え? 一方通行についてですか?  
 そうですね。元同僚として言わせていただければとても心強い戦力でしたね。  
 科学の世界で言う戦術核、とでもいうんでしょうか。  
 放射能も出ませんし彼一人を送り込めば敵を皆殺しにしてくれます。  
 そういう意味ではとても使い勝手のいい人だったと思いますよ。  
 仕事以外の面で言うと、ですか。  
 彼は御坂さんと御坂さんのクローンと色々とありましたが少なくとも今現在は保護する側に回っています。  
 彼ほどの戦力はそうはいませんからね。色々と心強いですよ。  
 僕ではできないことも彼ならばできる、という点では嫉妬しますね。  
 その逆もあるんですけれども、隣の庭は青い、というんでしたっけ、この国では。  
 潜入や情報収集という点では彼はまったく使い物にならないということはよく理解しているんですけれどもね。  
 自分に掛けている部分を大きく持っていると憧れますね。  
 いや、憧れというよりも感心ですかね。もう見上げるだけで首が痛くなってしまうというか。  
 ……はい?  
 本当のことを言え?  
 言ってますよ、本当のことを。  
 御坂さんと彼女の周りの世界を守る限り一方通行は敬愛すべき存在です。  
 過去に何があろうとも、その罪を裁いていいのは当事者である御坂さんと御坂さんのクローンたちであって僕じゃありませんし。  
 ……そりゃ、確かにね。  
 僕は御坂さんに心惹かれて憧れて組織を抜けた人間です。  
 そのせいでショチトルたちを酷い目にあわせてしまいました。  
 そうだとしてももう一度同じことがあれば同じ選択をする、と断言できるぐらいに僕は御坂さんが好きです。  
 御坂さんを幸せにするのは僕の役目じゃないのが悲しいですけれど後悔はしていません。  
 だから、ね。  
 僕がすべてを投げうって守りたかった御坂さんの世界を土足で踏みにじって粉々にした一方通行を僕は憎んでいますよ。  
 ええ、当事者でもなかった僕にその資格がないことは重々承知です。  
 一方通行が悔やんでいてその罪を贖おうと足掻いていることも知っています。  
 そうだとしても、僕はやはり彼が憎い。  
 殺してやりたいほどにね。  
 僕がどんなに手を伸ばしても届かない大切なものを彼は穢した。泥まみれにした。  
 空を飛ぶ白い鳥を地に落として血と泥の世界に落とし込んだ。  
 実際問題、上条当麻が現われなかったら御坂さんは死んでいたでしょう。  
 そのときは僕は御坂さんのことを知ることすらなかったし、当然一方通行に対する憎しみなんか覚えることもなかった。  
 だからね。  
 この気持ちは最悪を回避する場面で当事者になれなかったみじめな男の哀れな嫉妬でもあります。  
 嫉妬だからこそ自分で否定できません。  
 なんどこの黒曜石のナイフを彼の首筋に突き立てようと思ったか。  
 金星の光で彼の存在を抹消しようと願ったか。  
 ですがやはり一方通行を裁くのは僕の役目ではありません。  
 ……正直ね、すっきりしないもやもやを今でも抱えていますよ。  
 どうすればいいんですかね、この気持ち。  
 可能性が零になるまで思いっきり御坂さんにふられるまでは呪いとなって残り続けるんでしょうかね?  
 
 
 
