伊集院レイとつきあい始めて3日が経った。  
それはつまり、俺らの卒業式から3日が経ったと言う事だ。  
 
卒業式の後、誰からとも知らぬ、(だが筆跡からして女の子からと推測される)手紙が、机の中にあって。  
どこの学校にも一つや二つありそうなファンタジックな校庭裏の伝説の木  
-----それは女の子が好みそうな、永遠に結ばれるやら何やらの伝説だったが------  
の下に呼び出され、僕は特に何の感慨も無くその木の下に向かった。  
ら、伊集院レイが居た。  
 
三年間クラスメイトで常日頃嫌味な金持ちの『坊ちゃん』だと思っていた、伊集院レイが。  
つまり、三年間「男のクラスメイト」だと思っていた人間に  
「家の家訓で男の格好してたけど、実は女でした★」と言うありえないオチと共に、告白されてしまったのだ。  
 
三年間常に、その形の良い頭の後ろで結んでいた金の髪を下ろして、さらさらと音がしそうな  
ストレート・ヘアを僕に見せつけながら、ウチの高校の女の制服を着た伊集院レイに。  
 
俺はその日、さっき迄3年間男だと思っていた人間に告られて、承諾した。  
 
 
それから3日して今日は、伊集院とつきあい始めて2回目のデートだ。  
が、2度目にしていきなり家に呼ばれてしまった。  
「まぁ、その辺で適当にくつろいでいてくれたまえ。」  
…物凄い模様でぶ厚い絨毯やら(高そう)変な絵やら(高そう)家の門をくぐってから  
玄関迄何分掛かるんだ!?ってクソ広い屋敷やら、あらゆる調度品やら部屋の豪華さや  
センスが一般からかけ離れているさは、こいつ主催のクリスマスパーテイの時に来た事あるから、分っていた。  
この広い屋敷の奥まった場所にある、こいつの私室に入るのは初めてだったが、  
今更ロココ調の家具やら今時の高校生らしさのカケラも無い、ついでに女の子らしさのカケラも無いインテリアの類では  
もう驚かん。そこは想定の範囲内だ。  
そこにかわいいシカさんの、怖すぎる頭のみ剥製が壁に掛かってるが、それもまぁいい。  
 
だが、これだけは想定外だ。これだけは!!  
「何故男装なんだ。何故男言葉に戻ってるんだ。」  
いじゅういん。  
目の前の俺の「彼女」の筈の伊集院レイは、以前の通り金の長い髪を後ろで縛り  
男物のシャツ、ネクタイ(!)細身のスラックス。  
物の見事に三年間見慣れまくった男・伊集院レイの私服姿だ。  
確か伝説の木の下での告白の時に『卒業したら普通の女の子に戻れるのv』とか言って無かったか伊集院。  
 
今日!今!この時のこれは、彼氏(俺だ)と君の「デエト」だろ。  
 
「ハッ、あれは貴様を口説き落とす為の演技に決まっておるだろう!  
三年間も慣れ親しんだキャラと態度と口癖がそう簡単に直ると思うかね?  
口説き落としたらこっちの物だ。」  
 
と、何がそんなに誇らしいんだか、ハーッハッツハッ…と「ああ伊集院だな」って感じの高笑いを続ける。  
何に勝ちたいんだお前。  
 
…まぁ何でもいいがな。今更。  
 
俺も大概だが、恋人になって尚、普通に伊集院は伊集院らしく伊集院で、何だか毒気を抜かれる。  
1年の時分、入学当初に伊集院を見た時、薔薇を普通に持ってるわ、一人だけ制服違うわ(何でだったんだろう)  
毎日登校がリムジンだわ、立ち振る舞いは王子入ってるわ、なのにモテてるわで、  
他の凡庸なクラスメイト、否全校生徒と鑑みても明らかに一人だけ異質に愉快な人だった。  
存在がネタな様な奴だった。  
そして俺は正直、『お友達にはなれない』と思った。愉快過ぎて。  
(俺は平穏を愛してる人間だ。)  
なので、そんな派手に愉快で存在自体ががネタの様な伊集院レイが「実は女でした★」とか言われても  
愉快な伊集院の人生にひどく似つかわしく感じて、驚いたが、驚ききれなかった。  
ギャグみたいな人生が似合う人って得だな、伊集院。  
 
 
俺がそんな失礼な物思いに耽っている事も知らず、  
「僕がこんな格好で、何か不都合でもあるかね?」  
と言いながら、いつの間に準備したのか  
カチャ、と豪華そうなテイーソーサーに乗せられたカップをテーブルに置く。  
・・・別に無い、って理由を考えてたんがな、今。  
伊集院が淹れてくれたらしい紅茶を見ながら、ぼんやり考える。。  
俺は紅茶の種類なんて詳しく知らないが、心地よい香りがするので多分そこら辺にも、伊集院のこだわりがあるのだろう。  
・・・ほっそい指。  
伊集院は俺の前に紅茶を置くと、俺の視線など全く気付いた様子も無く  
対面に自分の紅茶を置き、テーブルを挟んだ俺の対面のソファーに座ろうとする。  
…をい。  
 
その指に引きづられる様に、指の先のやはり細い手首を掴んで、俺は伊集院の細い体ごと自分のソファーの横に座らせた。  
こいつ、やっぱり分って無かったんだな。  
つきあってるヤツを「自分の部屋に呼ぶ」と言う事の意味が。  
「・・・。」  
『彼女』の細い肩を掴んで、体ごと俺の方を向かせて顔を覗き込むと、「何をするんだ君は」と伊集院の顔に書いてある。  
…考え方を変えれば。  
男装をしてた高校三年間は確実に彼氏を作れなかったんだから、  
(仮に中学の時彼氏が居ても、高校三年間の間にほぼ確実に別れただろうから)  
そう考えると、この時代錯誤で何がしたいのかよく分からない愉快なこの家の家訓に、お礼でも言いたくなる。  
 
