これは、亀山薫が警視庁捜査一課の一員だった頃の出来事である。
「あれ?」
亀山は見覚えのない部屋のベッドで目を覚まし、起き上がって辺りを見回した。
「亀山、気がついたか?」
亀山が視線を移した先には、彼の同僚にしてライバルの伊丹憲一がいた。伊丹はバスローブを身につけ、普段は横分けにしている前髪も全て下ろしている。シャワーを浴びた直後なのだろう。
「ここ、伊丹の部屋か?」
「ああ」
「何で俺がお前の部屋に?!」
亀山が大きな目をパチクリさせて伊丹に聞く。自分の状況がまだよくのみこめていないようだ。
「お前、俺と飲みに行ったことは覚えてるよな?」
「それは覚えてる。でも、俺、ジュースみたいなカクテルを飲んだら体がすっげえだるくなって、そこから記憶がプツッと途切れてるんだ」
「記憶途切れるほど飲んだのか。酔いつぶれたお前を置いて帰るわけにもいかねえし、お前の家がどこにあるかもわかんねえから俺、お前を引きずって家まで戻ったんだぞ」
伊丹は吐き捨てるような口調で言った。
「悪かったな。お前のおかげで助かったぜ。・・・でも何だか体がおかしい。シャツはきついし、股の辺りもスースーしてる。女になってる感じだ」
そう言うと亀山はジャケットとシャツを脱ぐ。浅黒い肌と豊満な胸が露わになる。
亀山が飲んだカクテルには肉体を女性に変化させる薬が盛られていたのだが、彼はつい先程までそのことに気付いていなかった。
(いつもの体じゃない。やっぱりあのカクテルには何か入ってたんだな)
最初は自分の体の変化に戸惑った亀山だが、自分の姿を見て固まっている伊丹を見ると、悪戯心が芽生えた。
「なあ伊丹、俺としてみる?今の俺の体は男じゃないから、俺とやってもホモってことにはならないぜ」
「お前、俺のこと誘ってんのか?」
「おう。ただ、あんまり手荒な真似するなよ」
亀山は少し恥ずかしそうな口調でそう言うと、ゆっくり立ち上がる。
伊丹は唾を飲みこむと、健康的な色気のある愛らしい女に姿を変えた亀山を抱き締め、亀山の唇に己の唇を重ねる。
軽く優しい接吻が徐々に深い接吻へと変化し、亀山の体が熱を帯びる。
(この野郎、女っ気なさそうな面してるくせになんだってこんなに上手いんだ、力が抜けるぜ)
いつもは憎いライバルと認識している男が相手だとわかっていても、亀山の体は伊丹の接吻に敏感に反応する。
「んん・・・・」
伊丹は亀山の口腔を舌で思う存分犯すと、亀山の唇から自身の唇を離した。
(まだ足りない、もっとこいつが欲しい)
亀山は心の中で呟いた。自分に男色の気はない。しかし今は、自分の目の前にいる男に体を奪われ、いかされたい気持ちで胸が一杯になっている。
「顔、真っ赤になってるぞ。そんなにイイか?」
亀山は黙ってうなずいた。
伊丹が亀山の胸に愛撫を加える。普段の亀山の胸にはない膨らみを荒々しく揉みしだき、乳首を口に含んで強く吸う。
「おいおい伊丹、俺のおっぱい吸っても何にも出ないぞ」
伊丹のがむしゃらな愛撫に亀山が苦笑する。はっきり気持ち良いと言うことは気恥ずかしくてできないのだ。
亀山の堪えるような、どこか恥ずかしげな表情を見た伊丹は愛撫をやめてベッドに横たわると、バスローブの裾をはだける。
「亀山」
「何だよ?」
「さっきから疼いてるんだよ、俺のここが」
伊丹は露わになった自分の股間を指差した。
「お前の手で何とかしてくれよ」
