真琴がビクビクと震え出す。  
 
割れ目を優しくなぞると、  
 
『くぅっ・・・んっ・・・!』  
 
と、肩膝を立てて堪える。  
 
俺は、真琴の脚が閉じてしまわないように、  
上げられた右膝の裏をすくうように持ち上げ、そのまま肩に担いだ。  
 
『やぁっっ!!』  
 
羞恥の反射で身をよじるが、隠すことはかなわない。  
指を、そっと下着の中へと滑らせた。  
 
『だめぇぇっっっ・・・。』  
 
 
うわ・・・!  
すげぇ・・・・・すげぇ濡れてる・・・!  
 
 
胸を頂いた時の衝撃も激しかったが、こちらには本当に度肝を抜かれた。  
 
 
内心、今までの喘ぎが実は全部演技で、  
こっちばっかり有られもない声を出してるんだったらどうしようと思っていたのだが、  
そんな心配は無用だったようだ。  
 
ほっとした、っていうか・・・・・、感じてくれていることがすごく嬉しかった。  
 
 
 
クリトリスと、それよりももっと前にある突起を指の腹で交互にいじる。  
 
『あっ、あっ、やぁっ・・・!』  
 
今まで殺すようにして発していた真琴の声が、どんどん大きくなって、  
つられるように俺も、さっきよりもずっと大きく、肩で呼吸するようになっていた。  
 
指の動きを制限されるのがもどかしくなって、一旦指を抜き、膝の辺りまで下着を下げる。  
手を戻す時に甲がクロッチに当たったが、そこも濡れていた。  
 
真琴の反応を注意深く見ながら、どこがいいのか探り当てる。  
 
クリトリスを擦り続けると、  
 
『やぁあああっっ!!』  
 
と、カクカクと下半身を揺らし始めた。  
 
たまんねぇ、たまんねぇよ、真琴・・・!  
 
そのまま執拗に責めていると、ぬるりとした感触に誘われ、  
指をもっと奥へ進ませると、  
 
「うっ・・・あ・・・。」  
『くぅぅっ・・・!!』  
 
指がどんどん中に引き込まれていく。  
 
すっげぇ・・・。  
 
生温かく貼りつくような肉壁が、指を締め始めた。  
 
潜らせるように薬指も入れて中指と揃え、招かれるままに指を締め上げるほど強い収縮の中を、  
前後左右と動かしながら奥へ奥へと進ませると、ほぼ指の根元近くまで埋まったところで最奥に辿り着き、  
そこから入口までの間を何度も何度も擦るように往復させた。  
 
 
『あっ、あっ、あんっ、やっ・・・!!』  
 
最初は奥歯で噛むようにしていた口は、いつの間にかだらしなく開かれている。  
 
 
しばらく出し入れを続けていると、  
 
『そこっ・・・!だめぇっ・・・!』  
 
と、一際大きく身をよじらせた。  
 
 
ここがいいのかと、指先に少しだけ力を入れ、  
だめだと言った「そこ」をピンポイントで突き続けると、  
 
『そこっ、らめらってっ・・・やっ、あっ・あぅっ・・・!!』  
 
と、だめだとやめてを何回か繰り返して、  
 
『らめっ・・・やっぱり・・・ゃめないでぇえっ!!』  
 
『やぁぁああああっっっ・・・・!!』  
 
と、弧を描くように大きく身体をのけ反らせ、身体をビクビクと震わした。  
 
 
「はぁっ・・・はぁっ・・・。」  
 
すげぇ感じてたな・・・。  
 
 
痛みを感じるほど締め上げられていた指を、真琴の力が抜けていくのと同時に抜く。  
 
 
少し名残惜しくてまたすぐに指を戻そうと、たっぷりと濡れていた真琴に宛がい、  
つぷ、と中に押し入れると、  
 
ちょ・・・ちょちょちょ・・・!!  
 
さっきよりももっと、ずっとずっと溢れていた。  
 
も、もしかして・・・・・・・イッたのか・・・・・・・?  
 
動揺して慌てて指を抜き、肩に担いでいた脚を下ろしてやると、  
真琴は恥ずかしそうに、両手で顔を覆っていた。  
 
 
昔どこかで「どんな女でも抱けば女に見えてくる」という、無名の詩人が残した名言めいた言葉を目にしたことがある。  
当時の俺はそれを見て、浅い迷言だ、と馬鹿にしていた。  
 
今は、馬鹿にはできなかった。  
 
 
 
頭の中でそんなことを思い出していると、  
 
『あーーーーーーーっっ!!』  
 
真琴が急に大声をあげて、飛び起きた。  
 
「なっ、なんだよ!?」  
 
ただでさえいけないことをした気分で少し参っていたのに、ただごとじゃない様子に変な汗が出る。  
 
『ど、どうしよう、功介!?』  
 
 
『ゴム持ってない!!』  
 
 
「・・・・・・・・・お前な・・・。」  
 
そんなことかよ!!っつーかどこまで見切り発車なんだよ!!  
 