客観的に見て、伊集院は綺麗だ。  
卒業式の時と、最初のデエトの時しかまだ女装はお目に掛かっていないが、はっきり言って目茶目茶可愛かった。  
陽に透ける金の髪、長い睫、すっきりした目鼻立ち、スレンダーな体の線。  
すれ違う男は、ほぼ確実に振り返った。  
三年間男だと通せてしまっただけあって、ハスキーな声も立ち振る舞いもひどく中性的で、  
それが又アンバランスな魅力となって、一昨日のデートの間中、俺はずっと目が離せなかった。  
 
訝しがる「彼女」の綺麗な顔と、深い色の目を覗き込みながら、手のひらで確認しつつゆっくり撫でる。  
あのさ。  
「あのさ」  
肩に乗せた左手は、そのまま腕を撫で下げる。  
傍に居る伊集院にしか聞こえない様な声で、そっと優しく言う。  
「・・・俺が、伊集院に告られた時、何て思ったか、分かる?」  
顔を撫でた右手は、そのまま結んである髪を往復する。  
「・・・知る訳無いだろう。」  
 
黙って俺のされるがままになってる癖に、冷静な振りをして、俺から目を逸らしながら答える。  
「…あの時は、自分が必死で、そんな事」  
恐らく「考えてる余裕なんて」とか続けたかったんだったんだろう語尾は、俺の口の中にあっけなく消える。  
初めて彼女の唇を撫でる様に味わいながら、俺は頭の中で、そっと、続ける。  
あのさ、  
あの時、俺。  
すげー腹立ったんだよね。  
 
 
どうやら驚いたらしい伊集院は、一瞬体をビク、と固くさせ、両手で俺を押し戻そうとする。  
が、なだめる様に優しく触れるだけのキスを繰り返し、肩から背中に流れた左手と  
頭の後ろの首のあたりの右手に角度を付けて、無意識のうちに逃れようと動く体を、逃さない様に掴む。  
力を入れすぎない様に注意しながら。  
伊集院の口の表面は柔らかい。  
何度か「お願い」をする様に、ゆるく口で口をついばみながら、伊集院の表情を覗き込む。  
その途中にも、腕で体の角度を変え、ソファーの背に押し付ける様にキスを続ける。  
伊集院は困ったのか、突然の事態に対処し切れないのか、顔を真っ赤にしながら目をぎゅ、っと瞑っている。  
あー、こいつ中学の時も絶対彼氏居なかったな。  
まぁ、10中8.9居ないと思ってたけど。こいつ色々ウカツだし。  
…いやまぁ俺も居なかったんだけど。  
 
とーぜん俺もキスもその先も始めてで、俺ももっと緊張だの手はずが不器用だのしてもいい筈だが。  
はっきり言って俺はかなり今キレている為、至極冷静に欲望の赴くまましたい事ができてしまっている。  
俺も、自分はもっと小物だと思ってたよ。  
 
ひどく長い時間を掛け、唇の表面を舌で舐め上げる。  
「・・・っつ」  
と、呼吸が苦しくなったのか、今まで噛み締めていた唇が少し開いた。  
と同時に俺はその口腔内にも舌を滑り込ませ、伊集院は俺から更に深いキスを受けるハメになった。  
ソファーで、俺に上半身分の体重を掛けられ、無意識に押し戻そうとしたであろう両手も  
背中から流れた俺の左手にいっしょくたに掴まれて、俺の緩慢な唇への愛撫を受けさせられている。  
ああ、かわいそうだな、と他人事の様にちら、と思う。  
 
伊集院の今の姿は、俺が三年間見続けた男の姿なのに、口の中や掴んでいる腕はやはり女の子だな、と思える。  
俺の力で、そう苦で無く押さえ込める程、華奢でやわらかい。  
時間を掛けて自分の好きな様に、伊集院の口の中を蹂躙する。  
角度を変えて舌でこいつの口の中を舐め上げるとくちゅ、とやらしい音が立った。  
その音に、困った様な表情のまま俺にされている伊集院から「…っ、ンッ」と鼻に抜けた様な声が出る。  
キスに意識が集中して来たのか、少しずつ緩慢に彼女の体から力が抜けてくる。  
俺は角度を変えて彼女を抱かえ直そうと、少し、お互いの口腔に馴染んで来た唇を離すと  
彼女の少し名残惜しそうな潤んだ目や、上気した頬、濡れた唇なんかが目に入った。  
その扇情的な光景にもう一度口付ける。  
 
今度は彼女のスラックスの間に左足を入れ、もう戒める必要の無い左手も、触りたいままに  
彼女の男物のシャツの上の右胸のあたりに触れる。  
 
と、固い。感触が、ひどく。  
…サラシ?  
 
「彼女」の右の胸を俺の左手で触れると、固い布の感触がした。  
多分、これはサラシと言うヤツだ。  
こいつが男装する時は、これで胸を包んで男のフリをしていたんだろう。  
お前こんなモンしてるから、胸が育たなかったんじゃないのか。  
 
角度を変え好きな様に彼女の口腔を犯してる間に、俺はそっと彼女のネクタイを剥ぎ、  
シャツのボタンを外す。我ながら初めてなのに仕事が速い。  
触りたい所なんて死ぬ程ある。  
恥ずかしいだろうに、体を固くしながら半ば強引に俺の愛撫を受けさせられている伊集院は、  
体が密着している所為と、初めてのキスで半ばパニックに近いらしく  
俺の手が動いている事に、全く気づいていない様だった。  
恥ずかしくて瞼に涙を溜めながら、俺に口腔を犯されている伊集院は、可愛い。  
 
そんな視覚的にもやらしい伊集院を見逃したくなくて、キスの角度を変えると  
「・・・ン、」と無意識に出たんだろう声と共に、瞼が少し開いた。  
と、同時に  
 
「何をする貴様ーーッ!!」  
 
どかッ  
蹴られた。腹を。  
多分本人は思い切り蹴ったつもりだろうが、俺は余り痛くなく、  
反動で伊集院の体の上からソファーの前のテーブルに腰掛ける形になる。  
 
