〜近所のスーパーからへ向かう道〜
「今日の晩御飯はなにがイイかな〜♪」
と、シエルが歩いていると、ふと聞き覚えのある単語が耳に飛び込んで
きた。
「浅葱先輩ってどう? ダブりだけど、結構優しそうなとこあるじゃん」
くるっと声のする方を見ると、そこに2人連れの女子高生が歩きながら
談笑していた。
――あ、留美奈の高校の制服だ。
浅葱は珍しい姓だし、多分留美奈の事だろう、とシエルは思った。
――留美奈、もてるんだな……当然だよね。
と。少し複雑そうに思いながら、スーパーへの道程を再開しようとする
と、耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
「だめだめ、浅葱先輩、金髪のチョー可愛いコとつきあってるんだから!」
――え?
「この前一緒に歩いてるところ見ちゃった。そりゃもう見てるこっちが恥
ずかしいぐらいでさー……」
女子高生の言葉は、途中からシエルの耳には入らなくなっていた。
――金髪って……ローレックの事!?
――一緒に歩いてたって……
しばらくその場に立ち尽くした後、シエルは寂しそうに俯いた。
「そう……だよね。私より……ローレックの方が……大人だし……」
〜夜、留美奈の部屋〜
「あ〜、さっぱりしたっ、と」
留美奈が寝巻き姿で部屋に入り込むと、シエルはぼーっと布団の上で足
を抱えて座っていた。
「? シエル? どうしたんだ?」
「留美奈……ごめんね……私のせいで……」
「ハァ?」
留美奈の問いかけに、シエルはボソボソと答えるが、留美奈にはわけが
わからない。
「無理しなくていいよ……私がいなくなればいいんだよね?」
「ちょっ」
シエルの言葉に、留美奈は慌てる。
「な、なに言ってんだよ! 俺がそんなこと考えてるわけねーだろ!」
原因はわからなかったが、シエルがなにか誤解していることを、留美奈
は否定しようとした。
「知ってるよ、ローレックと会ってるんでしょ?」
「ハァ?(゚д゚;)」
留美奈は今度は不愉快そうに、眉を潜める。
「なんで俺が、シエルに隠れてあの暴力女と会ってなきゃいけないんだよ」
素で答える留美奈、しかし、留美奈が手をかけようとすると、シエルは
それをふり解いて、ようやく留美奈と視線をあわせる。
「だって聞いちゃったんだもん! 留美奈の高校の生徒が、留美奈が金髪
の女の人と歩いてるって言ってたんだもん!」
「ちょっと待て、なんだよそりゃ……」
と、ますます混乱したように不愉快そうに言った留美奈だったが、直後
にハッ、とひらめいた。
ガラッ、と勉強机の引き出しを開けて、取り出したものをシエルに渡す。
「これ覗き込んでみろ」
「なに……これ?」
「いいから、そこに、そいつらの言ってた金髪の女の子とってのがうつる
からよ」
ため息まじりに言う留美奈に、渋々とシエルはそれを受け取って覗き込
んでみた。
「う゛…………」
シエルは、わずかに呻き声を上げてそのまま硬直する。
確かに、金髪の女性がうつっていた。手鏡の中に。