──ririririri……  
 
カチッ  
 
「ふあぁ……」  
五十鈴銀之助の一日は、自作の目覚まし時計の音で始まる。  
 
午前七時、起床。  
寝ぼけ眼をこすりながら階段を下りて洗面所に向かい、顔を洗う。  
意識がすっきりとしたところで鏡を見て、寝癖や隈の有無をチェックする。  
寝癖はあるが、隈は無い。昨夜は些か夜更かししてしまったが、疲れは残っていないようだった。  
「よしっ」  
洗面台の収納スペースから、コンタクトレンズを取り出して両眼にはめ込む。  
一年前に比べると、今ではすっかり慣れた作業だ。  
 
「「いただきます」」  
「はい、どうぞ」  
午前七時十五分、朝食。  
高校入学と同時に海外の研究所に両親が赴任して以来、彼は毎日自分で食事を作っていた。  
だが今では、『地上地下統一平等法』が制定される前後から時折五十鈴家を訪れる客人──翠とヘキサだ──が身の回りの事を手伝っている事もあり、幾分かそういった時間に余裕ができていた。  
 
 
午前八時、庵光寺到着。  
 
「留美奈ー。ルリさーん。迎えに来たよー」  
 
以前はこの時刻に起床していた留美奈だったが、今では同居人達のライフスタイルに合わせてもう少し早く起きている為、銀之助もそれに合わせて、少し早く彼等を迎えに来ていた。  
声を掛けてから待つ事暫し。門の向こう側からパタパタと駆けてくる複数の足音が聞こえてきた。  
時を置かずして門扉が開き、待ち人達が姿を現した。  
「おはよう、留美奈、ルリさん……あれ、チェルシーさん?」  
待ち人達と共に現れた予想外の人物に、銀之助は小さく疑問を覚えた。  
彼の記憶に間違いが無ければ、いつもの彼女は既に彼女の通う大学のある街に向かう電車に乗っているはずだった。  
「ああ、大学の友達から連絡があって、ちょっとの間1限が休講になったらしいのよ」  
銀之助が事の理由を推測して沈思黙考していると、それを読みとってか、チェルシーの方から先に的確な解答がとんできた。  
「あ、それで…」  
得心がいったとばかりに銀之助が呟く。  
「ま、そういう訳だから、暫くは私もルリ様のご登校に付き合わせてもらうわね」  
「オイコラ、俺はオマケか」  
チェルシーの言葉に小さく愚痴を洩らす留美奈を、銀之助とルリがまあまあと宥め、一行は都立朝比奈高等学校への往路に着いた。  
 
「──ねえ、メガネ君」  
「? 何ですか」  
いつもより一人多い、四人で歩く通学路の最中で、チェルシーが正面を向いたまま小さく銀之助に声を掛けた。  
「あの二人……メガネ君から見てどう映ってる?」  
そう問い掛けるチェルシーの視線の先には、彼女達の少し前を楽しそうに会話しながら歩く留美奈とルリの姿があった。  
「どう、って訊かれると……」  
銀之助もチェルシーに倣い、留美奈達を見る。  
敢えて問われて見てみると、庵光寺を出た時から漠然と感じていた違和感が、むくむくと実体を持って膨れ上がっていくように感じた。  
今、視界に映っている二人から醸し出されている雰囲気が、何故か昨日までの物と微細に──しかし確実に異なっていた。  
つい昨日までは、ごく普通の高校生然としたカップルの雰囲気だったのに、今、二人から感じているそれは、明らかに年季の入った──言うなればどこか「男と女」の雰囲気がしているのだ。  
そして、それがどういう意味を持っているかを理解できない程、銀之助は若くはなかった。  
「なんて言うかもう、あれはもう進んじゃったって感じg」  
「それ以上言うなっ!」  
 
メゴッ!  
 
