キスは段々と深みを増していった。  
田村の両手があたしの顔を捕らえて離さない。  
角度を変え舌を絡め、様々に攻められて、ただでさえ熱に浮かされたあたしは抵抗を諦めている。  
「ん…ふん…う、んむ、んん…」  
あたしの声と…粘着質の液体が混ざりあう音。  
捩じ込まれた舌が口内を満遍なく撫でてからあたしの舌にまとわりつく、その感覚に頭が眩む。  
 
ちゅぱ、という音と共に下唇を甘噛みされ、ようやく顔が離れた。  
細められた目に、大人の男が持つ色気が宿っている。  
田村じゃないみたい…。  
しがみつくあたしの手を優しく外させると、田村は剥ぐようにブレザーを脱ぎ捨てネクタイを外した。  
あたしを視線で縛ったまま布団を剥がし、ベッドの横から軋む音を立てて覆い被さってくる。  
目をそらせなくて動揺していると…首に顔をうずめられ、キスを降らされた。  
ちゅ、ちゅ、と甘い音がする。壊れ物になったような気分。  
…病人だから?だからこんな優しく……  
──チリッ  
「…っ」  
一点に甘美な痛みを感じて思考が遮断された。強く吸われたのだと気づく。  
「っ、た、むらぁ…」  
呼んだその声が、情けないほど弱々しいものになった。  
 
「先生…?」  
田村の頭が耳元に近づく。囁いたその声が、吐息が、身震いするほど色を持っている。  
「ん、ゃあ…」  
思わず顔を背けた。  
「耳…弱いですか?可愛いですね…」  
確信犯的に囁いてるのがわかる。  
耳朶を食まれ、ぞくぞくと背筋を電流が駆けあがった。  
「ひゃんっっ!んぁあ…」  
舌で耳の穴を探られる刺激から逃れようにも、やんわりと抑えつけられた頭は動かせなくて。  
唇で舌で吐息で、さんざんに攻められている。  
 
…ちゃ、ぴちゃ、くちゅ…  
 
全神経が耳に集中したみたいに、その水音があたしを支配した。  
 
 
そんなだから、あたしを押さえつける手の一方が腰の方に伸びたことに気づいていなかった。  
急に下腹部にひやりとした感覚。田村があたしのニット、さらにインナーのキャミソールの下に手を忍ばせている。  
 
「あ…っ、や、ぁ…」  
身を捩ると、またお腹が寒い。めくれあがってしまったのだろう。  
田村の手が時間をかけてあたしの身体をのぼってくる。  
 
「先生…肌、すっげ、気持ちイイ…」  
 
そう囁くや否や、田村はニットとキャミソールを一気に脱がせた。  
上半身の着衣はブラジャーだけ。いきなり無防備な姿にされ、寂しさにも似た寒気を覚えた。  
 
手を差し入れた服の下の素肌が、滑らかででも吸い付くようで、すごく気持ちいい。  
なんて魅力的なんだろう…余す所なく触りたくて、ゆっくりと手を滑らせた。  
細いウエストから、形も大きさも程好い乳房をいだくバストまで、  
女性らしい、美しいラインを描いているのが見なくてもわかる。  
 
脱がせてしまうと……ああ、やっぱり白くてとびきり綺麗だ。  
 
ぶる、と彼女が身体を震わせた。  
「っあ、ごめんなさい…!」  
住吉先生が病人であることも忘れて見入ってしまった。  
彼女を抱き起こして腕の中に収めると、俺の身体にきゅっとしがみついてくる。  
小さな身体がいとおしい。  
 
顎にそっと指を掛け、キスへ促す。  
虚ろな瞳、半開きになった唇…きりりとした普段の住吉先生とは全く違うその表情に、また惹かれていく。  
優しく口付けた。性急になっちゃいけない。小さな唇の感触を、ゆっくりと味わった。  
「ふぅ…ん…」  
鼻から抜ける息のような声のようなそれには、甘い安心感が篭っていた。  
 
 
ブラジャーのホックに手をかけた。  
気づいて身を捩る彼女の口内にすかさず舌を割り入れ、意識を引き戻す。  
 
「ん…んっ、ふ…」  
 
ぷつ、とホックが外れた。  
 
唇を離し、ストラップを肩から外す俺に、先生は恥じらいと困惑が入り交じった表情で、それでも自ら腕を抜いて協力してくれた。  
抜き取ったブラジャーを床に落とす。  
お互い言葉がなく、ぱさ、という落下音がやけに響いた。  
大きすぎない、かといって小さすぎない…そのふたつの丸みは小柄な彼女の身にはぴったりと適した大きさに思えた。  
先端のぷくりと尖る乳首は、触れてほしい、弄んでほしいと訴えるように主張しており、俺はすっかり見とれていた。  
 
「あ…田村、な、「可愛い…」  
沈黙を破った彼女の発語は、素直な感想を漏らして乳房にしゃぶりついた俺によって遮られた。  
代わりに、悲鳴にも似た嬌声があがる。  
「ひゃ、あ、やぁあっ…!」  
柔らかい…ふわふわだ。なのに弾力があって、食むとやんわり押し返してくる感触がたまらなく心地好い。  
普段先生はカタいスーツに身を包んで、肉感というものをほとんど感じさせない。  
こんなに柔らかいカラダしてるなんて……正直、感動を覚えた。  
 
 
勢いのまま押し倒した。  
ちゅぱちゅぱと乳児みたいに吸いついて、彼女の胸は俺の唾液でべちゃべちゃだ。  
「ああ、んん、ふ、ふああぁ…」  
鳴く、と表現するのが相応しいような、か弱い喘ぎ声があがった。  
 
