「ばれなきゃいいって問題じゃねぇだろ・・・。」
不謹慎な発言に本当は怒ってやりたかったが、いくら頭が悪いとはいえ他人のことを考えられないやつじゃない。
だからこそ、真琴が何を思ってそれを言っているのか確かめたかった。
「俺とお前がそれをするってことがどういうことかわかってんのか?」
『わかってる。』
「わかってない。」
『わかってる!』
「わかってねぇだろ!」
『わかってる!!』
「わかってねぇって!!」
『わかってるよ!』
「じゃあお前・・・!」
「それで千昭が戻って来た時に、何のためらいも後ろめたさも感じないで千昭と会えるのかよ!?」
「千昭がいなくて寂しかったから俺とキスしたって、千昭に言えんのか!?」
「千昭が・・・それを聞いた千昭が平気でいられるとでも思ってんのか・・・?」
今の真琴には相当堪えることを言っているとわかっていたが、
それで真琴の暴走を止められるのならそれでも構わなかった。
『思わない・・・。』
「え・・・?」
『それで千昭が平気だなんて思わない。それに、功介とキスしたなんて絶対に言えない。』
「だったらなんで・・・!」
何も言えなくなって塞ぎ込むだろうと思っていたのに、まるで予測していなかったリアクションに驚く。
『千昭のこと裏切りたくない。傷つけたくない。だけど、
時の経過を待つ間、ずっとずーーっと独りなんて、寂しすぎて死んじゃうよ・・・。』
頼りない声を出す。
「あいつのことだ、ふらりと戻ってくるかもしれないだろ・・・?」
まるで気の利かない繕い言葉に、案の定、真琴は「それはない」と言わんばかりに
頭をぶんぶんと横に振って言った。
『千昭は待ってても戻って来ないんだ。私たちが会いに行かなくちゃいけないの。』
「は?」
『でも、会いに行きたいって思ってもそれは出来ないの。時間の経過が必要なの。』
「・・・・・。」
もっとわかるように言ってくれ・・・。
『でも、半年とか1年とかじゃなくて、千昭に会えるのは、きっと・・・・、きっと、
ずっとずーーっっと先だから。だから・・・。』
『あきらめないで前に進み続けるために、今だけ功介の力を借りたいの。』
『一度だけでいい。一度だけしてくれたら、後は頑張れるから・・・だからお願い・・・!!』
「真琴・・・・・。」
言ってることも言いたいことも漠然としか伝わらんが、とにかく、
1回キスをすればいい、ということか・・・。
どうやら、真琴の潔い言葉と視線の裏には、堅固な確信と深い思いがあるらしい。
それはわかった。そして、それで真琴が元気になるのならできる限りそうしてやりたい。だけど、
こちらにもリスクの大きいその理不尽な要求を鵜呑みにするわけにはいかなかった。
「俺の気持ちはどうなるんだ・・・?俺と藤谷のことも、少しは考えてくれよ。」
呆れ笑いで真琴を見ると、真琴は少し照れくさそうに、
『それは・・・・・・・・ごめん。』
と、たっぷり時間を取った後に、申し訳なさそうに小さく呟いた。
やっぱりノープランか。
「・・・・・1回だけだぞ。」
『え・・・?』
「本当に1回だけだからな。」
『・・・・・・・・・・うん。』
真琴は大博打に出ている。なら俺もそうするしかない。
今日はとことん的外れなことばっかりやっている。
的外れな質問に的外れなノロケ。だから当然、
この大博打も的を外すことくらい、冷静になって考えればごく簡単に読めたじゃないか。
どうして気がつかなかったんだ・・・。
そして、この的外れな大博打がすぐ後にケタ外れな大惨事を招くことになる。
「お前、本当に後悔しないんだな?」
『・・・・・しない。』
「途中でやめろって言ってもやめないからな。」
「やっぱり怖いとか、まだ心の準備ができてないとか言っても絶対にやめないからな。」
『ちょちょちょ・・・!!功介!?』
ベッドに乗り上がり、真琴の両肩をつかんで壁際に押さえつける。
「本当に本当に後悔しないんだな?」
念を押すように、まっすぐ視線を合わせて、握り締める手に更に力を込める。
『し、しないって!!・・・・・・・・・・・・ね、ねぇ功介?』
『私たち、キスするだけだよね?』
不安げな顔と声を無視してたたみかける。
「・・・キスだけですむと思ってんのか?」
『え・・・?』
「暗い部屋に男と女が二人っきりでいて、お互いの体温感じ合ってるのに――。」
「何もしないでキスだけして、そのまま終わりなんてこと、あると思ってんのか?」
『功介・・・、何言ってるの・・・?』
真琴がカタカタと震え出す。
「キスだけなんてもんはない、するかしないかのどっちかだ。
最後までいくかいかないかのどっちか。」
「最後までいく気がないならキスもしない。」
「お前に・・・その覚悟はあるのか・・・?」
ごめんな真琴。お前のことは大切だけど、千昭や藤谷も同じくらい大切なんだ。
『・・・・・・いいよ。』
ん?
