こんなこと、決してよくはないと分かっているけど。  
   
「す…ッみよ……アッ!!!」  
「…あに?ひもひぃお?」  
   
桜色の小さな唇から、くちゅりと水音がたつ。  
静かな事務所に二人きり、最近はこんな状況になると必ず住吉先生は俺を襲う。  
いや、襲うというと少し語弊があるかも知れない。  
だって少なくとも俺は、  
   
「ふ…ッ、も…かんべん、してくださ…うあぁッ!!!」  
「…ん、っ……ふふっ、たむらの苦しそうなカオって、やっぱカワイー…」  
 
   
この年下のクソ生意気な女の子のことが大好きで、本来なら凄く簡単なはずの抵抗も全くせずにこの状況に甘んじてしまっているのだから。  
 
   
***  
   
   
数週間前、一人で残業をこなしていた俺に「田村がサボってないかの見張り」と言いながら差し入れを持ってきてくれた住吉先生。  
俺はその中に一緒に入っていた、恐らく住吉先生の分だったであろう缶チューハイをジュースと間違えてあおってしまった。  
普段ならばそこまでキくはずもないであろう弱いアルコールも、大量の書類作成によってろくな睡眠もとれていない弱った体力と空腹には大打撃だったようで、その後の記憶は霞み、気付いたら自分のアパートで寝てしまっていたというような有様で。  
   
ただ、そんなぼんやりした記憶のなかで僅かに残った記憶というのが非常に不味かった。  
恐れ多くもあの住吉先生とちゃっかりキス(それも舌の感覚がやけにリアルだったので、多分きっとふっっかいヤツである)をしていた記憶だったのだ。  
 
   
次の日俺は、それはもう頭が地に着くどころか、下手したら貫通するんじゃないかというような勢いで謝った。兎に角謝った。そりゃもう謝り倒した。  
   
キスをしてしまったこともそうだけど、それよりその経緯やらその後の展開やらを全くもって覚えていない自分が心底情けなくて。  
もしも今回のことで住吉先生の男嫌いに拍車がかかったらとか、むしろそれを通り越して男性恐怖症みたいになってたらどうしようとか、俺は果てしなく限りなく自己嫌悪に陥った。  
   
案の定と言うべきか、住吉先生はその日必要最低限のことしか喋らず、仕事以外のことでは全く口をきいてはくれなかった。  
そのままどうすることも出来ずにただ時間だけが過ぎて、気付いたらまた残業をしなければならないほどに書類が残っていて。  
   
大量の仕事と今の自分の状況が物凄く鬱になり、思わずため息を吐いたところへ住吉先生がやってきて、何も言わずに俺のベルトを外し、フェラをし始めたのだった。  
 
   
***  
   
   
そんなこんなでうやむやに始まってしまった、残業時にフェラをして(させて)そのまま別れるといった、奇妙にして不誠実極まりない関係。  
   
正直俺だって男だし、何より住吉先生は俺の想い人だし、彼女がこれでいいなら…と思わなくもない。  
というか実際その気持ちを優先させすぎた所為でこんな関係をずるずると続けてしまったわけで。  
   
でも、こんなの何の生産性もないし、俺が本当に欲しいものはこんなんじゃ一生手に入らないから、だから、  
   
「すみよし、せんせ……ッ」  
「…なに?今日はどうしたの?」  
   
いい加減、はっきり決着をつけてしまわないと。  
   
「嫌なの?いつものアンタらしくないよ?」  
「あの……もう、駄目なんです」  
「……え、何で。キモチヨクなかった?」  
   
ぽかんとした顔で俺を見つめてくる住吉先生は、そりゃあ本当に殺人級に可愛くて……じゃなくて!!  
   
「……違います。違いますけど、でも……」  
「……たむら?」  
「付き合ってもないのにこういうの、やっぱりよくはないでしょう」  
「……、…」  
「すいません、もっと早く言うべきだったのに……つい、色々甘えちゃって、本当に申し訳ないです」  
「…の、…か……」  
「あの、それでもちゃんと話を……住吉先生?」  
「田村の大・大・大馬鹿野郎ォォォォォ――――ッ!!!!!!!!!」  
「………はい!!!?」  
   
いきなり怒鳴られたことにしばし呆けてしまう俺。  
その間に乱れた髪型を直し、事務所を出ようとする彼女。  
   
「す…ッ、住吉せんせッ!!ま…ッ」  
「アンタなんか知るかばか!!!どーせ男なんか皆一緒なのよ!!!!忘れて揺らいだあたしが一番の大馬鹿だったわ!!!!!」  
   
――――バンッッッ!!!!  
   
