実家が山形の友達がさくらんぼの砂糖漬けをおみやげにくれた。
大きな瓶にぎゅうぎゅうに入っていた。私はさくらんぼが好きだけどさすがに飽きてきて最後の方はコーラに浮かせて飲んだ。
コーラの炭酸を吸い込んだ赤い実はしわくちゃで生温く、どろりとしていた。ちょうどこの先生の精液みたいだった。
先生には週に五回はソープに通っているとか女子トイレを盗撮しているとか腋の下が大好きとか女生徒のおしっこを十万で買ってるとかいろんな噂があったけど、まさか本当に変態だとは思わなかった。
私は放課後の呼び出しに多少の不信感はあったものの、のこのこと誰もいない教室に来てしまったのだ。
先生はバッグから赤いロープを取り出しながら「先生はね、桃宮の顔に精子をかけられれば今の地位をすべて失ってもかまわないんだよ」と言いながら私を縛った。
私は叫ぼうと思ったけど魔法をかけられたように意識が薄くなった。きっと私の口を塞いだハンカチに変な薬でも混ざっていたんだろうと思う。
赤いロープで縛られた私を先生は机の上に座らせた。
私は朦朧としていたものの、意識はまだ多少この見なれた教室に残っていた。
縛られたロープの感覚があるうちはまだ何とか大丈夫だと思った。私は意識が完全に行ってしまわないように教室にあるものを頭の中で確認していた。
あれが黒板で、あれがカレンダーで、あれが給食当番表で………。
いま私の顔にかかったのは砂糖漬けのさくらんぼかしら、と思って私はあわてて首をふった。
そんなわけがない。
よく見ると視界の下のほうに白いどろどろしたものが流れていくのが見えた。先生の精液だとわかった。
先生は苦しそうにはあはあ言いながら私の顔に付着した精液を舐めた。先生のねばねばしたベロが私の顔中を這いまわった。
先生の息は嫌なにおいがした。普段から思ってたけど、至近距離で嗅ぐととても人間のものだとは信じられなかった。
先生は体を横に揺すった。おそらくいま飲んだ精液を早く精巣に戻そうとしているんだろう。バカじゃないのと私は思った。
私は尿意を感じた。
というより私が感じたものが尿意だとわかったころにはもう遅かった。私はすでに教室の床に放尿していたのだ。
先生が嗅がせた得体の知れない薬のせいで私の自制心はあってないようなものだった。
わたしのパンツがじわっと濡れた。顔にはまだねばねばとした感触が残っている。
床に広がるアンモニア臭と精液の生臭いにおいが私に残されたひとかけらほどの羞恥心をこなごなに砕いた。私は泣いた。
先生は私のおしっこを這いつくばって舐めていた。すごく嬉しそうだった。まさかこんなにサービスしてもらえるとは思ってみなかった、というような感じで。
別に私はあなたのためにしたわけじゃないのに、と思ったら余計悲しくなった。わたしはさくらんぼのヘタを舌で結ぶイメージトレーニングをした。
なんでそんなことをしたのかは私にもよくわからない。
床のおしっこをあらかた平らげてしまうと、今度は私のパンツに鼻を近づけた。
私の一番恥ずかしい部分が先生の鼻息でくすぐられた。
「桃宮は白いパンツが似合ってるよ……」と先生は言った。全然うれしくなかった。
「でも本当はピンクがいいと思うな。今度先生が買ってきてあげるよ。かわいいやつ。リボンとかついてるのがいいだろう? 買ってきたらまたはいて見せてよ……」
先生のズボンが一部ふくらんでるのがわかった。二発目の準備ができたんだと思った。
「今度は口の中がいいな」
もしそんな汚いのを私の口に入れたら噛み切ってやろうと思った。でも先生はバッグからアイスピックを取り出して、ニヤニヤ笑った。
私はその意味がわかった。また涙が出てきた。私の可能性を奪った細長い刃物は教室の蛍光灯を浴びてキラキラ光っていた。
得体の知れないものが私の喉を通った。
私はふと、さくらんぼの種って飲んだことあるのかなと思った。
多分あると思う。あわてん坊な私のことだから間違って飲んじゃったことくらい一度はあるだろう。
もし飲んだとしたら、きっと今ごろ私のお腹のなかで大きな桜の木になっているはずだ。
私は自分のお腹の中にある大きな桜の木の下でお団子を食べる。カラオケをする。お酒なんかもちょっとだけ飲んじゃうかもしれない。
その桜の木に手足のない白い人間みたいなのが次々と降ってきた。
それらはなんの遠慮もなく私の桜の木に入り込んだ。木はぶくぶくと大きくなっていった。
ゴホッ、ゴホッ、と私は嗚咽した。
先生は私が見せた拒絶反応に腹を立てたらしく、さっきよりも強く自分の性器を私に押し付けた。
やめて! と私は叫んだ。でもそれは声にはならなかった。
このまま大きくなったら桜の木はきっと私の体を突き破ってしまうだろう。でも私は赤いロープで自由を縛られている。
私はもう一度叫ぼうとした。でも今度は自分でもなんて言ったのかわからなかった。
先生はまだ射精をつづけている。桜の木はどんどん大きくなっている。