原作終了後設定。チェルシー視点。
『帰る場所』
眩しい太陽。どこまでも続く青い空。
私とルリ様は地上に帰ってきた。
もう二度と見ることのできないと思っていた景色を、私達は再び見ることができた。
私達の帰る場所。
場所、とはいっても結局また留美奈の家にお世話になっている。
ルリ様は留美奈と一緒に学校へ。私はその間家事をしている。
何事もない、平凡な日々。
だけどそれはとても幸せな日々。
こんな幸せがずっと続けばいいな。
ルリ様がいつも笑顔でいられますように。
洗濯物をすべて干し終え、後片付けを済ます。
少し早めのお昼を食べると片付けもそこそこに外に出る。
慣れない土地でまだわからないことだらけだけど、どれもが新鮮に感じる。
昨日買った雑誌を手に、目的の場所へ向かう。
ルリ様達が帰ってくるまでに用事を済まさなければ。
その後は夕飯の買い物をして。今日はルリ様の好きな物をたくさん作ろう。
足取りも軽く、街を歩いた。
「ちょっと、アンタ着替えながらご飯食べるのやめなさいよ」
「仕方ねーだろ、寝坊しちまったんだから」
今日は朝から騒がしい。
寝坊した留美奈が慌てて仕度をしている。
ルリ様には先に出たほうがいいと言ったけど、留美奈と一緒に行くといって待っている。
「まったく、ルリ様に迷惑かけないでよね」
「し、しょーがねーだろ。昨日は……ああーっ!やべ、もう出ないと」
「ちょっと忘れ物ない!?」
大丈夫、と叫びながらルリ様と一緒に家を出て行った。
騒がしいったらありゃしない。こんなんじゃルリ様をまかせてられないじゃない。
二人の出て行った玄関を見て、小さく溜息を吐き出す。
片付けを終え、部屋に戻ると引き出しの奥にしまっておいた封筒を取り出す。
中から書類を出し物色する。その書類には家の間取りと家賃、簡単な設備などが記載されている。
昨日行った不動産屋からいくつか紹介してもらった賃貸物件だ。
地上に戻ってきて平和な日々を手に入れた。
毎日幸せそうに微笑むルリ様。その隣には私と、留美奈が。
こうしていられるのはきっと留美奈のおかげ。
留美奈のおかげでルリ様は笑顔でいられる。
留美奈がいるから。
でも私は……。
その時、バタンと大きな音を立てて部屋のドアが開かれる。
「る、留美奈……?」
学校にいったはずの留美奈がなぜか家に戻ってきている。
慌てて手に持っていた書類をかき集めて後ろ手に隠す。
「ど、どうしたの?いきなり帰ってきて」
「ちょっと忘れ物」
「忘れ物?寝坊するからいけないのよ。電話くれれば持っていったのに」
「……それより金髪」
「なに……?」
留美奈の視線が突き刺さるように痛い。
私ではなく、私の後ろに視線がいく。
「なんだよ、それ」
「なんのこと?」
「とぼけんなよ!」
さっと私に近づくと、避ける間もなく書類を奪われてしまう。
そして掴みきれなかったいくつかの書類が散らばる。
「………………」
「………………」
しばらくの沈黙。なんだか空気が重い。
口を開いたのは留美奈の方だった。
「金髪、オマエ出ていくのか?」
「これは別に、たまたま見かけて」
「嘘言うなよ。昨日不動産屋行くの見たんだ」
「え……?最近は補習で遅くなるってルリ様が」
「ああ。でも昨日はたまたま早く終わったからぶらぶらしてたらオマエを見かけて……」
そうか。不動産屋に入る所を見られてたってわけね。
こっちに来て気が緩んでたわ。留美奈の気配に気づけなかったなんて。
「オレの質問に答えろよ!」
「……そのつもりよ。あ、ルリ様はこのままここに置いてあげて。出て行くのは私だけだから」
散らばった書類を片付けながらようやく答える。
留美奈が手にしていた書類をくしゃりと握り締める。
