二人の視線の先で赤黒い亀頭がエラを張っていた。  
 少女の秘密の部分を覗いた、その正直すぎる反応に見せた側の少女が息を飲む。  
 年相応に、いやこの状況でそれもないが、顔を赤めた。  
 思わず性器を開いていた手をひっこめた。  
 黒いブーツのつま先部分でつついてくる。  
 興味半分恐怖半分といったところか。ただ持ち前の勝気がバードウェイを動かしている。  
「こ、こら! なんてことを!」  
「反省するのはお前だろうが。こんなに大きくして。だが、正直なのは嫌いじゃないぞ?  
 ――ちょっと驚いたが」  
 上条が認めるかどうかは別として。  
 事実として女性の肉を見て、上条の肉体は興奮した。欲情した。  
 あの赤い谷間に包まれたいとペニスは自己主張している。  
 恥ずかしいという気持ちはもちろんあるが、隠すことすらできない。  
 手枷は皮のバンドでその先に数十キロはありそうな鉄の塊がぶら下がっている。  
 両腕は開かれたまま。  
 いくらすべての異能を打ち砕く右手でも拘束からは逃れられない。  
 もちろん、股間を隠すことは当然できない。  
 そして、あの濡れそぼった粘膜はあまりにも美味しそうだった。  
「いや、だってこれは――」  
 だから仕方ない。  
 上条当麻だって健康な青少年なのである。  
 女性の肉体に興味が無いわけではない。  
 ただ、肉付きが豊かな女性を好んでいると自己分析していた上条は凹凸の少ないスレンダーボディに欲情する自分を認めたくなかった。  
 ましてや年頃を考えれば異性として考えるのもはばかられるような幼さなのだ。  
 確かに精神年齢は上条を超えているだろう。  
 魔術師としての云々よりも一派閥を率いているという点において上条はバードウェイを評価している。  
 アニェーゼもそうだが、カリスマというものを持って誰かの上に立つには相当の精神力が必要だろう。  
 だからと言って子供であることに変わりはないのだ。  
 子供を性欲の対象として見るのは変態のすることである。  
「口答えするな。それに――視線を感じるぞ、ずっと」  
 どこに、とは言わなかった。  
 言わなくても上条は理解する。当たり前だ。ずっと幼い性器に視線は釘付けだ。  
「それに、ほら――」  
 もう一度、ブーツでつつかれた。  
 肉棒が嬉しそうに揺れる。敏感な刺激となって上条の腰のあたりに甘い感覚が跳ねた。  
 
「止めろ馬鹿! 痛いだろうが!!!」  
 痛い、だけではない。心地よかった。  
 だが上条は認める訳にはいかない。  
 しかし多くの人間の上に立つものは心の動きが自然と読めるようになる。  
 にやぁ、とレイヴィニア=バードウェイが笑った。  
 嗜虐的な不遜さがカマをもたげている。  
「正直じゃないな。なぁヒーロー。素直さは美徳だと思うぞ? なに、安心しろ。私はそこのところもわかっている女だからな」  
 どこか嬉しそうな顔をしてバードウェイが上条から離れた。  
 ブーツで突かれることはなくなった。  
 安堵するとともにどこかしら残念な気持ちが上条の中に湧く。  
 先ほどの刺激が心地よかったのだ。  
(はは――笑えねぇ――変態ですか上条さんは――)  
 自覚する感情を飲み込む上条の前でバードウェイが片方のブーツを脱ぎ始めた。ストッキングも脱ぐ。  
 白い足がするりと抜け出てくる。  
 走り続けてつま先が広がった足ではない。細くまとまった、しかし中国の纏足のような不自然さを感じさせない足。  
 王族や貴族のように人の上に立つ者の足。  
 上条のごつごつした足なんかと違って実に柔らかそうだ。  
 しばらくそうしてみて、高さが合わないともう片方のブーツも脱ぐ。  
 黒いガーターベルトと白い素足。そのコンストラクトは淫美過ぎて風紀委員を呼んでしまいそうなぐらいだ。  
 そしてバードウェイが見下すように上条の前に立った。  
「こういうのが好きなんだろう?」  
 言って、バードウェイが上条の性器を裸足の方の足で踏みつける。  
「――!!??」  
 驚愕する。  
 これまで感じたことのない感覚に上条の呼吸が止まる。  
 親指と人差し指。二本の指が開いて亀頭のあたりを挟む。  
 土踏まずの柔らかい部分がしっとりと幹を踏みつけてかかとの硬い部分が尿道の付け根に押しつけられる。  
 硬い、といっても皮膚は柔らかい。しっかりとした骨組みを感じるのだ。  
 ほれほれ、とからかうようにバードウェイが踏みつけると前後に開かれた足の間で幼い性器が花開いている。  
「足こき、だったか? ジャパニーズ・ヘンタイはブリティッシュでも有名だぞ。   
 なに、私は天才だからな。初めてだって上手くやってみせるさ」  
「ぐあっ……」  
 踵が睾丸を踏みにじる。  
 五本の指が器用にペニスを扱く。  
 痛みと快感がごちゃ混ぜになって上条の脳を焼く。  
 シルクのような滑らかで冷たい肌。触れ続けているとそれが暖かさに変貌する。  
 踏むだけでは飽き足らないのだろうか。バードウェイが親指の下で筋裏を擦る。  
 
