  
「私のお勧めは『白』ですね清純の『白』! それにこっちは我々の希望も詰まっていますので……」  
「いやだか……、え、希望……?」  
 レッサーの言葉に上条の注意が俄かにそれた。  
 そして彼の注目が白いスーツケースに注がれたのを見計らって、レッサーはバチンバチンと鍵を外す。  
「れっつおーぷん!!」  
 はたしてそこから現れたものは……、純白のスクール水着を着た見知らぬ少女。  
 虚ろな瞳に、口にはご丁寧にボール型の猿ぐつわ。  
 手は手首と二の腕、足は足首と太ももを黒いベルトで拘束されて、まるでカエルをお腹から見た様な。つまりはM字開脚。 そして何故か股間の部分には熨斗(のし)が貼ってある。しかも紙で出来た代用品では無くて正式な熨斗鮑が。  
「…………」  
 上条はそれを見て絶句する。  
 その一方レッサーは得意満面で胸を張り、  
「どうですかお客さん?」  
 と言った次の瞬間、  
「馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」  
 その雄叫びと共にレッサーの頭に拳骨が振り下ろされた。  
「あ痛ぁ!?」  
 
 その痛みに頭を抱えてしゃがみこんだレッサーに、上条は別の意味で頭が痛くなってふらりとよろけた。  
「お、おま……」  
「おま○こ?」  
 今の発言に対して上条はレッサーを洗面所に連れて行って、女の子の何たるかを熱く語って聞かせる。  
 そして説教がひと段落して、  
「で、この子は誰だ?」  
「うちの秘蔵っ子のフロリスです」  
「いや、そう言う事が聞きたいんじゃ無くて……てかお前らの仲間かよ!?」  
「気にいりました?」  
 その言葉に上条は眉を吊り上げると、へらへらしていたレッサーを怒鳴りつける。  
「気にいったとか気にいらないとかじゃねぇだろ!!」  
「!!」  
 レッサーが凍りつく。  
 人を人とも思わない扱いは上条の最も嫌う所。ましてや仲間をこの様に扱うなど正気の沙汰とは思えない。  
 事と次第によってはレッサーを叩きのめす事も有り得る――そう覚悟を決めて密かに拳を握りしめた。  
 だが、ショックを受けた様に顔を強張らせたレッサーは、  
「ま、まさかフロリスの胸でもまだ大きいと……」  
「ちょっと待て、そう言う話しじゃ無くてだな……」  
 上条がそう言って伸ばした。  
 ところが、  
「だぁがしかぁしぃっ!!!!!!」  
「!!」  
 上条がレッサーの叫び声に驚いている間に、当の少女はもう1つのスーツケースの上に器用に立つ。  
「こんな事もあろうかと最初から二段構えにして正解でした。思い付きの現地調達でしたけれど」  
「げんち、ちょうた、つ……?」  
 訳も判らずただ呆然とする上条を他所に、スーツケースからひょいと飛び降りたレッサーは、不敵な笑みを浮かべてスーツケースの鍵を開け始める。  
「ふふふ……、よもや我々と敵にあたる学園都市でこの様な超強力助っ人が見つかるとは……」  
 そしてバチンバチンと先程と同じく鍵が開いた音がして――――――――――――――――――、  
「これでどうだ!!」  
「くっ!?」  
 上条は先程の事を思い一瞬スーツケースから顔を逸らす。  
 そして恐る恐る中から出て来た者の正体を見極める様に薄眼でそちらをチラリと見た。  
 さてスーツケースの中から現れたのは――御坂美琴だった。  
 先程のフロリスと全く同じく、虚ろな瞳にから口、四肢の拘束のされ方から熨斗鮑の位置までそっくり同じ。  
 唯一違うのは常盤台中学のマークが入った競泳水着を着ている位か。  
「ば、かな……」  
「くっくっくっ……、これだけの貧乳は中々いませんよ? さあ劣情して来ましたか?」  
 唖然とする上条を前に、レッサーは勝ち誇った様な笑みを浮かべた。  
 そして駄目押しをするべく自らが着ているジャケットの肩をぐっと掴むと、  
「だが本命はこのっ!!」  
 ババッと服が飛び散り、その下から現れたのはピッチピチの真っ赤なエナメルボンデージルックのレッサー。  
「この私をメインディッシュに。まずは前菜からどうぞぉ!!」  
「この大馬鹿野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」  
「あ痛ぁっ!?!?」  
 上条の絶叫とレッサーの悲鳴と鈍い打撃音が同時に室内に響き渡った。  
 
 

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