「なんで……なんでだよ!別に出て行く必要なんかねーだろっ!」
「あら、アンタにとっては私がいないほうが好都合なんじゃないの?」
「茶化すなよ!……オマエは、ルリを置いて出て行くのかよ」
「それは違うわ」
違う。ルリ様を置いていくわけじゃない。
私は誰よりもルリ様を大事に思っているから。
だけど、……だからこそ私はルリ様のお側にいられない。
ルリ様の視線の先にはいつも留美奈がいる。
留美奈の隣で笑っている。
今まで私がいた場所に、今は留美奈がいる。
ルリ様を大事に思って、ルリ様を守ってくれる人がいる。
私ではなく、留美奈がいるから。
「ルリ様は今までのように守ってもらうだけの人じゃないわ。それに、アンタがいるじゃない。
アンタが守ってくれるんでしょ、ルリ様のこと。もちろん、泣かすようなことしたらただじゃおかないから。
ルリ様はこっちで居場所を見つけることができた。でも私は……」
「オマエの居場所もここだろ!?」
なんでそんな嬉しいこと言っちゃってくれるのかしら。
そんなこと言われたら勘違いしてしまいそうになる。
自分に都合のいいように解釈したくなる。
「私には、私にふさわしい場所があるから」
「……んだよ、それ」
「いい人を見つけたいってこと。……あーあ、あんた達がうらやましいわー」
もうこの話題は終わり、とばかりに封筒にしまった書類を引き出しに戻して部屋を出ようとする。
「待てよ!!」
「え?」
振り返って見たが、先程いた場所に留美奈の姿は見えない。
見えるのは窓の外の景色。
「る、留美奈……」
身体に軽い衝撃を覚える。
これは、もしかして抱きしめられているというやつでは。
背中に回された腕、肩口に感じる熱い息。
「るみ……な……」
「どこにも行くな!ここに居てくれよ。……オレの側にいろよ……」
「何言って……」
「オレは……オマエが……」
両手で留美奈の胸を押し返す。
「言わないで。それ以上」
「でも、オレはっ……!」
「やめてっ!!……ルリ様が悲しむじゃない」
どうしてこんな嬉しい言葉を言われてるのに、こんなにも辛いんだろう。
本当は前からなんとなく気付いていた。留美奈の気持ちに。
だけど私はそれに気付かない振りをした。
今ならまだ間に合う。
今ならきっとすべて忘れられるから。
「オマエはそれでルリが喜ぶとでも思ってんのかよ」
ずきん、と胸が痛む。
ルリ様が……?
「アイツに嘘つくって言うのかよ。誰よりもオレ達を信用しているのに、それを裏切るのか?」
「裏切るだなんて」
ううん。こんな気持ちを持った時点でとっくに裏切っているのかも。
ルリ様と、同じ人を好きになってしまうなんて。
「ルリはそんなヤワな奴じゃねーよ。だから」
「……っ!!」
避ける間もなく唇を奪われる。
「オレはオマエが好きなんだよ。……オマエは……どうなんだよ」
「わ、私は……」
一生言うことのない言葉だと思ってた。
いつからか抱いてたこの気持ちは私の中だけに留めて、ずっと封印しておくつもりだった。
ルリ様……。
ルリ様は許してくださいますか?
笑って、くれますか?
真っ直ぐに私を見つめる瞳。
顔なんか真っ赤になっちゃって。
でも私の顔もたぶん真っ赤。
ねえ、アンタもドキドキしてる?私の心臓みたいに。
そっと手を伸ばす。
頬に手を添え、そっと唇を重ねる。
「私も、好き……」
もう一度見つめ合って、今日3度目のキスを交わす。
「ところで、アンタ学校に戻らなくていいの?」
「はぁ……。ムード台無しになるようなこと言うなよな」
「なっ!わ、悪かったわね。どうせ女らしくないわよ!」
「そういう意味じゃねーって。……ったく、オマエはその……十分女らしいよ」
「…………!」
なんでそんなクサイこと平気で言っちゃうわけ!?