「あうっ……」  
 痺れるような快感。異常なシチュエーション。早く射精したいとばかりに睾丸がひきあがる。  
 だが、その動きは踏まれているバードウェイには丸わかりだった。  
 高慢な笑みで勝ち誇る。  
 牙をむき出しにして微笑んだ。  
「まだまだ。もっと楽しませろよヒーロー」  
 ぐりぐりと捻じるように。  
 身悶えするほど硬直した上条の肉茎の先、紅い亀頭から先走りが滔々と溢れる。  
 バードウェイの足裏を汚して踏まれる摩擦ににちゃにちゃという下品な音が混ざる。  
 目の前に突きつけられるようなバードウェイの肉筋。  
 そこが太股にかけて光っていた。  
「なんだ? こんなことをしていっぱい膨らませて。いやらしい目つきで私の割れ目を見つめて。  
 変態だな。変態だ。卑しい虫けらだ。  
 性器を踏まれて感じているのか?」  
 侮蔑。興奮。そして同じぐらいの強い愛情のような。  
 そんな視線でバードウェイが上条を見下ろしている。  
 ぐい。  
 親指の腹で尿道口が抑えられた。これでは射精ができない。  
 上条当麻が情けない顔で悲鳴を上げた。皮膚が裏返りそうなほどの強烈な快感だった。  
 尿道に丸ごと指を突っ込まれたかのようにすら感じる。  
「もっとだ、もっといい顔になるんだ」  
 はあはあ。  
 バードウェイの呼吸が荒くなる。目が血走っている。  
 間違いなく興奮していた。  
 責める行為に酔っていた。  
 もともとS気の強いバードウェイである。無理もなかった。  
 くいっと足の位置が変わる。  
 五本の指で竿を掴み、上下に擦り始めた。  
 器用なことに片足一本で立っていながらバードウェイはその行為を行う。  
 バランス感覚が優れているのだろう。  
 より前後に脚が開かれて狭間の花は淫らに光っている。  
 上条の視線が釘付けになる。  
「ははっ☆」  
 バードウェイが勝ち誇った。  
 
 強く擦りあげた。  
「――――っ!」  
 目の前が真っ白になる。  
 上条当麻が奥歯を噛むと同時に。  
 ―――どくん、どくんどくん―――  
 ペニスが跳ねる。少女の柔らかな足裏にめり込もうとする。  
 どろりと濁った白い液体をぶちまけて汚そうともがく。あがく。  
 汚液で足裏も甲も汚された。  
 ―――どくん、どくんどくん、どくん―――  
 するり、と親指と人差し指の間から亀頭が出て遠く高く放物線を描く。  
 第二射は遠くバードウェイの腹のあたりにまで飛んだ。  
 つぅと垂れて股間の幼い性器へと滑ろうとする。  
 しかしそれはならなかった。  
 バードウェイが指ですくって舐めたから。  
「ンむぅ――苦いな、それに凄く濃い。変態め。こんなことで喜びおって」  
 もちろん初めての経験だ。比べる相手なんかいない。  
 それでもバードウェイが『濃い』と判断した。そしてそれは間違っていなかった。  
 ぜいぜいと上条が荒い息をつく。  
 魂が全て抜け落ちてしまったかのような快楽に脳の処理が追いつかない。  
 しかし、同時に異常なまでの冷静さを取り戻している。  
 異常な状況に酔っていた意識は明瞭に覚醒していた。  
「―――もう、充分だろ。こんなこと好きでもない相手にするんじゃねェよ」  
 びくん。  
 レイヴィニア=バードウェイ。  
 傲岸不遜自信過剰。無礼千万の少女の肩が震えた。  
 上条は言葉を続ける。  
 無様な格好で精液を撒き散らした彼にはもう言葉しか残っていない。  
「確かにさ、興奮した上条さんがどうこう言える権利はないかもしれないけれども。  
 こういうのは好きな相手とするもんだろう?  
 もっと自分を大切にしろよ、馬鹿」  
 上条は自身が今どんな格好をしているかを理解している。  
 SMとかは分からないけれども、確かに足で踏まれて性的に興奮した、そういった需要があることは身をもって体験した。  
 でも性的なことはそれなりに大切なものであってジャンクフードを食べる感覚で味わうものではないという観念がある。  
 少なくともご褒美などという名目で好きでもない相手に女性器をさらけ出すような真似をバードウェイにして欲しくはなかった。  
 そういった空気がバードウェイを怒らせる。  
「ほほう? 随分と勝手なことを想像して人を判断してくれるな。  
 この私が、男と見れば尻を振るビッチだと思ってるのか。この私が。  
 冗談じゃない。レイヴィニア=バードウェイを甘く見るな」  
 バードウェイの視線が怒りに染まった。禍々しいオーラが背中から溢れてくる。  
 上条の精液で濡れた足で再びペニスを踏みつけた。  
 ぐぅ、と上条が呻く。  
 