俺に完全にボタンを外されたシャツと、半分位緩めかけられ、はだけたサラシをシャツで隠しながら  
 
「つきあって3日目で初チューの後はもうコレかっ!  
やっぱり僕とつきあったのは、かわいく麗しい僕の体だけが目当てだったんだな!?」  
 
涙を目に一杯溜めながら、真っ赤になって伊集院が怒っている。  
そのしっかり握られたシャツの胸元に、さっき俺がこっそり付けた跡が残ってるのが、見える。  
伊集院が怒ってるのは分るんだが、そんな表情ですらもう、何ていうか。  
「…そうだよ。」  
と間を置かず言うと、こいつは一瞬分り易く傷ついた表情をした。  
その表情を確認して、俺はこっそりと哂う。  
 
伊集院は確かにかわいくて麗しいが、そんな女の子は俺の回りにそらもう沢山居た。  
ついでに言うと俺は顔も頭もそこそこで、そこそこモテていた。  
この自由恋愛の現代に於いて「家柄」とか気にさせられる程度に環境が吊り合わないわ、  
男装して高校入っちゃいました★とか言う笑える青春送ってるわ、勉強出来ても性格がアホの子だわ  
そもそも女の子の好みが「フツーであれば良い」と言う凡庸な俺が、わざわざ伊集院みたいな  
面倒臭いヤツとつきあってる時点でおかしいと思わないか。  
 
あんまりこいつが分り易くかわいいので  
「…ってのは嘘で」  
って、とぼけたら  
「どっちだ!」  
って、真剣に突っ込まれた。  
うるせぇ、死ぬ気で悩め。  
 
口で説明する気の無い俺は、胸元でシャツを握る伊集院の細い手首を取って  
手の甲にゆっくり口付ける。  
ちゅ、と音を立てて。  
腑に落ちない、と言う表情をしている伊集院をそのままぐい、と引き寄せ、開いている方の手で背中に手を回す。  
外れかけのサラシの背の下に。  
 
「…又、貴様は…っ」  
 
と、まだ俺を信じきれないのか単に恥ずかしいのか、片手でシャツの首元を握ったまま  
体をよじって俺から逃げようとする。  
何、まだ3日目だから早いってか?  
俺は我慢なんて、3年もしたのに。  
 
俺から顔を逸らして逃げたい伊集院に余計征服欲を駆られた俺は、軽くこいつの脚を引っ掛けバランスを崩させる。  
よろ、とソファーの方に前のめりになった伊集院の肩と腰を抱いて、ゆっくりとソファーに伏せさせる。  
もう両手の入る程ほどけたサラシの隙間に後ろから両手を入れ、ふくらみを柔らかく揉みしだく。  
計らずともソファーにうつ伏せの格好になった伊集院は、俺の両手が直接の胸の上にある事を認識すると、  
一瞬息を詰めた後、背中の上に乗る形になった俺の方を見ながら、真っ赤になって困った様な表情をする。  
 
…や、め、と小さく声が出た後、俺の表情を見れないかの様に脇の下から胸に伸びている俺の腕を解こうと  
自分の胸の上で好きな様に動く俺の手を止めようと、サラシの上から俺の手に重ねる。  
そんな弱い力じゃ、俺の手なんて止められない。  
ソファーの上に組み敷いた伊集院は吃驚する程華奢で、俺の腕の中にすっぽり入る。  
俺に直接触られて、困惑した様なこいつは、もうどんなに男の服を着てても、女にしか見えない。  
目の前にあるこいつのうなじから唇を這わせ、さっき俺が付けた鬱血の跡に狙いを定めてもう一度強く吸うと、  
…は、ぁ、と細く高い声が微かにする。  
鬱血の跡は少し濃くなった。  
 
そのまま、弱い抵抗をする伊集院の手なんて意に介さず  
その柔らかい胸を両手で円を描く様に蹂躙して、その中心の突起を爪で引っかく。  
止めたいのか、うつ伏せになりながら全身に力を込める伊集院の肩からシャツを少し剥ぎながら  
肩にたくさんのキスを落とす。  
伊集院の長い髪が顔をくすぐる。  
触った後の手に、柔らかく残る胸の感触が消えない内に又そこを俺の好きな様に揉む。  
たまに突起を摘むと、少しでも俺の手を動く範囲を狭めようと力を込め小さくなった伊集院の体が  
びく、と電気が走った様になる。  
顔を体の下の方に背けて、恥ずかしさに耐えている伊集院の恥ずかしい表情を見たくて  
「伊集院、こっち、向け」  
と真っ赤になっている耳元に優しい声を叩き込むと、しばらく間があってから、素直にゆっくり、こっちを見た。  
羞恥と困惑と快感の入り混じって涙ぐみながら俺を睨んだ伊集院は、  
見たかったそんな表情をようやく見れた俺の、満足しつつもひどく意地悪な表情を見たんだろう。  
その後、又俺に口腔をさらわれて、目を閉じた。  
 
 
「レイさま、お茶をお持ちしました。」  
ノックと共に、ドアの外に人の気配がした。  
 
驚いたのか、伊集院の体がさっきとは別の意味でびく、と震える。  
恐らく、この家のお手伝いさんだろう。  
お客の俺に、お茶を運んでくれたと思われる。  
 
…さ、どーする?  
 
