「んぐっ、こ、この馬鹿っ! まだ出ないわよっ!」  
ぷくっと膨らんだ乳首を口に含んで強く吸われて麦野沈利は抗議の声を上げた。  
ここで能力を発動しないのは昔ほど気が短くないこと、この状況に慣れていること、そして決して彼女自身が決して不愉快ではないからだ。  
風呂上り、妊娠の安定期に入ってからベットの上で愛撫されない日はない。  
その愛撫はえてして母乳を求める赤ん坊のようにいきなり乳首に吸い付かれて始まる。  
「そうか? これだけでけぇんだから今にも出てきそうなもんだが」  
ボサボサの茶髪に不恰好な顔の――まぁ、いい方にとれば愛嬌のある顔の――した男が目の端を歪ませて笑う。  
女性としては身長のある麦野沈利でも腕を組めば見上げざるを得ない背の高さとその骨格に十分なぐらいの筋肉を搭載したたくましさを感じさせる瞳の持ち主。  
そんな男が自分に夢中になってくれていることは嬉しいのだが、赤ん坊を育てるための器官へと変貌を遂げつつある乳房への刺激が痛みを伴うことに変わりはない。  
もともと人並みより上の大きさを誇っていた麦野の乳房はこの男のせいで二周りは成長したし、妊娠によって更にもう二周りは大きくなってきている。  
「なんか、甘いにおいもするしな。そろそろ出るんじゃないかな、マジで」  
「てめぇはエロゲのやりすぎなんだよっ! 出産するまで出ねぇよ、この馬鹿っ!」  
「いいじゃねぇかよ。出なくてもマッサージは必要だろ?」  
「マッサージはきちんとしてるっつの! 滅茶苦茶痛いの我慢して毎日こなしてるのに素人了見で勝手なこと言うなっ!」  
言葉をやり取りしつつも麦野は男の――夫、浜面仕上が胸を弄るのを自由にさせている。  
ここで三人称で言うところの「麦野」という描写は少々問題がある。  
麦野沈利という人物は既に存在しない。彼女は既に浜面沈利だ。  
しかしながら彼女は麦野という呼称が一番似合う。  
その大きな腹に愛しい人の子供を宿してもそれは変わらない。  
「ったく、赤ちゃんにしちゃアンタ全然可愛くないないんだけど」  
あきれを隠さないものの浜面の後頭部に手をやって麦野は優しく撫でる。  
単純に腕力で引き離すことも出来るが吸いつかれてだんだんと心臓の辺りでピンク色の何かが大きくなってきていた。  
「うるへー、どうせ俺は可愛くないですよ、だ」  
「わかってることで一々拗ねてるんじゃないよ、このお馬鹿」  
二人して笑いながらも浜面の指は麦野の乳首を刺激している。  
そこにうっすらとだが唾液以外の液体が染み出てきた。  
「おんや?」  
それに気づいた浜面が興味津々の顔つきで乳首をちろり、と舐める。  
若草のような青臭さを持つ、わずかに甘みを感じさせる、それ。  
「えっ、えっ!? ちょ、ちょっと止めなさいってっ! こんのバカッ!」  
突然強く吸われて麦野が混乱する。  
開発された性感と胸の奥のほうの痛みが軽減されるようなこれまでに感じたことのない感覚に困惑の表情を浮かべた。  
「間違いねぇわ。うん。母乳が出てる」  
一度口を離し、にんまりと笑った浜面が唖然とする麦野を見つめた。  
そして悪戯っぽく表情を崩すと再度豊満な胸に吸い付く。  
「ん、んぐ……」  
口の中に広がる甘さに夢中になりながら浜面が飲み干していく。  
あらゆる状況を冷静な分析と強引な力技で切り抜けた麦野沈利はただただ胡乱のまままともな判断も下せない。  
「やっ……だめだってばっ! し、信じられないっ!」  
「うまいぞ? 流石に牛乳に比べれば滅茶苦茶薄いけどな」  
「そんなことは聞いてないだろ、いい加減にしろ、この馬鹿っ! ぶち殺すぞ、マジで!」  
「しっかし……本当に出るもんだなぁ。流石、愛(I)にまで達しているだけのことはある」  
「胸のサイズは関係ねーんだよっ!」  
乱暴な口を開きながらも麦野沈利は驚きを隠せないでいる。  
「でもよぉ。良かったじゃねぇか。これで間違いなく赤ちゃんにミルク飲ませられるだろう?」  
「それはそうだけどさ……なんで一番最初に飲むのが赤ちゃんじゃなくってそのパパなのよ」  
「いいだろ? 別に。幾らでも出そうだしさ」  
頓狂なまま麦野が混乱していると図に乗った浜面がもう片方の乳首も口に含む。  