「ええ、おい。こんなことをして喜んでいたお前が偉そうにこの私に説教を垂れようというのか?  
 下らない。何がヒーローだ。勝手に幻想を押しつけてくるんじゃない。  
 お前は快感に喘いでいればそれでいいんだよ」  
 否定するのだったら反応しないで聞き流せばよかったのだ。  
 だがバードウェイは反応してしまった。  
 プライドを傷つけられたからなのか、真実なのかは分からない。  
 だが反応してしまった。  
 言い訳は通用しない。  
 それがわかっているからバードウェイはより強く踏みつける。  
「ほらほら、びくびくしてるぞ。あれだけ出したばかりだというのに。ほら……ほらぁ……」  
 ぐりぐりと踏まれると上条を鈍い痛みと鋭い快感が襲う。再び局部を嬲られて身体が喜んでいる。  
 責めているようで、責められているようで、縋られている。  
 ぐ、と奥歯を噛んだ。  
「なんだ、その目は? まだ足りないのか? もっとして欲しいのか?」  
 サディストの女王様は言葉を強めるがどこか自信なさげだ。  
 あっという間に元の硬さを取り戻し精液の潤滑油で扱いかれているペニスを踏みながらも不安の色が瞳に宿る。  
 怒り顔が泣き顔に見えた。  
「――お前は、それで、満足なのかよ」  
 上条が言葉を短く区切りながら言う。  
 性感は強い。暗闇の中、ランプの焔、足で踏まれるという状況。異常すぎる。  
 だがそれでも言いきった。  
「そうやって、自分の価値を貶めて。自分が子どもだってことも認めずに大人のふりをして。  
 素直に泣けよ、喚けよ。癇癪を起こせよ。  
 それぐらい――俺が聞いてやるから」  
 上条は再び虎の尾を踏んだ。竜の逆鱗に触れた。  
 レイヴィニア=バードウェイは上条が考えるより遥かにプライドが強かった。  
 高いのではない。強いのだ。  
 自分が見下されていると感じた。  
「この……偉そうに! ガキの癖に! ガキのくせに! なにもわかってないくせに! 鈍感野郎が!」  
 足を退ける。  
 バードウェイが先ほどのように近づいて上条の顔に自分の性器を見せつける。両手で開く。  
 正座状態で拘束されている上条の目に先ほどよりもよほど湿っている性器の内側が見える。  
 つるつるの土手はやけに色っぽく、内側の色も赤みを増している。  
 しっかりと濡れた光沢。  
 甘酢っぽい香り。  
 小さな尿道口すらも見える。  
 自身を伸ばしている真珠のようなクリトリス。  
 男を頬張るための機能があるとは思えない小ぶりな膣口。  
「ここで、お前を大人にしてやるよ上条当麻。感謝しろ。私が大人で女だってことをお前で証明してやる。  
 光栄に思え」  
 
 尊大で傲慢。己が一番だと信じて疑わない。  
 だからこそ自信過剰だ。自信過剰を演出する。  
 正座させられている少年の膝の上でM字開脚して腰を下ろす少女。  
 上条の首に手をかけて支点とし開かれた花弁を巨塊になっているペニスに当てる。  
「ん――」  
 少しだけ緊張したような声。  
 躊躇せずぐい、と自ら腰を下ろした。体重をかけた。  
「―――――!!!???」  
 いくら上条が男性としては背が低い方とはいえバードウェイと比べれば大柄だ。  
 だから膝の上に乗る形になられても視線の高さは変わらない。  
 ペニスが狭苦しい肉についばまれた瞬間、声なき悲鳴を上げるバードウェイの顔は薄暗くてもよくわかった。  
「ぐ――」  
 痛い、と言わないのはプライドが強いからだろう。  
 しかし肉体の方は彼女の意思ほどではないようだ。  
 ぽろぽろと眦から大粒の涙が浮かんでは落ちる。  
 上条の首筋に掛けられた両手がぶるぶると震えた。  
 レイヴィニア=バードウェイは今自分の意思で大切なものをどぶに捨てた。  
 アクセルだけがある彼女にブレーキは存在しない。  
 例え自らの判断だろうとも、その姿は上条には悲しいものにしか映らなかった。  
 ぐ、と一度唇を噛んで、言う。  
「なんで、ここまでやるんだよ! 少し子供扱いされたからってここまでする意味あるのかよ!」  
「お前が、私を子供扱いするからだろうが! 私だって女なんだ!」  
「だからって――」  
「特別なんだよ、お前は! それぐらいわかれこのクソ鈍感野郎!  
 世界中どこにだって行けたのになんであの狭い部屋に来たと思ってるんだ!」  
 睨みつけられる。  
 涙で濡れた目で憎々しげに見つめられる。  
 そして、突き飛ばされるような勢いで唇を奪われた。  
「んむぅ――?」  
 困惑する、目を回す上条。たっぷり一分程も唇を重ねてバードウェイが上条を解放する。  
 
