「メイドを雇うってホントなの、高麗!?」  
高麗が通う第三階層小学校の食堂の一角。  
放課後のそこに、高麗、シエル、レイヨンの姿があった。  
「俺はいらねぇってのに、勝手に兄貴が頼んじまったんだよな。」  
と、高麗はストローを口に含み、オレンジジュースを飲む。  
「それでメイドとはどういうものなんだ、高麗?」  
それまで黙っていたレイヨンがようやく口を開いた。  
「どんなって…。お手伝いさんみたいなもんだろ?」  
「そうか…。」  
大して興味もなかったのか、レイヨンはすぐに納得した。  
「高麗の家、一人暮らしになってから散らかってるもんねぇ。」  
シエルはおかしそうに言った。  
以前まではシエルとレイヨンは、たまに高麗の家に遊びに行くこともあったのだが、  
羅が単身赴任となってからは、高麗の家は徐々に物が散らかり、今ではとても寛げるスペースはなく、  
シエルたちも最近はほとんど高麗の家には行ってなかった。  
「仕方ねぇだろ?今までは兄貴が全部やってくれたんだし。」  
「あの顔で、結構几帳面だったんだね。」  
「人は見かけによらないという事か…。」  
「何だよ二人とも。兄貴のこと誤解してるぜ…っと。」  
 
高麗は急に思い出したかのように時計を見た。  
「やべっ、そろそろ帰らなきゃ。」  
「何かあるの?」  
シエルがストローでミルクティーを吸いながら尋ねた。  
「例のメイドの面接。気に食わなかったら追い返して良いらしいんだけどな。」  
「もし若い人だったとしても、変なコトしちゃダメだよ、高麗。」  
「ん、んなことするかよっ!!」  
からかうように言うシエルに、顔を赤らめた高麗はそう言い放って立ち上がった。  
「じゃあ、俺は行くからな。」  
「バイバイ、高麗。」  
「またな…。」  
高麗に手を振るシエルとは対照的に、レイヨンは高麗の方を向くこともなくさらりと言う。  
いつもの光景だ。  
そう、今日も何も特別な事のない普通の一日のはずだった。  
兄である羅が、高麗に気を使ってメイドを雇う決断をするまでは…。  
この時、今日が自分にとっての人生のターニングポイントになろうとは、  
高麗は知るよしもなく、ただシエルたちに手を振り、そして学校を後にするのだった。  
 
「…ここなのかしら?」  
通りから外れた所の、とある一軒家の玄関の前に、紺と白のエプロンドレスを来た少女の姿があった。  
「名前はあってるみたいですわね。」  
少女はネームプレートの「羅」を指差して確かめた。  
そしてインターホンを無視して、いきなりドアノブに手を伸ばす。  
「あら、留守…みたいですわ。」  
ドアには鍵がかかっているらしく、ノブは回らなかった。  
その時…。  
「おい、人ン家の前で何やってやがる!!」  
「?」  
ジルハが声の方を振り向くと、そこには背の低いジルハよりさらに低い男の子の姿。  
「この家の人ですの?」  
「もしかしてアンタ…。」  
高麗はジルハを頭の先から爪先までなめ回すように、じっと見た。  
(喫茶店やファミレスの店員っぽい服してるけど…。)  
「な、何ですの!?」  
子供とは言え、異性にジロジロ観察されるのはジルハにとっては気分の良いものではなかった。  
「ひょっとして、アンタが俺ん家で雇うメイドなのか?」  
「じゃあ、アンタが…じゃなくて、アナタが雇い主の羅様ですの!?」  
はっとしたかのように、ジルハは高麗に対して態度を急に改めた。  
 
「羅ってのは俺の兄貴で、今は単身赴任中。今、この家には俺しか住んでねぇよ。」  
そう聞いてジルハは家全体を見渡した。  
それは子供が一人で住むには余りにも広い家だった。  
「子供の癖に贅沢ですわね。」  
「まぁ、昔の蓄えがあったしな。一応中古だったから安かったんだけど。」  
高麗もまた、ジルハ同様に家を見上げた。  
「買って一カ月で左遷だなんて、兄貴もついてないぜ…ったく。」  
「ふうん…。で、いつまでこんな所で私を待たせますの?」  
腰に手を当て、メイドらしからぬ態度で、上から高麗を威圧するジルハ。  
「契約とかの話は中でするか。」  
高麗はジルハの態度には特に気にもかけず、鍵を取り出してドアを開けた。  
「ほらよ。入れよ。」  
「おじゃまします…って、何なんですのコレ!?」  
玄関を入ると、そこは見事に物で散らかっていた。  
「悪いな…。まずは奥のリビングまで行ってもらえるか?」  
「…。」  
ジルハはブツブツと小言を言いながら中に入って行った。  
 
「まぁ、飲めよ。」  
ただの水道水を注いだだけのグラスを、高麗はジルハの前に差し出した。  
「これって…。」  
ジルハは抗議をしようかとグラスから顔を上げると、高麗は自分のグラスの水を一気に飲み干していた。  
「ぷはーっ、走って帰って来たから、この一杯は生き返るぜ。」  
(この子、よくこんなのが飲めますわね…。)  
ジルハは関心というより、完全に呆れていた。  
「…あら?」  
ふと、ジルハは高麗の顔に見覚えがあるような印象を受けた。  
「ん、何だよ?」  
さっき自分が相手をじろじろ見た事はすっかり忘れている高麗は、  
逆にジルハからじろじろと見られて、余り良い気分がせず思わず問いただした。  
「アンタ、どこかで会った事があるような…。」  
事実、アンダータウンを出てた所のプレート昇降口でジルハと高麗は面識があった。  
とは言え、高麗や羅にとってはジルハたちはその他の存在だったため、  
磁界操柱陣ですぐに張り付けにされていたので、直接は会話すら交わした事もなかったのだが…。  
「それってナンパか?結構、古い手使うね、姉ちゃんも。」  
「な、何で私が男をナンパしなきゃなんないのよっ!!」  
 
 

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