「こ……ここは……っ?」  
 秋絃は戦慄した様子であたりを見回す。  
 目覚めても、そこは全く視界の効かない闇に包まれていた。そう、普通  
の人間なら――  
 秋絃は、ベッドのようなものに横たえさせられていた。手はバンザイの  
状態で拘束されており、動かそうとするとじゃらり、と金属の音がした。  
「……フフフ……君にはボクの姿が見えているんだろ?」  
 不意にかけられた声。  
「テイルっ!?」  
 超獣の能力を使い、目の感度を上げて音源の方を見る。  
 この部屋の入り口とおぼしきドアの側で、テイルが壁に寄りかかってい  
た。  
 パチッ、乾いた音がする。アンダーグラウンドではもうほとんど見られ  
なくなっている、グロースタート式の蛍光灯が点灯管から紫電を放つ。そ  
の次の瞬間、秋絃の視界が白く焼けた。  
「ぐっ……」  
 思わず呻き、顔をしかめる。  
 無機質な照明に、やはり殺風景な鉄筋風の室内が照らし出される。  
 そして秋絃は、そこでようやく自分の格好を認識した。  
「なっ……」  
 羞恥に顔を赤らめる。秋絃の着衣は上下の下着を残して全て脱がされた  
状態だった。思わず手が自らの肢体を隠そうと反射的に動く、だが、  
 ギリッ  
 金属の輪が秋絃の手首に食い込み、鈍い痛みを感じる。  
「無駄だよ。それは半獣を捕らえる為の特殊合金製だ。いくら超獣のキミ  
でも……無理すれば、キミの手首の方がもげてしまうよ」  
 テイルはニヤニヤと笑いながらそう言うと、ゆっくりと秋絃に近付いて  
きて、ベッドの傍らに立った。  
 
「テイルっ、どうしてこんな……っ」  
 戦慄した表情で、秋絃はテイルに問いただす。しかし、テイルは妙に乾  
いた笑みを浮かべたまま、すっと腰を屈める――  
「…………!?」  
 余りに意外な行為に、秋絃は抵抗することすらできなかった。いきなり、  
唇を奪われたのだ。  
「んくっ、んっ、うっ……」  
 貪るようにたっぷりと吸われてから、ゆっくりとテイルの顔が離れてい  
く。  
「ふぁ……あ……っ」  
 甘ったるい声が漏れてしまう。秋絃はそのことに羞恥を感じ顔を真っ赤  
にした。  
「どう言うこと……テイル……っ」  
 赤い顔のまま、秋絃はテイルをきっと睨み、再度問いただす。  
「わからない?……フフフ……」  
 ムキになる秋絃に対し、テイルは逆に冷静に、鋭利さを感じさせる笑み  
を浮かべ、応える。  
「ボクはキミを玩具じゃない……確かにそうは言った、けれどキミをボク  
のモノにしないとは一言も言ってないよ?」  
「テイル……っ、貴方、こんなことをしてただで済むと思っているのっ!?」  
 もはや完全に主導権を握られた形で、秋絃はなおテイルに怒声を投げ付  
ける。  
「思ってなんかいないよ。思っていないからこそ、自分の気持ちに正直に  
なることにしたんだ」  
 言いながらテイルは、下着の上から秋絃の乳房に触れる。  
「んぅ……っ」  
 秋絃は何かに堪えるように、うめき声を漏らしながら歯を食いしばる。  
「なんで……今更……っ」  
 
 声を発しようとすると、テイルの手から胸に与えられる刺激で、どうし  
ても悩ましげな表情になってしまう。  
「私を……拒み続けた、のに……っ」  
「それが違ったんだよ」  
 テイルは薄笑いを浮かべたまま、包み込むように秋絃の胸を扱う行為を  
続ける。  
「ボク自信気付いていなかった……ボクが拒み続けたのはキミじゃない…  
…母さんさ」  
「!? どういう……ことっ……?」  
 またも意外なテイルの発言に、秋絃は一瞬、目を見開いた。  
「ボクを“箱庭”に売り渡した母さんを……ボクは憎んでいたのさ。だか  
ら、水の能力で母さんの彫像をつくっては、壊していたんだ。アレは母さ  
んを懐かしむ行為じゃなくて、憎い母さんに対する怨嗟の行為だったんだ  
……」  
「テイル……あ、あぁっ……」  
 テイルの告白に、秋絃の気が緩む。その次の瞬間、甘い声が上がってし  
まった。テイルは、構わないと言った感じで言葉を続ける。  
「ボクが求めていたのは最初から、秋絃、キミだったんだ。なのにキミは、  
ことあるごとに、ボクに母さんの偶像を見せようとした。だからボクは反  
発していたんだ。ボクは母さんじゃなくて、キミのぬくもりが欲しかった  
のに……」  
 そこまで言い終えると、テイルは秋絃の背中に手を回し、ブラのホック  
を外す。  
「テイル……」  
 秋絃は複雑な面持ちで、動くテイルを見る。  
 肩ヒモは通せないが、テイルはブラを捲り上げ、秋絃の形のいい乳房を  
露にする。  
「っ……」  
 