伊集院家の一人娘の、レイさんが実家の私室で男にソファーに押し倒されて、  
娘さんは半裸にされて胸を揉まれてました、じゃ言い訳のしようも無い。  
これが、家人になんてバレたら、それはもう滅茶苦茶シャレになんて、ならないんだろうな。  
家に、格式とやらもあるらしいしな。  
俺と伊集院はこいつを猫かわいがりしていると言う先日卒業した高校の理事長に、離れさせられるかもしれない。  
「ウチのかわいい娘に何しくさるんじゃ」と言う至極マットーな理由で。  
いや、好雄みたいに俺も、伊集院とつきあった記憶とかをトばされるのかな。  
(しかし現代科学の何をどうしたら、そんな事が出来るんだろう。魔境かこの家。)  
 
だけど、それを選ぶのは俺じゃない。  
俺は、困惑するこいつを見下ろしながら、うつ伏せになってるこいつのスラックスのベルトに手を掛ける。  
そんな俺を信じられない物を見る表情で、下から見る。  
これ以上俺にやらしい事をされたくなかったら、このお手伝いさんに助けを求めればいい。  
その代わり、多分俺にはもう会えない。  
選ぶのはお前だ、伊集院。  
 
その俺の意図を正確に汲み取ったのか、困った様な泣きそうな様な表情を一瞬してから、  
一呼吸。  
 
「…いい、お茶は僕が出した。」  
「勉強をしてるから、下がっていてくれないか。」  
 
と、多分頑張ったんだろう至極冷静な声を出しつつ伊集院は言った。  
俺の下で俺に襲われながら。  
…勝った。  
 
そんな伊集院の言葉を本当に疑わなかったのか、ドアの前の足音は又パタパタと遠ざかる。  
俺に告白をして来た伊集院には余りにも分が悪い賭けに、勝った俺は  
嘘つき、と又うつ伏せになった伊集院の耳に、更に追い討ちを掛けた。  
 
「なぁ、寝室、何処?」  
無駄にゴーカな伊集院の部屋の今はまだ他にいくつものドアがあって、どれが寝室に繋がるドアなのか分らない。  
余りに直接的な俺の台詞が勘に触ったのか、又俺を一睨みすると  
「もうこんな…事は終わりだ、止めだ止め!!」  
と、ソファーに伏せた体勢のまま起き上がろうとする。  
が、上に俺が乗っかってるわ俺に胸と下腹部を触られてるわで体に力が入らないのか、すぐ潰れる。  
止めるかよ。  
 
あんな弱い抵抗で、助けも呼べないわそんなんじゃ。  
俺に好きなだけされるに決まってる。  
 
ソファーの上で俺に襲われている伊集院は、このゴーカな調度品溢れる彼女の私室の壁に  
等間隔で5つ程あるドアのどれが寝室へ繋がる物なのか、口を割らない。  
 
「なぁー、ベッド行こうよ。」  
「つっ…つまみながら言うの止めたまえ!」  
 
真っ赤になりながら半泣きでキレる伊集院は、自分がもう何を言ってるのか分らなくなっているらしい。  
俺に背中の方から回された左手で胸の突起をいじくり回されているのが、気になって仕方ないらしく、  
伊集院はサラシの布越しに右手で懸命にその動きを抑え様としている。  
たまに、胸全体を揉んで中心を指で弾くと、息を詰める様な高い音がかすかにするのがたまらない。  
下腹部は、俺にベルトとスラックスのジッパーを下ろされた事に抵抗して、  
少しでも俺に触られにくくしようとうつ伏せの下半身に力を入れている。  
が、そんな如きの抵抗が男の力に敵う訳が無くて、閉じた内股もこいつの止めようとする左手も空しく  
薄い布越しに、俺の右手は両脚の中心を何度も擦る様に撫でている。  
…しっとりと、濡れているのが感触で分る。  
 
あーもー…無理だ。  
 
本当は口を割らせる迄じくじくしとしとと苛めて、そんな伊集院の様を観察したかったが、  
あんまりこいつの反応がかわいいわ色っぽいわ泣き顔がたまらないわで、そろそろ俺の方が限界になってきた。  
はだか見たい。  
 
ぐわっ、と伊集院を姫だっこして、立ち上がると俺はロココ調の、一般人からは変にしか見えない  
豪華ゴーカな装飾品の合間を潜り抜け、さくさくすたすたと左端のドアに向かう。  
まぁ、普通の間取りから考えて、順番に開けていけばいつかは寝室にぶつかるだろう。  
無かったら床でヤろう。(伊集院はキレ倍増だろうが。)  
 
即座に色々割り切った俺は、  
急に裏返され、俺に背中と両膝の裏のあたりをを持ち上げられて  
俺の胸のあたりで固まっている伊集院の額に、軽くキスをした。  
「相手が、俺じゃ、嫌?」  
そうじゃ無い所で抵抗している事を、分っているが聞いてみる。  
逃げ道を無くす為に。  
こいつ、見た目通り軽いな。  
 
「又 貴 様 は そ の 手 の 質 問 ば か り …!」  
 
俺の胸の上で片手ではだけたサラシと胸をシャツで隠しながら、もう片方の手で俺の顔の所を押される。  
あ、今度はバレた。  
言わせたいだけなんだよな。何度でも。  
ひゃひゃひゃ、と笑いながら力強く1つ目の扉を開けると、奥が何処まで続くか分らないクローゼットだった。  
男の制服と女の制服が見える所に並んでいる。  
『今度アレ着てしたい』と思ったが確実に殴られるので、黙っている。  
二つ目の扉は、奥が何処まで続くか分らない靴の部屋だった。  
「…イメ○ダ夫人…」  
とその凄さ(無駄の)に何だかよく分からない感嘆の感想を漏らしたら  
「フッ…庶民はこれだから…」  
と何だか良く分からないが誇られた。  
前髪を払ういつものポーズしとるから、チチ見えてるよ。  
 
3つ目の扉を開けようと、伊集院を抱かえ直しながらドアノブに器用に手を掛けると  
俺の胸元で伊集院が  
 
「ああ…そう言えは寝室だったね。残念だが、この部屋には無いんだよ。  
僕はおかあさまと一緒に寝てるからね。  
この部屋には君が全部食ってやれ、と言っていた僕宛のバレンタインのチョコが山盛りに…」  
 
と明後日の方を見ながら捲くし立てる。  
それを聞いて俺はにぃ、と笑う。  
アレだな、伊集院。お前一番でっかい嘘以外はかなり下手だよな。  
(って言うか下手ってレベルを超越しとる。)  
ここか寝室。  
 
