「……上条当麻。今のは一体?」  
「いや、その、違うんです、これには話せば長くなる深ーい理由があってですねえ、上条さんは先程の意味不明な現状を一体どこから話していいものかさっぱり」  
ここは病室であり個室。  
俺が入院している個室。一応、見舞いに来てくれる奴も居る。  
ていうか、今現在俺の前にも見舞いに来てくれた奴が一人居る。長身黒髪ポニテが特徴の女性、神裂火織。  
いや、そんな事が言いたいんじゃなくて。問題はその神裂の視線の先にある事態であって。  
いくら養生中で動けないからって女性のそれも美人の聖女様の眼前にパンパンに股間のズボンの布地に張ったテントを晒しちまったなんて俺は変態ですかバカですかキチガイですか青髪ピアス以下ですかっていうか冒頭から不幸だああああああああっ!  
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! このままだと斬られる! だからって下手に答えればやっぱり斬られるどうしよう考えろ上条さん生き残るすべを脳をきりもみ回転させて考えろ!)  
そもそも、神裂がこの病室の戸を開けた頃は俺の息子は通常通りだったのだ。  
だけどね奥様(誰?)、上条さんも男の子なんです。上条さんの目の前で何気ない動作で貴方様が前かがみになった時にそのおっきな胸が揺れるんです。その片方断ち切ったジーンズからスラリと伸びた足に変な妄想を掻きたてられるんです。  
繰り返しますが上条さんも男の子なんです。ただでさえ病院で退屈でヌくための雑誌とかしまった持って来てないあー参ったなあなんて時にそんな刺激的なものをいやらしい目以外の何で見れると仰いますでしょうか?  
ああ俺のバカ! いくら数日中に退院予定の元気な体だからってベッドから出るんじゃなかった! あのままベッドに潜り込んでたならまずこんな痴態は貴方様のお目にはかからなかったでしょうよ!  
今は慌てて被せた掛け布団にその忌まわしい下半身は隠れているが、もう遅い! バッチリ見られました!  
「だから、あのですね……まあ……その……」  
先延ばしの言葉も間もなく底が尽きようとしてますよ上条さん!  
考えろ! 最も穏便に済む答え方を考えろ! もう時間が無い!  
答えろ!  
「……その……まあ、いわゆる……欲求不満ってやつ?」  
……ぉぃ。  
オイィィィィィィ! この期に及んで一番最悪の答え言ってしまったよ上条さん!  
事実を言ってどうすんですかここまで引き伸ばした意味が無いじゃないですか上条さんのバカ野郎ぉぉぉぉぉ!  
ああ、神裂が何も答えません。これは何ですか無言の怒りってやつですかああそうですかいわゆる死の宣告ですねもう逃げられません打つ手無し!  
父上、母上、どうか先立つ不幸をお許しください……  
「……欲求不満? って……!」  
その意味に気付いた神裂の顔が真っ赤に茹で上がりました。  
この先の展開が目に見えるようですよ、間もなくあなたの腰のベルトに下がってる鞘からそれはそれは見事な輝きを放つ刀が抜かれてこの貧相な肉体など一刀両断するんでしょう。  
嗚呼、人生の最後に聞く台詞が「この変態!」だなんて幼少時代の将来に夢を馳せていた上条さんには想像だにできないことだったでしょう。  
さあ、目を閉じてこの世界に別れを告げよう……。  
 