『最後までする。』
「はぁ!?」
『功介と最後までする!』
「なっ・・・!アホか!!なんでそうなるんだよ!!」
しまった、見当違いだ。大いに見当違いだ。
最後までするか何もしないかの二択しかないのなら、絶対に後者を選ぶと思っていた。
「お、お前・・・・・千昭はぁ・・・・?」
理解不能の返答に身体の力が抜けていく。
手を離すと、真琴はずるりと壁伝いにベッドに崩れ落ちた。
真琴の思考回路はどうなってるんだ・・・。
呆れてものも言えん。
『だからっ、千昭とは当分会えないんだって!』
「そんなのわかんねぇだろ!」
『私にはわかるの!』
その自信はどっから来るんだ!?
『多分10年か20年は先・・・・・。ううん、もっと後かも・・・・・・。』
「・・・・・・・・。」
俺にわからないのは、俺からしたらまるで根拠のない発言にもかかわらず、
真琴には強い確信があると見てとれるところだった。
「千昭がそう言ったのか・・・?」
真琴の顔を覗き込んで尋ねると、真琴はしばらく見つめ返し、
その後、膝を抱えて俯き、
『・・・・・・・・・・・うん。』
と、小さく言った。
「そうか・・・・・・・・。」
なるほど、だから強気だったのか。
どうやら、俺の知らないところで二人だけのやりとりがあったのだろう。
「でもお前・・・ほんとにいいのか?」
だって、
「初めてなんだろ・・・?」
デリカシーのない言葉だとは思ったが、言わざるを得なかった。
この「かかる代価のでかすぎるセックス」をするには、千昭と長い間会えないから、
という理由だけでは納得いかなかったからだ。せめて、それなりの理由を聞かせてほしい。
真琴が静かに話し出す。
『・・・・私は千昭が好き、大好き。だから、千昭に会える日まで頑張るつもり。でも――。』
『今日みたいに寂しくて寂しくてたまらなくて、どうしようもなくて、誰かに甘えたくなって、その時に、
千昭の知らない、どこの誰ともわからないような人とするよりは――。』
『功介がいいって思ったの。』
心臓が、大きく鳴った。
『千昭は、功介だったら許してくれるって思ったの・・・・・。』
「・・・・・・・。」
本当にそうなのか?親友だからこそ、許せないこともあるんじゃないか?
なぁ?千昭。
こういう時どうしたらいいんだろうな?
お前だったらこの状況をどう扱うんだ?お前だったらどうする?
俺はどうしたらいいんだよ・・・。
お前が・・・お前が何も言わずに言っちまうから、こういうことになるじゃないか・・・。
『私は、千昭じゃないなら功介がいいの・・・。』
「真琴・・・・・・。」
俺だって・・・、千昭のことも藤谷のことも考えなくていいなら、真琴の望むとおりにしてやりたいさ。だけど、あいつらのことを考えないなんてこと、俺にはできないんだよ・・・。
『お願い、功介・・・。』
「・・・・・。」
なぁ、藤谷。お前に直接ではなかったものの、悪態ついちまってごめんな。
お前もあの時こんなふうに感じてたんだよな?
大切な人に自分の望む以上のことを求められた時、自分に無理してでも
相手の期待に応えてやりたいと思っちゃうんだよな?
でもそれは簡単なことじゃないから、だからギリギリまで葛藤するんだ。
藤谷、お前もそうだったんだろ?
