まず、インデックスが動いた。  
教室の入り口付近に集まるクラスメイトの中を逆走して、適当な机の下に避難し、ガタガタガタガタ!と震え出す。  
災害時には模範的であろうその行動も、上条の顔を見ただけで取る行動としては大いに違和感を感じる。  
彼女の友人である姫神も、何度かインデックスを見ただけの生徒も、上条から逃げるその行動に首を傾げていた。  
上条は、そんなインデックスを見遣ると、ゆっくり教室に入った。  
丁度教室の入り口近くにいた女子生徒Aが、上条を見ている。  
外見は普段と何の違いも無い筈の上条 当麻。しかし、確実に違う「何か」を見出せず、その女子生徒Aは上条を凝視する。  
すると、上条はその女子生徒Aの、ともすれば熱い視線とも取れるそれに気付き、振り向く。  
「ぅあ、え、えと、か、上条くん? ぉ、はよう」  
何となく輝いて見える上条から僅かに目線を外しながら、一応の朝の挨拶をする、と。  
「ああ、おはよう」  
刹那、教室が眩い光に包まれた。ような錯覚を皆が覚えた。  
上条 当麻より満面の笑顔で放たれた挨拶は、文字通り女子生徒Aの胸を射抜いた。  
「ぁ、うぇ、って、う、ぅー……〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」  
顔面を茹蛸状態にした女子生徒Aは湯気を噴き上げる顔を両手で覆い、自分の席へ駆け寄り、机に顔を伏せたかと思うと、  
「ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」  
と奇妙な声をあげながらジタバタと足をバタつかせ始めた。  
その一連の光景に、教室全体にどよめきが奔った。  
「な、なんだ今の爽やかな挨拶はッー!?」  
「普段の上条なら「ん? ぁ゛ー……おはよ」とか明らかに寝不足な風の挨拶を返してくる筈なのに!」  
「そ、それにあの歯の白い輝きはなんなんだ――!」  
「眩しいッ、上条が眩しいいいいいいい」  
男子共の呻き声を下に敷き、上条は一歩前に。  
そのまま一歩一歩、ゆっくりと教室の中に進んで行く。  
自分を凄まじい表情で凝視する男達にも軽い笑みを浮かべ、朝の挨拶を投げかけて行く。  
男達は例外なく、  
「お、おう……」  
と実に微妙な表情と返事を返した。  
女子の反応は、顔を真っ赤にするという点では皆同じだが、細かくは様々で、俯きがちに  
「……、ぉはよ」  
と返す者もいれば、言葉に詰まって顔を逸らす者もいる。中には胸を押さえて背中を向けてしまう生徒すらいた。  
挨拶を返しながらも少しずつ上条から距離を取るクラスメート達。  
その後退の波に押され、一人の女子生徒Bが机の脚に引っかかった。  
「、きゃ……!」  
大きく体勢を崩す女子生徒B、  
それに気づかないクラスメートの塊の隙間を縫って、光が走った。ような錯覚を皆が覚えた。  
女子生徒Bが尻餅をつく音は聞こえず、代わりに起きた出来事に気づいたクラスメート達の驚嘆の声が大きく響く。  
「……? あ、あれ?」  
転んだと思い込んで強く目を瞑っていた女子生徒Bが目を開く。  
目を開く、その視界一杯に収まったのは、  
「、大丈夫……だったか?」  
やさしく微笑む、上条 当麻の顔だった。  
「、ちょ、かみじょう、くん!?」  
上条はその場にいた誰よりも早く女子生徒Bの危険に気づき、誰よりも早く動き、誰よりも早く女子生徒Bを救ったのだ。  
『屈んだ状態でお姫様抱っこされている』女子生徒Bは、その事実に気がつくと盛大に慌て出す。  
「ぅわ、上条くんっ、おも、重いでしょ!? も、もう大丈夫だからおろ、してっ…おろしてくださいぃ〜!」  
最後は恥ずかしさやらなんやらで赤面半泣きの女子生徒Bに、上条はもう一度微笑みかけ、そのまますっくと立ち上がる。  
どよめくクラスメートと突き刺さる視線を物ともせず、上条はそっと女子生徒Bを立たせ、そして。  
「ケガ、無いよな? 良かった」  
極上スマイル炸裂。  
太陽もドン引きする程度には眩いその笑顔に直撃した女子生徒Bは、胸の前で両手を組んで茹だった顔を伏せている。  
「あ、ぁ、そ、の……えと……ッ!?」  
しかし、何かに気づくと、近くの女子生徒の群れに飛び込んで、男子の視線から隠れながらもぞもぞとなにかを確かめている  
ほんの数秒。しかしその女子の塊の中から飛び出した女子生徒Bは風の様に一目散に教室を飛び出している。  
スカートを抑えていたのが何人かの男子の目に留まったが、首をかしげるばかりだった。  
すると、教室の中心から声が上がった。  
 
