10
「たむら・・・わたし、変なの・・・・・」
心地よく涼やかな声が、耳もとで甘く、たよりなげに聞こえた。
おれは美寿々のほうを見て、言葉を失った。
腕の中に天使がいる。
クールで知的、でも幼さが残るその顔。
大きな瞳は眠ったように閉ざされ、ふっくらとした唇はかすかに開いている。
きゃしゃで、みずみずしい裸の体。
白いその肌は、いま、紅潮し薄紅色に染まる。
やわらかな二つの乳房はおれの胸に押しあてられ、優しい陰毛がペニスをくすぐっている。
そして今、彼女の背中には、肌よりも白い、ほのかに輝く天使の羽があった。
美寿々はこれまでに見たことがないほど、神々しく美しく輝いている。
「どうしたのかな・・・・すごく体が・・・暑いの・・・・火照っているの・・・・」
天使の美寿々はうっすらと目を開け、おれの背中に手をまわした。
「抱いて・・・田村・・・・私を愛して」
そっと、羽を傷つけないように彼女を抱きしめる。
おれたちはキスをした。
ああ、この人を気持ちよくしてあげたい。
美寿々を、うんと悦ばせたい。
美寿々のほっそりとした、しなやかな指が、ためらいがちにおれのペニスにふれる。
おれは、美寿々のヴァギナをまさぐり、濡れたそこに指をさしいれる。
「あっ・・・!」
おれたちは、お互いの性器をやさしく愛撫した。
「ああ・・・あ・・・はあ・・・・・あ」
おれの手の動きにあわせて、美寿々は敏感に反応し、体をくねらせ声をあげた。
「は・・・・あ・・・ぁっ・・・あああぁ」
天使の羽が、快感に羽ばたきをする。
くちゅくちゅと愛液の音が聞こえ、甘い、吐息のようなあえぎが美寿々の口からもれる。
しあわせだ。
「おいで」
おれは、あおむけにベッドに横になり、両手を広げて美寿々を招いた。
彼女の両手をとり、腰の上にまたがらせる。
硬く直立したペニスの上にあそこが来るようにひざまずかせる。
そして、ゆっくりとそこへ腰を下ろさせる。
「あっ!あぁっ・・・あ!」
そこに入った瞬間、美寿々の細い体がはじけるようにのけぞった。
天使の羽が、淡く輝きながらはばたきをする。
「ああぁ!・・・あ・・・・・・・っ・・・はああ・・ああッ」
ペニスがやわらかな肉をつらぬき、あえぐ体の中に深くおさまった。
彼女の甘く温かい肉がおれを迎え入れている。
「ああ・・・すご・・・・・く・・・・ああ・・ッ・・・っ・・・かたい・・・」
おれは腰を前後させ、美寿々の体をゆり動かし、快感にさらなるゆさぶりをかける。
「あアアッ!・・いやぁン!アン!ああン!」
かわいい白い乳房が上下にゆれる。
天使の白い羽が動きにつれ、ふくらみ、しぼむ。
美寿々は両手をおれの手につかまれている。
恥じらいのあまり、羽が体をおおって隠そうとする。
おれは、腕を伸ばし、気持のいい感触の羽をかきわけた。
乳房を下からもみしだき、指で乳首をなぶる。
「やあぁん!あん!」
美寿々はまたのけぞり、白く、細い首をあらわにする。
おれは体を起こし、マシュマロのような乳首にむしゃぶりついた。
「は!あぁっ!あ!」
舌で乳首をなぶり、手で乳房をもみしだきながら、さらに、腰の動きを激しくする。
「ああぁ・・あん!・・あん!・・はああぁ」
ベッドがゆれる。
天使の羽が、開いたり閉じたりを、くりかえす。
快感に、美寿々はなまめかしく腰を動かし始めた。
「ああ・・・あ・・・い・・・いく・・イ・・ク・・・たむら・・・いきそう・・」
「まだ、だめだよ」
おれはつながったペニスを中心に、美寿々をぐるりと向こうにむかせる。
「ああ!・・・あぁ」
やわらかな天使の羽が、おれの顔を、身体を、くすぐった。
その羽からも美寿々の甘い香りがする。
身を起こしざま、美寿々の体を前に倒し、両手をつかせて、四つんばいにさせる。
「いや・・・・・っ・・・はずか・・・しい」
白い両足を開かせ、おれはその間に自分の太ももを割り込ませる。
両手で美寿々の腰を押さえる。
後ろからゆっくりと、そしてだんだん速く、腰を動かす。
この不思議な「場」で美寿々を愛していると、彼女の悦びが自分にも伝わってくる。
おれたちは、お互いの快感を共有している。
もっと感じて欲しい。
もっと悦んで欲しい。
美寿々、君を愛している!