「これでもわからないのか、馬鹿!」  
 上条が驚いてバードウェイを見る。その瞳は怒りに燃えていて、それでいながらもう一つの想いを覗かせていた。  
 瞬間、理解する。同時に信じられなくなる。  
「え――、おま、バードウェイ、お前――」  
 言葉はそこで途切れる。  
 もう一度唇を奪われたから。  
 亀頭の半分程度を膣口に埋めて苦痛に耐えている少女に抱きつかれて唇を奪われる。  
 鈍感すぎる上条でもいい加減に理解した。  
「――ごめん。わかったよ。わかったから、もう止めよう? 痛い思いをするだけだ」  
「いやだ――さいごまでやる――」  
「――っ、じゃあ、痛いことだけは止めよう。最後までやるよ。わざわざ辛い思い出を作る必要はないだろう」  
「ふざけるな――わたしは――」  
「レイヴィニア=バードウェイ。ただの女の子だよ」  
 ぶるぶると震えている。  
 涙がぼろぼろと落ちている。  
 バードウェイに対する愛情は薄い。それなのに応えようとしている。  
 それは同情と同義だが、上条はだからといって放っておけるほど残酷ではなかった。  
 優しさではない、甘さだと誰かは言うかもしれない。  
 それでも上条は震える少女を見捨てることができない。  
 外道だ。レイヴィニア=バードウェイは滅ぶべき悪党である。  
 矛盾してる。だが上条はその矛盾が嫌いではなかった。  
 覚悟を、決める。  
「外せよ。手と足の枷を。逃げねぇよ。最後まで抱いてやるよ。女だって認めてやる。  
 このままじゃ抱きしめてやることだって出来ねぇ」  
「―――生意気なんだよ。皮かぶりのガキのくせに」  
「オボコが言うな」  
「もう、違う」  
 ぶるぶると震える両腕。おそるおそる腰が持ち上げられ、赤い血がつぅと太股を流れる。  
 裂けたのだろう。  
 多少は濡れていても本格的ではなかったのだ。  
 処女膜に痛覚はない。男を受け入れる準備の整っていなかった膣が傷ついたのだ。  
 ぼろぼろと涙をこぼしながらバードウェイが上条の枷を外していく。  
 皮作りの拘束具。  
 シンプルなつくりだが震える指先では少々時間がかかった。  
 手足が自由を取り戻して、上条が立ち上がる。  
 
「ホテルだって言ったな。柔らかいベットはあるのか?」  
「――隣の部屋に」  
 別人のように大人しくなったバードウェイ。痛みで歩けないようだ。  
 裸のままの上条は隆々とペニスを勃起させたまま彼女を抱えた。  
 所謂お姫様だっこ。  
 ひゃ、と可愛らしい悲鳴を上げるバードウェイは羽のように軽い。  
 腕の中で震えている女王様が可愛らしいと上条は思った。  
 ふわふわの髪。つぶらな瞳。小さな唇。バランスの取れた顔。勝気すぎるところが珠に傷だがそれさえも可愛らしい。  
 隣の部屋はコンクリートの打ちっぱなしの調教部屋と違っていた。  
 しかし壁の色は黒でベットのシーツまで黒であるところはやはりいささか趣が異なる。  
 小柄なバードウェイをそっと横たえた。  
 震えている。  
 獰猛さは欠片も見当たらない。  
 枕元にあるスイッチで部屋を明るくした。  
 レイヴィニア=バードウェイは暗い場所で横になることを強く嫌う。  
 上条はそんな彼女の膝を割り、傷ついた性器をむき出しにして顔を近づけた。  
 毛も生えていない白磁造りのような艶やかな肉の筋。  
 ちろり。  
「ひあっ!」  
 上条が舌を這わすとバードウェイが乙女のような悲鳴を上げた。  
 小水の臭いがする。血の味がする。いやらしい女芯の匂いがする。自分の飛ばした精液の残滓がある。  
 少し開いた割れ目の内側の赤い粘膜。  
 上条は募る想いを感じながら舌を動かしていく。  
 ふちゃ……ぺちょ、ぺちゃ……ちゅる……  
 肉の裂け目に舌を潜り込ませていく。  
「ふわっ、あ、あ、そこ……いいっ!」  
 バードウェイが上条のツンツン頭を抑え込んだ。  
 強く股間に押し当てる。  
 片方だけのガーターストッキングと素の白い太股とが上条の耳のあたりを柔らかく挟みこんだ。  
 圧迫される鼻孔。呼吸が制限される。圧倒的なメスの香りを強制的に嗅ぐ形になる。  
 僅かに息苦しいが、あの高慢なバードウェイにこんな官能的な声を上げさせているのだと思うと上条のペニスは強く勃起していた。  
 バードウェイの熱気と湿気が顔面を襲う。  
 むっとする女の匂い。  
 くらくらした。  
 
