俺の下で涙を流す彼女を見て、不謹慎にも嬉しくなった。  
嗜虐心じゃない(俺は普段の彼女みたいなドSな人間じゃない)。  
あの住吉先生が、俺に涙を見せるなんて……  
硬い殻の中の、これ以上なく柔らかでナイーヴなものを目の当たりにしたような気持ちだ。  
可愛くていとおしくて仕方ない。  
 
とは言え、泣いてる彼女を見て俺一人満足してるわけにもいかない。  
頭を撫でながらそっと尋ねた。  
「…だいじょぶ、ですか?苦しい…?」  
「ふぅっ…うー…」  
肯定も否定もせずに彼女は小さな嗚咽を漏らし、同時にすり、と太股を擦った。  
 
この子……すごい敏感なんだ。  
熱があると鈍くなるもんだと思ってたけど。あるいは、熱のせいでじれったくてしんどいのだろうか。  
 
「先生…イキたいですか?」  
質問の形式をとったが、半ば強引だった。俺は彼女のショーツに手を伸ばした。  
クロッチの横から指を差し入れ、湿り気を帯びるそこを探り、潜る。  
程無く、ぷくりとした存在を中指が探り当てた。  
「あっ!ああぁっん!やだ、やぁ、やぁあ…っ!」  
びくっと彼女の身体が震えた。アタリだ。  
すぐ側の蜜壺から愛液を絡め取り、膨らみに擦り付ける。  
───ぷちゅ、  
「はっ、あ、あ、あ……」  
聴覚を十分に刺激する水音、そして彼女の嬌声。  
絶頂はあっという間だった。  
 
「っ、…は…はぁ……」  
呼吸に合わせて、先生の肩から胸が大きく上下する。  
達したら…こんなカオするんだ。  
甘く潤む色っぽい目付き。緩んだ表情筋、ピンク色の頬。  
見とれるほどきれいだと思った。  
 
弛緩しきって少し落ち着いた様子の彼女に気を遣りつつ、俺は上に着たものを脱ぎ捨てた。  
妙に引っ掛かるもどかしさに、自分も汗をかいていたことに気づく。  
 
上半身裸になって再び彼女に覆い被さり、誘われるように唇を重ねた。  
彼女の辿々しい舌を追い回し、しつこいくらいに絡ませた。  
もっと欲しい。もっと…。  
粘度のある液体特有の艶かしい音を立て、蹂躙するようなキスをした。  
何度も角度を変えて口付け、そのたびにお互いの口元が唾液でべたべたになった。  
 
 
「…バカ。しつこい…」  
わずかに離れてなお唾液の糸を引く唇を小さく動かして、彼女が毒づいた。  
妙な話だが、彼女が意味のある言葉を発するのをえらく久々に聞いた気がする。  
多少は、ラクになったんだろうか。  
「…イッて、気持ちよかったですか?」  
「っ!な、…バカ」  
何なんだこの人。口を開けばバカバカって。  
しかもそんな…甘い声で、表情で…。  
威圧感なんてまるでない、俺を煽るだけですよ、それじゃあ。  
俺は彼女の耳元に口を寄せた。  
 
「っあ……」  
ほんのちょっと息が漏れただけなのに、住吉先生は肩を震わせた。  
やっぱり敏感だ…可愛い。  
「住吉先生…俺も…そろそろ限界です」  
たっぷりと熱を込めて、囁いた。  
 
びしゃびしゃで用をなさなくなったショーツを脚からそっと抜いた。  
先程は愛液を絡め取っただけの膣内をゆっくりと指が訪う。  
「ぅわ…」  
思った以上に潤むそこに、指2本が、するりと埋まった。  
「痛いですか…?」  
念のため尋ねると、弱々しいながらも首を横に振って否定の意思表示をされた。  
 
中は熱くて柔らかい。まるで指がそこに呑み込まれるようだ。  
少し、指を動かしてみる。  
内壁を半周ほど撫でると、たっぷりと愛液がまとわりついた。  
「っ、んう…」  
──あ、ちょっとダメかな。  
でも、その声はすぐに慣れたような穏やかな甘みを伴うものとなった。  
 
 
彼女の声が、表情が、滴るような色気を醸し、俺はどこまでも煽られる。  
…くちゅ、ズルッ……  
引き抜いた指が糸を引く。  
「ふあっ…」  
うわ言のような彼女の声が響いた。  
指に絡みついた愛液を舐めとると、ひどく濃厚な甘い香りがした。  
男をそそる、妖しいくどさを持った香りが指に残る。  
下着の中でペニスがまた一層怒張した。  
余裕が、削り取られるように無くなっていくのがわかった。  
 
 
鞄からコンドームを取り出すのに意外に手間取った。  
そもそもがもしもの為程度の所持品であり(もちろん、長いこと世話になっていない)、  
しかも依頼人との相談中にうっかりポロッと出てきたら本気でシャレにならないので、鞄の奥底に潜ませているのだ。  
いつか住吉先生と…なんて妄想も抱かないではなかったが、使う機会がこうも思いがけずやってくるとは…。  
感慨に耽りながら装着した。  
 