物凄い音を立てて帰っていった住吉先生は確かに泣いていたわけで。  
………とりあえず、大馬鹿野郎な俺は間違いなく彼女を傷つけてしまったようです。  
 
   
   
正直な話、そんな可能性を考えなかったわけじゃなかった。  
   
***   
   
「素直になっちゃいなさいよォ」  
「!!!あ、あたしは別に…!!」  
「気に喰わないんでしょ?田村さんがスナックの女の子といちゃいちゃしてんのが」  
「それは……!田村がゆとりのクセして、男特有のすけべでだらしない顔しながらでれでれしてんのがキモいだけでッ!!」  
「合コン帰りの田村さんに遭遇したって言ってた日、自分のことは棚に上げてずーっとぶすくれてたの、どこの誰だっけ?」  
「……た、田村のクセに生意気だって、だから……!!」  
「わかったわかった、取り敢えず認めちゃいなさいよ美寿々。田村さんのこと好きなんだって」  
「……〜ッ!!誰が!!!!」  
「意地張んのは美寿々の勝手だけどさぁ、いいわけ?田村さん誰かにとられちゃっても知らないよ?」  
「……あんなのに寄り付く物好きなんか、滅多にいるわけないじゃない」  
「いやいやいや!!田村さん意外とモテる要素あるって!!結構マメそうだし、優しいし、それに顔だってよくよく見るとイケメンの部類に入るって!!ほら、あの……」  
   
―――auのCMか何かに出てたアイドルに似てない!?なんて、どこか興奮したように話すおケイを尻目に、あたしは4本目の缶ビールを空けた。  
正直な話、そんな可能性を考えなかったわけじゃなかった。でも、だけど、  
   
「だってわかんないんだもん」  
「え、鈍感過ぎる」  
「じゃなくて!!……だって何か、他の女にとられたら…とか、そんなんでイライラするわりには、田村のやなとこばっか目につくし……もしかしたらお気に入りの玩具横取りされんのが嫌なだけかも、とか色々考えちゃって……」  
「美寿々?」  
「とにかく、もう失敗とかしたくないから…」  
   
心が自然と、ブレーキをかけちゃってるわけなんです。  
   
「でもさぁ美寿々、」  
   
―――臆病なままじゃ、前にも後ろにも進めないよ?   
   
***  
   
「田村さんの気持ちだけでも、取り敢えず調べてみたら?」なんて言うおケイにノせられた今日のあたしはどうかしてる。  
軽いアルコールでも入れば単純な田村は簡単にゲロするかな、なんて踏んだあたしは、比較的ジュースと間違えやすい、結構マイナーなメーカーの梅チューハイを差し入れに紛れ込ませた。  
案の定簡単に騙され、チューハイに手を付けた田村。何となくいつもより効きすぎてる感は否めないけれど、とにかく作戦は成功ということにしておいて。  
柄にもなく多少緊張しながらも、田村にそれとなく恋バナを仕掛けた。  
   
「田村のタイプって、どんな?」  
「タイプ?」  
「こんな女の子いいなぁ、とか…ないわけ?」  
「……住吉先生は?」  
「あ、あたし!?」  
「僕の聞くんだったら、先生のタイプも教えて下さいよォ」  
   
「教えてくんないなら、僕も教えませ〜んッ」なんて言いながら、あたしをじっと見つめてくる田村。  
予想外の行動に多少狼狽えるけど、まぁ話の流れ的には振られるだろうと構えていたので、いつもの調子で答える。  
   
「背が高くてあたしより収入良くて、その上男尊女卑しない男。そんな人いたらソッコーアドレスと番号聞くかも」  
つか男尊女卑以外田村との共通項ないかもね、と繋げる前に、あたしの前に影が出来て気付けば田村の真剣な顔が目の前にあって。  
   
「た、むら…?ちょ、近…ッ!!」  
「俺のタイプはね、住吉先生」  
   
グッと、右手を掴まれる。力の加減が上手くないのか、掴まれた箇所がじんじんとして痛かった。  
   
「ちょ…ッ!馬鹿田村!!痛い!!離し…ッあ!?」  
「……耳、弱いんですか?」    
言いながら、耳元でクスクス笑う田村。そのうちにぴちゃぴちゃと音をたてながら、耳たぶから耳の穴まで丁寧に舐め始めていて。  
(――立って、らんなくなりそう…ッ)  
   