『功介持ってる!?』  
「・・・・・・・当然だ。」  
 
サイドテーブルを引き寄せ、ボックスティッシュを1枚抜いて指を拭き、  
一番上の引き出しの奥の、ずっと奥から手探りで取り出し、  
 
「ほらよ。」  
 
と、真琴に見せて、テーブルの上に放った。  
 
 
ほっ、と安堵の表情を浮かべる。  
 
 
『さっすが――。』  
「医学部目指してるやつは違う、か?」  
 
笑顔で言うと、  
 
『ヘヘヘ・・・。』  
 
と、照れたように笑った。  
 
 
 
やれやれ・・・。  
なんで真琴にコイツの隠し場所まで教えてやらなくちゃいけないんだ・・・。  
ってかあいつ、俺が持ってなかったらどうするつもりだったんだ・・・?  
 
真琴にチラリと目をやると、中途半端に着ていた衣服―下着も靴下も全て脱いで、ベッドの下に放り投げ、  
シーツを胸から纏っていた。  
 
 
こちらも中腰になり、ベルトを外す。  
 
大体俺、笑顔を作ってる余裕なんかほんとは全くないんだからな・・・!  
 
 
「真琴。」  
 
 
ごめんな、もう限界なんだ。  
 
 
「ごめん・・・・・ちょっと、触って。」  
 
恥ずかし過ぎて、顔を見れなかった。  
 
もう本当にどうにかしてほしい。  
ディープキスの辺りから、既にガチガチに硬くなっていた。  
 
ズボンを膝まで下ろすと、真琴が恐る恐る手を伸ばす。  
 
『で、でもっ・・・どうやって・・・?』  
 
こちらも手を伸ばし真琴の手を取って、ボクサーの上から握らせた。  
 
『っ・・・!!』  
 
わかる、わかるぞ真琴。  
お前が何を言いたいのかよーくわかってるぞ。  
男は皆こうなるんだ、何も俺だけじゃない。  
お前の大好きな千昭だって例外なくそうだ。  
だから、  
 
『功介・・・!』  
 
『か「言うな。」  
 
真琴が今どこを見ているのかはわからないが、俺はとにかく真琴に顔が見えないように頭を下げた。  
真琴の手の上に自分の手を重ね、指南するように擦ってみせる。  
 
自分以外の誰かに触らせるのは、初めてだった。  
 
「っ・・・・はっ・・・。」  
 
自分で触っているのとは全然違う感覚にたまらなくなって、もっと刺激と快感を得たくて、ボクサーも脱いだ。  
先から、ツ、と糸が引くのが見える。  
 
あぁくそ・・・。俺も負けじと濡れてんな・・・。  
 
もう一度真琴の手を取って直に握らせ、軽く上下に扱き出す。  
 
「はぁっ・・・はっ・・・!」  
 
『功介・・・すごいよ・・・。』  
 
 
わかってるよ、わかってるから、頼むから声に出して言わないでくれ。  
 
 
射精を促すように迫り来る快楽に、まだ・・・、と懸命に耐えていると、  
 
「くっ・・・ぁああっ・・・!」  
 
脳天を突き抜けるような電流が身体中に走った。  
 
見れば、亀頭をグリグリと親指で弄っている。  
 
「ぅあっ、く・・・!」  
 
どうして初めてなのにそう果敢に攻めて来れるんだ!?  
 
膝から下が震え出す。  
 
本当は、あんなこともこんなこともしてほしい。だけど、  
現実には身体が理想に追いつかない。  
 
真琴が、竿の中ほどを持っていた手を根元付近へと握り直し、くいくいとテンポよく扱き出した。  
 
だめだ、抵抗できねぇ・・・。すっげぇ気持ちいい・・・。  
 
「はっ、はっ、はっ、はっ・・・!!」  
 
声に合わせて上下するスピードが速くなる。  
 
「くぅっ・・・あぁあっ・・・!!」  
 
先走りが滴り始めたところで、急いで真琴の手を止めた。  
 
 
「はぁっ・・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・。」  
 
 
ドクドクと、心臓が鳴り響く音と血液が身体中を巡る感覚が混同する。  
 
『功介・・・?』  
「はぁ・・・・はぁ・・・・。」  
 
身体と呼吸が少し落ち着くのを待ってから、声をかけた。  
 
「真琴。」  
 
「本当に・・・・・本当に本気で、俺と最後までしたいか・・・?」  
 
真琴は俺の目をまっすぐ見つめ返し、  
 
『うん・・・!』  
 
と、躊躇いを一つも見せずに頷いた。  
 
 
 
