七月、まだ梅雨明けが報告されていない学園都市で上条当麻は激しい雨に打たれながら帰途についていた。  
 
「くぁー、傘をパクられるなんて、不幸だー!」  
 
朝、学校へ持っていった筈の傘は上条が置いておいた場所に無く、だからと言って他の誰かの傘をパクる事も出来ないので仕方無く学校から近くのコンビニまで突っ走り、ずぶ濡れになりながらも傘を購入したのだが・・・  
 
 
「500円もしたのに・・・小さ過ぎないか?これ」  
 
 
傘はせいぜい中一位の子どもが入れる大きさでしかない  
 
 
「な、何ブツブツ言ってんのよ!あ、あたしが雨に当たるからもうちょっと寄りなさい!」  
 
 
隣にいるお嬢様はご立腹の様である  
 
 
何故御坂が上条の傘にいるのかは数十分前に遡る  
 
 
高校から数分歩いた所にあるコンビニ、上条はそこへ一分で辿り着いていた  
 
 
しかし雨の中、走ったとはいえ濡れるものは濡れる、上条のYシャツと下に着ている制服はすでにずぶ濡れになっている  
 
 
「思わぬ出費に上条さんの家計も打撃が・・・」  
 
たった525円の出費なのだが一人暮らしでしかも大食いシスターが居候中なので家計が圧迫されまくりなのである  
 
 
「今日は禁書は小萌せんせーとお泊まりバイキングか・・・なんで俺誘われないんだろ・・・」  
 
はぁ、という溜め息を落とし、Yシャツの水を絞り、コンビニに入ろうとした時だった  
 
 
「あぁー!もう!あの爺ぃ!私の傘盗っていきやがってぇ!」  
 
 
聞き覚えのある声を尻目に上条当麻は本日何度目かになる溜め息を吐いた  
 
 
場所は変わりコンビニの中  
 
途中乱入した御坂美琴は困惑していた  
 
上条の高校の近くにある黒蜜堂のプリンを買いに行き、プリンを買ったまではよかったのだが店先に立て掛けておいた傘が無くなっていた  
 
そこで御坂は入れ違いになった80歳位の爺さんがボケて盗っていったと信じ、つい先程まで怒りの矛先を向けていたのだが・・・  
 
「なぁ御坂」  
 
「・・・何よ」  
 
「どうするんだ?」  
 
「知らないわよ」  
 
「なんで傘が一本しか売ってないんだろうな」  
 
「雨だからでしょ」  
 
はぁ、と項垂れる上条当麻  
 
それを横目に御坂の頭は『相合い傘』という乙女の妄想で埋め尽くされていた  
 
触れ合う体、感じる相手の体温  
その妄想全てが御坂をドギマギさせる  
 
何せ妄想の相合い傘の相手は現在、なんでなんで、と呟いている上条当麻なのだから  
 
しかし御坂はある現実に気付く  
 
この上条当麻は優し過ぎる奴だと  
 
おそらく御坂から何の言葉もなければ「俺は他探すから使えよ」と言って雨の中走り出してしまうだろう  
 
御坂はそれは阻止しなくてはいけない  
 
しかしどうやって、と思考する  
 
ふと横で項垂れから顔を上げた上条が目に映る  
 
上から下までまんべんなく濡れてびしょびしょだ  
 
それでよく寒くないわね、と思考に過る  
 
そこで御坂にある思いつきが浮かんだ  
 
「ね、ねぇ」  
 
「・・・なんだ」  
 
上条は顎に手を当て何か考えている  
 
「あ、あんたん家ってここから結構近いの?」  
 
上条が顎から手を話し御坂に向き合う  
 
「一応お前の寮よりは近いな」  
 
「だっ、だったらさ・・・」  
 
「なんだ、まっ、まさか御坂さんはこの雨の中走って帰れと仰るのですか!?」  
 
「ち、違うのよ!あんたん家でシャワー貸して欲しいの!」  
 
 
 
 
「・・・はっ?」  
 
ついさっきまでの真剣な表情とは一見し上条は惚けた様に口をぽかーんと開けた  
 
「(あ、あたっあたし、い、言っちゃった)」  
 
余り見たことのない表情を浮かべた上条を正面に、御坂は真っ赤に染まっている顔を俯けた  
 
「な、なぁ御坂」  
 
「なっ、何?(でっ、でもでもこっ、このまま行けばアイツと・・・)」  
 
「お前今寒いのか?」  
 
「はっ、はぃ?」  
 
「お前顔赤いしさ、雨ん中走ってきたらしいから制服濡れてるし、寒いのかな〜っと思いましてね」  
 
「あっ!えっと・・・寒い・・・・かな?」  
 
御坂の返事を聞くと上条は再度顎に指先を当て小さく唸り始めた  
 
たまに「禁書の下着があるから・・・」と言っているが今の御坂に聞こえる筈がない  
 
「(なっ、何を考えてるのかしら、でっでもアイツの部屋のシャワー・・・・わわわっ!)」  
 
 
 
「御坂は明日何か予定あるか?」  
 
上条の声を聞いてハッ、と顔を上げる  
 
「あっ、明日?確か土曜日だったっけ?」  
 
「そうだけどさ」  
 
「とっ、特にない・・・けど」  
 
再度顔を俯かせる御坂、その返事を聞いて上条は良し、と相槌を打った  
 
 
「御坂」  
 
 
不意に両肩を掴まれる  
 
「お前今日泊まってけ」  
 
 
へっ?、と間の抜けた声を出す御坂、上条は説明を始める  
 
 
「いやさー今日ってもう六時ぐらいじゃん、外も雨が降ってるし暗いしさ、シャワー借りてくならそのまま泊まっていけ、と上条さんは思います」  
 
 
間の抜けた顔で上条の顔を見る  
 
そこにはいつもの様なだらけた表情ではなく、微笑みを浮かべて御坂を見ていた  
 
「(とっ、泊まってけってあっあいつの家に!ひっ一人でぇぇ!)」  
 
「どーする?御坂、お前次第だけど・・・」  
赤く俯く御坂、何故俯いているのか理由は上条に分かっていないようだ。  
「だっ大丈夫なの?」  
スカートの端をちょびっと摘まみ、俯いたまま呟く。  
「大丈夫って何が?」  
さも当たり前のように言葉を受け取る上条に御坂は少しだけ上条宅に居候をしている禁書を呪った。  
 
 

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