「というわけで、責任とってもらえませんか?」  
「は、ハァ?」  
 突然、エミリアが浅葱家を尋ねて来たかと思うと、開口一番、留美奈にそう  
言った。  
 
 1ヶ月程前、ついに公司を崩壊に追い込み、華秦、白龍と因縁の決着をつけ  
た留美奈達。  
 これでついに、ルリとのバラ色の同居生活が始まる……!! と意気込んでい  
た留美奈だったが……  
「なにバカな勘違いしてるのよ。地上に連れ出したってアンタの家に閉じ込め  
てたんじゃ、地下にいた時と同じでしょうが」  
 チェルシーはそう言い、ルリに地上を見せて回らせるため、と言って、浅葱  
家から出ていってしまったのだ。  
 ほかならぬルリの為、と言われては、留美奈も反論のしようがない。ついて  
いこうにも、留美奈には学業があった。  
 …………チェルシーが日本円をどうやって調達したのかは謎だが。  
 
 それでも、意気消沈しつつも、今生の別れでもない、と自らを励ましていた  
留美奈だったが、そこへ突然、エミリアが押し掛けてきた、というワケである。  
「……せ、責任って、なんの責任だよ」  
 後ろめたいようなことに身に覚えはなかったが、いきなり女性にこう言われ  
たのでは、さすがにたじろぐ。  
「決まってるじゃないですか」  
 エミリアはにこにことした笑顔を、少し困ったように小首をかしげて眉を下  
げた。  
「ローレック様は巫女をお連れになってどこかへ行ってしまいましたし、公司  
は崩壊して私は失業……ってワケなんです」  
「だからって、なんで俺の責任なんだよ……」  
 留美奈は呆れたように、背を丸めてだらんと手をぶら下げて聞き返した。  
 
「えー、だって、それは全部、ルミナさんがローレック様を焚き付けて、公司  
を潰してしまったからじゃないですか〜」  
「おいおい……そりゃないだろ、いくらなんでも……」  
 一見ボケボケしたエミリアの、強引な理論の展開に、留美奈は辟易しながら、  
そう言うのがやっとだった。  
「そう言うわけで、私、ここしかないんですよ〜」  
 エミリアは芝居だからかあるいは元々そうなのか、余り困った様子ではない  
苦笑でそう言った。  
「まぁ、そう言うことなら、まんざらしらねー仲でもねーし」  
 留美奈がそう言うと、エミリアはぱっ、と目を輝かせて、留美奈に向き直っ  
た。  
「い、いいんですかー!?」  
「あ、ああ……」  
 留美奈は若干気押されたように、軽く仰け反る。  
「ありがとうございます!」  
 ぎゅ、とエミリアは留美奈に抱きついた。  
「お、おぅ……」  
 突然エミリアに抱きつかれて、留美奈は顔を真っ赤にする。  
「それでは、お世話になります〜」  
 エミリアはそう言って頭を下げると、スポーツバッグを抱えてずかずかと浅  
葱家に上がり込んだ。  
「あっ、お、おい、ちょっと、勝手にうろつくなよ」  
 言って、留美奈はエミリアを追い掛ける。  
 留美奈はエミリアを、1階の和室に案内した。地下世界に赴く以前は、ルリ  
とチェルシーが使っていた部屋だ。  
 エミリアは畳敷きの部屋が珍しいのか、少しほうけたような表情であたりを  
見回している。  
「布団もあるし、好きに使っていいぜ」  
 
「あ、ありがとうございます〜」  
 ほうけた様子のまま、エミリアはそう言った。  
「ところでよ、チビの方はどうしたんだ?」  
 留美奈が尋ねると、エミリアは留美奈を振り返り、思い出すように頬に指を  
当てる。  
「ジルハ先輩ですか? あー、なんか磁力のお兄さんの方とどっか行っちゃい  
ましたよ」  
「磁力の兄貴って……げ、あ、アイツかよ!」  
 羅の顔を思い浮かべ、留美奈はその場で呆然とした。  
 ――まさか、あれと付き合う女がいるとは思わなかった……いや、それも、  
ボケボケのこいつならまだしも……  
 留美奈は声に出さず、そう思った。  
「ルミナさん?」  
 立ち尽くしているルミナに、エミリアは小首をかしげた。  
「あっ、す、すまねぇ」  
 留美奈ははっと、我に帰る。  
「ちっと早いけど、そろそろ晩メシの支度でもするわ……」  
 そう言って、留美奈が部屋を出て行こうとすると……  
「あ……それでしたら私もお手伝いしますよ」  
 そう言って、エミリアが立ち上がった。  
「い……いや、いいよ、つかれてるだろ?」  
 留美奈は、妙に焦ったような表情で言った。  
「いえ、居候の身ですから、そのうち家事ぐらいはお任せいただかないと」  
 逆に、変に気合いの入っているエミリア。その様子に、留美奈は断り辛くな  
ってしまった。  
「そ、そうか……じゃ、じゃあ……頼むわ……」  
 苦笑しながら言う、その本心は……  
 ――だーら、並ばれたくないんだってばよ、このデカ女……  
 
