「お〜い、香月ぃ。居るかぁ?」  
 
ベランダに足をかけながら呼びかけてみる。  
今日は用があっての襲撃だった。  
香月曰く・・・  
 
『今度は上手く撮れそうだから・・・お願いッ!写真撮って!』  
 
だそうな。  
何の気まぐれかは知らないが、勇治も無下に断る事はできなかったわけであって・・・  
 
「しっかし、なんだろな?当の本人が部屋に居なかったら話になんねーよ」  
 
そう・・・問いかけてみたものの反応はナシ。カーテンを開けるも、そこはもぬけの殻だった。  
おそらく部活の後で、友達と談笑しているのだろうと勇治は楽観視した。  
ベランダに居るのもなんだし、香月の部屋に入ってみることにした。  
 
「案外・・・キレイな部屋だったんだな・・・」  
 
いつもふざけてばかりで、部屋の中などよく見たこともなかった勇治はいろいろな所に目を這わせ始める。  
ふいに、目の片隅に止まるものがあった。  
それは、あの小さかった頃の4人の写真だった。  
 
「まだもってやがったのか。この写真・・・って俺も持ってるけどさ」  
 
写真たてごと手にとって眺めてみる。  
その時だった。一緒に挟んでいた手紙がすべり落ちていった。  
ちょうど机の上に舞い落ちた手紙は、ひらがなで「ゆうじへ」と書かれた面を表にして、今の勇治へ見せた。  
 
「ん?・・・俺宛の手紙・・・?」  
 
カサリと乾いた音を立てながら、勇治の手の中にその手紙は納まっていく。  
しばらく時間が経ち、沈黙が訪れた。  
 
「・・・・・・・・」  
 
勇治はその手紙を開けたいという衝動に駆られた。  
シールを丁寧にはがし、中のものをひっぱりだす。  
三つ折りになったそれをゆっくり開いていった。  
 
 
自分でも目を止められなかった・・・・  
 
いびつな子供が書いた文字・・・・  
しかし、そこには愛の文章が踊っていた。  
精一杯勇気を出して書いた文に、勇治は心惹かれていった。  
最後の行まで読み終わり、手紙を閉じようとする。  
しかし、一番下段のトコロに宛名がこう記されてあった。  
 
『だいすきなゆうじへ』  
 
急に胸が締め付けられた・・・・いや、錯覚だった。  
後から付け加えたのだろう、『だいすきなゆうじへ』と同じようにもう一文書いてあった。  
いびつな文字とキレイな字。  
そのキレイな文字は色あせておらず、最近書かれたことを物語っていた。  
呆然と立ち尽くしたまま、動く事ができなかった。  
 
 
「勇治?居るの?」  
 
香月がどうやら帰ってきたようだった。  
ドアを開けながら勇治に問う。  
しかし、当の勇治は反応できなかった。  
耳には入ってるものの、意識はまったく別のトコにあった。  
部屋には夕日が差し込んでいる。  
香月は勇治が手にしているものはまだ知らない・・・・・・・  
 
 

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