「ぐはっ……」  
 
銀之助が言い終わる前に、チェルシーの重力が込められた右の裏拳が銀之助の鼻梁に炸裂し、彼はもんどり打ってアスファルトに倒れ込んだ(勿論手加減はされていたが)  
 
 
「留美奈ー、ルリさーん。お昼食べに行こうー」  
「おー、今行くー!」  
 
昼休み。銀之助はヘキサに作って貰ったお弁当を手に、選特Aクラスの教室を訪れていた。  
 
『地上地下統一平等法』の制定に伴い、各義務教育機関〜高等学校には、地上地下両世界の溝を埋める為の特別学級が設けられた。  
地下の能力者が地上世界の慣習や常人との倫理の差違等を学ぶ為のものと、逆に地上人が地下世界の慣習や能力者との倫理の差違等を学ぶものの二種に分類される。  
銀之助達の通学する都立朝日奈高等学校では、前者を選特のAクラス、後者をBクラスと呼んでいた。  
本来、地上人である留美奈は通常の授業を受けるのが筋なのだが、能力者になってしまった事等により選特クラスへと半強制編入されていた。  
この辺の事情は話すと長くなるので今は割愛する。  
 
「よっ、待たせたな」  
少しして、留美奈とルリが自分のお弁当を持ってきた。  
「じゃ、行こっか」  
基本的に彼等の昼食は、三人揃って屋上で各々のお弁当をつつき合うのが慣習になっている。  
だから、この日も当然そうなるはずだった──のだが、  
 
「あ、そうだ」  
 
「へえ、この卵焼き、美味しいねぇ」  
「本当ですか? よかったぁ、それ自信作なんです!」  
「……おい」  
「ルリさんもすっかり料理が上手くなったね」  
「ふぅん。昔はどんな物を作ってたのかな?」  
「あ、それは、そのぅ……」  
「……おい!」  
蚊帳の外に放り出されかけていた留美奈が叫びながら立ち上がり、びしっ、と人差し指を突きつける。  
その指と視線の先には、ちゃっかりとルリの隣で自前のお弁当をつついているテイル・アシュフォードの姿があった。  
「なんでテメェがここにいるんだよ!?」  
「なんでって…キミもその場にいただろう? 彼が誘ってくれたからだよ」  
そう言って向けられたテイルの視線の先には、彼の左隣に座り冷汗を流す銀之助の姿。  
キッ、と留美奈の射る様な視線がそのまま銀之助にスライドする。  
「ぎ〜ん〜の〜す〜け〜!?」  
額に青筋を浮かべてにじり寄る留美奈の迫力に、銀之助は座ったまま後ろ手で這って後退する。  
「いや、ほら、たまにはこういうのもいいかなーって……」  
「よくねぇーーーっ!!」  
 
 
──校庭──  
 
「あ、五十鈴先輩だ」  
「今日も良く飛んでるねぇ…」  
「新記録かしら?」  
「たーまやーっ!」  
 
「キミ、もうすっかりここの常連ね」  
「お手数かけます…」  
 
午後二時。本来ならとうに五限目の授業が始まっている時間だが、銀之助は昼休みの一件のせいで保健室で傷の手当を受けていた。  
ちなみに保険医の言葉通り、銀之助にとってこんな目に遭うのはしょっちゅうの事である。  
しかもこれで出席数も削られているので、特進クラスの彼にはなんとも頭の痛い話だった。  
「で、今回はどうしてココに担ぎ込まれて来たの?」  
「う……」  
保険医の問いかけに口を噤みながら、銀之助は今朝方通学路でチェルシーに言われた言葉を思い返していた。  
 
『──とにかく。今のルリ様とルミナを二人きりにしたら、何があるかわかったもんじゃないわ』  
『確かに…』  
『だからメガネ君。二人が学校にいる間は、極力二人きりの状況を阻止してほしいの』  
『それは構いませんけど……でもどうやって? 僕、二人とは違うクラスですよ?』  
『そんなの自分で考えなさい』  
『ひ、ひど──』  
『何か言った?』  
『い、いえ! 何も……』  
『よろしい』  
 
