その場所は見るからに雑然としていた。  
 元から誰に見せる訳でも無いからと作られた打放しコンクリートの床。  
 壁だけは白くペンキが塗られているが、既にそれは黒ずんで、所々剥げた個所からは床と同じコンクリートが見えている。  
 更に壁際と言わず部屋のあちらこちらに積み上げられた段ボール箱のせいで、ただでさえ狭い部屋はもっと狭くなっていた。  
 そんな中、神裂火織はパイプ椅子に座らされている。  
 つい先ほどまで夕飯の事だけを考えていた彼女に、今の状況を予測する事など出来なかったであろう。  
 そんな彼女の目の前には、茶髪をツインテールに結んだ少女が、制服の上からエプロンを着けた姿で腕組みをして立っている。  
 冷たい瞳が射すくめる様に此方に向けられるが、神裂としてはそんな目をされる事はおろか、何故バックヤード(ここ)に連れて来られたのか見当もつかない。  
 だからまずは向こうの出方を、と今はただ黙って少女の瞳を見つめ返していた。  
 すると少女が深い溜息を吐いて首を左右に振ったかと思うと、信じられない事を口走る。  
「さあ、万引きした品を出して下さいまし」  
「は?」  
 言われている意味が判らず唖然とする神裂に、少女はまた溜息を吐く。  
「とぼけたって無駄ですの。その籠の中に制汗スプレーが入っている事は判っておりますのよ」  
 そう言われてもと、神裂は困惑の表情を浮かべるしか無かった。  
 何故ならテーブルの上に置かれた籠――神裂の私物――の中にはまだ何も入っていない。  
 何故なら、その籠は買い物が終わった後に買った物を入れる為に用意したものであり、出掛けて来て初めて立ち寄ったのがこの店であり、まだ買い物も終わっていない。  
「失礼して開けさせて頂きますわよ」  
 だから少女がそう申し出た時も、  
「ええどうぞ」  
 その事自体には不安を抱いていなかった。  
 ただ、それも彼女の返事に対して、少女が僅かに唇の端を持ち上げるまで。  
 だからその中を調べた所で何も出て来ない――その筈だった。  
(え?)  
 神裂の自身が俄かに揺らぐ。  
 その目の前で少女が籠の口紐を緩めてから逆さにする。  
 すると出て来る筈の無い籠の中から中から何かが落ちて、それはテーブルの上でコンと硬い音を立てた。  
 そして、それはコロコロとテーブルを転がって、更にその端から落ちても止まらず、床の上を転がって神裂の靴の爪先にぶつかってやっと動きを止める。  
 それをまじまじと見つめて彼女は愕然とした。  
 確かにそれは少女が言った通り、制汗スプレーだったから……。  
「!?」  
 店内に持ち込んだ時から肌身離さずに持っていたにも関わらず、そして今この瞬間まで片時も視線を外していない。  
 それなのに自分が気が付かない内にこんな物を入れられるなど不可能な筈なのに……、  
(それを、誰が何時の間に……)  
 その事実に心乱される神裂へ、更なる衝撃の言葉が投げかけられる。  
「何のおつもりか知りませんけれど、万引きは立派な犯罪ですわよ」  
「!!」  
 神裂は余りの事に言葉が出ない。ただ目を見開いて口をパクパクと動かしていた。  
 そんな時だ。  
「ちょ、ちょっと!? 何すんの、は、放しなさいっ!!」  
 