音のしない程度の強さでドアを足で開けると、予想に違わずカーテンの空けられた大きな窓と、大きなドレッサー、  
部屋の隅の壁に隣接して少し広めのセミダブル程の大きさのベットと、間接照明だけがある、程よい大きさの部屋が現れた。  
ほう。  
「いい感じの部屋で寝てるな、伊集院…」  
扉も厚くて防音は良さそうだ。  
ぴっちゃりと、ぶ厚い木材で出来た扉を後ろ手で閉める。  
伊集院は無言でじたばたしている。  
 
俺はかって無い程の物凄い上機嫌で、さくさくと伊集院ごとベットに近づき、壁に伊集院の背中を押し付ける様に下ろして  
自分もベッドに乗り上げる。そのまま間を置かず真正面から深く口付ける。  
二人分の体重を受けてギシ、とベットが軋んだ。  
 
さっきとは比べ物にならない程の激しさで、伊集院の口腔を貪る。  
舌を絡ませて歯列も裏も存分になぞって、吸う。  
ぴちゃ、と唾液の絡まる音がするが、その音にさえも興奮して、又深く貪る。  
もう何度目かのキスだが、伊集院は一向に慣れる気配が無く  
息苦しそうに、小さくなって目を閉じて俺に蹂躙されるがままになっている。  
こいつの両肩を掴んで壁に押し付けてる手を、シャツの上からなぞって、角度を変えて口腔を貪る合間に  
胸にずらしていく。  
もう俺にはだけさせられて、殆ど意味の無い程隠せていないサラシの下に両手を這わせて今度は正面から  
円を描く様に揉む。時々、両手の親指で円の中心の突起を引っかく。  
こいつはここが好きなのか、…ん、と鼻に掛かった声が又出る。  
首からキスを滑らせて、さっきとは逆に右の突起を左手でいじりながら、左の突起をサラシの上から口に含む。  
空いた片手は体のあらゆる所をなぞる。  
口の中にサラシ特有のざらついた感触と、その向こうの柔らかいしこりの感触を舌で楽しむ。  
右の突起を強く握り潰しながら左のを甘噛みすると  
「んっ…やめっ…」  
と小さい声を出しながら、俺の二の腕を正面から押す。緩い。  
お前3年も男の振りをしてても、ちっとも男心を分ってないよな。  
そんな反応は煽るだけだろ。  
 
口の中の突起は、布越しでも、固くなってくるのが分る。それが面白くて左手で胸を好きな様に蹂躙しながら  
右の突起を軽く吸ってから布越しに大きく口を開けて噛むと  
「ふっ…、はぁ…ッ…」  
と抑えようとしている声も抑えきれずに、びく、と体が揺れる。  
恥ずかしいのか、俺を押さえてた細い手で声が出ない様に自分の口を抑えた。  
そんな様がひどく可愛らしくて、手でサラシをずらして隙間に両方の突起がちょうど来る様にして  
狙いを付けて又そのピンク色の突起を吸う。今度は強く。  
舌のざらざらした所で舐め上げ、好きな方向に潰す。  
糸の引くほど右の突起を貪ると、次は左の突起を同じ様に口腔の中で遊はせる。  
伊集院は泣き出す一歩手前の様な表情をして、懸命に口を抑えて声が出ない様に我慢していたが、  
ようやく左の突起から口を離した俺が、又右の突起を責め始めるのを見て、根を上げた。  
「やぁ…もうっ・・・変な、声、出る…ッ」  
口を手で押さえながら、息が上がって、頬が上気して、目が潤んでいる。  
こーゆー表情が見たかった。ばかみたいに、三年間も。  
勿体無く顔の半分を覆っている手を、優しく外すと、いとおしくて可愛がる気持ちで又キスをした。  
俺はさっきから確かに怒っているが、腹を立てているが、こいつのこーゆー顔を声を、俺にだけ暴かせてくれてると思うと、  
少しだけ気が済む。  
 
優しくついばむキスの間に、彼女の腰に手を回して少し壁から浮かせて、首の裏に回した手でシャツをつかんで  
今度はちゃんとゆっくりと脱がす。  
こいつの肩は白くて細い、華奢な両肩で、俺は又キスして触りたいな、と思う。  
上半身は、最早殆ど胸を隠す役には立っていない白いサラシしか無くなる。  
綺麗だ。  
俺は外気に触れて少し寒そうな背中を、撫でる様に抱きしめながら、首の後ろの髪留めもゆっくりと外す。  
ぱあ、と金糸の様な髪が広がる。  
俺の可愛がりたい気持ちがきちんとキスで伝わるのか、俺がシャツを脱がせても髪を解いてもキスを続けても  
今度は何の抵抗も示さず、俺の首の所に手を添えて目の下を紅くして、それでも受け入れてくれている。  
 
…本当に、女だったなんて。こんなに、綺麗に、女だったなんて。  
ふざけてる。  
ふざけんな。  
 
俺は、本当に最初から、1年で、出会った時から。  
男だと思ったんだ。  
現実離れした金持ちで、勉強出来て、女にもモテる、非凡でアホな性格のアホな男だと、思った。  
平凡万歳、な俺とは遠い世界に住んでいる。  
なのに何かと俺に突っかかってくるわ、突っかかってくる割に性格も思考回路もアホだから  
何だか放っておけないわ、無駄に自分に自信を持ってるので短慮に豪快に誘拐されるわ(豪快に解決してたが)  
庶民を傍若無人に見下す割りに抜けてて、悪気はあるのかもしれないが本心では無い、って言うか  
かまって欲しい事を自分で分かって無いって言うか、何か天然に可愛げがあるって言うか。  
長々とクラスメイトとしてタマに喋ったりしてつきあってると、そーゆー中身なんか結構分ってしまったりして。  
 