「そこまでよっ! 上条 当麻!」  
 
毅然とした強い声だった。  
教室を揺るがす大きな声だった。  
声の主から上条までの直線上にいた生徒は、直感的に危険を感じてババッと退避する。  
声に呼ばれた上条が、そちらを見遣る。  
そこにいたのは、大方の予想通り、吹寄 制理だった。  
しかし、違う。  
耳にかかるようにしていた髪を完全に後ろに流したオールバック。  
普段の二割り増しで険しい顔つき。  
硬く腕を組み、教室の真ん中で仁王立ちしている(組んだ腕でその大きな胸が強調されているのには気付いていないようだ)。  
彼女こそ対カミジョー属性最後の砦。戦う僕らの委員長、吹寄おでこDX――否。  
「あ、あれはッ!?」  
とりあえず場の空気を察して青髪ピアスが叫んでみる。  
皆の視線が集まる、吹寄おでこDXと呼ばれた彼女の体をバチバチと幾筋かの電気が走っていた。  
その姿を見た男子生徒一同が声を揃えて叫ぶ。  
そう、それは、まさしく――  
「「「す、スーパー吹寄おでこDX3!!!」」」  
バーン!とかジャーン!とかドーン!とか。  
そんな感じの効果音を背負い立つ吹寄…スーパー吹寄おでこDX3。  
実際に彼女の体を走る電気は、クラスの電気使いの少女が人体に影響の無い程度に近くで送っているだけなのだが。ちなみにそんな事が可能かは知らない。  
眼光鋭く上条を睨み付けると、乱暴な足取りで歩き出す。  
「貴様……! 朝っぱらから何クラスを狂乱のどん底に陥れてくれてんの!」  
ゴゴゴ……と言う効果音が今一番旬の女、スーパー吹寄おでこDX3は上条の目の前に来るとダン!と強く足で床を打つ。  
「月詠先生一人倒れただけでも大事だってのに、貴様は! 今日はいつにも増して見境が無いようね!」  
怒鳴るスーパー吹寄おでこDX3の言い分はもっともである。  
ほんの数分の間で、次から次へと上条を中心に騒ぎが起きている。  
担任がぶっ倒れただけでも、ここが夢とロマンと出鱈目の具現たる学園都市であろうと関係なく問題である。  
ちなみにぶっ倒れた担任こと小萌先生は机の下でガタブルしてるインデックスの元に避難していた姫神に介抱されている。  
怒鳴るスーパー吹寄おでこDX3の言い分はもっともである、のだ、が。  
それはとてつもなく残念なことに、今のこの男にはまったく通用しないのだった。  
「おはよう、吹寄」  
目の前で盛大に怒鳴られているのに顔色一つ変えず、上条は朝の挨拶をスーパー吹寄おでこDX3に投げかける。  
スーパー吹寄おでこDX3はこれを強烈な睨みで撃退。  
(一方的な)睨み合いはしばらく続き、そのまま24時間耐久メンチ切合戦へ突入かと思われたが、上条の一言が起爆剤となった。  
「どうしたんだ吹寄? そんなに怒ってちゃ折角の美人が台無しだぞ?」  
「ッ!!」  
ブヂッ、と音がしたのを、上条を除くクラスの全員が聞いた。  
不意打ちにほんの少し赤らんだ顔も、やがて憤怒が塗り替える。  
上条の顔で。  
上条の声で。  
それを言う事が多感なお年頃のスーパー吹寄おでこDX3もとい吹寄 制理にどれほど危険か、この上条は知らない。  
ならば思い知らせてやる。  
このおでこは、理不尽と不条理と不誠実をぶっ壊すおでこだと言う事を。  
ギギギと歯を食いしばり、殺人的な目で上条を射る。  
「必・殺……ッ!!」  
体中の電気がドリルの様に尖った様に見え出す。  
スーパー吹寄おでこDX3の瞳が螺旋状に輝いている気がする。  
もちろんそれらはことごとく錯覚だが、ここで空気の読める青髪ピアスがまたもや叫ぶ。  
「あの技はッ!」  
続けて空気を読んだ男子共が「ぬぅ、知っているのか!?」等と騒ぎ出す。ドリルは男のロマンだ。  
そんな騒ぎの中心スーパー吹寄おでこDX3はおでこに全力を込めて上条に叩きつけようとしている。  
「ギ、ガアアアァァ……!」  
その時。  
 