そうして銀之助なりに考えた策が、テイルを二人に近付けるというものだった。  
結果としては、自身の負傷と引き替えに、まあ一応の成功を収めたと言えよう。  
 
 
銀之助がチェルシーに留美奈とルリを二人きりにしないように頼まれ──もとい命じられてから数日が経った。  
銀之助の幾度にわたる犠牲やチェルシーの尽力により、事は大まかスムーズに進められていた。  
…ただ、その成果が不必要に留美奈の精神を追い詰めていた事には、二人ともまだ気付いていなかった。  
 
「銀之助君。留美奈君から電話がかかってきてるよ」  
「あ、はーい」  
 
そんなある日の夜八時半。銀之助にかかってきたこの一本の電話が、今後の彼の運命を大きく変える事となった。  
 
『よっ、銀之助』  
「どしたの留美奈? こんな夜中に珍しいね」  
『あー、ちょっとじかに会って話したい事があんだけどよ、時間あるか?』  
「無くはないけど…」  
 
そう答えながら銀之助の聴覚は、キッチンから聞こえてくる包丁の音をとらえている。  
 
「これから晩御飯だから、その後でもいい?」  
『おーおー全然構わねぇって! んじゃ飯食ったらいつもの公園に来てくれな!』  
 
プッ──ツーツー……  
 
「もう電話はいいのかい? 銀之助君」  
「あ、ハイ先せ…い?」  
 
電話を終え、翠に名前を呼ばれて振り返った銀之助は思わず言葉を失った。  
背後にまだ続く包丁の音を受けながら、翠は野菜が大量に盛られた大皿を持って立っていたからだ。  
 
「ああ、これかい?」  
 
銀之助がそれに驚いていると、その意を得たりと翠が口を開く。  
 
「この野菜はジルハさんからのお裾分けなんですよ。  
なんでもお店で使う分が余ってしまったからと、銀之助君が学校に行ってる間に持ってきてくれましてね。  
それでヘキサが急遽、今夜はこれですき焼きにしようと…」  
 
どことなくウキウキ顔の翠とは裏腹に、この時銀之助の脳裏には、  
「遅せぇッ!」と自分を怒鳴りつける留美奈の姿が浮かんでいた。  
 
 
──午後十時、雷光公園。  
 
かつては近隣の中高生に手軽なデートスポットとして親しまれていた公園だったが、  
『地上地下統一平等法』の制定後、シエルやルリが「思い出の場所」と公言した為、  
一転して地下世界の人間が集う場所となり、その名前すら、当のシエルに因んだものへと変えられてしまった公園である。  
 
そんな雷光公園の噴水の縁に、腰を降ろして自分の身体を掻き抱く人影が一つ。  
そして、息を切らしながらその影に駆け寄る影がまた一つ。  
 
「遅ぇッ!」  
 
予定していた時間から大幅に遅れてしまった銀之助を迎えたのは、見事に予想通りの留美奈の一喝だった。  
まだ熱の残る時期とはいえ、初秋の夜風はひんやりと肌寒く、留美奈の腕には微かに鳥肌が立っていた。  
 
「ごめんごめん。あ、コレ遅れたお詫び」  
 
そう言いながら銀之助は、ここに来る途中の自販機で買った缶コーヒーを留美奈に手渡した。  
 
「……雪は積もってねぇよな」  
「は?」  
「いや、なんでもねぇ」  
 
少し気恥ずかしそうにそっぽを向きながら、留美奈は缶コーヒーのプルタブを引き、中のコーヒーを呷る。  
僅かに冷えていた身体が急速に、しかししっかりと温められていった。  
 
「…で、話って何さ?」  
 
カシュ、と銀之助が自分の分の缶コーヒーのプルタブを引きながら留美奈の隣に座り問い掛けた。  
 
「あー、そーだな……」  
「??」  
 
明朗快活、猪突猛進をウリにしてる(?)留美奈にしては、随分と歯切れ悪く喋っている。  
彼がこういう話し方をする時は、大抵パターンが決まっている事を、長年の親友である銀之助はちゃんと熟知していた。  
 