同じこの世界に・・・。
今ここに、君がいてくれてうれしい。
幸せな気持につつまれる一方で、心の片隅には不安な気持ちが首をもたげている。
こんなふうに身を委ねているのは媚薬のせいではないのか?
おれに抱かれて、君はしあわせなのだろうか?
あんな恐ろしい仕打ちを受けて、美寿々!君は・・・。
薬がさめても、君はおれのこと好きでいてくれるのか?
その不安を打ち消したくて、さらに腰の動きに拍車をかける。
「はあっ、あっ!あッ!!」
愛液でうるおっているとはいえ、美寿々のそこは狭く幼い。
やわらかな肉が、おれの性器を包み、やさしく締め上げている。
ペニスが前後する時の圧迫感が心地いい。
「あっあっ!あッ!あ!あん!あん!」
おれは、いまだ硬さの衰えぬそれで、天使の尻を犯しつづける。
やわらかな尻のふくらみから、きゅっとすぼまるウエスト。
白い肌のラインがなめらかで美しい。
おれの動きに合わせ、美寿々の肢体が、羽がゆれる。
さらに、腰に力を入れる。
「きゃあん!あ!あっ、あ、あん!あん!アん!ぁあん!」
おれは激しく腰を動かした。
ぱん、ぱん、ぱんとリズミカルに肉を打つ音が響く。
そのたびに、背中の羽から、少しずつ小さな羽が、ふわり、ふわりと抜け落ち始めた。
それはゆっくりと空中をただよっていく。
「あ、あ、い、あっ、あ、いくッ!あん!あん!イクっ!アん!ぁあん!」
ああ、なんて可愛いあえぎ声だろう。
さらに打ち込みを激しくする。
パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
白く、細いからだが悦びのリズムを受け入れる。
「ああッ!あッ!ああぁん!あん!あん!あンッ!」
白い羽の抜け落ちがますます激しくなる。
部屋の中は、まるで雪が舞うさまだ。
大量の天使の羽はしばらく空中をただよい、やがてあたり一面に降り積もり始めた。
背中の小ぶりな羽からぬけ落ちたとは思えないほどの量だ。
こんなに、羽がたくさん・・・・。
「ああッ・・・い・・・あッ!・・・・いくッ!・・・・いきそう・・ああッ!」
打ち込みを続けながら、おれはあたりのその幻想的な光景に驚嘆した。
パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
「おねがい、いかせてっ!・・・・もうだめ・・・い・・・いっちゃう!ああアッ!!!」
腕をつっぱり、体を弓なりにそらせて、頭をのけぞらせる。
「いくッ、・・・イクっ!・・・いっちゃう・・・ああッ、あ、あああッ・・・た・・むら」
絶頂をむかえた美寿々は体をそらせ、叫んだ。
「イク!イクっ!いッくう!!・・・ああああっ!!!!!」
硬直し、前のめりに身体を倒した。
その瞬間、美寿々の天使の羽は、風にふかれたタンポポの綿毛のように飛び去った。
あとも残さず、そのなめらかな背中から霧消してしまった。
おれは、動きを止めた。
美寿々をあおむけに、やさしく横たえる。
ペニスは体に深くうがたれたままだ。
美寿々のほっそりとした綺麗な左足をおれの右肩にのせ、右足を左肩にからめる。
大きく足を開かせて、おれの前に美寿々の美しい裸身がある。
降り積もった天使の羽の中に横たわる彼女は、この世のものとは思えないほど美しい。
「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・」
やさしく上下する、白く薄い乳房がきれいだ。
汗ばみ、ぬれた髪がはりついた、細く長い首がなまめかしい。
美寿々は、恥じらいと耐えられぬ快感に赤くなり、あえぐ顔を横にそむける。
雪のような白い羽があたりを舞う中、おれはゆっくりと腰を動かし、美寿々のそこをかき乱し始める。
「は!もう、だめッ!そんなに・・・あん!・・あああぁ・・こわれちゃぅ・・・あぁ!」
二の腕で彼女の太ももを抱きしめるようにしながら、両手で美寿々の乳房をもみしだく、指で乳首をなぶる。
腰のところでくの字になった身体におおいかぶさるようにおれは彼女の身体を攻めた。