 べちょ……ぬちゅ……ぬちゃ……  
 一心不乱に舌を動かす。傷ついた粘膜を少しでも癒そうとする。  
 ピンク色に染まった大陰唇も小さく畳まれている小陰唇も、紅真珠のようなクリトリスも、ゼリーのような尿道口も、膣口も。  
 無毛のすべすべとした肌がしっとりと唇に調和する。張り付いてくる。  
 愛らしい肉筋の中の蜜が溢れだしてシーツにまで垂れる。舌で味わうように絡ませる。  
「あ、はぁっ、はっ、な、なんだよ、変態! 変態!! こんなに、舌遣い、上手いなんてっ! はあんっ!!!」  
 ちゅる、ずっ……  
 溢れ出る淫蜜を啜ってやるとバードウェイは身も世もないほど切なく鳴いた。  
 滔々と蜜を吐き出す膣口に舌を伸ばす。  
 ずいぶんと消えたがまだ若干鉄の味がする。  
「はぁ、はぁ……そんなに美味しいのか? いやらしく舐めて……」  
 少しバードウェイの強気が戻ってきた。  
 痛みが引いてきたのだろう。  
 腰を浮かして上条に押しつけてくる。  
 やはり支配する悦びの方が強いらしい。  
 だがそれは同時にレイヴィニア=バードウェイが一人の女で一人の男として上条当麻を求めている証左でもあった。  
 要求されるまま上条はクリトリスを唾液でべとべとにする。  
 元々濡れていたが自分色に染め上げる。  
 そのたびにバードウェイが嬉しそうに切なそうに啼いた。  
 十二歳相当の未熟な身体は外見と裏腹にしっかりと女だったのだ。  
 肉体が嬉しそうに淫蜜を溢れだし上条の顎をべとべとにしていく。  
 奉仕する悦び、のようなものが上条の中に浮かんでくる。  
 隷属しているつもりはないがどんなわがままでも聞き届けてやろうという気分になる。  
 同時に、それ以上に男根が強くこの場所を支配したいと訴えていた。  
 上条当麻も健康な青少年である。性欲は強い。  
 ちゅ、ちゅぶ……ちゅぶ……  
 クリトリスに吸いつきながらバードウェイの顔を伺う。  
 黒いレザー衣装の向こうの白い顔は赤く火照っていて男を誘った。  
 だらしなく口を開いて快感に酔っている。  
 視線が、絡んだ。  
「―――いいぞ、もう。たぶん大丈夫だから」  
 レイヴィニア=バードウェイが言う。  
 なにが、を言わない。  
 言う必要が無い。  
 侮蔑していたはずの瞳の色はどこにもなかった。  
 
 無数の糸を引きながら上条がバードウェイの股間から顔を離した。  
 そして顔を耳まで真っ赤に染めながらバードウェイが両膝を抱える。  
 M字開脚の形になる。  
 花弁はいやらしいほど咲き誇っていて上条を誘う。  
 開かれたそこを見て上条のただでさえ反り返っていたペニスが限界以上に膨らんだ。  
 愛らしいと思った。妖艶な笑みを浮かべている傲慢な少女が。  
(ああ、上条さんは本当にロリコンになってしまうのですね――)  
 ほんの僅か残った理性が悲鳴を上げたがこの状況では本能の方が強かった。  
 ぎし、とベットのスプリングを鳴らしながら上条がバードウェイに重なる。  
 ペニスに手を添えてヴァギナの穴に押し当てる。  
「―――――!?」  
 二度目の挿入の時もやはりバードウェイは悲鳴を上げなかった。  
 ただ、苦痛の色は驚くほど少なかった。  
 亀頭が熱い体温に包まれる。ぬちゃ、と淫らな水音を立てて吸いこまれる。  
「小さい――な――」  
 思わず上条が感想を漏らした。  
 M字開脚から上条の腰に足首同士を絡ませたバードウェイが睨みつける。  
「小さくて悪かったな。発育不良で申し訳ないな。そんなに脂肪の塊が好きか馬鹿野郎。  
 たかだか脂肪の有無程度で女の魅力が左右されてたまるかなんだこの野郎私を誰だと思ってやがる」  
「いや、そういう意味でなくてな」  
 どうやら胸が小さいことはよほど気にしているらしい。  
 ボンテージ衣装に隠れている慎ましい膨らみを両手で隠しながらバードウェイが怒りを露わにした。  
 上条は苦笑する。  
 小柄な身体が震えている。  
 淫蜜に濡れた女芯は既に縦筋ではない。上条のペニスの形に丸く膨らまされている。  
 強い興奮状態。  
 痛みはさほど感じていないようだ。  
 黒と白の足に力を入れて上条にしがみつく。首の後ろに手を回す。腰を入れろと誘う。  
 恐れなんて微塵もない。自信に溢れて顔を火照らせる彼女はレイヴィニア=バードウェイだった。  
 ずず、と少し少し飲み込まれていく。  
 本能は一息に奥まで入れてしまいたいと訴えているが流石の上条もそれはできなかった。  
 それに、せっかくの美処女を性急に味わってしまってはもったいないという思いもあった。  
 