「……ルリさん絡み?」  
「な、なんで判るんだ!?」  
「判り易すぎるんだよ、留美奈は…」  
 
コクッ、と缶コーヒーを一口呷り、銀之助は小さく笑みを浮かべながら言った。  
 
「…最近、全然ルリと二人っきりになれなくてよ……」  
(そりゃあ僕達が意図的にそうしてるからね…)  
 
曇天の夜空を見上げながら白い溜息を吐く留美奈の横で、銀之助は声に出せない呟きを心中で漏らす。  
 
「もしかしたらルリの機嫌損ねる様な事したかな……って思ってな?」  
「……ちゃんと初めては優しくしてあげた?」  
「あったりまえだろ!? ………あ」  
 
銀之助の的を得た誘導尋問に、留美奈は実にあっさりと重大な秘密を吐露してしまった。  
 
「……で、もう一度訊くけど、話って何さ?」  
 
頭の上でズキズキと痛むタンコブを押さえながら、銀之助は改めて留美奈に問い掛けた。  
 
「……内緒だぞ?」  
「うん」  
「…絶対に内緒だぞ!?」  
「うんうん」  
「絶対に絶対に内緒だからな!!」  
「しつこいなぁ、解ってるよ! …で、何?」  
 
放っておけばいつまで続くか判らない留美奈の確認を、銀之助はやや強引な口調で打ち切った。  
そうして、漸く留美奈も覚悟を決めたとばかりに気を引き締め、真剣な面持ちで銀之助を見つめる。  
そして、ゆっくりと留美奈が口を開き始めた。  
 
「正直、俺は俺なりにルリに優しくしたつもりだったけど、女の子ってのは繊細だからな…」  
「うん。ルリさんは特にそうだよね」  
「だろ!? だから本当は俺に言い出せなかっただけで、結構辛い思いをしたんじゃねぇかな…って最近思ったんだよ」  
「うんうん」  
「それで俺は考えたんだ! 自分の力(テク)だけでルリを喜ばせれる様になるまでは、借りれる力は借りようって!  
……だから、な。銀之助」  
(あ、すっごい嫌な予感……)  
「べ、別にルリさんはそんなk」  
 
「"大人のオモチャ"ってヤツ、作ってくんねーかな?」  
 
 
ガタンゴトン…ガタンゴトン…ガタンゴトン…  
 
「はっくしょん!!」  
 
翌日の放課後、銀之助は学校からの帰路を自宅に取らず、電車に揺られながら某所へと向かっていた。  
 
──昨夜の留美奈からの電話に端を発した一連の出来事は、当然、銀之助にとって愉快な話にはならなかった。  
留美奈の爆弾発言?に対し、銀之助は最初の内は当然申し出を拒絶したが、街灯の天辺にぶら下げられては承諾せざるを得なかった。  
しかも、当の留美奈は銀之助を宙吊りにした直後に半ギレ状態で帰宅してしまい、  
哀れ銀之助は、遅い帰りを心配した翠が迎えに来てくれるまでの一時間強を、夜風に曝されながら過ごす羽目になった。  
結果、彼は当たり前の如く風邪をひいてしまい、無理を押して登校した学校で、留美奈の満面の笑みを受け取ったのだった。  
ちなみに今の時間は午前十時。体調不良の為に一時限で早引けした結果である。  
尤も、テイルを留美奈とルリの間に差し向ける事は怠らなかったが。  
(ま、それぐらいのリスクは受けて然るべきだよね……って)  
「はっっくしょん!!」  
 
電車に揺られる事約二十分。銀之助はとある駅で下車した。  
他線への乗り換えが無く、都内では比較的小さい部類に入る駅だが、  
それ故に「地上の人間と馴染み辛い元地下世界の住人」が多く住み着き、  
街単位としてはこの一年で急速に発展してきた場所である。  
 