 
「はー、なんか妙なことになっちまったなぁ〜」  
 少し早めの夕食の後、留美奈は風呂に浸かりながら、そう考えていた。  
「このまま居座られるんも困るが、かと言ってあの天然女をほっぽり出すとど  
うなるかわかんねーしな……」  
 ――人間の諸々の黒い面とか、別にヤベェ所は地下世界の専売特許じゃねー  
んだぞ、まったく……  
 “拉致監禁”だの“人身売買”だの不穏な単語を脳裏に浮かべながら、留美  
奈はそう思った。  
 もっとも、エミリアは曲がりなりにも職業人だったワケで、学生の留美奈が  
そこまで落として考える必要はないのだが……  
 ――金髪が戻ってくりゃなんとか言い包めてくれっか、それまではうちで大  
人しくさせとくしかねーな。  
 なんのかんの言って、見捨ててはおけないところが留美奈の性分だった。  
「はぁ〜」  
 深くため息をつきながら、浴槽の前側にもたれかかった時。  
 ガラララッ  
 と、唐突に浴室の扉が開いた。  
 留美奈が訝し気に顔をあげると、そこに裸でバスタオルを巻いた姿のエミリ  
アが立っていた。  
「ぶっ」  
 ザバァっと激しく水音を立てて、跳ねるように身を起こし、留美奈は背中を  
壁につけるように後ずさってしまう。  
「な、なななっ、なんだよっ!?」  
 湯で紅くなっていた顔を更に紅潮させて、留美奈がどもりながら問いただす。  
「いえ、お背中お流ししようかと思いまして〜」  
 対照的に、ほえ〜っとしたいつもの雰囲気のまま、エミリアは笑顔で答える。  
「いけませんでしたか?」  
「そうじゃねーけど……ななな、何でハダカなんだよ!」  
 留美奈が問いただすと、エミリアはなんでそんなことを聞くのか、と言った  
感じで、口元に指を当てて答える。  
「だって、服を着ていたら濡れちゃうかも知れないじゃないですか」  
「そりゃそうかもしんねーけどよ……」  
 
 不要と突っぱねればいいものを、反射的にそうもできずにエミリアにペース  
を握られてしまうあたりが、漢・留美奈の悲しい性(さが)だったし――慌てふ  
ためきつつもちらちらとエミリアの方を見てしまうのは、年頃の少年としては  
抗い難い欲求だった。  
 ――確かに女にしちゃスゲー身長だけど、スタイルも抜群だよなぁ……胸は  
金髪の方がデケー様に見えるけど……  
「? ルミナさん、どうかしたんですか?」  
 急に押し黙った留美奈に、エミリアがキョトンとして問いかける。  
「え? い、いや、なんでもねーよ、う、うん」  
 わたわたと手を振って、それまでの意識をかき消そうとする留美奈。  
「じゃあ、洗い場に座ってください」  
「はい……」  
 にこっ、と微笑むエミリアにそう言われて、留美奈は不埒な分析を見透かさ  
れたような気分になり、神妙に応じてしまう。  
「ブッ!? つめてつめてつめてっ!?」  
 いきなりシャワーから出てきた水を浴びせられ、留美奈は悲鳴を上げて立ち  
上がった。  
「わわっ、ご、ごめんなさい、ルミナさん!」  
 エミリアが慌てて、シャワーを止める。  
「ごめんなさい……最初に冷水が出るなんて思わなくて……」  
「水の方だけひねりゃそうなるだろ!」  
 申し訳なさそうにしつつも、すっとぼけたことを言うエミリアに、留美奈は  
思わずツッコミを入れてしまう。  
「あ……ああー、そう言えば、これってそうなんですね。……すみません、ま  
さかこんな古いタイプのシャワーがあるとは思わなくて……」  
 エミリアがそう言って指したシャワー水栓は、かなり年期の入ったツーハン  
ドル式のものだった。地下世界ではスラムの木賃宿でさえサーモ水栓が普通に  
使われていたから、エミリアには馴染みがなくなっていたのだろう。  
「そう言えば、お風呂のボイラーも自動じゃありませんでしたし……地上って、  
意外と原始的なんですね」  
 つい、本音を口走ってしまうエミリア。  
「いや、そりゃうちがボロいだけだ……」  
 
 言いつつ、立ち上がった留美奈は、屈んだままのエミリアを見下ろしてしま  
うと、ぼっと一点に視線を引き寄せられる。  
 エミリアも少し水を被ったらしく、バスタオルの前面がじっとりと濡れてい  
る。それがエミリアの胸元にぴったりと密着し、その形をくっきりと浮かび上  
がらせてしまっていた。  
 ――すげー…………って、さ、さっきからなに考えてんだ俺。俺にはルリっ  
てもんが……け、けどコイツと言い、金髪と言い、比べちまうとルリはやっぱ  
貧相……って、違う、俺のルリに対する想いはそんないい加減なもんじゃなく  
って、そ、そう、ルリのアレはアレでそそるものが……って、そーじゃねーだ  
ろ俺!  
「ルミナさん?」  
 2つの水栓を捻りシャワーの温度を見ていたエミリアが、不意に留美奈を見  
上げる。  
「は、はひっ?」  
 はっと我にかえった留美奈は、裏返った声を出してしまう。実は股間のムス  
コがいきりたってしまい、それを手で必死に隠そうとしていた。  
「今度は大丈夫ですから、どうぞ」  
 にこっ、と再びエミリアが満面の笑みを浮かべながら言う。  
「お……おぅ……」  
 ――良かった、気付かれなかったみてーだ……  
 留美奈は軽く安堵のため息をついてしまいながら、再び腰かけに腰を下ろす。  
 
 が、その認識が間違いであったことを、彼はこの後たっぷりと思い知ること  
になるのである。  
 

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