 突然部屋の中に悲鳴のような声が響き渡る。  
「ほらほらあんまり騒ぐと他の御客さんに気付かれますよ……、何だ先客が居たんですか?」  
 そちらに視線を向けると、茶髪をショートカットにして一部を髪留めで止めた制服姿の少女と、その手を引っ張っているまたこれも少女が1人、部屋の中に入って来た。  
「何の騒ぎですのアニェーゼさん?」  
「いや何、万引きですよ。ま、ん、び、き」  
 アニェーゼ、と呼ばれた長い赤毛を沢山の三編みに分けた少女は、可愛らしい鼻の上に皺を寄せ吐き捨てる様にそう言った。  
 そしてその言葉にショートカットの少女の顔が強張る。  
「え、な、何言ってんのよ? 私がそんな事する筈……」  
「誰でも最初はそう言うんですよ。で、白井さんのお相手の方はどうしたんですかい?」  
 アニェーゼはショートカットの少女のを無視してツインテールの少女――白井に話し掛ける。  
 すると白井は手に持っていた籠をテーブルの上に置いてから大げさに肩を竦めてみせると、  
「同じく、ですわ」  
「ちっ。こっちは細々とした商いで稼いでいるって言うのにこいつらと来たら……」  
 アニェーゼの人を見つめているとは思えない瞳に射すくめられて、神裂は全身から血の気が引く様な気がした。  
 実際グラッと視界が揺れる。  
 その視線の先では先程の少女が、アニェーゼの手を振り解くと神裂を指差す。  
「この人と一緒にしないでよね!! 私はやって無い、明らかに濡れ衣だわ!!」  
 その言葉に白井とアニェーゼは顔を見合わせ、同時に少女の方に視線を向ける。  
 その仕草に少女は明らかに怯んだ様子を見せた。  
「な、何よ?」  
「じゃあその鞄の中をちょっと拝見させてもらえますかね」  
「い、いいわよ」  
 少女が素直に鞄を渡すと、アニェーゼは遠慮無く鍵を開けてその中に手を突っ込んだ。  
 そしてすぐさま鞄の中から手を引き抜く。  
 まるで何処に何が隠してあるのか知っているかの様なその手際。そして、その手で掴み出した物とは――、  
「何すかこの魚肉ソーセージ。これうちの商品っすよねぇ」  
 少女の目の前に差し出されたのは、アニェーゼが言う通りまだ包装も破られていない魚肉ソーセージだった。  
「し、知らない……私こんなの食べない……」  
 急に弱弱しい声でよろめいた少女に、アニェーゼは手にした物を突き付ける。  
「あぁん? 食べもしねぇモン盗むって事ぁ……つまり何ですかい、食うのは二の次で盗むのが目的って事ですかね?」  
「ち、ちが、う」  
「違わねぇんですよこの盗人野郎がああああああああああああああああああああああああああっ!!」  
「ひっ!?」  
 小さな身体の何処からと言うアニェーゼの怒声に、少女は小さな悲鳴と共にその場にへたりこんでしまった。  
 すると白井がまた溜息を吐いてからアニェーゼの肩を掴む。  
「アニェーゼさん取り合えずそれ位にして下さいな」  
「ハ、白井さんは甘いっすねぇ。そんなんじゃこいつらその内、許して貰えるじゃないかと思って付け上がっちまいますよ」  
「別に。わたくしはまだこの人達が何か隠しもっているんじゃないか、それを調べてからでも制裁を加えるのは遅くない、とそう思っただけですのよ」  
(え?)  
 神裂は白井の言葉に我が耳を疑う。まだ何処を、何を調べると言うのか。  
 不安に視線を彷徨わせれば、アニェーゼの嗜虐の笑みがその目に飛び込んで来る。  
 
「くくくっ、なぁーるほどねぇ……」  
「と言う訳なのでお二人さん、着ているものを脱いで下さいまし」  
「「は……?」」  
 白井の信じられない提案に、神裂と少女の驚きの声がはもる。  
「言ってる意味が判んねぇって顔ですね」  
 ニヤニヤ笑いながらアニェーゼがそう呟くと、白井は今までのポーカーフェイスを崩して此方もニヤリと笑みを浮かべた。  
「泥棒する様なお馬鹿さんにも理解出来る様に申し上げますわね。服の中にまだうちの商品が隠してあるかも知れないから調べるんですの」  
 これには神裂もいつまでも混乱しては居られない。  
 2人の目は明らかに本気。このままでは間違い無く裸にされてしまう。  
「ちょ、ちょっと待って下さ――」  
 まずは話し掛けて誤解を解かねば、とそう思った矢先。  
 白井の細い指先が神裂の肩に触れた。その次の瞬間上着として着ていたジャケットが、神裂の座る背後にバサッと落ちた。  
(え?)  
「ほらジャケットだけでは何ですから、そのシャツも脱いじゃいましょうね」  
 その言葉を理解する前に上半身が涼しくなり、背後で先程と同じような音が聞えた。  
 その瞬間神裂は全てを理解して両手を胸の前で、自らを抱き締める様に交差させる。  
「っ!?」  
「ノーブラだったんですの」  
 その言葉に見られたと理解した神裂の頭に勢い良く血が駆け上がる。  
 一方で、同じ罪を疑われる少女が金切り声を上げた。  
「ア、アンタ今のっ!」  
「うっさいですね貴女もさっさと脱いじゃって下さいよ」  
「い、いやだ!? 嵌めたでしょアンタ達!! 今の能力を使って私達のかばむぐっ、ぐぅっ!?」  
「それ以上は黙っていて下さいねぇ」  
 白井の背後で何やら新たな騒動が起きていたが、神裂はそれどころではなかった。  
 突然の事とは言え、またしても隙を付かれた事に驚愕する。  
 籠ならまだしも服を奪われるとは彼女にとって不覚以外の何ものでも無い。  
「さあ、今度はズボンを脱がして差し上げますわよ」  
 白井の手がすっと伸びて来るが身動き出来ない。  
 いや、ここはあえて動かない事によって彼女がどうやって自分から服を奪い取ったのかを見極めるつもりでいた。  
 しかし、結局は何も分からず神裂のズボンは先程と同じ道を辿り……、  
「ノーブラだけでは飽き足らずノーパンとは……」  
 今身に付けているのはウエスタンブーツのみとなった神裂は、パイプ椅子の上で太ももをすり合わせる。  
「恥女ですの貴女?」  
「ち、違います!!」  
 そんなやり取りをしていると、白井の背後からアニェーゼと、丸裸にされた少女が現れた。  
「こっちも準備オッケーですよ」  
 不貞腐れた様に横を向いた少女の口には穴の開いたボールが押し込まれているのが見える。  
 それ以外にも後ろ手になっている所を見ると背後で両手を拘束されているのだろう。  
「御坂美琴チャン、と。お嬢様学校ですか? 良いですねぇお嬢様学校……。金(これ)の無ぇ私なんかには無縁の所っすね」  
「うぶ! うぶぅ!」  
 手帳の様なものを放り出して何故か少女……美琴の尻をペチペチと叩きながらしみじみと呟くアニェーゼに、叩かれた方は抗議の唾を飛ばしていた。  
 