ベッドに、お前の隣りに座って手を握った時、いや、それよりももっと前――、
多分、家に来るかと誘った時から、俺の肩を跳ねのけるまでの間、
ずっとこんな重圧と戦ってんだな。
お前があの時どんな思いでいたのか、今なら理解してやれるのにな。
「本当に・・・本当にいいんだな・・・?」
『うん。』
「後悔しないんだな?」
『うん、しない。』
やれやれ、腹を決めなくちゃいけないのは俺の方か・・・。
『功介は・・・?功介は、後悔しない・・・?』
何を今さら・・・。
「俺は――。」
する。大いにする。絶対にするに決まってる。
でも、弱り果ててる真琴を突き放すことも、できないんだ。
「後悔しない。」
もう覚悟はできた。
「ま、それに・・・・・、したとしてもそれでいいさ。お前、それで元気になるんだろ?」
やっとの思いで笑顔を向けると、真琴もつられて笑顔になる。
『うん・・・!』
「そうすることで、千昭と会える時まで頑張れるんだよな?」
『うん!』
「約束だからな。」
『うん・・・!』
もう後には戻れない。
薄暗い部屋の中、静寂が沈黙を誘う。そして、沈黙が緊張をピークに持っていく。
冷たい空気が指先の感覚を少しだけ奪っていた。
俺は最後の会話を終えてからずっと真琴を見ていたが、真琴は、
抱え込んだ両膝の上にちょこんと顔を乗せ、一点を見つめたままこちらを見ようとはしなかった。
俺から来いってことなんだろうな・・・。
無言の要求に、お人好しにものってやる。
ベッドの上を、獲物を狙うライオンのように静かに移動して、不自然なほど離れていた距離を少しずつ埋めていく。
一つ手足を出す度に、ギシ、とベッドが軋み、その度に真琴はピクリと身体を震わせていた。
真琴の正面まで歩み寄り、向かい合う。
震える両肩を先ほどと同じようにつかんで、そっと壁際に追いつめると、
真琴は観念したように背中を壁に預け、顔を起こした。
目が合った瞬間、恥ずかしさからかまたすぐに逸らし、
『こっ、功介っ、ジュースは!?ほ、ほら、唇冷やすんじゃないのっ・・・!?』
と、引きつった笑顔で、ベッドの上に放られたままのジュースを手に取った。
俺はそんな真琴から一度も視線を外さずに、
『・・・・・功介?』
真琴がこちらに視線を戻すのを待ってから、ただ首を横に振って返事をした。
真琴が瞳を揺らしながら、きゅ、と唇を結ぶ。それを合図に互いに顔を寄せ、
近くなる距離、息と息がぶつかり合うわずかな合間を縫うように、そっと唇を重ねた。
真琴の唇は、藤谷のよりももう少しだけ厚くて、柔らかかった。
長いキスの後、一旦離して、角度を変えて、今度は短いキスをする。
間隔を置いて、1回、2回・・・。
だんだんと早くなる鼓動が、口伝いに真琴に聞こえてしまうんじゃないか、と
はやる気持ちを隠すために、時折わざと音を鳴らしながら、
やがて、間を空けずに何回も・・・。
強張っていた真琴の身体が、少しずつ解れていく。
肩は下がり、窮屈に折り曲げていた膝を揃えて横に投げ出し、何回目かのキスの際に目を開いた時には、
先ほどまで握り締めていた缶ジュースを、だらりと伸ばした指先の向こうに転がしていた。
ここでやめてもいいんだよな・・・?
そもそも真琴の要求は1回のキスだったんだ。もう十分なほど満たしてやった。
今ならまだ間に合うか・・・。
身体を離そうとした瞬間、真琴の両腕が腰に回された。
頬を寄せ、耳元で囁く。
『だめ、功介・・・。やめないで・・・。』
カッと全身が熱くなって、どこかでリミッターの外れる音がする。
そこから何も考えられなくなった。
再び真琴と向き合って唇を重ねる。何度も何度も、深く、深く。
そして、酸素を求めてわずかに開かれた口に、
『んんっ・・・。』
舌を入れた。
逃げられないように両手でしっかりと顔を固定して、
唇の裏も歯列も歯の裏も、届く範囲を全て舌先でなぞる。
『ふっ・・・・・んっ・・・・・。』
感じてるのか?感じてるんだよな・・・?
繰り返し繰り返し続けていると、真琴も舌を出してきた。
「ん・・・。」
わずかに先と先が触れ合うが、
もっと、と捕えようとしても、まだ要領を得ていないのか恥ずかしいのか、
当たったかと思えばまた引っ込める。
そう言えば・・・藤谷も、彼女の性格と同じように、
控えめに、遠慮がちに、チロチロと舌を出してたっけな・・・。
でもそれは真琴には似合わないと思わないか?それに、
俺はもっと、お互いに求め合っている感覚が欲しいんだ。
「真琴。」
一旦顔を離して、目を合わす。
「もっと舌出せ。」
それからすぐに、また唇を重ね、舌を入れると、
一瞬の間の後に、こちらの言葉どおりに、さっきよりもずっと大胆に舌を入れ返してきた。
俺はそれを、強めに吸ったり、甘く噛んだり、舌先で撫でたり、
こちらを追わせるように引っ込めてはまた出したりと、思う存分堪能していた。すると、