「・・・ああん、あっ、あん!・・・はッ!あん!だめえええぇ・・・」
大きく開かせた性器をむさぼるように、おれのペニスは愛液にまみれながらピストン運動をくりかえす。
「ああぁあ・・・おぉ・・・・っ・きい・・はああ」
美寿々のヴァギナをかきまわす。
「ああ!ああぁ!・・・すごく・・あつ・・い・・・ああっ!」
一気に、深く挿入する。
「ああっ!・・あっ!そんなに・・・おくにぃ・・・あぁあ!・・あっ!ダメ!だめっ!」
抱きしめる。
美寿々の顔中にキスをする。
ディープキス。
また、強く抱きしめる。
「ああああ・・・すごく・・・おくまで・・・はいっ・・・てる・・・ああっ!あっ!」
さらに奥に突き入れた。
快感にたえかねて、美寿々の細い腕が、小さなこぶしが、おれの背中をたたく。
「もうッ・・・だめッ!だめっ!ダメ!おねがいっ!」
おれは、また身体を起こし腰を動かし始める。
「きゃあん!あん!あん!あん!あん!あ!あ!あ!あ!!!!」
始めはゆっくりと、そして、これまでにないほど速く、激しく!
美寿々!愛している!
「いくッ!・・・イクっ!・・・いっちゃう!・・ああッ、あ、あああッ・・・た・・むら」
パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
「ああん・・・あん!・・・あん!・・・・いくッ!・・・イクっ!たむらっ!いやっ!」
パ!パ!パ!パ!!!!!!!!!!!!
「いやッ!・・・たむらのばかッ!いっちゃうッ!あん!あん!・・・きらい!あああん!」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「あんたなんか!・・ああん!・・あんたなんかっ!・・・・だいッ・・・・きら・・・い」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ぁあアっ!!・・・ああああああああああああああああああああああああああああ!!」
はげしくけいれんして、のけぞり、硬直し、美寿々はそのまま失神した。
天使の羽は、雪が舞うように部屋の中を漂って、床に降り積もる。
エンジェル・スノー。
あたりはまるで一面雪でおおわれたかのようだ。
赤ん坊の姿で眠っている黒・田村の上にも、やさしく白い羽の雪が降り積もっている。
やがて、赤ん坊はすっかり白い羽におおわれ、羽でつくられた人型のようになった。
突然、ごおっと、風の音が聞こえた。
白い羽が舞い上がる。
閉ざされた部屋の中を、嵐のような強い風が吹きあれた。
おれは美寿々をかばい、抱きしめる。
白い羽の嵐。
この部屋にあったすべての羽が、空中に巻き上げられ荒れ狂っている。
が、めくるめく白い嵐は、一筋の白い流れにまとまると、部屋の中を何度かカールし・・・。
一瞬で異次元に吸い込まれたかのように消えうせた。
あとには、裸の美寿々と呆然としたおれだけが残される。
部屋の様子は、おれがこの部屋を訪れたときのままだ。
何事も無い、平穏な静かな夜の部屋に、時計がコツコツと時を刻む乾いた音。
・・・・現実の世界にもどれたんだ。
白い羽につつまれた赤ん坊の黒・田村も消えてしまった。
でも、どこへいったのかは知っている。
「さようなら、黒・田村、いつか悪夢のなかで、また会おう」
・・・・・
バスルームで失神したままの体を、髪を、きれいにする。
そして、ベッドに美寿々の裸体を横たえた。
深いため息をつく。
彼女の上を通り過ぎていった暴力と狼藉のあとは、すぐには消えない。
白い肌の上にはベルトの鞭のあと、キスの内出血、歯のあとが赤く残っている。
シーツには破瓜の血のあとも・・・。
ああ、大切な人に、なんてことを。
黒・田村が言ったとおり、許してはもらえないだろう。
この人からも、法律からも。
セクハラどころではない。
婦女暴行で訴えられても、東京湾に沈められても仕方ない。
何よりも、自分は、自分のやったことが許せない!