やだ、顔が赤くなるじゃないっ。
……って、留美奈も顔真っ赤じゃない。
しかもなんか黙っちゃって、妙な雰囲気というか……。
何か喋ったほうがいいのかしら。ああ、でも何喋っていいのか頭が混乱して。
「チェルシー」
「なな、な、なによ。いきなり、名前で呼ぶなんて……きゃっ!」
留美奈が私を抱きしめる。
不意打ちにびっくりして固まってしまう。
耳元でもう一度名前を呼ばれる。
「チェルシー……。オレ、我慢できねー……」
「そんな風に名前で呼ぶなんて、反則よ」
今まで一度も面と向かって名前で呼んだことないくせに。
そんな風に呼ばれたら、私まで我慢できなくなっちゃう。
「じゃあオマエもオレのこと名前で呼べよ」
「バカ」
「オマエなぁ……」
「ふふっ。…………留美奈、好きよ」
「チェルシー……好きだ」
何度も何度もキスをする。
次第に深くなっていくキスに、お互いの息もあがっていく。
留美奈の手が胸に触れる。
「やわらけー……」
初めは恐る恐る触れていた動きが、次第に力が入っていく。
それでも服の上からの感触では物足りなくなったのか、裾を捲り肌を露出させる。
「これも取ってもいいか?」
「待って……」
下着に手をかけようとしていた留美奈を遮り、自ら上半身の衣服をすべて脱ぎ去る。
ごくりと留美奈の喉が鳴る。
「そんなに見つめないでよ……」
「お、おう。……じゃあ」
「や……ぁんっ……」
片方の膨らみを手で掴み、もう片方の膨らみに舌が這う。
不器用に動く手は全然ぎこちないけど、それでも先端に触れられると思わず声が出てしまう。
最初こそ無我夢中だったものの、少しだけ余裕が出てきたのか私の反応を見ながら指や舌を動かす。
「はぁ……んんっ、やっ……ああ……」
「なあ、こっちも……いいか?」
そう言ってスカートの中に手を入れると、下着の上からそっと触れられる。
「ひぁっ……!」
「すげ……もう湿ってる」
「やだぁ……そ、なこといちいち言わないで……」
恥ずかしくて留美奈の顔をまともに見られない。
だけどちらりと見えた表情は満足そうに微笑んでいて、なんだかくやしい。
何か言い返したかったけど、指が下着の間から滑り込んできて直に触れられてそんな余裕もなくなってしまった。
「や……あんっ、んっ……ああっ……」
指が一本入り、ナカに出し入れされる。
その度にぐちゅぐちゅと卑猥な音が聞こえてきて、どれほど濡れているかを思い知らされる。
「すげーやらしい音……。こんな濡れてたらもう一本くらい入んじゃねーの?」
「ダメ……そんなにしたら……やああっ……あぁ……」
少し窮屈に感じたけれど、濡れていたせいかすんなりもう一本の指を受け入れてしまう。
掻き回されるような動きに次第に快楽まで引きずり出されて、熱くなる一方の身体はもっとその先を望んでしまう。
「あ……ね……留美奈……」
「……何?」
「も……私……ああんっ」
なんとかして気持ちを伝えたいと思うものの、留美奈は一向に気付いてくれない。
それどころか私を追いつめるような動きにどうしようもなく焦れて、羞恥心を奪っていく。
もう、ダメ……。
「留美奈ぁ……は、ぁ……早く……キテ……」
「………………」
留美奈の動きが止まる。
どうしよう。もしかして退かれてしまったかな。
「……反則」
「え?」
「オマエ、そんな誘い方は反則だろ。……もう我慢しないからなっ!」
「きゃあっ!」
勢いよく足を掴まれ、大きく広げられる。
さっきまで触れられてひどく濡れた所を留美奈の目の前に晒されてしまう。
だけど留美奈はじっくり見る余裕もなく、急いでズボンを下ろすと硬くなったものをその濡れた窪みに沈ませる。
