朝のHRの予鈴が鳴るまであと五分といった時刻。
同じ制服を着た生徒たちが三々五々、門をくぐっていく中。
場違いな服を着た少女は、通学路の中で目立っていた。
「……はぁ、はぁ……」
息を切らして膝に手をつき、少女は恐る恐る後ろを振り向く。
やって来るのは自分と面識のない生徒ばかりであることを確認すると、純白の修道服に身を包んだ少女『インデックス』は、片手で胸を押さえてホッとため息をついた。
だが、その本来気が落ち着いたときにする動作が終わった後も、インデックスは震え、怯えた顔で辺りをキョロキョロ見回していた。
たった一人で人ごみの中に居るという孤独に対する不安もある。しかし、今のインデックスを怯えさせる主たる理由はそれではない。
まあ今はその話は置いておくとして……。
「あれ? あなたは……」
聞き覚えのある声。
インデックスがそちらを向くと、思ったとおり、自分の知り合いがそこに居た。
その少女は無表情ながらも、少しばかり怪訝そうな色を瞳に表しながらこちらを見つめていた。
「あ、あいさ……」
「大丈夫? 何だか震えてるし……それに、どうしてこんな所に……」
どうしてこんな所にいるの? と言うつもりだった姫神秋沙は、次の瞬間ギュウと自身に抱きついてきたインデックスのおかげで最後まで喋れなかった。
通学路の地平線に何やら花が咲いたようなオーラが一瞬見えた気がしたが、どうでも良いので今はスルー。
「……助けて、あいさ……! とうまが、とうまがっ……」
「上条君に何かあったの? もしかして……」
姫神の胸元に顔をうずめながら、インデックスは顔をそこに擦り付けるように首を横に振った。
「とうまが、来る……!」
「?」
また見知らぬ何者かから襲撃を受けたのか、と推測していた姫神は、この時のインデックスの一言が理解できなかった。
これではインデックスは、彼女の現在の同居人であり味方である上条当麻から逃げてきたと言っているようではないか。
ただ喧嘩してきただけにしては少女の表情は深刻だ。異能力や魔術が溢れるこの世界、上条自身を操り何かをたくらむ者が現れても不思議ではない。
とにかく、彼女の力になれる方法を頭の中で考えながら、
「……落ち着いて。大丈夫だから、何があったのか詳しく教」
まずは状況を聞こうとした、その時。
「おーい、待ってくれよインデックスーっ、あっはっはっはー」
……例えるなら三流恋愛ドラマのハッピーエンド。
または好きな異性と浜辺で追いかけっこしているという典型的なイタイ妄想。
そんな架空の世界から飛び出してきたような爽やかさを全身に纏い、上条当麻……と、遺伝子的にはそう呼べる人物が、満面の笑みを湛えてこちらに向かってきていた。