場末の酒場で二人の人物が飲んでいる。  
一人は憂いを感じさせる目をした長身の男で、もう一人は小柄だが全身から冷たい色気と知的な雰囲気を漂わせた男だ。  
二人は刑事で、長身の男は小柄な男の上司だが、二人とも仕事のことを殆ど口にしていないので、傍目には刑事であると分からない。  
長身の男はウイスキーの水割りを飲む合間にちょっとしたつまみを口にしているが、小柄な男は何も食べずにウイスキーをストレートで飲んでいる。  
「杉下、何も食べないで飲んだら悪酔いするよ」  
長身の男が野菜スティックを隣に座っている小柄な男にすすめる。  
「いいえ、結構です。どのように飲めば悪酔いするかは、過去の経験から分かっていますから」  
自分の名を呼ばれた小柄な男はそう言うと、すすめられた野菜スティックをつき返した。  
「小野田のだんなの連れの若造、ツラはいいのにかわいくないねえ。まあいい、これでも飲ませりゃおとなしくなるか」  
カウンターの向こうにいる酒場のマスターは常連である長身の男の名を口にしてから客に気付かれないように、冷水を注いだ一点のグラスに透明な液剤を入れると、マドラーでかき混ぜた。  
「若造、酒は一休みして冷たい水でも飲みなよ」  
酔いが回り頬を赤らめている杉下は、余計なお世話だと思いつつも、マスターが差し出したグラスを受け取り、冷水を飲み干した。  
 
それから10分後、そろそろ帰ろうかと思った小野田が杉下に声をかけた。  
「杉下、帰るよ」  
小野田に肩を軽く叩かれ、杉下はゆっくりと立ち上がる。  
「なんだか体が変です・・・」  
杉下が眼鏡の下の瞳を潤ませながら小声で言う。  
「だから言ったでしょ、何も食べないで飲んだら悪酔いするって」  
「そう言うのじゃなくて、胸や腰の辺りが自分の体ではないような感じです・・・まるで、頭の中だけが僕で、体が誰か別の女性になっているような・・・」  
単なる悪酔いにしては何かおかしい。そう思った小野田は杉下の体に目をやった。  
三つ釦のスーツの胸元が膨らみ、腰の辺りも丸みを帯びている。一番の変化は、割とタイトなス−ツを着ているにもかかわらず股間の膨らみが見えないことだった。  
「マスター、杉下に何をした?!」  
小野田がマスターに聞く。その口調からは、いつも飄々としている小野田もさすがに驚きを隠せないでいることが伝わってくる。  
「何って、人の性別を一時的に変える薬を水に混ぜて小野田のだんなの連れの若造に飲ませただけだ。薬の効果は長くても四時間ぐらいしか続かないから、心配しなくていい」  
小野田はこともなげにそう言ってのけたマスターに札を投げつけるようにして渡すと、杉下を連れて酒場を後にした。  
酒場を出てしばらく歩くうち、夜風で頭が冷えたからか、二人にようやく落ち着きが戻ってきた。  
杉下は自分の身に起きた異常な出来事とその経緯を理解し、今の自分が本来の性別と違う肉体に変えられていることに不満を持った。  
「僕としたことが、善意を装った悪戯で女性の体にされてしまうなんて。全くもう、お恥ずかしいったら・・・」  
「愚痴ってもどうにもならないでしょ、男を女に変える悪戯なんて予想外なんだから」  
小野田が杉下の言葉を遮るように言う。  
 
「それじゃあ僕はこれからどうすればいいのですか?小野田さん!」  
杉下が少し強い口調で言う。  
「どうすればいいって、現実を受け入れるしかないだろうね。幸いお前の苦しみは一生続く訳じゃないし、発想を変えれば貴重な体験にだってなり得る」  
小野田の言葉には、あらゆる現実を受け入れ、苦難を乗り越えてきた人間ならではの説得力があった。もっとも言い方は多少投げやりにも思えるが。  
「貴重な体験、ですか」  
そう言って苦笑する杉下を見て小野田はあることを思いつき、杉下を下の名で呼んでみる。  
「右京」  
「はい?」  
いつもの、聞きようによってはどこか挑発的にも聞こえる返事が返ってくる。  
「僕に考えがある。今夜のお前は「右京」という一人の女で、僕の一夜限りの恋人。  
そう思えば少しは気が楽になるんじゃないか」  
「じゃあ僕も今夜はあなたのことを上司とは考えませんが、いいですか?」  
「OKOK。ただし、今夜だけだよ」  
短いやり取りの後、小野田はタクシーを呼んだ。  
「僕んちに泊まっていきなよ。女房は今日から二泊三日で女友達と旅行だから、僕、淋しいんだよね」  
ホテルにでも連れて行かれるのかと思っていた杉下は、小野田の家に招待されることなど予想もしていなかった。  
(どうして今日はこう予想もつかないことばかり起こるんでしょう)  
 