それでも1年目は、何だか放っておけんなぁ、って感想しか抱かなかった。  
けど2年目は「えっ…やべぇ…ちょっと…可愛くないか?」とか思ってきてちょっと、否かなり焦った。  
3年目は、何て言うか、嘘をつかないとマトモに顔も見られなかった。  
 
男だと思ってたのに、って言うか「あの」伊集院だったのに、素で胸に薔薇挿してる伊集院だったのに  
言動と思考が愉快なジェントルメンな伊集院だったのに。  
俺の冷静な方の頭が他に誘うべき女の子を羅列するのに、本能の方の子がついうっかり土曜の夜には  
伊集院に電話を掛けるし、日曜に一緒に出掛けたりなんかしたい、とか言う腐った野望を抱きながらまさか  
本当に誘う訳にはいかないし(男を)でも、何ていうか声だけでも聞きたいとかああ、こいつ声が綺麗だなとか  
そーゆー思考に悩んだり、何も言えなくなりそうで、どうでも良い用事とかどうでもいい話をしたり  
こいつに「僕に電話を掛けてくるなんて、相変わらず暇なんだな。」と言われ 暇 じ ゃ ね ー   
と心で豪快に逆ギレしたい様な気持ちになり、ついうっかり告白しそうになったりな。  
好雄にゆーかいされたと聞いて、「何で俺が」とブツブツ文句垂れながら、つい早歩きで廃工場に行ってみたりな。  
行ったら行ったでもう解決してて(ちょっとドキドキしたじゃねーか)「このアホ御曹司が!」って殴って帰ってきたりな。  
 
その頃にはもう高校入学の本来の目的であった「詩織」にデートに誘われても、俺がそれ所じゃ無かった。  
俺は週末に一番したい事が「誰かさんに電話を掛ける事」だった為、こーこーせーなのにせーしゅん真っ只中の  
高校生だったのに、日曜が暇だったので勉強しまくった為、何気に学年一位が余裕で取れていた。  
ついでに伊集院のクリスマスパーティーは何故か見目麗しく無いと入れない妙ちくりんなシキタリがあるらしく  
ちょっと色々頑張ってみていた。  
のでそこそこ女の子にモテる様になっていた。  
だが、そんな対外的には順調な俺の内面は、全て奴(男)中心で自分が出来ていく事が嫌で仕方なくて、  
でもどうしようも無く気になって、だが、視線で追うのも、それを表に出す訳にもいかなくて。  
俺は正直。…転校したかった。(でも母ちゃんに理由を言わずにその旨を言ったら、一蹴された。当たり前だ。)  
 
そんな中、一度だけ、詩織と遊園地でデートをした事がある。  
(まだ奴の電話番号を暗記して無い頃、アドレスを一ページ読み間違えた、と言うあらゆる意味で最低な理由で)  
詩織はたいへん可愛らしく、俺と居て楽しそうにしてくれたが、俺が、駄目だった。  
あんな良い天気で、可愛くて憧れの様に遠くから好きだった女の子が、楽しそうに笑ってくれて  
昔の俺からしたら、夢の様に望んだ一日だったのに、俺は、駄目だった。  
変わってしまった。  
俺は、その時は表層的に笑顔を作ったが、本当に。  
絶望的に駄目で。  
伊集院の事ばかりばかり考えた。  
 
 
だから、やっと待ちわびた卒業式の日に、机の中に手紙があっても、特に全然感慨も沸かなかった。  
女の子に告白される事なんて3年の間に全く無い訳では無かったし。  
俺は卒業したらもう奴に会えない程遠くへとっとと行ってしまいたかったので、つきあえないが  
直接お断わりする程度でしか誠意に報いる方法なんて知らなかったし。  
 
と思って木の下に赴いたら、金の髪を下ろして、さらさらと音がしそうな髪を俺に見せつけながら、  
ウチの高校の女の制服を着た伊集院レイが居た。  
物凄く緊張をした風情で、ほほを染めて、下を向いている。  
どうした伊集院。可愛いな。何その女装。いや本当めっちゃ可愛いけど。  
 
「…伊集院レイ、本人です…」  
 
うん。何その言葉遣い。  
 
「伊集院家では、女の子は高校を卒業するまで、家の外では  
男の子として生活しなくていけないの」  
 
・・・・。  
流石の俺も、頭の中が真っ白になった。  
って言うか、目の前で起きている現象が理解できない。  
伊集院が実は女でした…それは俺の一昨日のズリエサだ。  
違う。現実逃避でつい下ネタに走ってしまった。  
何だこれ。  
夢?  
 
「すっ…好きです。つきあって下さい」  
 
死にそうに紅い顔をして伊集院が俺に告白してる。  
余りに自分だけに都合が良すぎて、目の前の現実が信じられない。  
(こいつの常識外な人生も信じられないが)  
 
何て言うか、女。しかも両思い、だと?  
はぁ?何言ってんの。  
男が可愛くって仕方なくて男にどきどきして好かれたくって男にあれこれしたくって悩みまくった  
俺の貴重な3年間って一体。何。無駄?  
ヲイ、そこのお前。  
 
…俺のせーしゅんを返せ。  
 
 
 
つい先日の事を思い出して又ムカムカして来た俺は、柔らかく好きな様に蹂躙する唇をそのままに、  
右手を先ほどの下腹部に伸ばす。  
ひどい逆恨みで、伊集院が何も悪くないのは分っているが、俺も悪くない。  
さっきから俺が伊集院の嫌がる事ばかりしているのは、こーゆー訳だ。  
スラックスの下の布に手を這わし、先ほどはうつ伏せになっていて見えなかったので、視界の隅でその様を見届ける。  
ああ、やっぱりな。  
再び彼女の背を壁に押し当て、口腔を蹂躙しながらこっそり腰を持ち上げると、  
右手でぐい、と彼女のスラックスを膝迄引き抜いてしまう。  
 