なにかしら麦野の身体の中でスイッチが入っていたのだろう。やがてこちらからも母乳が溢れ出てきた。  
そのうち、口で吸わなくても指でつまむだけで勢いよく噴出するようになった。  
「凄いね、人体」  
文字通り目と鼻の距離の光景でありながら何処かしら映像じみた光景に浜面はただ感嘆する。  
ホルスタインとか言ったら原子崩しが跳んでくるんだろうな、と馬鹿な考えが脳裏に浮かんだ。  
 
「やだ、なんでこんなに出るの……」  
麦野も予想外の光景にただ戸惑うばかりだ。  
こうにも自分を自分の知らない存在に変えていってしまう男の存在が少しだけ怖くなる。  
一方で、こいつのためだったら何処までだっていってやる、という勝気な部分が誇らしげに自分自身に惚気た。  
「ちょ、やだ、駄目だってばっ! 乳首引っ張るなっ!」  
そんな健気さを知ってか知らずか、吸い付きながらももう片方の乳首をぎゅっとひっぱる浜面。  
文字通り見上げると眉間に皺を刻んだ自分の妻が苦痛と快楽の入り混じったような表情をしている。  
そして、だんだんとこつを掴んできて、その表情から苦痛の色が消えていった。  
麦野も乳房の内側の張っている部分が解されるような感覚の心地よさにだんだんと呼吸を甘くしていく。  
固くこりこりになって、ぷっくらと育った乳首が舌と唇でぎゅっと潰されると悲鳴を上げるように濃厚なミルクの香りが口の中に広がる。  
「やべぇ……マジになりそう……」  
童心に帰ったかのように浜面が懐かしい味に脳髄を蕩かす。  
吸ってない胸からミルクを飛ばしながら浜面は夢中になって飲み干していく。  
呆れたような顔をして麦野がその頭を優しく撫でた。  
「うっわ、可愛くねぇ、可愛くねぇの。なに夢中になってるんだよ、馬鹿」  
それでも口調は柔らかい。  
リスのように頬を膨らませた浜面がいやらしい笑いを浮かべて麦野の胸から離れた。  
「ちょ、ちょっと……まさか……」  
そのまさか通り、麦野の頭を捕まえた浜面が口移しで麦野自身の母乳を麦野に飲ませた。  
「ちょ、いやだって……ぐ、んぐっ……げほっ!」  
抵抗し、気管に入って咽た麦野が反射的に浜面を突き飛ばした。  
しばらく咳き込んだあと恨めしそうな目つきで浜面を睨み付ける。  
「……てんめぇ、覚悟は出来てるんだろうなぁ」  
「いいじゃねぇかよ、飲めるだろ? それなりにさ」  
「だからってねぇ、自分の身体から出たものを無理矢理飲ませられたら気分がいいわけないでしょうが!」  
「元々飲むためのもんなんだから、慣れだよ慣れ。経験だよ、経験」  
強気な割りに尽くす女である麦野だが、やはりそれでも越えてはいけない一線というものは存在する。  
にやにやと下品に笑う目の前の男に麦野は久しぶりの殺意を覚えた。  
もちろん、青白い電子線で炭にするだけでは飽き足らない。  
そんな一瞬の苦痛ではまったく気分が晴れない。  
「そーかそーか、慣れれば自分の身体から出たもの飲めるんだな。わかった、じゃあ今から精液飲ませてやるからな」  
言って、妊娠しているなどと思えないほどに猛然と浜面に襲い掛かって押し倒し、麦野の母乳に夢中になって完全に勃起していた肉竿を口に含んだ。  
元々頭のいい麦野が練習し、そして毎日のようにこなして経験を積んだスキルはあっという間に浜面を土俵際まで押し込む。  
「ちょ、ちょっと、え、冗談だよね?」  
快感に顔を歪ませながらそれでも何とか逃げようと浜面が麦野に声をかける。  
も、奉仕を続けながらもその瞳は鬼をも屠りそうな殺気に満ちている。  
「ちゅ、んぐ……飲めるんだろ? 大丈夫大丈夫、慣れるまで私が搾り取ってやるから」  
「え、えっ、いや、止めてマジで! うわ、滅茶苦茶気持ちいいのに全然夢中になれねぇ!」  
「れろっ……ん、考えてみりゃ、中出ししたあといっつも掃除させられてるよな。  
 自分のもの無理矢理舐めさせられてるのは昔からだったんだよな。  
 じゃあ少しぐらいはやってもらわないと釣り合わないよなぁ、はぁまぁづぅらあぁ」  
「おいおいやめろ! 三人称が結婚前に戻ってる戻ってるっ!」  
ミルクの甘い匂いが満ちた室内に浜面の絶叫が響いたのはそれからすぐ後の事だった。  
 

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