「…先生ぇ、挿れますよ…」  
うわ、ださっ…。声が上擦った。  
 
 
ペニスがずぶずぶと沈むように彼女を侵していく。  
蕩けそう……熱と触感からそんなことをぼんやり考えた。  
「っあ、あ…ぅあ、んぁあ…」  
出すまいと必死ながらも口から漏れ出てしまう、そんな彼女の喘ぎ声が可愛らしい。  
苦しさによる生理的な反応なのか、瞳に涙が浮かんでいる。零れそうなその滴をキスで拭った。  
 
まだまだ表情には苦痛の色が濃い。  
挿入したばかりの辛さもあるはずだし、もともとの熱がくすぶって、身体中が火照っているみたいだ。  
俺はたまらなく気持ち良いのに……申し訳なさと紙一重のいとおしさが込み上げる。  
 
「先生…大丈夫ですか…?」  
囁くと、驚くほど過敏な反応を示す。  
「んっ!うっ…ふぅぅぅ…」  
俺はあやすように彼女の頭を撫で、頬や額に口付けた。  
 
田村を迎え入れた瞬間の言葉にならない圧に、あたしは息を飲んだ。  
目の前が霞むような気がしたけど、意識は確かにここにある。  
 
どれくらいの時間を要したのかわからないけど、全部挿入ったらしい。  
田村がはぁ、と少し長く息を吐いたのでそれがわかった。  
“こういうこと”するの、いつぶりだろう…?  
ちょっと記憶を遡った程度では思い出せなかった。  
じゃあもっと真剣に考えれば思い出せるのかもしれない、けど……  
「んん…ふ、ぅう…」  
今、まともな思考が働くわけがない。  
人肌の熱や湿り気を直に感じて、これ以上ない至近距離に相手の息遣いがあって。  
何より、「そこ」に、田村の存在感が十分すぎるほどあって。  
身も心も落ち着かない、落ち着けないあたし。  
それを田村の手や唇は、ゆっくりとほぐしていった。  
 
 
そういうのは、落ち着くとかえってもどかしくなる。  
戯れのようなくすぐったい愛撫。  
頬にキスされるあたしの目の前には、田村の耳がある。  
故意に、息を吹きかけた。  
一瞬身を固くして顔をあげたその隙に、あたしから唇を重ねた。  
驚いたような反応をされたけどそれも一時のことで、すぐに主導権が奪われた。  
侵入してきた舌が、あたしの舌の裏側をつつ、と舐める。背筋が震えた。  
「っん、んふ…ぅ」  
 
唾液が混じりあって水音が響く。  
田村の首に回した手に、力を込めた。  
 
「先生、絞まっちゃいます…」  
唇を離した田村は眉を下げて少し笑った。  
腕をぽんぽんと優しく叩かれ、首のことかと気づいた。  
「ぁ…ごめ…」  
腕の力をあわてて弛める。田村の眉はもっと下がった。  
「ふふ…」  
「な、に…?」  
「いえ…住吉先生が俺に謝るなんてなぁと思って」  
それに、と田村は僅かに声のトーンを落とした。  
あたしを震わす、低い色っぽい声だ。  
勝手に肩が強張る。  
「…先生からキスしてもらえると思わなかった。すっげぇ…嬉しいです…」  
「ぁ…や…んっ、ぁんっ」  
耳朶が食まれ、首筋を舌が伝った。  
刺激が全身を流れ、田村自身を迎え入れたそこがきゅうっと締まる。  
 
「っあ…ヤバ、せんせ、ちょっ…」  
あたしの腰が無意識にゆる、と動くと、途端に田村の呼吸が荒くなった。  
おっきく、なった……?  
あたしの中でずくりと存在感を増すモノに、身を捩ってしまう。  
するとまた刺激に襲われて、たまらず声をあげた。  
「ふあっ……あ、んぁ、はぁああん…っ」  
「っ、くっそ…先生、煽んない、で……」  
田村の眉間に寄る皺とか、掠れてたまらなくセクシーな声とか…でも、それ以上に、つながった部分の圧迫感がぞわぞわとあたしを昂らせた。  
 
「はぁっ……」  
ゆっくりと、田村が抽送を開始する。  
時折、先端の引っ掛かる感触。  
ぎりぎりの浅いところまで抜いて、また奥を貫かれた。  
緩急をつけられ、あたしはそれと同じタイミングで声をあげてしまう。  
「ひあ、あ…、あっ……やん、や…あ、あん、あん…」  
 
──グプ、ぢゅく、……  
 
官能的な音というのは、きっとこういうののことを言うのだろう。  
水音と共にそこから溢れ出る液体の量が尋常じゃない。  
それを感じとるあたしの思考も、とても平常を保っていられない。  
抽送はいつの間にか、肌の打ち鳴る音が響くほどに勢いを増していた。  
 