 甘いため息を吐いて妖艶にバードウェイが笑う。  
「ほら……もう全部入るぞ……」  
 初めてなのにしなやかに自分から腰と足とを使った。  
 小ぶりな女性器に上条の極太ペニスが飲み込まれていく。  
 眉間を寄せて、バードウェイが歯を食いしばる。  
 苦痛が少ないとはいえゼロではない。第一、小柄な彼女に上条のペニスは大きすぎるのだ。  
 ぬぷっ、ぬぷぅっ!  
 結合した部分からぬちゃりと水音が立つ。淫蜜が飛び散る。  
 バードウェイの瞳が細くなって艶やかな唇が甘く開いた。  
「ひ、はぁぁ……はいったぞ、お前のが、全部……はいったぁ……」  
 柔らかな膣口が歪む。誰も足を踏み入れたことのない処女地が踏破される。  
 二人の分泌液を潤滑油にして受け入れられる。奥の粘膜がきゅうきゅうと啼く。  
 肉茎に絡む粘液に血の色が再び混じった。  
 奥の赤ん坊のゆりかごを初めて突かれる感覚にバードウェイはすべてが入ったと勘違いした。  
 だが正確ではない。まだ上条のペニスは余裕を残している。四分の一ほどが外部に露出したままだ。  
 首筋に手をまわして抱きついてくる少女の甘い体温。はあはあという荒い息遣いとが心地よい。  
 カールした金色の前髪が汗で張り付いている。いや、顔そのものが汗まみれだ。  
「わ、私の中で、こんなにおちんちんおっきくして、この、変態が……んはっ、あっ……びくびくしてる……  
 気持ちいいのか……なぁ?」  
、くちゃくちゃ、と濡れた肉に周囲全てを舐められるような感覚に上条は短く呻きをあげる。  
 その姿にバードウェイは満足そうに微笑む。  
 貪欲に快楽を味わいたがっている上条は必死になって腰を動かしたいという衝動をこらえていた。  
 小さな身体だ。無理をさせている。  
 その禁忌に上条はときめいてしまっている。  
 不敵で尊大な少女にそこまで耐えさせているという事実に感動している。  
 だが、きつく締めつけてくる膣肉だけでは物足りないと若い肉体は訴えていた。  
「……動かせばいいだろ。動かしたいんだろ? はぁ……お前は足で踏まれて喜ぶ変態なんだから、んっ、正直になれ、よ……」  
 左手を首裏にかけたまま、右手で上条の頬を撫でる。  
 虎のようだった少女が猫のように甘えている。素直ではないだけで。  
 
「いいんだな?」  
「くどいぞ。んっ……二度も言わせるな、馬鹿……あっ」  
 ぬぷっ……ぬぷっ……ぬぷっ……  
 上条がバードウェイの真っ白な尻肉を掴む。  
 掴んで腰を動かす。  
 隙間なくペニスを締め付けてくる膣肉の甘さと狭さと柔らかさ。  
 亀頭に絡みつく柔らかい肉の刺激に痺れるような快感が走る。  
 肉棒が埋まる膣穴が捲りあげ押し込まれるたびに強気な少女が快美と苦痛に眉を顰める。  
 一種の被虐的な喜びなのだろうか。  
 苦痛があっても抱きついている男が喜んでいるという状況にバードウェイは優越を感じつつある。  
 ずぷっ、ずぷっ、ずぷっっ。  
 足を絡まれているからそれほど派手には動けない。  
 しかし徐々に上条の腰が加速していく。  
 やがて白と黒の足が解ける。切なそうにバードウェイが啼く。  
 上条はガーターストッキングに包まれた黒い足を肩に担ぐ。  
 屈曲位の変形。脚を広げられる形になって上条の腰が大きくバードウェイに打ちつけられる。  
 より大胆な動きにバードウェイの淫蜜がより増量した。より滑らかに激しくピストンが行われる。  
 膣肉がペニスを頬張って喜んでいる。  
 汗まみれになりながら二人は愛欲の泥沼に塗れていく。  
 欲求を吐き出したいという思い。全てを受け止めたいという願い。  
 馬鹿馬鹿しいほどにシンプルなそれが純度を高めて結晶になっていく――  
「同情で、抱いてくれた、のは、わかるけど、一緒にいて、くれないか?」  
「それに、『はい』って、今答えるのは、卑怯すぎるだろ」  
「ふん……足で踏まれて喜ぶ変態が……私以外の、はんっ、誰に、相手、されるっていうんだ……」  
「そうかも、な。でも嘘をつきながら側にいたくはないな。あんなことはもうたくさんだ」  
 とある少女に記憶喪失のことを隠し続けていた。  
 嘘を貫くために嘘を重ねて、結局ふわふわとしたスポンジのような土台のままで拳を振るった。  
 かつての上条当麻を裏切っては行けない、という薄紙を重ねてぼやけた『今』の自分。  
 自分自身を基準に置くことができなかったから誰かからの好意に一つも気付けなかった。  
 今の今まで、この不敵な少女に薄紙を剥がされるまで。  
「いいさ……嘘を、本物に、変えてやるよ……私は、レイヴィニア、んっ、バードウェイ、なんだぞ?」  
 傲岸に笑った。  
 不遜に笑った。  
 レイヴィニア=バードウェイはこうでなくてはいけない。  
 いついかなるときも。  
 例え断頭台にくくりつけられていても。  
 例え上条たちを裏切り学園都市協力機関の離反を促しても。  
 そして、ただ一人の少女として組み伏せられて女の顔をしていても。  
 