「やだっ、いきなりそんな……」
「早くっつったのはオマエだろ?それにもう、限界……」
今まで塞き止めていた理性があっという間に崩壊していく。
「やあああっ……くっ……ううっ……」
指とは比べものにならない程の圧迫感に、意識が飛びそうになる。
でも同時に襲ってくる痛みが現実に留めさせる。
手を伸ばし、留美奈にしがみついて必死で痛みを堪える。
戦いで負った痛みとは違う、痛み。
確実に私に留美奈が刻み込まれるようで嬉しい。
「っ……おい、チェルシー……」
最奥まで達し、一呼吸置いた留美奈が私を見つめる。
留美奈の手が目尻を撫でる。
「そんなに痛かったのか……?……悪い」
「え?これは、違う。その……嬉し涙よ」
いつのまにか流れていた涙は生理的なものなんだろうけど、でも心が満たされるくらいの幸せの涙でもある。
私を気遣って、しばらくそのまま動かずに抱き合っていた。
時々わずかに身動ぎする度に、ナカで留美奈がびくんと反応する。
「もう、大丈夫だから……」
「ん、……ああ」
留美奈がゆっくりと動き出す。
内壁を擦られる感覚と、奥にずきりと響く感覚。
どれも痺れるような快感が意識を麻痺させていく。
「あ……ああっ……留美奈……んあああっ……」
「くっ……オマエん中……すげー……」
「やあ……ダメ、そんな激しくしたら……ああん!」
肌と肌がぶつかり合う音。
繋がった部分からぐちゅぐちゅと粘液の混じり合う音。
二人の息と、開いた口から漏れる声。
「やべ……チェルシー、俺……もう……」
「んうっ、あん……ルミ、ナ……あ……んあああ、あ……やああぁ……」
留美奈の動きが速くなり、そしてぐっと奥を突かれてそのまま動きが止まる。
覆い被さるように抱きしめてきたのを受け止める。
ずっとたくましくなった背中に両手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
もう……離れない。離さないから。
「学校、サボっちゃって大丈夫?休んでた分の補習があったんでしょ?」
少し狭く感じるベッドで、留美奈と一緒に寝転ぶ。
気怠い身体をくっつけたまま留美奈の顔をなんとなく眺める。
「学校着く前に戻ってきちまったからなー。明日からまた居残り決定だな」
「まったく……」
「しゃーねーだろ。学校なんかより、オマエの方が、その……大事だったわけだし」
「……バ、バカ!」
気恥ずかしくなって、留美奈の胸に顔を埋める。
「……ありがと」
「お、おう」
こうして気持ちが通じ合ったのに、まだちゃんと素直になれないあたり、まだまだよね。
でも何も変わらないことが嬉しい。
だけどルリ様は……。
「ルリは大丈夫だよ」
「え……?」
顔を上げると、留美奈の笑顔が映る。
私の不安なんて吹き飛ばしてしまうような笑顔。
「うん、そうよね。私達のルリ様だもんね」
きっとずっと一緒にいたから私の不安なんてお見通しなのよね。
私もルリ様と一緒にいたから大丈夫。
そうですよね、ルリ様。
日も傾いてきた夕方。
玄関のドアの音に気付いて駆けていく。
ルリ様と、一緒に付いてきた銀之助も。
「ただいま」
「ル、ルリ様……」
上手く笑えるだろうか。
ちゃんと話ができるだろうか。
いざルリ様を前にして、緊張してしまう。
だけどルリ様は。
「ただいま、チェルシー」
「……おかえりなさいませ」
私に満面の笑みを見せてくれる。
だから私も笑顔になれる。いつだって。
そして私の隣には、留美奈がいるから。
ようやく見つけた。
私の居場所。
〜以上です。