狭い台所にドタァンと大きな音が響いた。
それもその筈、上条当麻とインデックスの2人が絡み合うように倒れたのだ。
ことの発端はスーパーのクジ引き抽選で引き当てた景品にある。
それが特大ケーキを作る材料と道具一式などと言う、男子高校生の手に余るそれを引き当てた上条は、インデックスのご所望に応える為にケーキ作りを始めた。
助けを求めた手は不在不在の嵐でことごとくはね付けられ、それでも何とか生クリームを泡だてる作業までは終わった。
綺麗に角がったそれに満足して、ちょっと味見をさせるつもりが何を思ったのか泡だて器ごと口に入れようとした少女と口論になった。
味見をさせる、させない――そんな些細な押し問答が発展した結果がこれだ。
生クリームの入った大きなボールは派手に中を飛んだ後、中身をぶちまけながら廊下の隅に転がって行った。
唯一の奇跡は生クリームを被ったのが上条一人だったという事実。
「不幸だ……」
目の前を覆う白いそれを拭って上条は嘆いた。
と、そんな上条の手を白い小さな手が覆う。
「とうまぁ」
「ほら、お前が邪魔なんかするから一からやり直しになったじゃねーか……つか、それを見越して予備とか付いてたのか? 何で用意がいいんだこの景ひ……ん?」
ぶつくさとぼやく声が奇妙に止んだのは目の前の少女の瞳を見たから。
碧い瞳をうるうると輝かせ、白い頬が俄かに紅く染まっている。
一見泣きそうなそれに、上条は思わず頭を撫でようとしたのだが、その手はインデックスに握られていて、もう片方の手は自分の体を支えていた。
「悲しいのは解るが……まあ、材料はまだあるからもう少し待っとけ。まずはシャワーを浴びて着替えて。うん、まずはそれからだな」
そう言って立ちあがろうとした上条は、インデックスが手を離さない事に気が付く。
「あの……放してくれないと立ちあがれないのですが……」
しかしインデックスから返事はない。
「あの……インデックス?」
全く無反応な少女に、よほどショックだったのだろうかと上条は少し心配になった。
「心配するなよインデックス。材料はまだあるんだから作り直せばいいだけだ。そうだ! 早く食べたいならお前も手伝ってくよ! その方が早くに食べられるかもしれないぜ!」
後半は期待していない、むしろ1人で作った方が早い気もしたがここはインデックスの気分を盛り上げるためには仕方がないと腹をくくった。
ところが――、
「なめてあげる」
「いや、さっきも言ったけど材料はまだあるんだから失敗したって平気……へ?」
上条は何を言われたのか解らなかった。
だが、インデックスが彼の手の甲に付いたそれを小さな舌で舐め取って見せたことで理解する。
「お……い……」
「美味しいね♪」
その笑顔に上条はドキッとして、それが顔に出ていないかと慌ててインデックスから視線を逸らす。
「ば、馬鹿……な、何……まだあるからそんな事すんじゃねーよ……」
絞り出すようにそう言った少年の頬を熱い吐息が撫でる。
(!?)
そして理解する間もなく、頬を這うネトッとした感触に襲われた。
それは頬を上から下へとゆっくりと移動した後、今度は耳へと移動する。
耳の外側から内側のヒダまで、その感触とぴちゃぴちゃという音に、全身総毛立つと共に股間が熱く疼く。
「イ……、インデック……」
緊張でカラカラになった喉から絞り出した声に、インデックスはうっすらと笑みを浮かべながら、上条の耳元でこう囁く。
「折角だから全部舐めて上げる。それから一緒にケーキ作りしようねとうまぁ」
首筋に掛る吐息の生々しさに震えながら、上条は小さく「そうなだ」と応えることしか出来なかった。