「……っ……ふ……んっ……!!」
「……?」
とある日の、真夜中を過ぎた頃。望美は、ドア一枚を隔てた隣の部屋から聞
こえてくる声で目を覚ました。隣の部屋では春香が眠っているはずだが、そこ
から辛そうな声が聞こえてくる。
(……悪夢でも見てるのかな……?)
望美は上半身を起こすと、もそもそと布団から抜け出した。そして、部屋代
わりとなっているクローゼットの戸に近づき、少しだけ開けてみる。首を戸の
隙間から出して、春香の部屋を覗き込んだ。
「――!? ちょ、椿木さ……」
途端、目に飛び込んできた光景に、思わず目を逸らせてしまった。
広いベッドの上で、あの椿木春香が、――喘いでいた。シーツを握り締めて
、背中を仰け反らせながら。情景を目にしてしまうと、それが辛そうな声では
なく切なげな声に聞こえ始める。性的な経験のない――、率直に言えばセック
スをしたことのない望美でも、すぐにそれとわかってしまった。
出来るだけ音を立てないように戸を開け、ベッドの傍へと寄る。間近で見る
春香の表情は、酷く淫らだった。
「一体、どんな夢見て……」
春香の喘ぎに、顔が赤くなる。彼女を見ているだけで、望美の体温が一気に
上昇した。
薄く開いた口からは、絶えず嬌声が零れている。誰かに、抱かれている夢で
も見ているのだろうか、と思った。望美が春香を起こそうか起こすまいかと悩
んでいると、
「――っ、あ……まさ、とぉ……っや……あ……!!」
途切れ途切れではあるが、男の名前が彼女の口から零れ出た。
「……まさと……? って、どこかで……」
いつだったか、どこかで耳にした覚えがあった。少し考え込んだが、すぐに
結論は出た。
『はじめまして。CNB取締役の結城雅人です、よろしく』
望美が入社したての頃だったか、自己紹介をされた、優しげな目元が印象的
な男性。
「……!! 取締役だ……って、当たり前だよねぇ……」
二人は昔恋人同士だったのだから、春香が雅人に抱かれていてもおかしくは
ない。そんな結論に至って、望みは大きく息を吐いた。
しかし、と望美は思う。あれほど敵対心をむき出しにしていた相手に抱かれ
る夢なんて、見るものだろうか。もしかすると、春香はまだ、雅人のことを。
「……何か、嫌だな……そんなの」
ぽろりと口から言葉が零れた。2、3秒してからはっと気付く。自分は、今
、何を言った? 別に、春香が雅人に抱かれている夢を見ていたって、自分に
は何の関係もないはずだ。夢は、個人のものだから。なのに。
「……そんな声、出さないでくださいよ……」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。彼女が夢見ているのが自分じゃないこ
とに、苛立つ。……自分だけを、見ていて欲しい。
「……椿木さんの、バカ……」
望美は呟くと、小さく軋んだ音を立てながら、ベッドの上に上がった。
春香の腰を跨いで馬乗りになると、春香の顔がさっきよりもぐんと近くなる
。薄らと浮かんでいる汗が流れていく様子が、よくわかる。彼女の匂いもきつ
くなって、一瞬クラリとした。
「んっ……あ、雅人っ……だ、め……そこ、じゃ、な……!!」
耳に届くあえぎ声が、甘い痺れとなって望美の耳を伝う。眠っているくせに
艶かしい表情が、ぞくぞくと何かを駆り立てる。
(全部、椿木さんが悪いんだから……)
彼女が起きても、その時はその時だ。意を決して、望美はそっと薄く開いた
春香の唇を奪った。
「んっ!! う、ん……ふ、あっ」
厚ぼったい唇を啄ばむと、今までで一番甘い声が聞こえた。実際にするのと
は違うのだろうか。そんなことを思いながら、舌をそっと差し入れた。
経験のない望美にとって、ディープキスは未知の領域だった。どう動かせば
いいのか解らず、適当に動かしてみる。
少しの間動かしていると、じれったくなったのだろうか、春香の舌が望美の
それに絡み付いてきた。扱き上げるようなその動きに、腰の辺りから何かが這
い上がってくる。
「んんっ!! ふ、う……」
自分がしていたはずなのに、逆に主導権を握られた。良いように口内を嬲ら
れて、気持ち良いけれど少し悔しい。仕返しとばかりに、片手でバランスを取
ると、右手をそっと春香の胸に置いてみた。あまり大きいとはいえない胸は、
服の上からでもすっぽりと望美の手のひらに収まった。軽く指を動かすと、ぴ
くんと春香の体が跳ね、唇が離れる。
(きもちいい……のかな?)