「あんた……!!ふざけ、んじゃ…ぅあッ!!……な、ない…わよ!!!」  
「俺のタイプはね、従順な子なんですよ…住吉センセ?」  
「じゅう…、じゅん……」  
「先生とは真逆ですね?どうします?」  
   
どうします?なんて、まるであたしの気持ちを知ってるかのように、心底愉しそうに笑う田村を前にあたしはただ恥ずかしくてしょうがなかった。  
   
「たむら…ッ、お願、はなし……ッ!!?」  
   
あたしの言葉を遮るように、唇が彼のそれで塞がれる。  
   
「ん……んーッ!!」  
「……」  
   
頑張って抵抗を試みるも、やっぱり所詮は男と女で。  
そうこうしているうちに苦しくなり、思わず口を開いてしまった瞬間、隙間を狙い差し込まれた舌によって口付けはより深いモノへと変わってしまった。  
   
深く、深く絡まりながらくちゅくちゅと音をたてるあたしと彼の舌。  
だんだんぼんやりしてくるあたしの頭を覚醒させたのは、もぞもぞと怪しい動きをし出す田村の右手だった。辿る先はスーツの中、間違いなくブラの辺りを触ろうとしていて……  
   
(イヤっ!!!そこまでは駄目ぇッ!!!)  
   
「……!!んーッ!!!んーーッ!!!……〜ッッ!!!!」  
「………ッ!!!!!いっっっだぁ〜ッ!!!!!!」   
   
……我に返ったあたしは、勢い良く振り上げた脚を田村の急所にお見舞いしてやったのだった。   
   
   
***  
   
翌日、あたしは田村となるべく関わるのを避けた。  
   
田村が朝、開口一番に放った「とんでもないことをしてしまった」だとか「調子にのっちゃって」だとか、とにかく何か後悔しちゃってるような言い種が満載の謝罪内容にむかついたのももちろんだけど。  
昨日の田村らしからぬ余裕綽々な態度があたしのプライド的に許せないのもそうだけど。  
でもそれより何より、幸か不幸か、昨夜の件で自分の気持ちとやらを自覚してしまったのも事実で、上手く顔を合わせてられる自信がないのが現実で。  
   
でもやっぱり、やられっぱなしじゃあたしの性にあわないし、  
   
「……従順、ねぇ……」  
「住吉先生?何か言いました?」  
「………」  
「……すみよしせんせぃ〜……」  
   
情けない顔でこちらを伺う田村を見つつ、ご奉仕でもしてやろうかしら、なんて考えたのは内緒の話。  
 
 
 
   
確信なんてない。  
だけれどきっと俺は、  
   
「……あんな風に泣くなんて……反則だろ…ッ!」  
   
彼女を、誤解していた。  
   
   
***  
   
 
   
(すみませんでした?……いや、違う……もう触ったりしません?……これじゃなんだかただのすけべっぽいし……)  
   
うだうだと悩みつつ、それでもどうしようも出来ない大馬鹿野郎な俺は、とにかく彼女に謝ることしか考えられずに入れてもらえるかどうかの保証すらない彼女の部屋の前まで来てしまっていた。  
   
「……とにかく、ここでうろうろしてても仕方ないし……」  
   
少し、緊張しながら俺は微かに震える指先でマンションのインターフォンを押した。  
何て言ったらいいのか、というよりは、住吉先生が出て来てくれるかどうかが心配で、心がそわそわと落ち着かない。  
そうこうしているうちに、カチャリと音がし、「どちら様?」と対応する住吉先生の声がした。  
   
「――ぼ、くです……田村、です……」  
   
ばくばくと、心臓が痛いくらい脈打つのが分かる。  
それは緊張で、そして変な昂ぶりから来るモノで。  
   
「………たむ、ら?」  
 
   
戸惑いながら声を発する、ドア越しの彼女が愛しくて愛しくて仕方ないという、紛れもない証拠だった。  
   
核心は持てなかった。  
だけれどきっとあたしは、  
   
「………たむ、ら?」  
   
彼を、信じたかったのかも知れない。  
   
   
***  
   
「……今さら、なんですが……」  
「………何よ」  
「お邪魔しても、良かったんですか…?」  
「……そっちが押し掛けて来た癖に……」  
「………すみません、」  
   
―――これだから嫌なのに。  
男だって恋愛事だって、出来るならこれから先ずっと避けて通りたかった。  
あたしがあたしじゃいられなくなる唯一にして最大の厄介者が恋だったから。  
今だって実際、何故か田村を部屋に通しちゃってるワケで。いつものあたしだったら考えらんない行動も、あたしが田村を好きだからって理由だけで説明がついてしまう。  
   
(―――あぁ!!もうッ!!!!)  
   