 そして裸に剥かれた2人を前に、白井はおほんとワザとらしく咳払いをして自分に注目させる。  
「さて御二方、女性には色々と隠せる場所がありますの」  
 何の事をと神裂が思う前に、白井の手が神裂の胸の谷間に収まった。  
「い!?」  
「ふふふふ、例えばこぉーんな場所に何かを隠し持ってるんじゃあありませんの……」  
「や、止めて下さい!」  
 神裂は自分の胸の谷間でムニムニと動く物に身をよじる。  
 一方それを横で見ていたアニェーゼは、  
「そいつぁー残念ながら美琴ちゃんには無理っすねぇ」  
「う゛ぶっ! ぶぶっ!!」  
 またも何やら抗議の声を上げる美琴に、何故かそこで白井が助け舟を出した。  
「いやおね……ん、んっ、そこの方だって挟める場所はちゃんと有るじゃないですか」  
 その言葉にアニェーゼは「んー……」と唸った後、ポンと上にした掌を握り拳でポンと叩いたかと思うと、美琴の腕を掴んで無理やり回れ右させた。  
「ぶぶっ!?」  
 そして白い双丘を細く小さな手でむんずと掴んだかと思うと、  
「ここっすね!」  
「う゛ぶっ!!」  
 余りの勢いに美琴が悲鳴を上げてのけ反る。  
 それ位の勢いでアニェーゼは美琴の尻を2つに割った。  
 白い肌に浮かぶくっきりと浮かんだ縦の線。  
 その線上に並ぶのは、まず誰にも見せる事の無いすぼまりと割れ目。  
 それが左右に引っ張られたせいでギュッと割り開かれて、その中のピンク色をもさらけ出している。  
 その艶めかしい光景に、呻き声を上げたのは白井だった。  
「うう……」  
「(ちょ、堪えて下さいよ白井さん)」  
 アニェーゼが小さく何かを呟く。  
「(いやしかしそれはわたくしだってまだ未知の領い――――――――)」  
 
 
 
 
 
 そこまで来た所で、唐突に画面はブラックアウトしてしまう。  
 それでも、上条当麻は一縷の望みを持って暫くその画面を見つめていた。  
 だが、やがていくら待っても続きが始まらないと判るやいなや、やおらバッタリとその場に倒れ込んでしまう。  
「勇気を出してみ始めたって言うのにさ……こんなこれからって所で終わりですか?」  
 『魔術×科学合同製作作品』と銘打った小包がテーブルの上に置いてあった。  
 小包を開ければDVDが1枚。  
 そして何故かインデックスは不在と言う状況。  
 明らかに罠だと判っていた。  
 それでも観ずにいられないのが男の性(さが)。  
「この何とも言えない後味の悪さ……不幸だぁ……」  
 上条は倒れ伏したまま暫くさめざめと涙を流すのであった。  
 
 
 
 
 その頃某所では――、  
「折角の続きを入れ忘れていたのでございますよ」  
 オルソラ=アクィナスは、手に持ったプラスチックケースに入ったディスクを見つめながら困り果てていた。  
「やはり1枚にしてお送りした方がよろしかったのでございますね。よし、それでは……」  
 何を思ったのか彼女はパソコンの前に座るとケースから出したディスクをドライブにセットする。  
「これをこう、えっと建宮さんに教えて頂いた通りにすれば……」  
 オルソラが何をやっているのか、画面上に何かが立ち立ち上がって来た。  
 するとそこに『続き』と文字が浮かび上がって…………。  
 