 秋絃は三度、真っ赤になりながらも、抵抗はせず、僅かに歪ませた表情  
を元にもどして、テイルをじっと見る。  
 テイルは臆することなく、またその必要も感じず、秋絃の両の乳房を鷲  
掴みにした。  
「ああ……これが秋絃の胸……柔らかいのに、張りがあって……ああ……」  
「んぅ……あ、ああ……テイル……っ」  
 乳房の形を掌の中でくにくにと変えながら、テイルは顔を紅潮させてい  
く。秋絃は時折声を漏らしながら、くり返しテイルの名を呼んだ。  
「秋絃……前にも言ったけど……キミがボクに手を差し伸べてくれたこと、  
本当に感謝しているんだ……でも、そのおかげで、ボクは君に劣等感を抱  
いてしまって、いままでこの気持ちに素直になれなかった……」  
 いいわけするようにしながら、テイルはやがて乳房から手を離し、秋絃  
を軽く抱き締め、言い終えると、再び、唇を重ねた。  
「こんな形になってしまってごめんね……でも、こうでもしなければ、キ  
ミにボクの本心を知ってもらえそうになかったから」  
 そう言うとテイルは、右手をつつ……と秋絃の腹部をなぞるようにしい  
き、その下の部分をショーツの上から、指先で円を描くように探る。  
「いいの、もう、気にしないで……あくぅっ……」  
 まるで自分が詫びるかのような秋絃の声が、テイルの指がショーツ越し  
に性器に触れた瞬間、漏れ出た自分のそれで遮られる。  
「もう、ショーツの上まで濡れてる……秋絃、気持ち……いいの?」  
 言いながら、テイルは秋絃のショーツの上を、その上にできた染みの中  
心を圧迫するようになぞる。  
「ええ……貴方が触れているんだもの、テイル……」  
 どこかとろん……とした目で笑みをつくって、秋絃は応えた。  
「秋絃……」  
 秋絃の悩ましげな表情に、ドキッ、とテイルは一瞬動きをとめる。  
「秋絃……全部見るよ?」  
 
 テイルがそう言って、秋絃のショーツに手をかけようとした時。  
「待って!」  
 そこで初めて、秋絃が拘束されていない脚を使って抵抗した。ただし、  
やんわりと……  
「お願い……手錠、外してくれないかしら? 私……もう、抵抗しないか  
ら……」  
 じっとテイルを見つめて、懇願するような表情を見せる。  
 テイルはわずかに考え込んでから、おもむろにベッドの上からおりると、  
なにかを手に持って、秋絃の頭上に手を伸ばした。  
「信じるよ、秋絃」  
 がちゃり、秋絃の手首が解放される。  
 すると秋絃は半身を起こして、ブラを完全に脱ぎ、ショーツも自ら脱ぎ  
捨てた。  
 そして、膝を軽く折った状態で、腕と脚を軽く拡げ、  
「来て、テイル……」  
 と、テイルを誘う。  
「秋絃……」  
 内心、わずかに警戒しながら、テイルは自分もベッドの上に乗り、秋絃  
を抱き締めた。  
「秋絃……ごめんよ」  
「もう……気にするなって言ってるでしょう、ホントに……貴方は泣き虫  
なんだから」  
 どこか悔いるようなテイルの表情に、秋絃はそう言って苦笑した。  
「泣き虫……か……」  
「クス……でも認めてあげる。貴方は変わったわ。泣いてても、前を見て  
る……」  
「秋絃……」  
 抱き締める腕を緩めて、互いにしばらく見つめあう。  
 
 やがてテイルは右腕を互いの身体の間に滑り込ませ、秋絃の性器に触れ  
る。  
「んくっ……」  
 秋絃はびくっ、と跳ねるように身をすくめた。  
 テイルはそのまま、ゆっくりと指先を秋絃の割れ目に押し込む。  
「すごい……びしょびしょだ……」  
 埋めた指先を優しくかき回す。くちゅくちゅ、と水音があたりにまで漏  
れ出す。  
「あ、ああっ……テイル……テイル……っ」  
 まるで少女のような、いままでテイルに見せたことのない秋絃の様子に、  
テイルはゴクリ、と喉を鳴らした。  
「秋絃……」  
 ゆっくりと、テイルは秋絃の股間から手を離す。  
「ふぁ……?」  
「そろそろ、キミを貰うよ?」  
 ぼーっとした表情で見上げる秋絃に、テイルは口元で微笑みながらそう  
言った。  
「ええ……」  
 秋絃が頷く。  
 テイルは秋絃の上体を優しくベッドに倒すと、まだるっこしそうに自分  
の着衣を解き、既にそそり立った自分の逸物を、秋絃の股間にあてがう。  
 ぐちゅり……音を立ててゆっくりと、それが埋まっていく。途中で、ひ  
っかかるような感覚が、テイルに伝わった。それと同時に、  
「ひくっ!」  
 と、秋絃が小さく悲鳴をあげる。  
「! 秋絃、キミ……」  
 はっと、テイルは驚き、秋絃を心配そうに見つめる。  
 