「田村ッ!!!」  
「…はっ!!ハイッ!!!!」  
   
息を吸い込んで、お腹から声を出して。  
いつものように偉そうに生意気そうに怒鳴り付けて、さっさとコイツを追い出してしまわないと。  
   
(「……恋人でもないのに……」)  
   
……田村はあたしを好きなわけじゃないんだし、早いとこ忘れさせてくれないとあたしが困る。  
   
「用件は?」  
「……え?あ…、」  
「わざわざウチに押し掛けて来てくれて、一体何の用なワケ?」  
「あの…それは……」  
「早いとこ済ましちゃってくれる?あたしだって暇じゃないの……あ、もしかして、あたしのテクが惜しくでもなっちゃった?」  
「!!!ち…ッ違います!!!!」  
   
真っ赤になる田村が可愛くて、ついあたしは調子にのりだしてしまう。   
   
「どーだか?……別にあたしはいいのよ?たくさんの中の一人に田村が入るだけだし」  
「え……な、に…?」  
   
生真面目な田村とすっぱり切る為にも、少々からかってやるのは効果的かも知れないと思ったあたしは、まるで相手が何人もいるかのように嘯いた。  
   
―――だんだんと彼の瞳が、いつかのような暗く深い冷めた色に変わっていくことも気付かずに。  
 
   
「どーだか?……別にあたしはいいのよ?たくさんの中の一人に田村が入るだけだし」  
   
   
……彼女は今、何と言った?  
「たくさんの中の一人」……、確かに彼女はそう………  
    
言の葉の意味を脳みそが咀嚼し終えた瞬間、ぐらりとひとつ眩暈がした。  
   
(すみよし、先生が…)  
――嗚呼、  
(だってそんな、そんなはずが、)  
――頭が、  
(バツイチといっても、だって、とし、したで、)  
―――頭がわれ、  
(可愛くて生意気で、すなおじゃ、なくて、)  
―――頭が割れそうに、  
(………す、みよし……せんせぃ……?)  
――――頭が割れそうに、イタイ  
   
(……俺は、この感覚を知っている)  
   
   
   
「住吉先生、」  
「何よ……え!!!?」  
   
この感覚に溺れた瞬間、俺は何でも出来そうな、何も出来ないようなそんな不思議で落ち着かない気持ちになる。  
例えば友人の敵に回って取り立てをしなければならない時とか、父親を前にどうしようもない時だとか。  
そして今まさに溺れた俺は、気付けば彼女の両手首を自分のネクタイを使って拘束していた。  
   
「………何すんのよ!!!!冗談じゃ済まされないわよ!!!!」  
「……当たり前じゃないですか、住吉先生。冗談でこんなことしませんよ」  
「…ッ!!なら早…ッ!!!!?」  
「僕は本気です」  
   
そう言い放ち、彼女のブラウスを力ずくで引き裂いた。  
   
「いやああぁああぁッ!!!!」  
「……あんまり煩いと、ご近所さんに迷惑なんじゃないですか?」  
「……〜ッ、離しなさい……よォッ……」  
「それは聞けません」  
   
にっこりと笑いながら、彼女の脚を封じるように跨がる。  
ブラジャーを外せば、住吉先生の可愛い顔が恐怖と羞恥にまみれ真っ赤に染まった。  
   
「乳首、震えちゃってますよ?……かわいらしいおっぱいですね…」  
   
クスクス笑う田村を、あたしは信じられない気持ちで見つめた。  
今の田村は何だか、田村じゃないような感じがして怖い。  
   
(そういえば、前にもこんなカオ…)  
   