 
 
 
 
 興奮した白井と、それをなだめようとするアニェーゼの姿があった。  
 だが、そんな2人が同時にのけ反った。  
「「!!」」  
 まるで体の芯を貫かれた様な衝撃に、2人は同時にある方向を振り返る。  
「このド素人どもが……私が恥を忍んでいると言うのにごちゃごちゃと……」  
 そしてそこに目を座らせた神裂の顔を見て唖然とした。  
「なん……」  
 台本道理で行けばこの後神裂と美琴は白井とアニェーゼに凌辱される筈だったのに、まさか自分達が神裂の長い指に深々と尻穴を貫かれるなんて……。  
 どうやら裸のまま放っておかれた神裂がキレたらしい。  
「そんなぁ……それなら白井さんだけ……」  
 アニェーゼが許しを請うかの様に言葉を漏らした途端、少女達の中がぐるんと一掻き回しされた。  
「くおっ!!」  
「ふひゃっ!?」  
 直立姿勢、いや今や立ち上がった神裂の腕に吊るされ格好でつま先立ちになる2人に、神裂は苛ついた様子で話し掛ける。  
「とやかく言うんじゃねぇよド素人が……そもそも私がネコって所からして台本に問題が合ったんだ」  
(おいおいそりゃあ台本を書いたシスター・オルソラに言ってくだせぇよ)  
 アニェーゼの目が助けを求める様に泳ぐと、物影に白い姿を見つけた。  
「たす、け……」  
 だがしかしオルソラはひらひらと手を振って、それはまるで後はよろしくと言わんばかり。  
(み、見捨てられた!?)  
 アニェーゼの瞳が絶望と驚愕に見開かれ、  
「ほらほら音を上げるにはまだ早い」  
 グイッと釣り上げられて一瞬身体が浮いた気がして、  
「はぎぃ!!」  
「ひぐっ!!」  
 後ろに回した不自由な手で、神裂の腕を掴んで必死に自分の体を支える2人。さもなくばこのまま括約筋が裂けてしまうかもしれない恐怖に顔を強張らせる。  
「さあ白井さん。御坂さんを解放して」  
 
 白井の耳に神裂の声が聞えて来た。  
 しかし今の状態では何もできない。  
「あ、ああ、あ、あ……」  
 阿呆の様に口から同じ単語を発して首を振る。  
 すると白井の足の裏が床に触れた。  
(助かった……)  
 安堵に思わず膝から崩れ落ちそうになって、再び尻穴をきゅんと釣り上げられて、  
「ひ、ひひ……」  
 ぴょんぴょんととび跳ねる白井の耳元に神裂の催促する声が聞えて来る。  
「さあ」  
「は、はいですの!」  
 白井は慌てて手を伸ばすと、手枷を何とか取り外した。  
 すると手が自由になた美琴がくるりと白井に向き直る。  
 そして自ら口に嵌められたボールギャグを取り外す。  
 外した瞬間、口とボールの中から大量の涎が溢れるが、美琴は特に気にする様子も見せず、両手で自分の口を戒めていた物を掲げる。  
 すると、  
「ふっ、ふふふ……」  
 それが美琴の口から零れた笑いだと判るのに少し時間が掛かった。  
 そしてそれが白井の明暗を分ける事になる。  
「く、ろ、こ」  
「へ?」  
 急に名前を呼ばれてポカンと口を開けてしまった。  
 そして美琴は、その口に涎でべたべたになったボールギャグを押し込んだ。  
「もがっ!? ふがっ!?」  
 驚きと苦しさにもがいていると、鼻を摘ままれて上向かされる。  
 そして上から覆いかぶさるように、美琴に口を塞がれた。  
 ボールに空いた穴から、溜まっていた物以上の唾液が流し込まれて来るのを、白井は必死に飲み干す。  
 その後顔中を舐めまわした美琴は白井の耳をかじりながらこう囁く。  
「私いい事考えたんだ」  
(?)  
「黒子、ガルヴァーニの実験て知ってる?」  
(!?)  
「黒子の中を私が操れるかたぁーのしみだなぁー」  
 
 
 
 
 
「後はこれを動画サイトにアップして、あの方にURLを教えればオッケーなのでございますよ。さあどんな掲示板が妥当なのでございましょう?」  
 オルソラのさも愉快そうな声が室内に響いた。  
 
 
 
 
おわり  
 

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