「あ…ぅあっ、イ、イキそ…」  
田村の口から漏れるのは独り言だろうか。  
あたしだって、もう喘ぐことしかできなくて。  
たぶん顔は涙と汗と唾液でぐしゃぐしゃだ。メイク崩れなんてとうに諦めてる。  
「ふあ、ぅああ…やん、あっ、はっ…ん」  
「っ、……すみよし、せん、せぇ…」  
前髪を掻き上げられ、額に唇が落とされた。  
突然の柔らかく優しい感触に、暖かい何かがじわりと込み上げてくる。  
「ふ…ぅぅ…」  
 
「ぐっ……すいませ、先生、も、限界…」  
絞り出すような田村の声を遠くに聞いた気がした直後、激しく貫かれ、怖いほどの快感が身体を駆け巡った。  
びくびくと全身を震わせてあたしは意識を飛ばした。  
 
 
目を覚ました住吉先生にものすごい剣幕で追い出された。  
「いいから帰りなさいよバカ!!家で試験勉強でもしてなさい!!」  
ちょ、またバカって……言い返す間も無く扉を閉められた。  
 
…ひどくないか?あんまりじゃないか?  
意識を失った先生の身体をきれいに清めて、近くに落ちていたパジャマと思しきスウェットを(上だけだけど)着せてあげて、  
着ていた服はハンガーに掛けるか脱衣カゴに入れ、シーツにできたしみは可能な限り叩いて拭き、きちんと布団も掛け直して、額に冷水で絞ったタオルまで乗せてあげたのに。  
寝顔があまりにも可愛くて、添い寝したいあわよくばまた襲っちゃいたい気持ちを抑えて、隣で見てたのに…!  
 
 
外は暗かった。時計を見ると、案外長いこと先生の家に居たみたいだ。  
帰り道を歩きながら、目を覚ました後の彼女の様子が頭をよぎる。  
うっすらと目を開けたその顔は、俺より歳下の、無防備な女の子だった。  
数秒の間俺を見つめた後にみるみる頬を紅潮させて、帰れ帰れとまくし立てながら俺を玄関まで追いやったのだ。  
スウェットの丈はかろうじて秘部を隠す程度、そこから伸びた脚はよたよたと覚束無い歩調だった。  
熱は多少は下がったんだろうか。  
まあ…あれだけ汗、かけばなぁ…。  
というか…すっげえ可愛かったなぁ…。  
思い出して疼きそうになる下半身に気づいてあわてて堪えた。  
 
「っ、くしゅっ」  
あれ…うつされた、か?  
 
「あの…体調…大丈夫ですか?」  
大野事務所を出てすぐ、俺は住吉先生に尋ねた。  
あれから3日。病欠をとっていた彼女が今日仕事に復帰した。  
そして早速、大先生から一緒に依頼に当たるよう指示され、これから依頼人のところへ向かうという時だった。  
出てこないのはまだ本調子じゃないから、だよな……  
そう解釈しつつも、彼女を傷つけたのではと悶々とする日々だった。恐ろしくてメールもできずにいた。  
一方で仕事に追われ、そして…あれ以来どうも身体がだるい。  
だがただでさえ住吉先生がおらず人手不足、しかも有資格者でもない俺に、体調不良程度で休みたいなんて弱音は許されなかった。  
 
「…誰かさんがサカったりしなければ?もう少し早く出てこれたかしら…」  
俺から目をそらして口にする、その口調はとても冷ややかだ。  
「うぅ…すいません、でした…」  
言い返しようがない。確かにその通りなわけで。  
歩き出す彼女をあわてて追い掛けた。  
 
「っくしゅ…ぐす…」  
後ろを歩く俺のくしゃみに、先生の歩みが止まった。  
「…風邪ひいたの?」  
そう言う彼女の瞳に、僅かばかりの動揺が見える気がする。  
「え、あ…いや…」  
先生からうつされたんです、なんて言ったら蹴りが飛んできそうで、俺は返答に困った。  
 
少しの沈黙の後、彼女が鞄から何かを取り出し俺に押しつけた。  
片手に収まる、小さな軽い瓶。  
「…風邪薬?」  
「あげる。…使いかけだけど」  
中で白い錠剤たちが、からからと音を立てる。見たところほとんど減っていない。  
「…いいんですか?あんまり使った跡ないですよ?」  
「買ったばっかだもの。…いいわよ、別に」  
「はあ…ありがとうございます」  
俺はコートのポケットに小瓶をしまった。  
 
「タクシー代…出してもらったし…その、あたしが寝ちゃってからも、いろいろやってくれたみたいだし…」  
だから許してあげる、とぶっきらぼうに、しかし頬を赤らめて彼女は口にした。  
「…素直じゃないなあ、相変わらず」  
次の瞬間、強烈な蹴りが入った。  
 
「バッカじゃない!?風邪薬だって…もういらないからあげるのよ!!」  
「ってえぇ…先生、俺今体調悪いんですけど…」  
「はあ?悪いのは口のきき方でしょ!?ったくこれだからゆとりは嫌なのよ!!」  
「先生、俺の具合悪くなったら介抱してくれますか?」  
今度は鞄が飛んできた。初めてのキスの直後と同じ攻撃パターンを、まんまと喰らう俺。  
「一生伏せってたらいいのよ!!」  
はあ…やっぱりまだ当分、こんな関係が続くのか……。  
 
 

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