チェルシーはシャワーの栓をひねった。  
熱い湯が火照った身体に心地よい。  
「・・・・ふう・・・」  
溜息を吐いて、長い髪に湯を走らせる。身体全体に湯を掛け、汗を洗い流していく。  
下肢からシャワーの湯ではないぬるっとした水が太股をしたって流れ落ちる。  
それを見た彼女は思わず顔を赤らめる。  
「あの馬鹿・・・・こんなにしちゃって・・・・」  
そうぼそっと呟く。  
「・・・・本当にすけべなんだから・・・・」  
「・・・・だーれがすけべだって?」  
 
背後から声がした。浴室のドアを開けて青年が入ってくる。  
「・・・・待っててくれなかったのかよ?」  
「あんたと一緒だとエンドレスになっちゃうからよ。」  
そういうとチェルシーは彼の顔面目掛けてシャワーを浴びせた。  
「わ!?っぷ!?何すんだよ!金髪!」  
「あんたのそれを静めてあげたのよ。」  
そういうと彼女は青年の足元を指差した。  
「なっ!?しょうがねーだろ!自然になっちゃうんだからさあー。」  
「エッチなことばっかり考えてるからよ!留美奈!ほんと15の時から4年間、進歩がないんだから!」  
「・・・・よくいうぜ・・・・お前がアノ時どーいう顔と声してるか・・・・」  
「・・・・何か言った?」  
 
にこやかに彼女は握りこぶしに重力を込める。  
「・・・いえ・・・・」  
チェルシーはくすっと笑って彼の身体にシャワーを掛けてやる。留美奈は今は背が高くなり、彼女は彼を見上げる形になる。  
「こうやってお前を見下ろせる日がくるとは思わなかったぜ。」  
彼は悪戯っぽく笑みを浮かべる。  
「・・・・中身は成長してないけどねー。」  
彼は彼女の湯に濡れた身体を見つめた。  
・・・・綺麗だよな・・・・  
明るい所で愛し合うのを嫌がるので、身体を重ねる時はいつも部屋を薄暗くしているのだが、こうやって電気の下で改めて彼女の裸体を見るのは初めてだった。  
透き通るほど白くて綺麗な肌、形の良い胸、くびれた腰。  
長くて綺麗な髪が身体に濡れて張り付き、何ともいえないほど妖艶で美しい。  
思わず見とれてしまう。その視線が胸のある場所で止まる。  
左の胸の膨らみの小さな赤い傷跡。  
暗い部屋で気がつかなかったが、こうやって見てみるとはっきりと分かる。  
・・・・何かに切られたような・・・・傷跡・・・・  
「・・・・それ・・・・」  
「あ・・・・・?」  
 
彼女は彼の視線に気がついて同じ所を見る。  
「どうしたんだよ?昔、怪我したのか?」  
チェルシーはちょっと眼を伏せて微笑んだ。  
「まあ・・・ね。ドジしちゃって・・・ね。」  
「ふうん?・・・身体、気をつけろよ。」  
 
彼女の脳裏に昔の・・・・幼い頃の情景が蘇る。  
私はあの時、なんで母が泣いているのか分からなかった。  
肩を震わせ、泣きじゃくっていた、母。  
私とよく似た、長い金髪。ほっそりとした面立ちの若い彼女。  
「・・・・許してね・・・チェルちゃん・・・」  
「・・・こうするか・・・あなたをあの人たちに渡すしかないのよ・・・」  
幼い私は母が何を言ってるのか、何に詫びているのか分からなかった。  
キラリと光るナイフの切っ先。  
それが・・・・真っ直ぐに私の胸目掛けて、心臓目掛けて振り下ろされる。  
 
母が貧しさから私を公司に身売りしたのはそれからしばらくたってからのこと。  
 
「・・・ね?ここで・・・・その・・・しない?」  
「・・・はあ?お前・・・・あんだけ嫌がってたじゃねーか!」  
「いいじゃない・・・・ねっ?」  
チェルシーの眼の中を覗き込んで留美奈は優しく微笑む。  
背中に手を回し、包み込むようにして抱きしめてやる。  
 
「・・・・しょうがねーな・・・・」  
 
こいつの過去のことは全部は分からない。  
けれどこうやって暖めることは出来るから。  
そして嫌な事を忘れさせるくらいに幸せにしてやるから。  
 
そして今の俺はこいつがいることが一番の幸せだから。  
 
彼は両手で彼女を抱きしめながら、ゆっくりと唇を重ねた.  
 
 

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