泣き声が聞こえる。
この部屋のどこかで、誰かが泣いている。
美寿々じゃない、彼女はおれの前で目をつむって横になっている。
涙のしずくが、美寿々の顔に落ちてはじけた。
・・・泣いているのはおれか。
そっと、優しい指がおれの涙をぬぐった。「田村・・・泣いてるの?」
「住吉先生・・・おれ・・・・」
なんと言ったらいいのかわからない。
「さっきの、本当の私なの。」
「えっ?」
「私、媚薬、飲んでないの・・・・すきを見て、とり替えたから、飲んだのは田村のほう」
「女郎蜘蛛でママと話していたのを聞いたの」
・・・・・・・
「・・・そのよう・・・ですね」
今までのことを思い出し、おれは苦笑した。
「媚薬を飲んだのを知っていて、おれを部屋に入れたんですか?」
「強引にきてくれたら、私も素直になれるかなって・・・田村の気持がうれしかったの」
「住吉先生・・・」
「さっきの・・田村・・怖かった・・・・いつもはお人よしの田村なのに・・・・・」
おれは黒・田村のように、ここから消えてしまいたい気持だった。
「私、まるで男の人二人から何度も犯されたみたい・・・」
おれはその場で土下座をした。
「おれ、責任取ります!先生が妊娠したら、おれをその子の父親にしてください」
美寿々は虚をつかれ、哀れむように言った。
「田村・・・あたしが安全日をチェックしないで、あんたをこの部屋に入れたと思う?」
「・・・・」
この人には勝てない。
「田村・・・わたし・・・あなたのこと」
「え?」
「好きよ」
おれは、耳を疑った。
今・・・おれのこと好きって・・・・?
「愛してる。・・・よく解らないけど、あなたは何かから私を守ってくれたのね」
言葉の意味を確かめ、かみしめる。
おれは心の中に暖かいものが、しあわせが、じんわりと広がってくるのを感じた。
「美寿々っ!」
ベッドの美寿々を抱きしめようとするおれを迎えたのは、鋭い平手打ち。
いい音だ。
「痛って〜」
「ゆとりクンが、私を呼び捨てにするのは、十万年はやい」
首を振りながら、さとすようにうそぶく。
いつもの住吉美寿々だ。
美寿々復活!
「でも、ベッドの中だけはゆるしてあげるね」と、いたずらっぽく微笑む。
「おしおきが必要ですか?住吉先生」
おれは、ほおをさすりながらベッドに上がり、美寿々に添い寝した。
おれの軽口に、美寿々はおれの胸に腕をまわしながら、口元をほころばせた。
「・・・サディストの田村も、素敵よ」
「M女の住吉先生って、最高だ」
おれは彼女にキスをした。
「だって、私、りっぱな淫乱ブタだもん」
そう言って美寿々は、全裸でおれの胸の中に顔をうずめ、腕の中でふわりと微笑む。
どうして、この人はこんなにきれいなんだろう。
「あ!」
さっき、リビングを通った時、自分の携帯にメール着信があることを思い出した。
「ほおっておきなさいよ」
「でも、緊急だったら」
今、あつかっている案件を思い出し、あわててメールを開く。
「女からだったら、殺す」
「そんなわけ、ないでしょ」
「それはそうね」
どういう意味ですかと、にらむおれをよそに、美寿々はディスプレイを覗き込む。
やれやれ、どうしてみんな、おれの携帯を覗きたがるんだ。
「あ、女よ」
「ええっ!?」
「女郎蜘蛛のママからだ」
着信あり
―たむたん、あの媚薬、全部使っちゃだめよ。
一回につき、耳かき一杯程度ね。
全部使ったら、すごい副作用があるって。
じゃあ、素敵な夜を。 女郎蜘蛛ママ
おれたちは顔を見合わせ、ふきだした。
しばらく笑いが止まらない。
「・・・たしかに、すっごく強烈でしたね」
おれたちは見つめあった。
おれは優しく美寿々にキスをすると、耳元でささやいた。
「住吉先生・・・・・・おれも、愛してます・・・・・」
あの人を、今も大切に思っていることを含めて、あなたが好きなんです。
「また、大きくなってる・・・・なに考えてるのよ、このエロたむら」
おれは、ほほえむ彼女を抱きしめた。
優しく、強く、激しく。
美寿々とおれは夢の世界へと落ちて行った・・・・
・・・・・
二人が睦み会う部屋の窓が、やがてやさしく白みはじめようとしている。
その窓枠には、なにか小さな白い物があった。
ほのかに輝く一本の白い羽。
二人の幸せを祝福するかのように、それはかすかにゆれている。
やがて、その白い羽はひときわ強く輝くと・・・。
音もなく静かに消えていった。
おわり