荒い息を立てていた少年の体がビクッと震えて、その動きを止めた。それと同時に上ってくる熱い  
感触に、自分に覆い被さる少年の背中に回していた手に力が籠もる。  
「つッ」  
 爪が立ったのだろうか、少年が小さく声を上げた。その声に焦ってしまって、自分自身息も絶え絶えと言った状態なのに、わずかに顔をしかめた少年にインデックスが――かろうじて絞り出した声で  
――話しかける。  
「ご、ごめんねとうま、爪が……」  
 息を荒げていた少年、上条当麻が声をかけた銀髪の少女、インデックスに顔を向ける。  
「あ、いや、平気…って、こっちこそ、痛かったろうに、悪かったよインデックス」  
 上条が心配そうな表情になる。  
 そのまま、おそらく本人は細心の注意を払っているのだろう、欲望を吐き出してやや力を失った『上条自身』を引き抜いた。  
 破瓜の血と、上条の吐き出した白濁が入り交じって赤とピンクと白のマーブル模様になった体液が、  
少女の小さなその膣中に収まりきらずに流れ出る。  
 掻き回され、引き裂かれるようだった鋭い痛みが、それを残しながらも今度は重い痛みに変わって、  
のし掛かるように少女の体を襲った。  
「はっ、ううっ…」  
 思わず漏れた嘆息に、上条がはっとした表情でインデックスを見つめる。  
「すっ、すまんインデックス…あ、ああ、悪ぃ…」  
 何と言っていいのか、何を言ったら良いのかが判らない。悪い、とか、ごめん、とかそういった謝  
罪の言葉が羅列されて、上条がただただ混乱していくのがよく判った。  
「はっ、はあ…だ、大丈夫だよ……だって、」  
 インデックスは心底心配そうな表情をした少年の目をしっかりとのぞき込んで、確かに我慢はして  
いるが辛くない――なぜか、本当に辛くはないことを伝える。  
「痛いけど、痛いのは、これが、夢じゃないから…」  
 力の入らない両腕が上条から離れないように、その背中の上で両の指を絡める。  
「それでも、もし、夢だって言うなら――朝になってもこの夢が醒めないように、ずっと、ぎゅって、してて…」  
 その言葉に、上条もそっとインデックスの背中に腕を差し入れて、銀髪の少女の白い裸体をそっと  
抱きしめた。  
「そう、だな、もしも夢なら……醒めない方が良い、俺も」  
 抱きすくめられたその耳元にささやく。  
「幸せだよ、私…。すごく、しあわせ。とうま、大好き――」  
 
                     −*-  
 
 これまで通りならユニットバスから抜け出してくる朝。  
 今朝はベッドから抜け出して、朝食を作った。(自分の)ベッドから起きて朝飯なんてどれくらい  
ぶりなんだ、などと考えつつも、ベッドという単語に昨夜の出来事が重なって頬が緩む。  
 もたもたといつもの倍以上の時間が掛かって、朝食が並んだ。  
 その頃にはインデックスも朝のお祈りを終えていて、  
(そういや、つまみ食いに来なかったな?)  
 浮かんできた考えをひとまず横に置いて、食卓を囲む。  
 どこか、違和感を覚えた。  
(……?)  
 とりあえずは箸を進めることにする。と、  
「ごちそうさま」  
 にっこりと微笑みながら、インデックスが箸を置いた。  
「えっ?」  
 食卓の上を見回す。おおよそ3人前は作ってある。これはいつも通り。自分の茶碗に普通盛り――  
半分以上食べたが――これもいつも通り。インデックスの希望で、可愛らしい絵柄の茶碗を買ってき  
たので小さめの茶碗に、最初は普通盛り、いつも通り。  
 なにが違うのだろう、と考える。  
「インデックス?」  
「な、何? とうま」  
 はっ、と気付いて目の前の少女に話しかけた。  
「めし、1杯しか食べてないけど? おかわりは?」  
「え、もういいよ、おなかいっぱい。おいしかったよ」  
「えっ?」  
 思わず身を乗り出す。茶碗と箸を置いてインデックス側に回り込んだ。  
「大丈夫か? 体の調子でも悪いのか? …あ……、昨夜、その、あー、ずっとはだ……」  
 言わんとしていることが通じたのだろうか。インデックスは顔を真っ赤にして俯くと、小さな声で  
ごにょごにょと呟きだした。  
「調子なら、悪くないよ? …風邪とか、ひいたワケじゃないよ、本当だよ? あの、その、………  
……で、…………だけど、体調は悪くないよ? 熱だって、ないもん」  
 そう言うと(半分以上は聞き取れなかったが、言わんとすることは判った)、顔を上げてその額を  
上条の額にこつん、と当てる。  
「でしょ?」  
 お互いに真っ赤に顔を染めてしまって、熱があるのか無いのかなど全く判らなかったのだが。  
「そうか、それなら良いんだけどさ」  
「うん、大丈夫だよ。本当におなかいっぱい。たくさん作ってくれたのに、ごめんね」  
「いや、それも、別に良いんだ」  
 上条とインデックスの双方が目を合わせたり、逸らしたり、見つめてみたり顔をさらに紅潮させて  
みたりしながら、朝食の時間はうやむやに過ぎていった。  
 