そんな駅からのメインストリートを、銀之助は一人歩いていた。  
制服姿の彼を見咎める人も少なくなかったが、顔のマスクに気付くとすぐに納得して視線を元に戻していた。  
「この時間だと開店直後かな……」  
そう呟きながら銀之助は目的地への目印であるCDショップの看板を認めると、  
そのすぐ脇にある細道へと入って行った。  
朝と昼の中間の半端な時間帯に加え、車両通行禁止という事もあってその道は閑散としており、  
特にトラブル等に遭う事も無く、銀之助は目的地である店へと到着した。  
 
「──あれ?」  
 
が、何故かその店のシャッターは降りていた。  
疑問に思った銀之助が腕時計(これも彼の自作である)に視線を落とすと、時間は十時四十分となっていた。  
ちなみにこの店の開店時間は毎日十時半(定休日を除く)である。  
 
「おかしいな…どうしたんだろ?」  
銀之助が頭上にハテナマークを浮かべる。  
この店には何度も来ている彼だったが、今回の様に午前中に来る事は今までに無かったので、  
現状の理由については全く思い浮かばなかった。  
(取り敢えずちょっと待ってみようかな…)  
そう考えて店の前でシャッターか上がるのを待っていた銀之助だったが、  
十分、二十分と経っても、眼前のシャッターは一向に開かなかった。  
「…ちょっと裏に回ってみよう」  
流石にこれだけ時間が経つと疑問より不安の方が強くなり、銀之助は裏口へと回ってみた。  
 
当然の事ながら、店の裏手は表側とは違い、簡素な造りのアルミサッシのドアが一つあるだけである。  
そのドアのノブに銀之助が手をかけると、意外な事に、何の抵抗も無くドアノブは回り、彼を店内へと招き入れた。  
(何か…あったのかな……)  
銀之助の頬を、風邪の熱によるものとは別の汗が一筋流れる。  
その汗を手の甲で拭うと、鞄の中から愛用の──しかし久し振りに手にする練気銃を取り出し、  
シャルマに能力を込めてもらった『氷』の弾丸を装填した。  
 
「お、お邪魔します…」  
勝手知ったる人の家…という言い方は適切ではなさそうだが、  
銀之助は律儀に靴を脱ぎ、家の中へと進入して行った。  
(一階に人の気配は……無いな)  
見た目こそインドア派な銀之助だが、地下世界での、幾度にもわたる戦いで得た経験や、半年以上にも及ぶ修練の成果により、  
肉体が鍛えられた事はもとより、こうした「気配を読む能力」などもまた人並み以上に鍛えられていた。  
(こっちにいないなら……二階かな?)  
敷地面積の大半を店舗スペースが占める一階とは真逆に、二階は完全な生活空間になっている。  
銀之助は注意を払いながら、ゆっくりと歩を進め、やがて、さしたる出来事も無く、あるドアの前まで辿り着いた。  
ここまでくれば、後はドアを開けるだけである。  
だが、もし中に不審人物でもいれば、迂闊な行動は自分の首を締めるだけである。  
故に、銀之助は早くに意を決した。  
間違ってたら「ごめんなさい」でいいのだ。  
ドアノブを握る左手と、練気銃を握る右手に力を込め、一気にドアノブを回して引き、練気銃を真正面に突き出して叫んだ。  
 
「大丈夫ですか!? 羅さ………ん……?」  
 
「い、五十鈴!?」  
 
『あっあっあっあっあっあっ、イク、イク、イクぅ〜〜〜〜〜〜〜!!!』  
 
……銀之助の瞳に映った物は三つ。  
彼の年齢では見る事を許されない桃色なシーンを映すテレビモニターと、  
そのテレビの近くで、山と積まれたティッシュを収める屑籠と、  
……そして、ライトグレーのカーペットの上で半ケツ状態で寝そべっていた、この店の主にして、元・公司のB級師兵、羅の姿だった……。  
 
かくして、近隣の若者を中心に人気のジャンク&レゲエショップ『LAW』は、  
本来の開店時間より大幅に遅れ、午前十一時二十分に漸くシャッターを上げた。  
 
 
 

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