「はははっ」  
 上条は笑った。  
 こういうところは好きになれそうだ。  
 大げさに腰を振りながら顔を近づける。  
 当然黒い足は逸らされる。柔らかくシーツの上に沈む。  
 一瞬、紅い顔が更に赤くなったがバードウェイは黙って静かに瞼を閉じた。  
「んっ――」  
 性衝動激しい行為の最中の、子供のようなキス。  
 ただ唇を重ねるだけ。  
 それは契約のしるしだった。  
 ぬぢゅ、ぬちゅ、ずぼっ、ぬぢゅ、ぢゅぶっ!!!  
 ぎゅっと抱きついてくるバードウェイ。もはやその顔に苦痛の色はない。  
 密着される心地よい温もりと下半身に起こる強烈な肉悦に溶かされていく。  
「当麻! 上条当麻! あっ!」  
 上条の筋肉質の太股の狭間でバードウェイの白い尻がゴム毬のように弾む。  
 ベットのスプリングが揺れる。  
 ぷちゃ、ぷちゃとメスの汁が弾けて散った。  
 柔肌すべてから玉のような汗が浮かぶ。  
「バードウェイ……」  
「馬鹿者、んっ、こんなときぐらい、あんっ……名前で呼べェ!」  
「レイ、ヴィニアっ!」  
 名前を呼んだだけで湧きあがってくる狂おしいほどの愛おしさ。  
 抱きしめながら抱きしめられている充足。  
「ぁひぃんっ! 初めて、なのに、こんなに、感じてるぅっ! 変態の、マゾ、ちんぽ、なのにぃ!!!  
 ぐちゃぐちゃになるっ! もう、何も、考えられないっ!」  
 割れ目が泡立つほどの高速ピストン。苛烈なまでに打ちつけられている。  
 そのことにバードウェイ、否、レイヴィニアは痛みを感じたりはしていない。  
 亀頭のカリ首を摩擦するようにしっかりと絡みつく柔らかい膣肉が上条を快感のうねりに突き落とす。  
 レイヴィニアもまた突き落とされつつあった。  
 打ちあがっていくのに頭からまっ逆さまの錐揉み状態で螺旋を描きながら落ちていく感覚。  
 飛行機が落下するときに中の乗客が感じる無重力のような、矛盾。  
 上条もまた上りつめている。このまま中にすべてをぶちまけてしまいたくなる。  
(それだけは、ダメだな――俺には責任取れないからな、まだ――)  
 だが、察したのだろうか。  
 バードウェイの白と黒の足が先ほどのように上条の腰に絡んだ。  
 強くしがみつく。  
 上条の腰を離そうとしない。  
 
「ば、馬鹿、お前!」  
「はーっ、はーっ、だって、身体が、勝手に……欲しがってるんだ、お前を、当麻を、欲しがっていてしょうがないんだっ!  
 だって、痺れちゃうっ! これ、全部、私のぉぉお!!!」  
 後頭部をベットに押しつけてレイヴィニアが仰け反る。  
 それでいながら胸は強く押し付けられる。  
 レザー地のごつごつした感触の向こうにつつましい乳房の柔らかさを知ってしまう。  
「出してっ! まだ誰も汚したことのない、子宮を、全部、当麻色にしてぇっ!!!  
 このままどびゅどびゅって! 一滴だって漏らさないからぁ!!!」  
 カールのかかった艶やかな金髪が淫らに激しく揺れる。  
 前髪の下の瞳は勝気でありながら完全に欲情していた。メスの顔をしていた。  
 ぬぷっ、ぬぷっ、ぬぷぷぅっ!  
 上条の腰がこれまでよりも深く激しく突き入れられる。  
 濡れた摩擦音と男と女の嬌声がラブホテルの一室を満たしていく。響き渡る。奏でられる。  
 二人の身体から滲んだ汗が混じり合って絡み合って一つになる。  
 猥雑で性的な粘膜の臭気が何も考えられない。  
 ぱんぱんと打ちつけられる上条の腰。極太のペニスが幼い肉体に容赦なく打ちこまれる。  
 連続する音とともにレイヴィニアの中の炎が一層大きく燃え上がった。  
 瞳が先ほどと異なる涙で濡れる。  
「いいっ! 凄くいいんだっ! あっ……はぁんっ! 体中の穴が開いちゃう! 溶けちゃうっ!!!  
 とうまっ! 一緒にイかないとっ! お仕置き! だからなぁあ!!!」  
 ぎゅっ、きゅるきゅるっ!  
 膣肉が強く締め付けられた。  
 絶頂が近くなって男の肉を貪ろうとしていた。  
 反発するようにペニスが限界を超えて太くなる。  
 上条の脳が真っ赤に染まる。  
 もう、射精することしか考えられない。  
「出るっ! 出すぞっ!!!」  
 ―――どくん、どくん、びゅるっ!!!  
 が、と思わず息を飲むほどの快楽が駆ける。レイヴィニアの狭苦しい膣内でペニスが暴れて灼熱の液体をぶちまける。  
 腰を限界まで打ちつけて、余るほどの長さのペニスをすべて飲み込ませて、上条が快楽の全てを吐き出した。  
 濁流のような射精。目の内側が痛くなるほどの。  
「AHHHHH! I’m  coming! Aoooohhhh!!!]  
 レイヴィニアの唾液が飛び散った。  
 Oの字に広げられた口が赤い舌を覗かせる。  
 泣き出しそうな顔が仰け反って上条に白い喉を見せた。  
 強張りが溶けて子宮に流れ込むような感覚に上条はだらしなく溶けていく。  
 最後の一滴まで子宮に絞りとられるような貪欲な肉粘膜にペニスはしゃくりあげ続ける。  
 その腕に強く抱かれながらレイヴィニアはいつまでも終わることのないような絶叫の声をあげて快楽の性悦に打ち上げられた。  
 少女の小柄な身体が痙攣しながら硬直する。  
 淫蜜まみれの膣口はひくつきを止めずぶしゅぶしゅと淫蜜を吐き出して上条の陰毛を濡らす。  
 時間にして実に十分ほども絶頂し続けたレイヴィニア。  
 疲れ果てて力も抜けた彼女を上条は優しく抱きしめながら自分の中に確かにある愛おしいという気持ちが本物であることを確認していた。  
 