ベッドの縁に腰かけ、封を切ってゴムを着ける。  
以前、千昭と一緒に「どのくらい耐久力があるのかのテスト」と言って、破れるまで色んな物を入れるという(結局破れなかったが)、  
遊びとも言えないほどくだらない、低俗なことをして遊んだが、  
正しく着用するのは初めてだった。  
 
 
真琴は、俺が準備をしている間ずっと、ベッドに横になって天井を見つめている。  
 
 
何を考えているのか、大方見当はついていた。  
 
 
全て脱いで身体一つで真琴の側へ行き、身を隠していたシーツを捲ると、  
窓から差し込んだ月明かりが部屋の中を照らし出し、暗闇にくっきりと全身の輪郭が浮かび上がった。  
青白く透けるような肌と月光を反射して揺れる真っ黒な瞳。  
 
「真琴・・・・・、綺麗だ・・・・すごく・・・・・。」  
 
本当に、本当に綺麗だった。  
 
『功介・・・・・ありがと・・・・・。』  
 
恥ずかしそうに、目を逸らして言う。  
そんな真琴は、いじらしくて可愛い、と思った。  
 
 
「なぁ・・・。」  
『ん・・・?』  
「もし途中で、やっぱり俺とじゃ嫌だ、って思ったら――。」  
『・・・・・うん。』  
「俺のこと、蹴飛ばしてでも抵抗しろよ?」  
『・・・・・・・・うん。』  
 
「それとさ・・・。」  
『・・・・・うん。』  
 
 
「俺のこと――。」  
 
 
「千昭だと思っていいから。」  
 
 
『・・・・・・・・・・・・。』  
 
こいつの涙腺は、枯れることを知らないらしい。  
 
『っ・・・・っ・・・・・・ぅんっ・・・・!』  
 
真琴は手の甲で顔を隠して、また、ぽろぽろと涙を流していた。  
 
 
 
千昭、お前と再会したら、俺はきっと良心の呵責に耐えきれなくて真琴とのことを話すだろうから、  
その時は、気がすむまで殴ってくれ。そして、  
気がすんだら「お前のおかげで真琴は俺と会う日まで頑張れたんだな」と、礼の一言くらい言ってくれ。  
 
 
 
藤谷、・・・・・・・・・・・ほんとにごめん。  
 
 
 
そっと真琴の両脚を持ち上げる。ツ、と指を這わすとまだたっぷりと濡れていた。  
少し慣らした方がいいかと指を入れて軽く動かすと、  
 
『ぁあっっ・・・。』  
 
あっという間にまた溢れ出す。  
 
大丈夫そうだ・・・。  
 
自分の性器に手を添え、熱く濡れたそこに宛がい、ゆっくりと先端を挿入した。  
 
『ゃぁぁぁああ・・・・。』  
「っ・・・・。」  
 
引きずり込まれるような感覚に腰が砕けそうになる。  
 
真琴の両脚を支えに慎重に腰を揺らし、窮屈になる奥を少しずつ埋めていき、  
 
『あっ・・・ぁん・・・!』  
「はぁっ・・・はっ・・・・。」  
 
 
きっちりと、根元まで飲み込まれた。  
 
繋がっている部分に熱が集中する。  
 
「動かすぞ・・・。」  
『うんっ・・・。』  
 
細い腰をしっかりと抱えて固定させ、被さるように身体を重ねると、  
真琴は、両脚を大胆に開いて折り曲げ、首にしがみつくように両手を回した。  
既に汗ばんでいた身体がますますヒートアップする。少し腰を動かすだけで、  
 
「っ・・・ぁあ・・・!」  
 
たまらないほどの快楽の波が襲って来て、頭はくらくらし、腰は疼き、  
指先は、チリ、と焦がれるように熱い。  
 
『ぁっ、はん、あっ、あっ・・・!』  
 
動きに合わせて真琴の声とベッドの軋む音、そして互いの身体のぶつかる音も激しくなる。  
次第に馴染み始め、もっと軽快に動かせるようになってきた。  
 
『も、もっと来てぇ・・・!』  
 
 
『千昭ぃっ・・・!!』  
 
 
そうだ・・・、それでいいんだ・・・・・。  
 
 
真琴は今、体格も声もまるで違う、似ても似つかない俺に、  
千昭の影を重ねようと必死なんだろう。  
 
俺が、似ても似つかないお前に、  
藤谷の影を重ねないように必死でいるのと同じように。  
 
 
 