 一方通行のことについて聞きたい?  
 はぁ、最近出番がないとは思っていたけれどもこんなインタビューが来るとは想定外ですたい。  
 別に気取ってたわけじゃないけれどもグループの暫定的なリーダーは俺だったわけだ。  
 リーダーとして言わせてもらえば奴は自分の仕事を120点取らないと満足しないタイプだったな。  
 必要最低は当然。満点でもダメ。もっと上できれいに落としこまないと許せない。  
 ある意味几帳面だったのかもな。  
 ただ少々感情的すぎたきらいはあったな。  
 拘束されて嬲られていた女の子を助けたりとか、それは俺たちの仕事じゃあない。  
 どっかの正義の味方の仕事だ。  
 くそったれは地面を這いつくばって掃除してりゃいいだけなのにな。  
 あいつは正義のヒーローってやつにずいぶんと憧れていたな。  
 悪党悪党よくほざいていたがそれは単純に裏返しだろ。  
 すべてを都合よく片づけて誰も傷つかない最高のハッピーエンドを運んでくれる最高のヒーローにあいつは憧れていた。  
 純真といってもいい。  
 だからダメなんだと俺は何度も思ったがな。  
 あいつは誰よりもすぐれた能力がある。  
 だからその長い手で多くのものを守れる。  
 中途半端に守れてしまう。  
 もちろん俺だって何の罪もない一般人が巻き込まれたら目覚めは悪いさ。  
 だが、な。  
 それでも本来守るべき絶対のものとそうでないものとの間に一線を引くべきだ。  
 守るべきもののためだったらそれ以外のすべてを切り捨てる。自分自身も含めてな。  
 守るべきもののために守るべきもすらも裏切る、騙しきる。そうやって生きてきた俺の目から見ればあいつはたまたま運が良かっただけだ。  
 上やんみたいな存在も中にはいるがな、一方通行は自分が舞台の主役じゃないことは重々承知していたはずだ。  
 それなのに割り切れない。  
 アマチュアだね。まるで処女だよ。経験や想像の外側から切りこまれると簡単にパニックを起こす。  
 上やんに負けたことでずいぶんとそこの角は取れたみたいだが、ロシアでもパニックを起こしたらしいな。  
 最後の最後で自分を裏切るのは自分だぜ?  
 そして人間は自分には勝てない。最強の能力を持っていようとそれは何も変わらない。  
 一度自分の極めた能力を失った、という意味では俺とあいつは似ている。  
 似ている分だけいらつく部分もある。  
 正直何回たたきつぶしてやろうと思ったか。  
 単純に命をチップに載せれば俺でもあいつとつぶし合いはできるからな。  
 馬鹿馬鹿しいからやらなかっただけだが、それぐらいにいらついたよ。中途半端に背伸びをする餓鬼が。  
 まったく、多重スパイが感情的になってどうするんですたい。  
 
 
 
 はい?  
 ああ、ごめんごめん、思わず聞き返しちゃったわ。  
 で、私の耳が確かならば一方通行についてどう思うか、って質問でよかったのよね?  
 正直そんな素っ頓狂なことを聞かれるとは思わなかったから意識がバグっちゃったわよ。  
 どう思う……ねぇ?  
 そりゃ一方通行とは敵対もしたし同僚だったこともあるわ。  
 今はもう何もないけれどもね。  
 私が救いだしたかった仲間たちが解放されたことには感謝しているわよ、ええ。  
 ただ、なんていうのかな。  
 学園都市側もずいぶんとあっさりと解放してくれたなぁとは思うのよ。  
 一方通行の機嫌をとるだけの理由が必要だったのかしら。  
 例えば学園都市上層部でも彼にオーダーを下せないほどに彼が成長したとか。  
 だとしたら怖いわね。ただでさえ化けものだったのに。  
 大体、すべてのベクトルを操作できるって何よ?  
 ベクトルなんて概念上の産物を三次元空間に反映できるんだったら本当に無敵じゃない。  
 あれ以上なんて考えたくもないわね。  
 うん?  
 ああ、あんまり怨んではいないわよ?  
 確かに嫁入り前の大切な顔を顔面パンチしてくれたことは憎んだけれどもねぇ。  
 人間、よっぽどのものでなければ感情は維持できないわよ。  
 ましてや利用し利用されるだけの関係でその資格がなければいつでも切られる、なんていう暗部組織だったとしても同僚だったんだし。  
 古い言い方ならば同じ釜の飯を食った仲ってね。  
 馴れ合いじゃないけれどもいつまでも嫌悪感を抱えていられるわけがないじゃない。  
 ……はい?  
 私が嘘を言ってるって?  
 いやいや、なによ決めつけないでよ。  
 愛着とかと言葉のベクトルは違うだろうけれども、同じ空間で戦っていればそれなりに情も湧くわよ。  
 そりゃ確かにね、人のことをショタコンだの露出狂だの馬鹿にしてくれたことはトサカに来たわよ。  
 でもそんな軽口どんな間柄でも言うでしょう?  
 支配被支配の封建社会ならいざ知らず。  
 むしろそんなことを言うぐらいに「人間」なんだなって感心したりもしたわ。  
 え?  
 やっぱり嘘だって?  
 ……誰にも言わないでよ?  
 何ていうのかしら、あいつがグループに入ってきたときに資料を読んだんだけれども、それがね。  
 自分が一万人以上殺した超電磁砲のクローンによって能力補助を受けているとか0930事件で猟犬部隊を能力なしで葬ったとか。  
 そこらあたりが少し引っかかったかな。  
 うん、あなたの言葉を借りれば生理的嫌悪感ってやつかしら。  
 順番は前後するけれどもまずは猟犬部隊との戦闘データを読んでの感想ね。  
 殺しを楽しんでいるなっていうのが実感。  
 いくら能力が使えない状況であったとしても敵対する相手を恐怖に陥れて嬲り殺しにするのはどうかしら。  
 確かに恐怖っていうのは使いどころによっては強力な兵器なんだけれども、それは相手が多数である場合に限るのよね。  
 カンネェの戦いは知ってるでしょ?  
 そうそう、片目のハンニバルが数で勝るローマ軍をほとんど皆殺しにしたっていう戦い。  
 軍事教練の教科書にも載るぐらいの有名な包囲殲滅戦よね。  
 その時の死者の遺体が今でも発掘されるらしいんだけれども、致命傷は後頭部に受けているのがほとんどだそうよ。  
 前から刺殺された、殴り殺されたなんていうのはそんなにないって。  
 逃げる相手を追撃する時こそ攻撃能力っていうのは本来の牙をむくっていう好例ね。  
 
