「あ、あんたたち、こんな真似して――ぐっ!」
両手首を鎖に繋がれた茶髪の少女の腹に、ヤンキー風の男が容赦なく拳を突き上げる。
少女の体がくの字に曲がり、膝が崩れ落ちかけた。
が、手首に嵌められた鎖が倒れることを許さない。前屈みになった少女の口元から、胃液の混じった唾液が零れ落ちた。
「う……ぐふ……ぅ!」
「お、お姉様ぁ!」
ワインレッドのツインテールの少女、白井黒子が、自分が慕っている御坂美琴へと手を伸ばす。
だが、それは叶わなかった。二人の男に腕を掴まれ、一歩も進めなかった。
本当であれば超能力によって簡単に逃れられるはずの状況。
男たちの用意は周到で、ライブハウス内に超能力を封じるための妨害音波が延々と発せられていた。
「く……能力さえ使えればあんたらなんかに――がはっ!」
「はぁあ? 何言ってんだ。てめえらだけチート能力使うのは不公平だろうがよ」
「あぎぃ!・・・やぁ! やめ、え゛、あ゛!・・・あ、ぐぶっ!!」
にやにやと下卑た笑いを浮かべる男が、美琴の下腹に食い込んだ靴の先を前へと押し出す。
美琴の顔が歪み、目尻から溜まっていた涙が零れ落ちる。
身を蝕む吐き気に小さく頬が膨らんだのを見計らい、男は止めとばかりに足を引き、さらなる力で胃にブーツの爪先を叩きこむ。
「――う、ぶぅ――おっ、ぇええ!!」
腹筋が耐え切れず、胃が窪み、中身が一気に上昇。酸味のある悪臭を伴った胃液が美琴の口から溢れ出た。辛うじて堪えていた壁はあっさりと決壊した。断続的に体が震え、泡の混じった胃液を外へ排出しようとする。
「……うげっ、ぇあ゛! ……あっ……う……ぅ」
鼻腔を刺激する醜悪な臭いがさらなる吐き気を催し、最後にはすべてを吐き切らせた。涎と胃液と涙に汚れた美琴の口から乾いた息が吐き出される。
涙が絶え間なく頬を滑り、顎から途切れることなく落ちていく。
「な、なんて、ひどいことを! お姉様だって女の子ですのよ!?」
「わかってねえな、だからこそだ」
「な、なんですって」
「分相応の立場を弁えねえクソ女に、礼儀を叩きこんでやってるだけだろう」
「そうそう、そういうこと」
笑い声が防音の効いたライブハウスに響き渡った。
すっかり大人しくなった美琴の髪を、殴っていた男の隣にいたパーマ男が持ち上げた。痛みに呻く美琴の頬を舐めつつ、腹の下に手を差し入れて一気にセーターを捲り上げる。
「お、おやめなさい! これ以上お姉様に手を出したらこの私が」
「おまえさぁ、少し黙ってろや」
視線だけで殺せそうな表情をする黒子に男が口の端を持ち上げ、渾身の力で鳩尾に拳を叩きこんだ。
咽るような声とともに黒子の体が弛緩し、床に崩れ落ちる。
「やっと大人しくなりやがった」
「く、黒……子……」
気絶した黒子を床に転がし、六人の男が円陣を組むように美琴を囲い込む。
気の強そうな少女の、しかし青ざめた顔を見て男たちはさも満足げに笑うのだった。
「ほらほら、早く逃げろよ超電磁砲」
「それとも、俺たちが襲ってくれるのを待ってるってわけ?」
「ひゅー! 可愛い顔して進んでるぅ!」
「…………くっ」
乾いた瞳から再び涙がじわりと浮かび上がる。手を鎖に繋がれ、超能力を封じられたこの状況で逃げられるはずはないのに。
男たちは美琴の心を徹底的に破壊しようとしていた。そして、そのことは美琴も理解していた。
結局、彼らは自分を踏みにじりたいだけなのだ。なら、こんなやつらを喜ばせてやるもんか。
気丈に振る舞おうと眼光を強める美琴に、男たちはさらなる追い打ちをかける。
眼鏡をかけた男が肩に提げていた鞄から取り出した物――
「な、なに、それ……」
「おいおい、ハンディカムくらい知ってるだろ?」
「なんで、そんなもん……」
「今から大切な思い出作りするんだよ、俺たちと美琴ちゃんとでね」
「後でネットに流してやるよ。いい思いは、みんなで共有しなきゃな」
「そうそう、この色気のないタンパンとか」
おもむろに男が伸ばした手の平に、美琴が身をすくませた。
「や、いや、やめて! やだって言ってんの! 放し……放せぇ!!」
必死に閉じようとする足から、日に焼けた手が遠慮なく短パンをずりおろす。
その下にある純白の下着が露わになり、美琴の顔が羞恥と屈辱に染まる。
太った男が真ん中に陣取り、後ろのポケットから黒い警棒のような物を取り出す。
その端から青い電気が散ったのを見て、ついに美琴の体がカタカタと震え出した。
「名門常盤台のお嬢様が、涙流して悶絶するところとかな」