杉下は小野田の寝室に招かれ、小野田からバスタオルを渡された。  
「右京、シャワーを浴びておいで。僕はここで待ってるよ」  
邸宅の中で、迷いそうになりながらも浴室にたどり着いた杉下は服を脱ぐと熱いシャワーを浴び、汗を洗い落とす。  
浴室には鏡があったが、自分がどんな体の女になっているのか見てみようとは思わず、すぐに浴室を出て濡れた髪と体をバスタオルで拭き、小野田の寝室に戻った。  
杉下が戻ってくるのを心待ちにしていた小野田は杉下の姿を見て顔を赤らめた。  
普段はオールバックにしている前髪を下ろし、外した眼鏡を片手に持ち、バスタオルを巻きつけて体を隠し、脱いだ衣服を小脇に抱えている。  
「かわいい、かわいいよ、右京」  
小野田は杉下の手から眼鏡を取り上げてベッドサイドに置き、杉下が衣服を床に落とした隙に抱きしめ、ベッドに押し倒して口付けを繰り返す。  
小野田の唇は杉下の唇から頬、耳たぶ、首筋へと動き、杉下に快感を与えて行く。  
自分が男だった時には、ここまで女に快感を与える接吻はしただろうか、自分に接吻された女はどう感じていたのか、などと杉下は思う。  
「まだまだこれからだよ」  
そう言うと小野田は杉下の体を隠していたバスタオルを剥ぎ取り、胸をわしづかみにして揉みしだく。  
「はあ、あっ・・・」  
柔らかな膨らみを強く揉まれ、硬くなった乳首をつままれるうちに杉下の口から艶かしい吐息が漏れる。  
「キスされておっぱい触られるだけで感じちゃうの。やっぱり男とするのは初めてなんだね」  
「当然、ですよ・・あぁ!」  
杉下が小さく悲鳴をあげる。小野田に脚を広げられ、秘所に指を入れられたのだ。  
「今は指一本でも痛いかもしれないけど、じきによくなるからね」  
そう言いながら小野田が杉下の秘所に挿入した指をゆっくり動かす。  
秘所に入れられた指の本数が増え、それが自分の女の部分を刺激する度、杉下の体に未知の痛みと快感が走る。  
「だいぶ慣れてきたみたいだね。ヌルヌルになってる。これならもう大丈夫だ」  
小野田は杉下から体を離してベルトを外すと、ベッドの上にひざ立ちになり、履いていたスラックスと下着を一気にずり下げた。  
 
小野田のモノが、杉下の視界に入ってきた。それは硬くなって天を向き、血管を浮き立たせている。  
涎のように先走りの液をにじませたそれは、小野田の欲情が具現化されているようにも思える。  
その欲情が一夜の恋人としての杉下に向けられているのか、普段の刑事としての杉下に向けられているのかはこの際どちらでもよい。  
今の小野田公顕が杉下右京の体を組み敷いて自分のモノで貫き、杉下右京の体内に自分の精を吐き出したいと思っていることだけは確かだからだ。  
「小野田さん、やはりそれを僕の中に入れたいんですね。構いませんよ。今の僕は女なんですから」  
杉下がそう呟くと、小野田はそれに答えるかのように怒張した自分のモノを杉下の秘所に挿入した。  
指で慣らされていたとはいっても、小野田のそれは指とは比べ物にはならないほど太く、熱い。  
強烈な異物感と引き裂かれるような苦痛、そして快感がない交ぜになり、杉下の黒目がちな瞳に涙が溜まってくる。  
「右京、きついよ。もう少し力抜いて」  
杉下に覆い被さり腰を動かし続ける小野田。その額には汗が浮かんでいる。  
「そう言われても・・どうしても力が・・・入ってしまうんです!」  
残された気力を振り絞ってそう言う杉下を小野田は優しく抱きしめる。  
「悪い、初めてだったね。ん、もうダメ?」  
杉下は涙を流しながら無言で頷き小野田にしがみつく。  
「僕もそろそろ・・・くぅっ!」  
小野田は杉下の中に白濁した精を大量に吐き出し、小野田の精を受け止めた杉下はその強すぎる刺激に気を失った。  
もっとも、女の体内に精を吐き出すのは自分が男であった時に愛する女にしようと思っていたことなのだが。  
 
 
ことが終わってから数分が経過し、杉下が目を覚ました。目をこすって起き上がり、ベッドサイドに置かれた眼鏡をかけ直す。  
体が軽い。胸に触れてみると先程まであった柔らかな膨らみを感じない。  
小野田に抱かれている間に涙を流したので、それだけ早く薬が体外に出たのだろうか?杉下の体は本来の男の体に戻っていた。  
ベッドから出て床に落ちた衣服を身に着け、ようやく一息つく。  
(男性に抱かれる女性の気持ちがよく分かりました。痛くなったり気持ちよくなったり、女性も楽ではありませんね)  
「右京、気が付いたの?よかったらもう一回させて欲しいんだけど」  
「僕の体はもう元に戻りました。残念ですが、あなたの一夜の恋人はもうどこにもいませんよ」  
まだベッドに入っている小野田に杉下はいたって冷静な口調で言った。  
「分かったよ、杉下」  
小野田は杉下を下の名で呼ぶのをやめた。  
翌日、小野田と杉下は何事もなかったかのように上司と部下の関係に戻り、重大事件に立ち向かう。  
小野田は事件解決のために結成されたプロジェクトチームのリーダーとして、杉下はその参謀として・・・  
今は昔、15年前の、特命係発足前の出来事である。  

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