少しぼんやりとし始めた頭で、考えた。もう一度指を動かすと、また同じよ
うに体が跳ねた。手のひらで揉んでみると、背中が仰け反って、甘い声が零れ
だす。
「あ!! ん、ふっ……あっ……あ、あ……」
望美が手を動かすのと一緒に、春香は声を零す。夢の中では雅人に抱かれて
いるのだろうが、その名前が出てこないと、少し嬉しい。自分が、声を出させ
ているのだと思うことが出来た。
少しの間揉んでいると、手のひらに固い物が当たり始めた。胸から手を外し
て見ると、豆電球の光に照らされて、胸の先端がゆるやかに突起を描いている
のがわかった。
(……、固く、なって……っていうか……付けて、ないんだ……)
その影のできかたからして、春香がブラジャーを着けていないのは一目瞭然
だった。寝るときに外しているのだろう。この服の下がどうなっているのかが
気になって、望美は服の裾に手を掛けた。そのまま、ゆっくりと上へたくし上
げていく。
「ぬ、脱がせ辛い……よいしょっ……と」
いくら彼女の着ているものが首周りの開いた服だといえど、やはり脱がせ辛
い。少し苦労して首を通して服を脱がせると、望美は小さく息をついた。
薄く上下する胸。その中心は少し色素が沈着しているのだろうか、それとも
豆電球の色合いの所為か、茶色味を帯びていて、小さめの乳輪はぷっくりと膨
れ上がっている。そっと触れてみると、そこにはこりこりとしたしこりのよう
なものが出来ていた。
先端……乳首は痛そうなほどに固く勃起している。
「あ……ひああっ!! んあ、ふぁ……っ」
そっと指先でつまんでみると、春香が悲鳴にも似た声を上げた。痛かったの
だろうか、と顔を覗き込むと、彼女は痛い、というよりも気持ちよすぎる、と
いう感じの表情をしている。
目を閉じているのが勿体無い、と思った。まっすぐな瞳が快感に揺れるのを
見たい、と思った。自分だけを見て欲しい、と。
そして、どうしようもなく、この人の心が欲しいと、思ってしまった。
気付いてしまえば、それはもう疑いようもない感情だった。
(……あたし、は)
椿木春香が、好きだ。どうしようもなく。よりによって、こんなことをして
いる最中に気付くなんて。望美は手を止めて、まっすぐ春香を見つめた。
唇から零れ落ちる声も、しなやかに揺れる体も、彼女の見ている夢さえも、
全てを自分のものにしたい。
(起きてほしいけど……起きてほしくない……)
知ってほしいけれど、知られたくはない。もし今起きられたら……と考える
とぞっとする。でも、今だけは彼女を独り占めしたかった。
「……椿木さん……ごめんなさい、もう少しだけ……させて下さい」
きっと届いてはいないだろう謝罪を口にすると、望美はもう一度胸に手のひ
らを乗せた。
「あっ……んああ……ふ……っく……あ!!」
少しきつめに胸全体を揉むと、そのリズムに合わせて、春香が体を震わせな
がら喘ぐ。揉むのを止めて滑らかな肌を撫でると、背中を仰け反らせて溜息の
ような声を上げた。
脇腹のほうに指を滑らせると、体の震えがびくびくと小刻みになる。胸の下
から腰の辺りを往復させると、また、背中が仰け反った。
(撫でられるの、好きなのかな……)
そんなことを考えながら、指をズボンのボタンへと伸ばした。ボタンを外し
てジッパーを下げる。ウエストに指をかけて膝下まで引き摺り下ろすと、下着
が露出した。白いレースのそれに、陰毛が薄く透けている。丘のようになった
部分を軽く押すと、春香が耐え切れないとでも言うかのように腰を揺らした。
「んっ……雅人……早くして……おねが、い……」
実際にそうらしく、夢の中でも雅人に乞うている。……まだ、夢の中で彼に
抱かれているのか。ならば、彼女に言われるままにし続ける必要はないだろう
。自分は、雅人ではないのだから。