乳房に唇を滑らせる。圧力に強弱をつけて。  
柔らかな丸みに、硬く尖る頂がいじらしい。  
滑る唇に引っ掛かるのが、何というかすごくいやらしく感じられた。  
 
素直だなー…先生と違って。  
そんなことを考えながら、俺は右の乳首を口に加えた。  
「んん!やっ…やぁ…やだあっ…」  
舌で押し付けたり、形に合わせてすぼめるように一舐めすると、彼女は一際高い声で鳴いた。  
もう一方を右手で愛撫することも忘れない。  
俺の手に収めるには少々小ぶりな丸みは、力を入れすぎると快楽よりもむしろ痛みを与えてしまうみたいだ。  
弾力を確かめるようにやわやわと揉みしだいた。  
 
 
夢中で愛撫を重ねていると、髪を引っ張られた。  
引っ張ると言っても、俺の頭を掻き抱く住吉先生の手にほんのちょっと力が加わった程度だ。  
だがそれで幾分か我に帰り、俺は顔を彼女の方に向けた。  
 
「た、…む…ら…」  
大きな瞳を潤ませ、切ない表情を浮かべている。  
呼吸が浅くて苦しそうだ。  
 
…ちょっと、おイタが過ぎたってやつかな…。  
先生のおっぱいが可愛くて、構いすぎた。  
髪に指をくぐらせ頭を撫でてやると、目を細めてほう、と息を漏らした。  
熱い吐息が、近づけた俺の顔まで届いた。  
 
 
田村はあたしを好いてるらしい。  
そして不本意ながら、あたしもこのゆとりを気に掛けている自分を自覚せざるを得ない。  
コイツがいつまでも補助者なせいで今でも時々同じ依頼にあたるけど……  
二人きりになるたび動揺してしまうあたしに、田村は気づいてるんだろうか?  
何か言われるんじゃないか、また不意討ちのキスがあるんじゃないか。  
知ってか知らずか表向き普段通りの田村の態度に内心助けられる、最近はずっとそんな日々だった。  
 
 
ガラにもなく弱っちゃって、田村に介抱されて。  
ダメ、って思いながらも優しいその手に抗えなくて、触れられるたびに自分でも驚くくらい正直な反応をしてしまう。  
熱のせいだ…。  
そう考えないと、自分が自分でなくなりそうで怖い。  
 
頭を撫でられるとひどく安心して、思わず吐いた呼気には熱がこもった。  
そう言えばあたしより歳上だっけ…。  
逞しいその手に恋しさを覚えて、撫でられてる上からそっと自分の手を重ねた。  
そのままゆっくりと、顔の中心に向かって手を滑らせる。  
 
───ちゅ、  
「、先生…」  
掌にキスして、舌を這わせた。  
 
なんだかお返ししてる気分になった。  
しつこく胸ばっか弄るから…。  
掌から始まり、指の付け根、そこから沿わせて指の先まで。  
キスしたり舐めたり、田村の手があたしの唾液で湿り気を帯びた。  
 
 
「!…んぅ」  
いきなり、強制終了させられた。  
田村が自分の手をどけて唇を重ねてきたから。  
掌に唇を這わせながら、ほんとは気づいていたのだけれど。  
田村の表情に…情欲がくすぶってることに。  
そんな風に男の顔を見せられて、あたしはぞくぞくした。  
 
深いキスになった。  
田村の息が熱い…いや、あたしの息と混ざってどっち付かずな空気が、口内に充ちてるのかな…。  
「…ふ、ふぁ…は、…」  
僅かな隙間ができるたび、息と共に熱を逃がした。  
身体の芯でじくじくと疼くこの熱が風邪によるものだけではないことを、いい加減あたしも自覚していた。  
 
 
唇が離れた。  
田村は余裕無さげな忙しない顔をして、あたしのスカートに手を掛けた。  
ホックを外され、ファスナーが下ろされる。  
「先生…ちょっと、腰あげて…」  
力が入らなくて、ほんの僅か腰を浮かせるのが精一杯だ。  
それでも田村は器用に腰の下に手を滑り込ませ、あっという間にストッキングごとスカートを下ろした。  
 
「………」  
…やだ、何なのこの沈黙。  
田村の目の焦点は否が応にもわかる。  
あたしの身体の中心……視線を感じ、太股を擦り合わすようにそこを隠そうとした。  
「…可愛い。先生、可愛いですね…」  
行為が始まって何度口にされたことか。なのにあたしの身体はいちいちそれを正直に悦んでいる。  
…それを決して口にはできないけれど。  
「ゃ、だ…」  
恥ずかしくて顔を背けた。  
「ふふ…そういうのが可愛いって言ってるんです」  
太股の間に指が潜り込み、ショーツのクロッチを撫でられた。  
「っあぁ…!やぁぁ…っ」  
身体が反射的に跳ねた。  
布越しの刺激。それから、ぬるり。  
濡れているのが自分でもわかってしまい、その上今のでまたじわっと溢れた。  
「わ…先生、すごい感度イイ…」  
田村のバカ、実況するなっ!  
高まる疼きが収まらない。  
熱い。もう、やだ……  
違う。嫌なんじゃなくて、苦しいようなはがゆいような、  
ああ、もう、ぐちゃぐちゃする……  
 
「うぅ…ふっ…ふうぅぅ…ふぁああ…」  
押し殺したつもりの嗚咽が、涙と一緒に溢れてしまった。  
「住吉、先生…」  
田村があたしの身体を包む。  
頭やら首筋やらを撫でられ、目元への口付けで涙を拭われて、なのにあたしの目は相変わらずはらはらと涙をこぼした。  
 

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