ちょっ…とキスを中断して抗議の声を上げる彼女の声を、遮って俺は言う。  
 
「 何 故 男 パ ン ツ 」  
 
彼女の抗議を遮って俺こそが抗議する。  
何かスラックスの下に黒のボクサーパンツ履いてるんですけど、この人。  
「…仕方無いだろう。今日のスケジュールに君にパンツ見せる行事は入っていなかったからね。」  
俺の本気度に抗議する気も失せたのか、物凄くもっともな意見を言う。  
…何で最早必要の無い男装を「彼氏」とのデートにして、あまつえ下着に迄完璧を求めるんだろうか君は。  
「…分からん…」  
伊集院の年齢相応の乙女心が何処にあるのか。  
無いのかもしれない。  
 
「ちょっ…萎えたんじゃないのかっ!触るのやめたまえっ…!」  
伊集院相手に最初からラッピングなんて期待するかよ。  
其処まで愚かじゃねーし。  
 
割とぴったりとしたデザインのその黒い男性用下着は、伊集院の両足の間の中心を指で前後になぞり続けると  
又じんわりと指が、しとりと濡れてくる。  
や…、と慌ててこいつが両足を閉じようとするが、俺が間に左足を抱かえてしまって、閉じられない。  
左手で濡れてそこの形が分り易くなった布の上から、割れ目をゆっくりとなぞる。  
指が動く度に布越しに濡れてくる様をもっと見たくて、左足を持ったまま、彼女の両脚の間に体を滑らす。  
「やッ…見る…な…っ!」  
俺に視姦されている事にすら何か得体の知れない感覚に襲われるのか、両手で俺の視線の先を遮ったが  
すぐに左足を持っている右手を素早く動かして、こいつの両手も絡め取ってしまう。  
そして又左手で布越しに割れ目をなぞる。  
そこを相変わらず視姦しながら、綺麗な伊集院の脚をもっと見たくてスラックスを全部脱がせて  
内股に沢山のキスを残す。  
声を出すまいと、切なそうな表情をして唇を閉じているが  
俺の内股に落とされたキスの後の唾液が冷たいのか、中心をいじる指に反応するのか  
時折、びくびくとこいつの肢体が跳ねる。  
内股に落としていたキスが付け根迄到達すると、割れ目を弄っていた指を止めて今度は舌で布越しに舐め上げる。  
その行為に驚いたのか、びっくりして脚を又閉じようと力を込めるが、俺が閉じさせないので伊集院は結局  
俺のしたい様に辱めを受ける。  
「やぁ…そんな…とこ…」  
泣きそうになりながら恥ずかしがる伊集院の声を聞きながら、俺はそこを丹念に舐め上げる。  
舌に布の感触。染みて来る体液の味。  
ああ、しょぱいんだな、と思いながら、左手で、男性用下着特有の前のボタンを外して、中の開きに指を滑らす。  
 
こーゆー所は便利だ。男用、と思いながら柔らかい茂みの感触を親指で感じつつ、もっと下に滑らす。  
割れ目の先に、感触で「これかな?」と思う様な突起があって。  
知識でしか知らないそれを引っかくと  
「・・・やぁ、」  
と、反応があった。  
じわ、と濡れる感触も舌で感じる。  
そこら辺一体をゆるく噛むと、力が抜けたのか壁のもたれた背が、ずる、と降りてきた。  
 
 
「あっ、あん、…っやあっ…」  
金の髪をシーツに垂らしながら、俺に最後の一枚も剥ぎ取られた伊集院はもう何も隠す役に立っていない白い布を胸に絡ませながら  
それ以外は何も身に付けない姿で、両脚を絡め取られてその女の中心を俺に丹念に指で擦られている。  
指二本でも、誰も受け入れた事の無いそこはまだ、十分に狭い。  
緩急を付けながらゆっくりと、慣らしていく。動かす度にぐちゃぐちゃと音がして、やらしい。  
さっき見つけた紅い割れ目の上の赤い突起は、俺に丹念に舐め上げられていて。  
「やっ…もうな、かっ…熱っ…」  
もう何かぐちゃぐちゃで俺に抵抗をする所じゃ無くなったらしい伊集院を戒める必要も無くなったので、  
空いている手は好きな様に胸や体中を愛撫する。  
こんな風に乱れる伊集院を、見るのは、楽しい。  
そこは2本の指から受ける愛撫に少し慣れて来た様子で、俺は三本目をゆっくりと入れる。  
一番敏感な所を広げられて又その感覚に襲われたのか、  
「…ぁ…、」  
と快感の涙を流しながら、又指を受け入れる。  
涙をそっと舐め上げると、愛液と同じ味がした。  
 
2本の親指で広げられながら俺の舌を受け入れていたそこは、ひくひく動いていた。  
じゅる、と愛液を吸って又、指を入れて順番に増やす。  
「…は、あっ、…ん」  
泣いている様に目を伏せ、でも身体は敏感に反応する様は、たまらない。  
…そろそろかな。  
俺は伊集院に見せ付ける様に手に付いた愛液を舐め上げると、パンツのポケットからゴムを取り出し口で開封する。  
腰で履いたパンツのファスナーを緩め、物凄い最初から張り詰めていた自身に装着する。  
…俺、凄いな。とても童貞とは思えない仕事の着実さと落ち着きっぷりだ。  
日曜が散々暇だった所為もあって、高校生男子らしくついうっかりこっちの知識も雑誌とかで学んでしまったが  
元々頭の出来は良かったらしく、流れだのテクニックだのを物凄くはっきり記憶してしまった。  
…まぁ、そーゆーこっちゃ無いか。  
俺に全部脱がされて、全部見られて、いじられて舐められて、散々喘がされたかわいそうな伊集院を、まだ視姦する。  
俺のしている事に気付いて、怖いのか往生際悪く逃げようとする伊集院の細い足首を掴んで  
引き寄せる。伊集院の両手で掴んだシーツに、皺が出来る。  
「…に…逃げたいんだが…」  
物凄く嫌な汗をかいているらしい伊集院は、背中に乗っかられた俺へ、無理だと知りつつ本音を言う。  
まぁ、怖いだろうな。  
「んー痛く無い痛く無い。」  
後ろから頬にキスをしながら、心で、なるべくな、と付け加える。  
俺の童貞喪失なんて言わば、どーだっていい。  
大事なのは俺がこいつを全部抱ける、って事だしね。  
 