 
 学校から帰ってきたら愛しいトンデモガールが冷蔵庫を開けて魚肉ソーセージを頬張っていた。  
 肩にかかる程度のカールのかかった短い金髪。  
 白いブラウスとスカートに黒いガーターストッキングという服装。  
 十二歳の少女という外見と裏腹にイギリスの黄金系魔術結社「明け色の陽射し」を束ねる魔術師。  
 残忍にして狡猾、ブレーキの代わりにアクセルがもう一つ備え付けられているような情け容赦ない女。  
 レイヴィニア=バードウェイ。  
 胸が薄いことを上条は誰よりもよく知っている。  
「いきなりだな。インデックスはどうした」  
「ん? 邪魔だから焼肉食べ放題のチケットを渡して消えてもらった。  
 しかしあれだな。敬虔で清貧を尊ぶはずのシスターがあんなに欲望に忠実でいいのだろうか」  
 むしゃむしゃ。  
 上条家の貴重なカロリー源である魚肉ソーセージをバードウェイは容赦なく頬張っている。  
 まったく、どちらが欲望に忠実なのかわからない。  
 あの後、抱きしめ合うように互いの体温を確認しながら眠りに就いた。  
 そして上条が目を覚ますと彼女はいなくなっていた。  
 ただ一枚、『マークに謝ってくる』というメモを残して。  
 上条が右手で触る懸念があったのか、ごくごく普通のメモ用紙。  
 ピンクでちょっとしたキャラクターデザインが入ったものだった。  
 女の子らしいメモ帳の持ち主が上条の起きるのを待たなかったのは恥ずかしかったからなのか。  
 そういう弱みを見せたくなかったかもしれない。  
 宿代、なんて言葉も矛盾して。  
 少し寂しさを覚えつつも、まるで猫のようだ、と上条は笑った。  
 気まますぎて捉えられない。  
 一度は虎と例えた彼女だがどうやらその系統で間違いはないようだ。  
 そして猫科の彼女が今目の前にいる。  
 
「知っているか? この国では代替品、廉価品で通っている魚肉ソーセージだが欧米ではヘルシーなものとして人気があるんだぞ。  
 カニカマとかもそうだ。ローカロリーで大人気だ。戒律でカニが食えない猶太人も大喜びで食ってるんだ。  
 まったく、この国の人間は自分たちが作り出したものの価値を知らなすぎる。  
 ああ、そうそう。猶太人といえばチーズと牛肉の組み合わせは駄目だったり金曜日に肉を食べてはいけなかったりと色々あるんだ。  
 ハンバーガー屋のフィッシュバーガーがそのために開発されたのを知ってたか?」  
 けぷ、とだらしないゲップをしてバードウェイが即席の講義をする。  
 やれやれ、と上条は欧米人のように肩をすくめた。  
「で、なんのようだ? また何かしでかしたのか?」  
「酷いな、私をなんだと思っている。  
 最近パトリシアが中華料理に凝りだしてな。  
 私が辛いものが苦手だとわかっているのに山椒たっぷりの麻婆豆腐なんかつくるんだぞ。  
 おかげで舌が痛いこと痛いこと。  
 まぁ、クリア寸前のセーブデータを私が上書きしたのを根にもってるのかもしれないが」  
 いや、それは根にもっているんだろう。  
 額に手をついて上条が天を仰ぐ。  
 まったく、このトラブルメイカーが。  
 厄介事しかできないのか。  
 それなのに、微笑ましい。  
 そしてそういう風に思える自分自身を上条はどこか嬉しく思った。  
「というわけでしばらく厄介になるぞ。なに、安心しろ滞在費用は出してやる。  
 ――なんなら永久就職でもこっちは構わんのだが?」  
 呆れる上条にバードウェイはつかつかと歩み寄って、一歩にも満たない距離で見上げる。  
 華奢な身体。細い肢体。  
 勝気で不敵な顔つき。頬が赤く染まっている。  
「惚れさせると言ったよな。私は目的のために手段を選ばんのだ。ほら、宿代の手付分だ」  
 言って、目を瞑る。  
 腰の前で両手が硬く握られる。少し震えている。少しだけ、怯えている。  
 突き放されるんじゃないか、と。  
 それぐらいに、華奢で、細くて、か弱い。  
 きっと、上条だけが知っている。  
「ったく。ホント勝気なお姫様だな」  
 笑いながら上条は気ままな猫のような少女に優しく唇を重ねた。  
 

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