慣れてきたのか、真琴も同じように俺に返してくる。
「んっ・・んん・・・・。」
歯の裏側の歯列をなぞられると、腹の底から何かが這い上がってくるようなたまらない感覚に襲われる。
あぁ、すげぇ気持ちいい・・・。
静かだった空間は、気がつけば、
互いの荒い声と荒い息と、唾液の混じり合う生々しい音で満たされていた。
ディープキスとフレンチキスを交互にしながら、いつの間にか繋いでいた手を解く。
自由になった手で自分のシャツのボタンを外し始めると、
『ちょっと待ったぁ!』
と、真琴の手が伸びてきて、2つ目のボタンを外しかけていた手を止められた。
「・・・なんだよ?」
『脱ぐの・・・?』
「あ?・・・あぁ、とりあえず上をな。」
『わ、私も・・・?』
「お前、脱ぎたいのか?」
『へっ!?』
と、すっとんきょうな声をあげる。
「別に、全部脱がなくてもできるだろ?」
付け足すように、お前スカートなんだし、と指差し、
真琴の手を優しくどかして再びボタンに手を戻す。
中に来ていたTシャツも脱ぎ、半裸になった頃に、
『あっ、そっか・・・。』
と、背中の方で声がした。
『ねぇっ、私もシャツ脱ぐの!?』
「どっちでもいいよ。」
『わかんないよ、功介決めて。』
「じゃあ脱げ。」
『えーーーーーっ!?』
どっちなんだよ・・・。
『見ない?』
「見ないでどうやってやるの?ずっと目ぇつぶってろって?」
『だって・・・・・恥ずかしい。』
「そんなもんなの。」
俺だって、見るのも見られるのも恥ずかしいんだ。
それより、熱と高揚が冷めない内に先に進みたい。
真琴の肩に両手を伸ばし、
「脱がなくていいよ。」
「俺がやるから。」
『わっ・・・。』
そっと横にした。
あの時と同じように、指先がまたカタカタと震え出す。
直に真琴の身体に伝わることのないように慎重に外していくと、
予想どおり・・・じゃなくて、予想に反して豊かな胸と、シンプルな下着。
すぐにどうにかしてやりたかったが、わずかに残されている理性が懸命に食い止める。
怖がらせてはいけない。
そっと下着の上から手を寄せ、弱く揉みながら、額に、目尻に、頬に、口に、耳に、首に、キスをする。
指の腹から、ずいぶんと熱くなった真琴の体温と、早鐘のような心音と、言いようのない柔らかさを感じながら。
『っ・・・っ・・・!』
真琴の声にならない声が興奮をより誘う。
力任せに、乱暴に扱うことのないように、細心の注意を払いながら背中に両手を回し、
ホックを外した。
ゆさり、と大きく胸が揺れる。
『功介・・・。』
あぁ、心臓が口から飛び出しそうだ・・・。
一度大きく息をのんでから、ブラジャーを上にずらすと、
形の良い二つの乳房がこぼれ落ちてきた。
慎重に両手ですくい上げる。
うわ・・・。
それは、物心ついてからの十何年間の内に手にしたものの中で、最高の、極上の柔らかさだった。
鎖骨に、肩に、胸元に唇を落としながら、掌にしっかりと収まった滑らかな乳房を、
10本の指全てを駆使して、練るように、寄せるように、持ち上げるようにして、時間をかけて揉み解す。
それから、左胸の乳首に中指を這わせると、
『あっ・・・!』
と、大きく声を出して、身体を反らせた。
ここがいいのか・・・。
そのまま指の腹でやんわりと擦ると、
『やっ・・・ぁあ・・・。』
と、閉じていた目を更にきつく閉じる。
擦るスピードに比例してだんだんと硬くなっていく乳首に顔を寄せ、ペロリと舐めると、
『くぅ・・・っ・・・!』
と、身をよじらせた。
つい苛めたい衝動に駆られて、口に含んで間断なく舌でいじる。
『だめっ、やめてっ・・・功介ぇっ・・・!』
聞こえない。何も聞こえない、って言うか、聞かない。
お前だってやめてほしくないだろ?だからこうして、俺の頭に手を添えてるんだよな?
『はあ・・・んっ・・・!』
口の中では硬い乳首と、鼻や頬にぶつかるのはたっぷりと柔らかい胸。
両極端の感触にますます燃え上がる。
胸から顔を離し、はぁはぁとお互いの荒い息と熱い舌を絡ませ、
右手をスカートの中に忍ばせると、
『っ・・・!』
真琴はまた、ピクリと身体を震わせた。
下着の上から尻を撫でる。胸とはまた違う柔らかさ。
何回か優しく揉んでから、そっと前方に手をやり内ももを摩ると、
『ふっ・・・うっ・・・。』
脚をきゅっと伸ばし、身体を少し硬直させた。
右脚の付け根を真ん中3本の指で、右、左とかすめながら、
胸から腹の方へ身体の中心に一直線を引くように、ツ、と舌を滑らせ、へそを軽くつつく。
更に、きゅ、と下腹に力を込める。
猫のようにペロペロとへその周りを舐めると、
『やぁっ・・ん!』
と、俺の左肩をぎゅっとつかんで大きく身体を反らした。
この、直に身体を触られるのはたまらなく高揚する。
いよいよ、中指をクロッチ部分に押し当てた。