伊集院は、最初こそ喘ぎ声の合間に「いた」とか「いたた」とか出ていたが、  
ゆっくり俺が全部納めてしまって、身体中にキスしまくっていると、少し痛みに慣れた様だ。  
 
金に透ける髪がシーツの合間に漂って、自分がどんな姿になっているのかとてもじゃないが見れなくて  
照れた様に目を逸らす伊集院の肢体は、サラシからはピンクの突起が見え隠れして、  
正常位で両脚を抱かえられて、俺の楔を中心に打ち付けられている。  
 
その、何だか堪らない光景にらしくなく理性が吹っ飛んだ俺は「痛く無い様にもう少し待とう」と思った事なんて  
スカっと忘れて、好きな様に伊集院の身体を揺すり始める。  
「やっ…ちょっ…まだ痛ッ…やっ…抜きたま…ぁっ、」  
あ、ゴメン、どうも、違うみたいだ。  
俺は伊集院に逆恨みで意地悪がしたいんだとさっきまで思っていたが、  
俺、伊集院の嫌がる顔が好きみたい。  
「抜け」と言われると余計奥迄入れたくなるらしい。  
どうも俺ただ、伊集院限定のサドみたい。  
 
俺はぐい、と俺に揺すられている伊集院の腕を取って、一度引き抜く。  
そのまま間を置かず胡坐をかいた俺の「上」に向かい合わせて座らせる。  
「又」挿入される感覚がたまらなかったのか、声にならない声を上げる。  
今度は伊集院の体重も掛かって、もっと奥まで探れて、伊集院はもっと、深く俺を受け入れるハメになる。  
ぐしょぐしょに濡れているのでつる、と入って、又滅茶苦茶に揺すって中をかき回す。  
「…あっ…やぁ…ん、そんな、」  
脇の下に片手を入れて、もう一方を腰に「だっこ」するみたいにして入れて擦って、揺する。  
親指で控えめな胸のピンクの突起を、サラシごと擦る。  
「…ふ、うに…する…な…っ」  
伊集院の目からぽろぽろ涙が落ちてくる。  
ぐちゃぐちゃと音がして、耳からも伊集院を侵す。  
入れてる所も擦られてる所も恥ずかしい所も全部見える。伊集院からも。  
「は…あ…熱っ…あ、    」  
元々キツくて限界を感じていた俺は、伊集院が中で俺を締め上げる感覚に捕らわれて、果てた。  
 
 
伊集院がようやく目を覚ました頃には、俺はほとんど身支度を済ませていた。  
伊集院の。  
そして俺はと言うと、脱がすのが楽しくてスカっと忘れていた。自分が脱ぐの。  
 
最初に俺と伊集院の居た居間のソファーに寝かされていた伊集院は  
最初訳が分らなかったらしくぼーっとしていたが、身支度の最後のネクタイを俺に締められているあたりで  
記憶が戻ってきたらしい。  
一瞬で、青くなったり紅くなったりして最後は左手で自分の頭を支えながら  
ぺち、と俺の顔の上に右の手のひらを置いた。  
ネクタイ結べねー。  
 
しかし、何て言うか、アレだな。  
裸にして自分の好きにした女を、何事も無かったかの様にバレない様に、  
又元通りに服を着せるってのは、萌えだ。  
俺のモンって感じがする。  
そのままソファーに、疲れたのかずる、と突っ伏してしまった恋人に  
「…なぁ、伊集院、俺の事すき?」  
と素直に聞いてみた。抱いた後も?  
 
俺はと言うと、いざ本当に抱いてしまったら、身も心も結構すっきりしてしまって。  
さっき迄俺は腹を立てていて、その原因は、今も恨めしいが(俺はしつこい)  
今はただずっと叶わないと思ってた事が叶って、素直に嬉しい。  
俺が凄く嬉しそうに聞く姿が珍しかったのか  
「・・・先日言った通りだが?」  
と照れながら、ぶっきらぼうに答えてくれる。  
それを見て、笑う。  
 
別に、俺、もう、伊集院が男でも女でも何でも良かった。  
女だったら俺の思う愛情のかたちを、一番分り易い形でしてやれるな、って。  
そんだけの話で。  
伊集院が俺を好きになってくれるんなら、別にどっちでも良かった。  
 
「すきだよ、伊集院。」  
 
あ、言っちゃった。  
つい、ぺろっと口から出た。  
零れた言葉を回収しようと、口を押さえる。遅いが。  
「そうか、」  
とやはり痛いのか、鈍い痛みに耐える様に不機嫌な表情をしている伊集院は、ぺろっと聞き流した。  
 
あれ?  
 
そのまま、やれやれ、と鈍い鈍痛にが気になる様子でうつ伏せになった途端、  
ぐる、っと全身でこっちを向いて俺の胸倉をがば、とつかんだ。  
 
「もう一回…もういっかい言ってみたまえ。聞いてやろうじゃないか。」  
 
目が本気だ。怖え。怖えよ、伊集院。  
 
目前にあるキレーな顔が、さっき迄俺の手で乱れてたと思うと、いとおしい。  
不意打ちで、べろっと口を舐めると、胸を掴む手に隙が出て、逃げ出す。  
 
「ごまかすな…もう一回言って行き給え…」  
 
立てないらしくソファーの上から物凄い本気オーラが漂ってくる。怖いし。  
恥ずかしいから嫌だよ。  
 
 
 
失われた三年間を取り戻すには、春休みは余りにも短い。  
 
 
後で又電話して、明日は腰の辛い伊集院の為に映画にでも誘おうと考えながら、  
俺はさっき伊集院が淹れてくれた、もうすっかり冷え切った紅茶を全部飲み干してから、ごまかす様に帰った。  
 
 
 
 
 
 
 

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