「都合の悪いことを隠してえのはわかるが、やり方がきたねえよ!」  
ここはある居酒屋。警視庁捜査一課の刑事・伊丹は吐き捨てるように言うと、ウイスキーソーダをあおる。  
この日の伊丹は荒れていた。  
先日起きた警察官心中事件の真相を隠蔽しようとした警視長に怒りをぶつけ、相棒である三浦をヒヤヒヤさせてもなお、怒りが収まらない。  
「お偉いさんのやり方にケチつけて怒るなんてお前らしくないな。さては亀山に感化されたか?」  
「おい、何でそこであの野郎の名前が出るんだ。俺をあんな熱血バカと一緒にするな!」  
横で煙草をふかしていた三浦の言葉に伊丹が反応する。伊丹にしてみれば常日頃からライバル視している「特命係の亀山」に感化されるなど、考えたくもないことだ。  
「胸ん中に熱いものや闘志を秘めてる所は、お前もあいつも同じだよ。お前もあいつと喧嘩ばかりしてないで、たまにはいい所も認めてやったらどうだ」  
三浦が伊丹をなだめるように言う。  
「・・・認めねえ。あいつのいい所なんて」  
伊丹の表情は相変わらず不満げだが、口調は心なしか穏やかになってきた。  
「本当、意地っ張りな奴だな。・・・もう一杯飲むか?」  
「そうするよ」  
 
「これなんかどうだ、『秘密の雫』って奴」  
「変わった名前だけど、飲んでみるか」  
「お姉さん、これ」  
三浦はメニューにある『秘密の雫』の文字を女性店員に指差して見せた。  
「はい、喜んで」  
それから少しして、『秘密の雫』の入ったグラスが伊丹と三浦の席のテーブルに置かれた。  
『秘密の雫』はオンザロックで、一見何の変哲もない透明な酒だ。  
伊丹はグラスを持つと、『秘密の雫』を口に含む。  
カラメルにも似た甘美な味は、甘党の伊丹を喜ばせるには充分だった。  
「思ってたよりまともな味じゃねえか」  
しかし『秘密の雫』は甘さとは裏腹にかなり強い酒らしく、全て飲み終わる頃には伊丹の顔は真っ赤になっていた。  
(やばいな)  
これ以上飲ませない方がいいと思った三浦は会計を済ませると、だるそうにしている伊丹と一緒に店を出た。  
「うう、頭いてぇ・・・」  
「その状態でまっすぐ帰るのは辛いだろ、どこかで少し休むか?」  
「そうだな」  
しかし、居酒屋の近所に普通のホテルはなく、あるのはブティックホテルばかりだ。  
「しょうがないな。男同士でも入れる所ならいいんだが」  
いつもの伊丹であれば、こうした状況下では「冗談じゃねえ!」とでも言いそうだが、幸か不幸か今の彼にそこまでする気力はない。  
「ほら、入るぞ」  
三浦は伊丹を伴ってブティックホテルに入ると、フロントまで向かった。  
「休憩になさいますか?」  
「ああ」  
「かしこまりました」  
誰にも怪しまれずに済み、安堵の溜息をついている三浦の横で伊丹が不機嫌そうな表情をする。一刻も早く休みたいのだ。  
 
部屋に入るやいなや伊丹はベッドに倒れこみ、そのまま眠りについた。  
「さっきより顔色はよくなったな」  
三浦は伊丹にタオルケットをかけると、部屋にあるテレビのスイッチを入れた。放映されている番組はたいして面白くもないが、暇つぶしにはなった。  
「う〜ん・・・」  
熟睡していた伊丹が目を覚ました。頭痛や倦怠感は治まったが、それらとは異なった体の違和感を感じる。  
(まだ酔いが覚めてねえんだな、俺。それにしても胸がきついな)  
胸元を強く圧迫されているような感覚に耐えられなくなった伊丹はネクタイを解き、Yシャツのボタンを全て外す。  
(一体どうなってんだ)  
自分の胸が柔らかく膨らんだ女のそれになっていることに気付き、伊丹は冷汗をかく。  
(ひょっとすると、下もどうかなってるんじゃねえのか?)  
そう思って股間にそっと触れてみる。案の定、普段股間にあるものがなくなっていた。  
「三浦ぁ・・・」  
名を呼ばれ、三浦が振り向く。  
「何だ伊丹、起きたのか?」  
「何だじゃねえよ、変なんだよ、俺の体!」  
伊丹はそう言うと体にかけられていたタオルケットを取り、はだけた胸を三浦に見せる。  
「お前、女になっちまったのか?」  
「どうもそうみたいだ」  
伊丹は起き上がってベッドの上にあぐらをかく。スレンダーな伊丹が普段はスーツで隠れている白い柔肌を露わにしている様はそこはかとなく官能的だ。  
三浦はテレビのスイッチを切ると、自分もベッドに腰掛け、伊丹に抱きつく。  
「いきなり何すんだよ!」  
「俺が何ともなくて、お前だけがそうなってるってことは、きっとあの酒が原因だ」  
「それがどうしたんだよ」  
「もしそうなら、あの酒を勧めた俺のせいだ」  
三浦は申し訳なさそうにそう言うと、伊丹を横たわらせてズボンとトランクスを下ろしてゆく。  
「責任とって、お前にいい思いさせてやる」  
今の三浦の心には、ちょっとした罪悪感と女になった伊丹への欲情、そして責任感が同居している。  
 