上条の右手がスーパー吹寄おでこDX3の肩を掴んだ。  
瞬間、体を覆う電気は弾け飛び、スーパー吹寄おでこDX3は只の吹寄 制理に戻った。  
「な、っ……!?」  
不意の行動に驚いた吹寄の腰に、上条の左手が回る。  
「え、ちょ」  
肩を掴む手は絶妙の力加減で振り払えない。  
そもそも腰を抱かれるなんて初めてなので、さすがの吹寄も対処が遅れた。  
それが勝負を分けた。  
「なんで怒ってるのか分からないけど……じゃあ、これで機嫌直してくれな?」  
 
そう言った上条は、吹寄を抱き寄せて、そのおでこに軽く口をつけた。  
 
「「「「「「な、何ィーーーーー!?」」」」」」  
今度は男子だけでなく女子も揃って叫ぶ。  
吹寄は自分が何をされたか分からず、ただぼうっと上条を見ている。  
「ふ、吹寄ェエエぇええエえエエエエ!!」  
「なんてこった、対カミジョー属性がこうもたやすく!」  
「吹寄さん! 返事して吹寄さーん!!」  
「と、とうまっ!? いくらなんでもやりすぎかも!?」  
「こ。これは流石に。不潔。かもしれない」  
「ちくしょおおおおおお弔い合戦だああああああ」  
「その前に誰か土御門を助けに行けええええええヤツの力が必要だああああ!!」  
「う、わぁ……上条くん大胆……」  
「ちょ、アンタ、なんで顔赤くしてんのよ!」  
「っ!? し、してない! してないよ!」  
教室、騒然。  
若干正気を取り戻したインデックスや姫神も加わっている。  
騒ぎの中心の片割れ、上条は騒ぎの中心のもう片方、吹寄の視線に笑顔で応えている。  
現状をようやっと脳内で処理した吹寄の顔が、耳から首まで全体的に茹だった。  
「か、かみじょう……? ぇ、今、あたし、に何、を……?」  
しゅうしゅうといよいよ煙まで上げ始めた吹寄を、上条はさらにきつく抱きしめた。  
「ぁ、う……?」  
聞く者が聞けば卒倒確実の幼く弱い声が鉄壁の女・吹寄から漏れる。  
赤みの残る呆けた顔でこちらを見る吹寄に、上条は耳元で、  
「……足りなかった?」  
と囁いた。  
「、え? ぇ? ちょ、やめ……な、にを、んっ、ぁ……」  
 
 
 
たっぷり十分後。  
上条の足元に『美人なのにちっとも色っぽくない鉄壁の女』の称号を熨斗つけて返すような姿の吹寄 制理が倒れていた。  
真っ赤になった顔、息も荒くなぜか着衣に若干の乱れあり。  
クラスの男子一同は、今のこの男には何があっても敵わない事を悟り、  
クラスの女子一同は、今のこの男には何かされても抗えない事を悟る。  
 
上条 当麻。  
今のこの男には、落下型銀髪修道女から始まり、一万人の妹や二百人の修道女ですら抵抗出来ぬままにフラグを立てるだろう。  
 
教室が静かに、しかし大きなざわめきに揺れている。  
それは変貌した上条 当麻を中心に、波紋の様に広がって行く。  
 
そして、今まで戦いの終わりと新たな戦いの始まりを告げるかのようにチャイムが響き渡った。  
 
 

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