「フ〜ンフフ〜ン♪」
土曜夜。台所から鼻歌が聞こえる。
チェルシーは食器洗いも一段楽し、上機嫌に紅茶を注いでいた。
((─紅茶なんて久しぶりね…ルリ様は喜んでくれるかしら?))
チェルシーは護衛役としての家事全般の中でも、とりわけ紅茶を淹れるのは得意であった。
((よし!後はクッキーでも…))
ベストな温度、そして濃さ。完璧を追求したアールグレイが二つ、そして自家製のクッキーが数枚トレイの上に並んだ。
((ん…いい香り♪))
上質な紅茶の香りに目を細めながら、チェルシーはルリの部屋へと向かった。
トントン…
「ルリ様〜?紅茶を淹れましたのでクッキーと召し上がりませんか〜?」
チェルシーはそういうと襖を開けた。
………………………………
一瞬、時間が止まった。
「ル、ル、ル、ルリ様ッ!!!!!?」
「!チェルシー!ちがうの!これは…」
チェルシーの目の前のルリは、顔を紅潮させて自らを慰めていた。
チェルシーの手からトレイごと紅茶が零れ落ちる。が、寸でのところで紅茶が宙に浮いた。
「し、失礼しましたっ!!」
チェルシーは一瞬で宙の紅茶をトレイに戻し、ピシャリと襖を閉めた。
((ルリ様…な、何を…!?))
足早に台所へと向かいながら、思考を廻らせる。
───…
─────…
((あれはあきらかに………アレ…よね…))
チェルシーは完全に冷めてしまった紅茶を啜った。
「って!もうこんな時間!?…お風呂入らなくちゃ…」
悶々とした思考を振り払うように頭を左右に大きく振って、チェルシーは浴室へ向かう。
((ルリ様が…まさかあんなことを…))
───…
────……
((まぁ年齢的に興味が湧くのはあり得るけど…))
─────…
──────……
((…ってこの後ルリ様と同じ部屋で寝るなんて気マズすぎるじゃない!!?))
─…考えている間に、のんびりする暇もなくバスタイムを終えた。
─────……
───────………
所かわって、ここは留美奈の部屋。
部屋の主は床に座りベッドに寄りかかってマンガを読んでいる。
コンコン
部屋にノックの音が転がった。
「…なんだ〜?開いてるぜ〜?」
留美奈はドアの向こうの人物に応えた。
「…入るわよ…」
「な、おまっ、な、何の用だよ!?」
留美奈は突然の風呂上りパジャマチェルシー(ほわほわ)の出没に、面食らって驚いた。
「あ、あのさ!ちょっと頼みがあるんだけど…」
チェルシーは照れているのか、声が上ずっている。
「…な、なんだよ?」
留美奈は疑わしげに訊いた。
「…今晩アンタの部屋で寝てもいい?」
……………
………………
…………………
「 は ァ ! ! ? 」
────…
──────……
「……その…いろいろあって…今晩ルリ様と一緒なのは気マズいのよ…」
チェルシーは目をそらしながら留美奈に言う。
「…だからって何でオレの部屋なんだよ!?本堂で寝ればいいだろ!?」
「う、うるさいわね!あそこは夜冷えるのよ!ストーブあるのはルリ様とアンタの部屋だけじゃない!」
「だからルリのところで寝ろっての!」
「それがダメだって言ってるじゃない!」
いつも通り言い争いになった。
「……ってか…オレなんかの部屋で安心して寝てられるのかよ?」
留美奈が急に声を小さくして言う。
「…?別に地下世界じゃないんだから敵なんて襲ってこないでしょ?」
((コ、コイツ鈍ッ…襲われ得る相手を間違ってやがる…))
留美奈はチェルシーの天然発言に変に興奮してしまう。
「…それに…アンタはもう私よりずっと強いから…安心して熟睡できるわ」
チェルシーは先程の発言とはうって変わって目を細めて言った。
「…わーったよ…じゃあ布団持って来っから待ってろ」
そういうと留美奈は頭を掻きながら一階へと降りていった。
「ふ〜…やっぱりあったかいのはいいわね〜…」
チェルシーはベッドの上に枕を抱いてぺたんと女座りする。
──そこは本来留美奈が寝ているのだが──
「……何でルリんとこだと気マズいんだよ?」
留美奈はベッドの横に敷いてある布団で言った。
「………ルリ様が…お部屋で…その…ごじ…ぶんを……な…さめ…て…らして…」
「あ?」
「だ、だから!ルリ様がお部屋で!……ひ、ひとり…えっちを…」
「は、はぁ!?」
チェルシーは耳まで真っ赤にして言うと、枕に顔を埋めてしまった。
「………ま、まぁ…ルリも…年頃…って奴じゃねェか?」
急に気恥ずかしくなって留美奈は部屋に視線を泳がせる。
「…確かに最近…雰囲気が少し変わったと思ったけど…」
「「…………………………………」」
話題が話題で、お互い変に気遣って気マズい沈黙が続く。
「…あぁもう!!変なコト意識させないでよッ!アンタの所で気マズくなってどうするのよ!!」
「うるせー!オレは始めっから気マズ…」
「……え?」
留美奈は言いかけた言葉を飲み込んだ。が、彼女には聞こえてしまったらしい。
「……あー、ったく!女の子がそんなカッコでオレの部屋に居座ってんだ!
…い、意識するなってほうがムリだろ!」
留美奈は半ばヤケになって言った。