『千昭ぃいっ!』  
「くっ、あっ、はっ・・・!」  
 
『そこぉっ!』  
 
身体をぶつけ合う音と真琴の声と粘液が絡み合う音が聴覚と脳内を犯していく。  
思考は停止し、夢中になって腰を振り続けた。  
 
『やっ、あぁっ、そこっ、らめっ・・・!!』  
 
『もっとっ・・・もっと・・・・奥にっ・・・きてぇっ・・・!!』  
「はぁっ、はぁっ・・・!!」  
 
 
抗えないほどの強い刺激と快感が身体中を巡って腰に集中し、  
中を擦っているのと中で擦られているという混沌とした感覚に陶酔しながら、  
出口を求めて迸るそれを、  
 
 
『らめーーーっっ!!』  
 
『イッちゃうう!イッちゃうよぉおお・・・・!!』   
 
『イクぅううううっっ・・・!!!』  
「真琴ぉっ・・・!」  
 
 
 
 
 
『功介ぇええっ!!』  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
まさか、  
 
最後の最後で自分の名前を呼ばれるとは、思ってもいなかった。  
 
 
 
 
 
 
 
それが、絶頂のトリガーとなって、  
 
 
『あぁあああっ・・・・・・・。』  
 
 
 
出口を求めて迸るそれを、惜しみなく、本能の望むままに、放出した。  
 
 
 
互いに身体をビクビクと震わせ、余韻まで楽しんだ後、重力に身を任せて被さった。  
興奮冷めやらぬ感情と荒い息だけが、まだ残っていた。  
 
 
 
 
「平気か・・・?」  
『うん・・・。』  
「どっか、痛む?」  
『今は平気・・・。』  
 
行為の後、甘い関係ではないはずなのに、どうしてかこの温もりを手放したくなくて、  
裸のまま抱き合って毛布でくるみ、いつの間にかピロートークを交わしていた。  
会話の節々に心地の良い沈黙を織り交ぜながら。  
 
「どうだ、頑張れそうか?」  
『うん・・・。』  
「辛くなったら・・・早めに言えよ?」  
『うん・・・。』  
 
少なくとも、今日みたいに衝動的に、こんなことになる前に。  
 
「なぁ、真琴・・・。」  
『ん・・・?』  
「・・・・・・・・・・・・・千昭から、連絡来るといいな。」  
『・・・・・・・うん。』  
 
本当は、  
 
どうして最後は俺の名前を呼んだんだ?  
 
と、尋ねたかったのだが、それを聞いたところで俺たちの関係は変わらないのだから、  
聞く意味もないのだろう。  
 
 
藤谷とはもう終わりにしよう。  
 
千昭の顔もまともに見れないだろうが、藤谷の顔はもっと見れない。  
あいつの笑顔を見る度に罪悪感と自責の念にさいなまれて、隠し通すなんてことは結局できないだろうから。  
 
別れの理由は何にしようか。  
そうだな、「受験に専念したいから」というお決まりのやつでいいだろう。  
純粋な彼女のことだ、俺の言うことは信じて疑わないはずだ。  
 
本当はもう罪に罪を重ねることなんてしたくないけど、そうでも言わないと、  
「他の女と寝た」なんて言ってしまった日には、「私があの時拒んだから」とかいう  
目眩のしそうな理由で自分を責めるに違いないから、だから、  
 
「優しい嘘だから・・・許してくれよ・・・。」  
 
 
 
『功介・・・?』  
「なんだよ?」  
 
「なんだ、お前また泣いてるのか?」  
『・・・るから。』  
「え・・・?」  
 
 
 
『功介が、泣いてるから。』  
 
 
 
確かに、涙が一筋零れていた。  
 
 
「真琴・・・・・・・・・・・キス、しようか・・・。」  
『・・・・・・・・うん。』  
 
 
触れるだけの優しいキスをして、熱い抱擁を交わしたまま、  
やがて、どちらからともなく眠りに就いた。  
 
 
 
涙が流れたのは、センチな気分の真琴に何時間も何時間も付き合っていたせいだ。  
別に、藤谷ことや千昭のことや、真琴のことを思って、泣いたわけじゃない。  
 
本当に、本当に―――。  
 
 
 
 
トライアングルにはいくつかの種類がある。  
 
辺の長さが全て同一の正三角形、その逆で辺の長さが全て異なる不等辺三角形、  
その他諸々。  
 
差し詰め、俺たちの関係は二等辺三角形ってとこだろう。真琴を底辺にして、  
バランスよく俺と千昭がいる。  
 
――それが3人の関係が成り立つ絶妙なバランスなんだ――  
 
と、思っていた。  
 
ところが今日、新たな結論を導き出してしまった。  
 
――底辺にいるのは実は真琴ではなく千昭なのかもしれない――  
 
 
 
少なくとも、俺にとっては。  
 
 
 
 
 

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