 ああ、余談が過ぎたって?  
 うんうん、まぁいいじゃない。こういう話が好きなのよ。  
 つまりね、恐怖を超えて自分に向ってくる相手に対して嬲る行為は決して有効な手段ではないのよ。  
 むしろ一撃で殺さなければ自分が反撃を受ける可能性がある。  
 逃亡者にダメージを与えれば怪我人の回収や、あるいはとどめをさす銃弾の一発を消耗させることができるのにそうしなかった。  
 そうなのに一方通行はそうしなかった。  
 彼の戦闘技術は経験も知識も十分に兼ね備えていたはずなのに。  
 そして自分と相手のスペックもよく了承していたはずなのに。  
 一方通行は自分が楽しむことを優先させたのよね。  
 まだアマチュアだったということもあるけれども、私は殺戮の快楽に酔ってるなとしか思えなかった。  
 確かに殺すのって気持ちがいいものね。すかっとする。  
 男と寝るよりも快感よ。  
 でも誰かを守るというミッションにおいて、しかも自分の命より大切な女の子のすべてがかかっている戦闘の中で自分の快楽を優先させた。  
 ああ、確かにね、ただのいちゃもんだってことはわかってるわ。  
 ただなんていうのかしら。  
 腕力のある子供が力任せに暴れただけって感じがしたのよ。  
 こう、スマートじゃないの。  
 で、ね?  
 ここに違和感を覚えて絶対能力者進化実験と直後の彼が脳を損傷した事件を穿ってみるとね?  
 凄く不自然じゃない?  
 いくらなんでも記憶も経験も共有している一万もの自分の同体を殺戮した男に親愛を覚えるクローンってさ。  
 絶対何かあるわよ。  
 一万回も殺されたのならば赤ん坊だって憎しみを覚えるはずだわ。  
 イノセンスな子供とかそういう風に考えることはできないのよね、残念だけれども。  
 脳に何かしら仕掛けがしてあるはず。  
 実際0930事件では最終信号の脳にあるプログラムを打ち込んだって話じゃない。  
 学園都市で一番すぐれた演算能力を持つ一方通行がその違和感に気づかないわけがない。  
 最終信号は自分の都合のいいように作られた人形でしかないってわかっているはず。  
 そう思うとね。  
 ああ、一方通行はわかっていて家族ごっこを楽しんでるんだなって。  
 凄く気持ち悪くなった。  
 自分が一万人以上殺した相手に依存してるのよ?  
 それってどんな気持ち?  
 娼婦を抱いた後に恋人への言い訳を考える男の方がまだ良心的だわ。  
 ああ、これはあくまで私の中の考え。  
 都合のいいように屋上屋を架して構築したいびつなストーリーよ。  
 でもオッカムの剃刀じゃないけれどもけちをつけ続けたらどうしてもこういう結果になるの。  
 私は一方通行に感謝してるわよ?  
 おかげで自由を取り戻せた。仲間たちを取り戻せた。  
 私は私の生きるべき世界で生きていけるもの。  
 でも、彼はこれからどうなるのかしら。  
 自分で自分をだまし続けているといつかその薬は切れるわ。  
 薬効が強ければ強いほど反動は大きくなる。  
 彼を拘束する鎖は存在しないのに、耐えられるのかしら。  
 正直考えたくないわね。  
 少なくとも私は逃げるわ。私の守るべき世界を守りながら逃げる。  
 幸い、私の能力は座標移動。  
 連れて逃げるという一点においてはこの街で一番ですもの。  
 そんな日が来ないことを祈るけれどもね。  
 
 

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