「考え事ですか?随分余裕がありますね」  
「ああっ!!?」  
   
突然、胸の突起を指先で弾かれた。  
急な刺激に思わず声が出ると、それに気を良くしたらしい田村は、今度は指の腹で乳首を擦り始める。  
   
「ん……っ、くぅ……ッ!」  
   
さっき弾かれた刺激で膨らみ始めていた乳首は、みるみるうちにぷくんと固く尖り、その存在を主張するかのように紅く紅く充血していた。  
   
「…っ」  
「小さい方が感度イイって、なんか本当っぽいな…」「なにを……ぃあッ!!!」  
   
何だかかなり失礼なことを言われた気がするけど、今はそれどころじゃない。  
優しく擦るだけかと思っていた指先は、時折先端をくりくりと回しながら摘んだり爪を立てて軽く引っ掻いたり、かと思えばいきなり下から救うような手つきで乳房を揺すったり揉んだりして来て。  
   
「あぁ…はぁッ!!だ……めぇ…ッ」  
「ヤラシイ顔してますね、住吉先生……流石、淫乱なだけありますよ」  
「も…ッ!!いや、あぁああっ!!!!」  
   
少し強めに乳首を引っ張られ、思わず力が抜けて足が弛みそうにそうになってしまう。  
何とかそれを我慢して足に力を入れていると、何かに感付いたのか、田村は嫌な笑顔を浮かべてあたしの顔を覗き込んだ。  
   
いつもの飄々とした住吉先生がまるで偽者のように、目の前の彼女は面白いくらい俺に翻弄されていた。  
それが嬉しくて、何だか彼女を手に入れたかのような錯覚に陥ってしまい、どんどんと俺の行動はエスカレートしてしまう。  
   
「……コッチも、いいですか?」  
「や……やだぁ…ッ!!たむら、だめ…ッ!!!!」  
「うわ……ぐっちょぐちょ……」  
   
嫌がる彼女を無視し、スカートを一気に脱がす。  
途端に現れたピンク色のパンティは蜜に塗れていて、雄を誘うフェロモンの香を放っていた。  
   
「……たむら、おねが…も、や、めて…?」  
「住吉先生、」  
「……ッ!!」  
   
やめて欲しいと懇願する住吉先生を尻目に、彼女の耳元で低く囁く。  
ふうっと吐息を吹き掛ければ、びくりと反応をする彼女があまりにも可愛くて。  
   
「あ……あ、」  
「腰、がくがくしてますよ?そんなに物欲しそうなカオしときながら、やめてなんて…嘘ですよね?」  
「ちが……も、やらぁ…ああっ!!!」  
   
空いた両手で胸と秘部をそれぞれ責め立てる。  
クリトリスをぬるぬるした下着越しに摘むと、たまらないといった風に身体全体を震わせる住吉先生。  
俺に感じてくれているその一挙一動全てが淫らで愛しくて、思わずちゅちゅっ、と首筋やお腹に吸い付いて跡を刻む。  
   
「……う、ぁ……くすぐった……ぃ」  
   
その動きが擽ったいらしく、身を捩る彼女。  
邪魔されてしまったことが少し面白くなかった為、下着を一気に下ろして腰を持ち上げ、そのまま強引に足を開いてやる。  
   
「きゃあぁあぁぁああっ!!!」  
「ひくひくしてる……」  
「いやっ!!!見るなたむら……あぁあっッ!!!」  
   
蜜を指に絡ませて、紅くしこるクリトリスの皮を剥いて愛でる。  
   
「…美味しそう、ですね」  
「……ふぇ?」  
   
無防備な性感帯を刺激され、淫らに喘ぐ彼女の姿はひどく艶めかしく、そして美しかった。  
   
「…美味しそう、ですね」  
「……ふぇ?」  
   
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。  
何が――と、思う間もなく、苦しい体勢を強いられた瞬間、あたしのソコをぬめった感触が纏っていて………  
   
「……―――や、いやああぁああぁあっ!!!!!」  
   
気付けば、あたしは所謂まんぐり返しの恰好をさせられ、大事な部分は田村に舐められていて。  
   
(恥ずかしい!!!恥ずかしい!!!!恥ずかしい!!!!!)  
   
幾ら何でも、この仕打ちは酷い。  
仮にも好きな人の前でこんな屈辱的なポーズをさせられて、何も出来ないなんて。  
屈辱と快感と苦しさがない交ぜになり混乱する意識の中、ぴちゃぴちゃと音を立てながら恥ずかしい部分を舐め続ける田村を見て、じわっと涙が浮かぶ。  
   
(なんで……?)  
   
