ロシアの大地でまさか浜面に抱きしめられるなんて……。  
 恨みつらみをぶつける為にここまで追って来た筈なのに、それが抱きしめられてクサイ台詞を耳元でささやかれてこのザマだ。  
 一気にやる気が失せた。と言うか自分を駆り立てていた物が何か判らなくなった。  
 良く判らない感情に流される程メルヘンな頭はしているつもりはなかったが、これはきっと体晶……いや、この馬鹿のせいだろうな。  
 何せこいつと来たら……、  
「おい浜面」  
「は?」  
 私の低い声に何かを察したのか浜面の動きが止まった。  
 いやまだ止まってねーな。  
 だって服越しにも感じる浜面の指の感触。こいつって案外手が大き……じゃねぇ!!  
「お前今何考えてた?」  
「何って?」  
「シラ切り通せると思ってんのか、はーまづらぁ」  
 そう表面上はいつも通りを装いつつ、内心浜面が何を考えているのか判らず、調子の悪さと片目と言う視界の悪さも相俟って眩暈がして来た。  
 だから思わずいつもの調子で、浜面の股間を鷲づ噛んでしまった。  
 まさかそこがあんな事になっているなんて。  
「はうっ!?」  
「!!」  
 ばっ、浜面テメエ何こんなに硬くしてんだ……ま、まさか私に欲情したんじゃ……。  
 そう思って顔を覗き込むと、何ともバツの悪そうな表情と出くわした。  
 こ、こいつマジ……マジで私をここで?  
 よ、よぉし! 上等じゃ無いのさ。それならテメエの腐れチ×コが何処まで持つか確かめてやろうじゃないか。  
「む、麦野っ」  
 お、ちょっと待て! 何鼻の穴広げて顔近付けて来てんのさ!?  
「ちょ、ちょっと待って!!」  
 ぐいぐいと近付いて来る顔を無理やり押し退けて見るが、こっちは片手でしかも満身創痍で、向こうはバリバリに元気な上にチクショウやっぱりコイツやる気だ。  
「ちょ、ちょっと聞け! 聞きなさいって、私の話を言ってんだよ浜面あああああああああああああああっ!!」  
 流石に大声出せば浜面もビビったのか一旦停止。  
 
 さてここから立て直しを図らないと、私はいい感じ浜面にペロッと行かれてしまう訳だ。  
(ペロッと行かれる……)  
 はっ!? いや考えるな私っ! ここは冷徹に処理しないといけない所なんだぞ。  
「お前が私のここに穴を開けたんだよ」  
 そう言って私は右目を指差す。  
 うん、上手く言えた。このまま一気にたたみ掛ける。  
「それに飽き足らず他にも穴開けようって言う事か?」  
 そこでニヤリと笑って、今度は小指をおっ立てて、  
「私のコレになる奴ぁ更におぞましいモン見るだろうよ」  
 よし言ってやった! 言ってやったぞクソったれ!! どうだこの重圧に押しつぶされろ!!  
(これが今の私だ浜面ぁ。どうだ? これでも抱けるってんならこんなガラクタ何時でもお前にくれてやるわよ)  
 フフンと思わず笑みが零れてしまったり。  
 所が浜面の野郎と来たら、  
「麦野」  
 おい、何私のコートのベルト何か外しに掛かるの?  
(え? おい、まさか……)  
 何、今度はコートの襟元を開いて、  
「ね、ねえ、ちょ……、は、はまづらぁ……」  
 息苦しい感じに言葉よりも呼吸が優先されるのか言葉が上手く出ない。  
 そんな私の耳元に、浜面はそっと唇を近付ける。  
「俺に責任取らせてくれ」  
 
 
 
 
おしまい  
 

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