 
 しかし、昼食も、夕食もインデックスは上条が思うところの『女の子の普通の食事量』を食べたに  
過ぎず、一日が終わる。  
 入浴を終えて、  
「ねえ、とうま、いっしょに…あの、その、寝てくれるんだよね?」  
 そう話しかけられて、インデックスの食事量に脳内をクエスチョンマークで満たしていた上条も、  
思考が飛ぶ。遠回しにも求められて、また、そんなお膳立ての中、超えてしまった一線に青少年の脆  
い理性が耐えられるはずもなく、その一夜も寝不足のまま過ぎていった。  
 そして翌日。  
 翌々日。  
 そのまた翌日。  
 インデックスの食事量は、凄まじいまでに激減したまま(といっても、今までが異常だったと言え  
ばそれまでなのだが)変わらない。  
 が、インデックスが特に空腹を訴えてくるとか、上条が学校から帰って冷蔵庫を覗き込んでも、何  
かを食い荒らしたとか言った様子もなく、それでいてインデックスが体調を崩しているような様子も  
ない。むしろ色つやも良いような、もっともこれは、ここのところ常時この純白シスターの機嫌が良  
いのでそのことも加味されているのだろうが――元気だし、何もおかしくない。  
 上条家の家計の事情から言えば福音とでも言うべき事態なのだろうが、上条の心理的に納得する結  
論に達することなくさらに数日が過ぎた。  
 
「あー、太陽が黄色いってのはこういうことか」  
 ぶつぶつと呟きながら学校への道を歩く。  
 上条を受け入れることに慣れてきたインデックスの身体は、今度は少女自身にも身体的な快感を与  
えるようになってきたらしい。触れてみたり、唇を寄せたり、そして……。  
 上条を求める白い裸体に、とにかく止まらない。やり過ぎだ、とは思うものの。  
「やめられるわけ無いよな……」  
 顔が自然と火照ってくるのを感じる。  
 しかし、話は変わるが今朝もインデックスは小食で。  
 
                     −*-  
 
「……と、言うワケなんだが、インデックス、大丈夫なんかな? それとも何か? 魔術的ななんた  
らで食えなくなってるとか、逆に今まで食い過ぎてたとか、そういうことなのか?」  
 教室に辿り着いて、土御門元春を見つけるとそんなことを話していた。もちろん、夜のことは抜き  
である。  
 が、土御門はニヤニヤと上条を見つめると、  
「理由か。理由なんて、簡単ぜよ」  
と一言言うと椅子から立ち上がり、教室の中央に向かって大きな声を上げた。その声に、教室にいた  
クラスメイトたちが上条たち――いや、上条一人を見据える。  
「あー、クラスの諸君! カミやんが俺らをさしおいて、ひとり先に大人の階段を上ってみたら女心  
が難しいとお悩みだそうだにゃー! 先達に対して差し出がましいことだと思うが、諸君らの心から  
の忠告をカミやんにっ!」  
 土御門の演説に、教室内が殺気だった。上条が慌てて土御門を引っ張る。  
「おっ、おい土御門っ! いったい何言って! そもそも話そのものがっ!」  
 泡を食った表情の上条に、血の涙を流さん勢いの殺気と哀愁を背負った土御門がゆっくり振り返る。  
座ったままの上条を見下ろすと、口の端を吊り上げさせた。角度のせいだろうか、サングラスが太陽  
光に反射してその目は見えない。  
「カミやん。夏服なんだぜい? 襟がよく開いてるんだが、首筋にキスマークはなあ」  
「えっ!!」  
 慌てて首筋を押さえる。  
「ほらバレた。それになカミやん。部屋、隣ぜよ? 壁薄いんだよあそこは。激しかろうが何だろう  
がその辺はカミやんの勝手だが、いい加減、寝不足でなあ」  
「…まじ?」  
「マジ。本気と書いてマジ」  
 次の瞬間、クラスの男子生徒たちが上条に襲いかかった。消え入るような上条の悲鳴が響く。  
 が、土御門自身はそこに参戦することはなく、それを見つめるだけだ。  
 
(抑圧されての、というか、精神的要因での、まあ、ストレス性の過食症があるとは聞いていたが…。  
禁書よ、上条の鈍さに、あれほどの量を食い散らかすほどの過食症になってたのか? メチャクチャ  
ぜよ…いや、メチャクチャなのはカミやんか? こんな鈍いというか――いや、よそう)  
 
 顔をゆがめて苦笑する。  
「彼女は過食症、ってか? 直ってよかったじゃないかカミやん。ま、これは俺とクラスからの心か  
らの祝福ってことで」  
 揉みくちゃにされる上条から、返事はない。  
 出来ないだろう。  
 土御門は、再び顔をゆがめて苦笑した。  
 
 

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