「三浦、帰んなくていいのか。奥さん心配してんじゃねえの?」  
「女房には遅くなるって言ってある」  
伊丹の唇に三浦の唇が重なり、伊丹の胸の膨らみに三浦の手が触れる。  
「今のお前、きれいな体してるな。男を知らない生娘みたいだ」  
「俺が男知ってる訳ねえだろ」  
女に変えられた体を男に弄ばれている。普通に考えると恐ろしいことだが、今の伊丹に恐怖心は殆どない。  
相手が自分の普段の相棒だから、体を預ける気になれるのかもしれない。  
「なあ、ちょっといいか?」  
三浦が伊丹の華奢な足を広げさせ、秘所にそっと舌を這わせる。  
「ひぃっ!・・・おい、三浦!どこ舐めてやがる」  
いきなり羞恥な格好をさせられ、驚いた伊丹が叫ぶ。安心しきっていたつもりだが、予想外の攻めにはつい声が出る。  
「口でされるの、嫌か?」  
三浦は口での愛撫を中断して伊丹に聞いた。  
「当然だろ!三浦、よく平気でそんなことできるな」  
「好きな女にならやりたくなるんだよ。まあ、お前がどうしても嫌だって言うなら、指でしてやってもいいけどな」  
(好きな女、か・・・)  
伊丹が三浦の言葉を心の中で反芻している間に、三浦の指が伊丹の秘所に入ってきた。  
三浦の指使いは、伊丹に未知の快感は与えても、苦痛は殆ど与えない。  
「くぅ、ん、んっ・・・」  
三浦の指が、相棒の指が自分を気持ちよくさせている。今の自分は女として三浦に愛撫されている。  
そう思うと、伊丹の体の奥から言い様のない快感が湧き上がる。  
 
「三浦・・・」  
「どうした?」  
「俺、三浦のが欲しい・・・」  
三浦の愛撫に慣らされた伊丹の体が、三浦のものを求めて疼く。  
「早く入れやがれ・・・俺は三浦にならぶち込まれてもいいんだ」  
三浦は眉間に皺を寄せ、目を潤ませて懇願する伊丹を四つん這いにさせるとズボンのファスナーを下ろし、  
充血して今にもはちきれそうな自身をぐしょ濡れになってひくついている伊丹の秘所に打ち込み、腰を動かした。  
「あぁ!み、三浦・・・・・!!」  
三浦自身が後ろから伊丹の体に出入りする度、伊丹の艶やかな黒髪が揺れて乱れる。  
三浦に体を貫かれ、体内を掻き回された伊丹は体内の三浦自身をきつく締め付けると、そのまま絶頂に達した。  
「できれば一緒にイキたかったんだが・・・」  
三浦は伊丹から自身を引き抜くと、伊丹の引き締まった尻にどろりとした精液をぶちまけた。  
ぐったりしている伊丹の秘所からは愛液とわずかな鮮血が流れている。  
「はぁ、はぁ・・・・三浦、俺ら長居しちまったみたいだけど大丈夫なのか?時間」  
行為の後、伊丹が息を切らせながら言う。  
「それなら延長してもらうから心配するな。何なら朝まで・・・」  
三浦が全て言い終わる前に伊丹はバスルームに向かった。  
シャワーを浴び、汗と行為の痕跡を洗い流すうち、体の違和感が消えていく。  
伊丹はバスルームの鏡に映る自分の姿を見た。  
(胸もペタンコになってるしあれもある。やれやれ、やっと元に戻ったか)  
 
自分の体が男に戻っていることを確認して落ち着きを取り戻した伊丹は用意されていたバスローブを身につけて部屋に戻った。  
「体、元に戻ったようだな」  
「おう」  
うなずく伊丹の様子は普段と変わらない。しかし、もしも伊丹が生まれついての女であったなら、自分は伊丹に惚れて、同僚あるいは相棒の関係を簡単に超えていたかもしれないと三浦は思う。  
「三浦、さっきから何じろじろ見てんだよ」  
「いや、何でもない」  
三浦は伊丹の言葉でふと我に返る。  
「俺とやったこと気にしてるのか?俺は別に汚されたとか思ってねえからな」  
そう言う伊丹の口調には、普段からは想像できない優しさとちょっとした照れが感じられた。  
「俺は別に気にしてない。ただ、女になったお前はかわいかったぞ」  
「つまんねえこと言うなよ」  
三浦に言われ、伊丹はわずかに顔を赤らめた。  
 
伊丹が口にした『秘密の雫』はその後「副作用」を理由に製造禁止となり、今ではそれを見た者も口にした者もいない。  
 

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