「ホントの初めて、じゃないわ……これは貴方へのサービス……って言い  
たいところだけど、私の身勝手ね。好きな男性(ひと)に奪われる感覚が欲  
しかっただけ……」  
 秋絃は、自嘲気味にそう言った。  
 テイルは思わず胸をなで下ろし、その後で、苦笑した。  
「秋絃、君も……変わったね」  
「そうね。多分……貴方が変わったからよ」  
「…………動く、よ?」  
 照れて赤くなりながら、テイルはゆっくりとストロークを始める。  
「んん……あぁ……っ」  
 秋絃は反射的に身体をよじり、シーツをつかむ。  
「くっ……秋絃…………っ」  
 テイルよりよほどセックス慣れしているのか、秋絃の膣壁はぎちゅぎち  
ゅとテイルのペニスに絡み付いてくる。  
「テイルぅっ、あっ、こ、こんなの、はじめてっ」  
 一方で秋絃の方も、本気で愛しい存在に身体の中で蠢かれ、荒い息をし  
ながら声を上げた。  
「秋絃……好きだっ……」  
 テイルは秋絃の感触に顔をゆがめながら、一定のリズムで突きこんでい  
く。  
「あっ、あっ、あっ、……あっ……あっ……」  
 そのリズムに合わせるように、秋絃が声を上げていく。  
「秋絃……ボク、もう……ぁく……っ」  
 悲鳴を上げるようにテイルは言い、なにかを求めるように深くつきこん  
でいく。  
「くぅ……ぁっ……」  
 ドクッ、ドクッ、ドクッ……ドクゥッ……!!  
 
 テイルがうめき声を上げ、秋絃の中に大量の精を放ってしまう。  
「ふぁぁぁっ、テイ……ルぅ……っ!!」  
 びくっと身を跳ねさせ、秋絃もまた、絶頂に背を仰け反らせていった…  
…  
「ハァ……ハァ……ハァ……」  
「っく……はぁ……はぁ……っ」  
 テイルはそのまま秋絃の身体を抱き締め、2人ともしばらくベッドの上  
に静かに横たわっていた。  
 やがて……テイルが身を起こし、ズルリ、と秋絃の中から引き抜いた。  
「んっ……」  
 秋絃が小さく声を上げる。  
 その身体の上に、バサッ、と、白いバスタオルと、秋絃の公司の制服が  
投げ出された。  
「あ……」  
 秋絃がバスタオルをつかむ。その傍らで、テイルは既に自分の着衣を整  
えていた。  
 秋絃も身体に着いた自分とテイルの体液をバスタオルで拭き取り、下着  
を拾い上げて身につけてから立ち上がる。  
「テイル」  
「ん?」  
 テイルが秋絃の声に振り返ると、そこではまだ着衣を整えている途中の  
秋絃が、制服の上着からなにかを取りだしていた。  
「貴方にこれを渡しておくわ」  
 そう言って、取り出したのは、公司の携帯端末だ。  
「え……」  
 テイルは、驚いたような表情で秋絃を見上げる。  
「一緒に来てくれるんじゃないのか……?」  
「そう思ったけどね、一旦公司に戻るわ」  
 
 困惑するテイルに、上着を着け終えた秋絃が言った。  
「貴方だけでは風使いを探し出すのに困るでしょう? それに、華秦や白  
龍は既に貴方のことを不審に思っているわ。私は公司で貴方の援護をした  
いのよ」  
「けど……」  
 と、手を伸ばしかけたテイルだったが、突然、  
「ククク……アハハハハハハ……」  
 と、顔を手で覆い、笑い声を上げた。  
「……!? どうしたの?」  
 突然のテイルの変貌に、秋絃は唖然とした。テイルは、涙が出るほど笑  
ってから、  
「いや……キミも危ないんじゃないか、と言おうとしたら、急に風使いの  
言葉が蘇ってね」  
 今だ沸き上がる笑いを押し殺すようにして、テイルは言った。  
「風使いの?」  
 秋絃はきょとん、として聞き返す。  
「ああ……『アイツはこんな事で死ぬようなタマじゃない』ってね。アイ  
ツってのは、ローレックの事だけど、ボクはその時、彼が現実から目を反  
らそうとしているんだと思った。けれど、ボクは今、公司に戻ると言った  
キミに、同じ事を思ってしまったよ」  
「ローレックと同列、って言うのはちょっといただけないけど」  
 テイルの言葉に、秋絃は自分の胸を抱えるように腕を組んで、不敵に笑  
う。  
「信じてくれているのは嬉しいわ、テイル……」  
「必ず、ボクの元に戻って来るんだからね、秋絃……」  
「ええ……当然よ」  
 お互い最高の笑みを向けて、甘い蜜月のような時間は終わった。  
 互いに、再会する事を確認して――――  
 
 

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