あの日、「従順な子がタイプ」だとか言ってた夜、あの態度は明らかにあたしの気持ちに気付いてるようなそぶりだった。  
だから今日、今さら「恋人同士じゃなきゃ」とか何とか言ってきたのは、あたしを好きでも何でもないと忠告する為だと思った。  
   
でも、  
だったら、  
   
(わざわざウチまで押し掛けないで)  
(好きでもないのに抱かないでよ)  
(そんなに哀しそうな暗い目をしないで)  
(愛しくてたまらない、みたいな眼差しをあたしにむけたりしないで、)  
   
―――全部、ぜんぶ、  
   
   
「……いやああぁあぁああああぁあッッッ!!!!」   
   
(いいふうに、とっちゃう、から)  
   
「すみ…よし、せんせぃ……?」  
「う……ぁ、……うぅ〜〜ッ!!」  
「!!!住吉先生ッッ!!!」  
   
彼女は泣いていた。  
大粒の涙を流しながら、年下の女の子の姿をしながら。  
   
   
***  
   
また、やってしまった。  
あの感覚に飲まれると、正気でいられなくなる。  
……今回は酷い。  
好きな女の子を、無理矢理犯した挙げ句、泣かせてしまった。  
   
「た……むらの、うぅッ……ばか……ぅあッ」  
「本当に申し訳ないです、あの、すみませんでした……」  
「さいてー、…ッごーかんま、……う……ッ、ひとで、なし……」  
「すみませんッ!ほんっっとーにすみませんッッ!!!」  
   
ずぴずぴと鼻水を啜りながら泣く住吉先生は、部屋中にあるありとあらゆるぬいぐるみやらクッションやらを俺に投げ付けてきて。  
当然の仕打ちだと、その攻撃を受け止め続ける。  
   
「……なんで、」  
「……へ?」  
「なんで、好きでもないのに、あんなことすんのよ!!!?」  
「……はぁ!!?」  
   
は、話が唐突過ぎます住吉先生………  
―――って言うかちょっと待て!!!  
   
「誰が誰を好きじゃないんですか!!?何の話してます!!?」  
「決まってるでしょ!!!田村があたしをよ!!!!」  
「……はい?」  
「……何よ?」  
   
ちょっと、ちょっと落ち着こう!  
何だか頭こんがらがってきたような……。  
   
「僕が、住吉先生を好きな、話…ですか?」  
「な!!何言ってるワケ!!?逆に決まってるじゃない!!!」  
「住吉先生を僕が好きな話………」  
「………何で、そうなるのよォ……」  
   
二人とも脱力してしまい、同時に床にへたり込む。  
また再び泣きだしそうな顔で、住吉先生が質問をしてきた。  
   
「なんで、どうしても田村→あたしの話に拘るワケ?」  
「……だって、僕が住吉先生を好きなのは事実で…その上で僕が住吉先生をどうこう…って言ったら、」  
「……あたしが田村を好きな話なら納得だけど……え?」  
「……あれ?え??」  
   
今度は二人、間抜けな顔を見合わせた。  
   
「田村!!!遅い!!!」  
「……ったく、人使い荒いんだからな〜……」  
「なんか言った?」  
「いいえッ!!」  
   
あの後、結局気持ちを確かめ合ったわけでもなく、あたしも田村も何事もなかったかのように毎日を過ごしていて。  
   
「しっかし、意外だよなぁ〜…」  
「何がよ」  
「まさか住吉先生ともあろうお方が、俺が真面目に残業しているところに騙して酒を盛ろうとするなんて……」  
「なッ!!何よ!!!それを言うならたったあれっぽっちのアルコールで記憶をなくす田村の方がよっぽど意外だわ!!!」  
   
それでもやっぱり、あんなことがあった以上全く変化を伴わないのも無理な話で。  
あたしの気持ちを今度こそ知ってしまった田村に最近、あたしに対しての余裕が出て来たように感じて凄く悔しい。  
   
「田村、荷物!!」  
「はいはい……あ、住吉先生ちょっと……」  
「なに………!!!!!」  
   
―――ちゅっ、  
   
   
「〜〜〜ッ!!!!!」  
「いー加減、俺との付き合い考えて下さいね」  
   
   
しばらくは田村のくせに生意気な態度と、らしくないあたし自信に振り回される毎日なんだろうと、自然と上がる口元を隠しながら考えた。  
 

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