「……」  
沈黙。  
一分ほど経ちました。  
……あれ? どゆこと?  
何故か目を開けた先に広がっているのはお花畑でも三途の川でもなく、変わらず清潔な色合いの病室でしたよ?  
そして目の前の神裂はあれから微動だにしていないみたいです。  
え、何このわけの分からない展開。  
「えっと……神裂?」  
斬るなら焦らさないで一思いに斬ってくれ! という意味を込めて彼女の名を呼んでみます。  
真っ赤な顔で、済まなそうに眉を下げた彼女は体つきに似合わず可愛らしいなということは置いといて、何で固まってるのかを間接的に聞いてみたのです。  
「……いえ、その……貴方に、借りがあるのは確かです……から」  
両手の指を胸元で組み、それを見つめるように下を向いて照れている神裂。  
というか、さっきまでの会話と脈絡が無さすぎやしませんか? このヒトは何が言いたいんでしょうか。  
「……?」  
借りがあるから今回の件は水に流すと仰ってくれたのか。  
それならありがたいが、でもそれだけ言うにしてはやけに躊躇ってるような……。  
「……だから……もし、そういう……よ、欲求とやらを持て余しているん……でしたら」  
ますます言ってることが分からなくなって……  
……ん?  
い、いやいやそれは有り得ない。  
一瞬の予感とはいえ一体何考えてんだ上条さんは。  
考えてもみろ、不幸な人生十数年歩み続けしこの身がそのような妄想ブッチギリハアハアなイベントに足を踏み入れるはずが  
「あの……私にも、手伝えることが……あれば……」  
 
 
…………( д )゜ ゜  
 
……  
 
……ちょっと待て。  
何だ今の幻聴は。新手の魔術か? 俺は幻想殺しの右手で自分の頭を叩いてみる。  
だが今聞いたことの記憶は消えない。  
手伝うって……え、ちょっと? そんな困った茹蛸みたいな顔で言われるとそういうことにしか聞こえないんですけど。  
「え!? あ、いやそんないいよ借りなんかそんな!」  
俺は心からの気持ちで慌ててそう言った。  
あれもこの右手が呼び寄せた不幸の一環のようなものだから全然誰を責める気も  
「……!」  
 
……ヌギ、ハジメテ、ル?  
 
「ストップ、ストーップ! ストップです神裂さんあんた何してやがるんですかっ!」  
慌てて制止の声を早口でまくし立てる上条。  
「な、何って……言ってからじゃなきゃ……言葉にしてからじゃなきゃ駄目、ですか?」  
ヘソ出しのTシャツに手をかけすでに捲り始めている神裂が、俯き気味の顔を上条に向け、消え入るような声で言った。  
その初々しい態度はいつもの丁寧な口調とも相まって彼女を幼く見せていてそれを見た上条の股間テントが更に  
――じゃなくてっ!  
「そ、そういう意味で言ったんじゃねーって! っ、っていうかこっちの処理は俺だけで何とかできないこともないから何も神裂が無理することは」  
「言ったでしょう……貴方には借りがあると。そして借りとはいつまでも持ち続けるわけには……」  
「だからそうじゃねえっつーの! 借りを返す方法なんて他にいくらでもあるじゃん! 俺はただこういうお返しを望むほど変態ではないと言いたいだけでうおわああああっ!!」  
とにかく神裂のしでかそうとしている事を止めようと舌を回す上条だったが、次の瞬間信じられないものが眼前に飛び込んできて思考停止した。  
はみ出すようにして捲れたTシャツの下から露になってる乳。  
いわゆる『下乳』。  
魔術師に問答無用の不意打ちをかまされた瞬間の様な奇声をあげる上条。  
そして思い出したようにバッとベッドの上で方向転換して神裂のほうに背を向けた。  
今のは忘れようとする……が、一度意識してしまうとなかなか忘れることができない。  
捲り上げた裾を無理やり押し上げているように見えるほどの、巨大な二つの肌色を、何度も思い出してしまう。  
……心臓が、ドキドキうるさい。  
そんな青少年にはキツイ心境に追い討ちをかけるように、衣の擦れる音が上条の耳をついた。  
―スルッ……シュルルッ……ファサッ……  
……い、今のってまさか。  
 