「ちぇっ、しょうがねえな」
亀山はしぶしぶ伊丹の脚を広げて両脚の間に体を割り込ませると、屹立して先走りをにじませた伊丹のものを握り、ゆっくりと手を動かす。
「あっ・・・いいぞ亀山、上手いじゃねえか」
伊丹が顔を赤らめ快感を訴える。
同性の肉棒を愛撫することに全くためらいがないと言えば嘘になるが、自分も男だった時には恋人に愛撫をさせていたし、自慰だってしていた。
亀山はそう思うと伊丹のものを握っている手に力を込めた。
「そんなに強く握らなくたっていいだろ」
「悪い悪い、ちょっと力入れすぎた。それより俺、やってみたいことがあるんだよな」
亀山は悪戯っぽく笑うと伊丹のものから手を放し、履いていたズボンと下着を一度に脱いで伊丹に跨った。
「すげえ、ぬるぬるだ」
亀山はローションを塗ったかのように濡れている自分の股間を片手でまさぐると伊丹のものを秘所にあてがい、一思いに腰を下ろす。
「くっ」
伊丹のものを受け入れた瞬間、亀山の下半身に鋭い痛みが走った。
「おい、大丈夫か?」
苦痛に顔を歪める亀山に伊丹が声をかける。
「全然平気だよ」
そう言いつつも、亀山の額には汗が浮き出ている。
「一気に全部入れるなんて、考えなしのお前らしいな」
「いちいちうるさいんだよ、お前は。いっそ苗字を伊丹からイヤミに変えたらどうだ」
亀山が伊丹のバスローブの胸元に手を入れて伊丹の乳首をつまむ。
「てめえ、やりやがったな!」
伊丹はそう言うと亀山を下から突き上げ、体を揺さぶる。
「ぐっ、うっ、う・・・・・!」
揺らされる度亀山の体に苦痛と快感が襲いかかり、秘所から血の混じった蜜が流れ出る。
「伊丹、俺も動いていいか?もっと気持ち良くなりたいんだ」
「好きにしろ・・・・」
伊丹の表情にはもう余裕がない。亀山にものを愛撫されていたため限界が近いのだ。
亀山は伊丹の突き上げに合わせるように腰を動かし、快楽を貪る。
亀山は潤んだ目で伊丹を見下ろす。亀山の目に映るのは、顔を赤らめ、眉間に刻まれた皺を一層深くして喘ぐ男の表情。
(伊丹のこんな面、他の奴は見たことないだろうな)
「ああっ・・・!」
伊丹が声をあげるのとほぼ同時に、亀山の体内に伊丹の熱い精液が注ぎ込まれる。
「伊丹ぃ、熱いよ・・・・」
亀山は熱が自分の下半身を逆流する感覚に体を震わせ、絶頂に達した。
ことが終わり、亀山は伊丹から体を離すと熟睡している伊丹にそっと耳打ちする。
「思ってたより早く終わっちゃったな、早漏の伊丹君」
本人が起きていたなら、確実に殴られるであろうことを敢えて言う。
次の瞬間、亀山は激しい倦怠感に襲われ、ベッドの横に座り込む。
そうだ、この感覚だ。俺が例のカクテルを飲んだときに体に走った感覚・・・・俺の体はどうなった?
亀山は自分の体を手でまさぐった。口元に触れると不精ひげがあり、胸に触れるとふさふさした胸毛と筋肉の硬い手触りを感じる。
そして手を股間にやると、普段と同じものがある。
「よかった〜、元に戻ってる」
亀山は安堵のため息をつくと衣服を身につけ、伊丹を起こさぬよう、そっと伊丹の部屋を後にした。
それから数時間後、亀山と伊丹は刑事部屋でいつものように顔を合わせ、いつものように喧嘩をする。
しかし、お互い内心では亀山の体が元に戻っていることに安堵している。
だからこそ、何事もなかったかのように日常の関係に戻れるのだろう。