それは、柔らかく、軽い何かが、空気に邪魔されながらも舞い降りた音。  
目は背けても、耳まで防ぐことはできなかった健全な男子上条当麻。  
いけないことだと言い聞かせても、視覚が役に立たない今は聴覚が鋭敏に冴え渡り、今の音が何を意味していたのか簡単に気づいてしまう。  
「ちょっとちょっと神裂さん聞こえてますか!? あなたをお慕いしている天草な皆様がこのような事態を知ることがあればどうなるか考えて下さい! 悪いことは言いませんからどうか冷静になって下さい!」  
目を閉じ、頭を下げていても、確かに背中に感じられる人の気配。  
そこにいた女は、服を着てはいても、その上から羽織っているものは何もない。  
つまり、服を脱いだ音がしたということは、後ろの女は今、気軽に人、少なくとも男には見せられない格好になっていることを意味する。  
上条は、無意識に自分の首が振り返ろうとしているのに気づいて自己嫌悪した。  
「……」  
神裂からの返事はない。  
その代わり、プチ、と小さく弾けたような音がして、上条の心拍数は急速に高まった。  
駄目だと分かっているのに、上条の頭には神裂が何をしているのかが思い浮かんでくる。  
またも、ファサ、と何かが落ちた。  
上条は今の神裂の格好、そしてそれから先を想像しようとする雄の自分を決死の意思で食い止めた。  
(非常事態発生! 上条さんの思考中枢に一級警報発令! ただ今上条さんは多くの人々から多大なる何かを奪おうとしている! 神裂火織に、最もさせてはならない事を行わせようとしている!)  
上条はこの神裂の性格について理解していたはずだった。  
彼女は律儀で真面目で、一度やると決めたことを簡単に投げ出したりはしない。周りの遠慮がちな拒否など受け付けない。  
だから、本気で彼女を止めようと思うのなら、大声でやめろと怒鳴れば良いと分かっているはずだった。だがそこは若さ溢れる雄の性。十代の男である上条が真っ向から拒否できないのは当然だった。  
「……いいん、ですよ? こっちを見て頂いても……」  
「……!!」  
上条が死力の限りを尽くして築き上げた意思は、彼女からこんなにもか細く紡がれた一言に、半ば壊されかけてしまっていた。  
 
「……私じゃ、駄目なのですか?」  
神裂の潜んだ声が、上条の耳をくすぐる。  
潜んだ声なのに鮮明に聞き取れるのは、それが上条の耳元で囁かれたからであって、耳をくすぐったのは、言葉の合間に僅かにかかる、暖かい吐息だった。  
驚き、目を見開いてしまう上条。筋肉が強張り、硬直する。  
「ちっが……っ! んなもん、あなた様の前ででっかく勃てていた男に今更聞くまでもないことでしょうが! 男ではあるが上条当麻変態説は否定しようと必死な上条さんは、第一にあなた様にこの場からの穏便な撤退を激しく要求します!」  
上条はますます活発になりつつある股間のオトコノコを持て余していた。  
「違うの、ですね……良かった……」  
一人安堵の声を漏らす神裂の、その一言に怪しい艶が現れ始めていた。  
ホッとついた彼女の一息は大きく、その全てを柔らかい耳の肉に受けた上条はビクッと肩を揺らす。  
「ちょ、待て神裂、いい子だから人の言ったことは最後まで聞いて下さい! 繰り返しますが、男ではあるが上条当麻変態説は否……」  
……上条は最後まで言い切ることができなかった。  
細く綺麗な腕が上条の両脇から伸び、硬いテントを張った股間に触れる。  
上条は明らかに自分のものではないサラサラな黒髪が、自分の首筋を撫でるように伝うのを見た。それは自分の左肩の後ろあたりにかかる重みの所から伸びているのだろうか。  
背中に当てられる、例えようもない今までに感じたことのない柔らかな感触。  
「か、ん……ざき……」  
「そのまま、動かないで下さい……」  
上半身に何も纏っていない神裂が背を向けて座る上条を抱きしめるように両腕で包み、彼の肩の上から覗けた彼の股間のチャックを探り当て、丁寧に下ろしていく。  
「私は、聖女と呼ばれる身であるからとて、俗物的な知識が欠片もないというわけではないのです。……上条当麻」  
開いたチャックからは必然のように、元気の有り余った男根が飛び出していた。  
「っ……!」  
初めて異性に大切なモノを晒した戸惑いで、思わずそれを隠そうとする上条の手。  
だが、神裂がそっと手で防いでそれを制すると、力を入れたわけでもないのに上条の手は止まった。  
 

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