(それに……最後まで、なんて無理だし……)
自分は、男ではないから。もし、最後まで、なんてことになったらどうしよ
うもない。彼女がそのまま夢の中で抱かれているのを放って夜が明けるのを待
つか、彼女を起こして普通に眠ってしまうか、の二択しかないのだから。
「……触って……ねぇ……」
考えている間にも、春香は続きをねだってくる。望美は春香を見ると、はあ
とため息をついた。
(もう、いいや……)
ここにきて、望美は何もかもを吹っ切った。吹っ切るというよりは、諦めた
といったほうが近いかもしれない。下腹部のふくらみに添えていた指を、下へ
とずらしていく。秘所を覆う部分は既に濡れて、周りよりも色が濃くなってい
る。指先でそこを引っかくと春香の体が跳ね、そして零れだした液体でまた下
着が濡れた。
(うわ……すごい濡れてる……)
軽く触れた指先が、ジワリと湿る。もう一度、今度は強く押し付けると、薄
布を通して溢れ出た液体で指先が濡れた。もし直接触れるとしたら、そこはど
うなるだろうか。望美は創造して、自分の奥がきゅう、と収縮したのを感じた
。
(あたしも、濡れて……る)
じわり、と自分のそこから液体が溢れるのが手に取るようにわかる。望美は
、飛鳥を愛撫しながら感じていたのだ。そのことを悟った瞬間、全身に寒気に
も似た感覚が襲ってきて、望美は熱っぽく息を吐いた。
「ま、さと……早く、きて……あたし、もう……」
春香が夢の中で雅人に続きをねだっている。彼女の夢の中の雅人は、望美と
連動しているらしい。望美はもう一度息を吐いて、春香の下着に手を掛けた。
引き下ろして彼女の足から下着を抜き去ると、くしゃくしゃになったそれをベ
ッドの外に置く。本当のところ、その辺に放り投げようかと思ったのだが、も
っと後のことを考えると何だか恥ずかしくなって止めた。
望美は一旦春香の上から退くと、自分のスウェットに手を掛けて、一気に脱
いだ。下着もためらうことなく脱ぎ捨てて、また春香の上に戻った。
「お願い……早く……して」
春香は股を擦り合わせながらその時を待っている。少しだけ曲げられた両膝
に手を置いてゆっくりと割り開くと、彼女の匂いがぐんと強くなったような気
がした。股の間に自分の腰を割り込ませて春香の秘所に自分のそこを近付ける
と、二人分の体温でそこだけがじわり、と熱くなる。
「……いきますよ……椿木さ、ん」
口の中で呟くと、望美は秘所を擦り付けた。途端、背筋を電流のように駆け
抜けた快感に、望美は背中を仰け反らせる。
(何、コレ……!! 気持ち、いい……っ)
たった一度だけだというのに、もう絶頂に達しそうだった。秘所の堅く尖っ
た部分が、さっきの快感を微かに残している。
「んっ……あ、んんっ……あああっ!!」
何度も同じことを繰り返すと、快感が波のように望美に襲いくる。眠ってい
る春香を相手にしているということなどお構いなしに、望美は声を上げて喘い
だ。
-春香視点-
(気持ちいい……)
春香は、じわじわと襲いくる快楽に完全に身を任せていた。自分の善いとこ
ろに触れてくる雅人の指の動きが緩慢でもどかしい。普段なら絶対に言わない
言葉が、欲求のままに口からこぼれだす。
「ま、さと……早く、きて……あたし、もう……」
我慢できない。その言葉を口にする前に、雅人は春香の上から退いていた。
ズボンと下着を脱いでまた上へと戻ってくる。
(やっと……入ってくる……)
膝に、雅人の手が掛かる。ゆっくりと割り開かれると、雅人の目に映ってい
るであろう自分の秘所がまた、じわりと濡れた。雅人の腰が割り込んできて、
秘所に近づく。だが、雅人のものは当たらない。じわりと、そこが熱くなるだ
けだった。
(え……? 何、で)
たってないのよ、と言おうとすると、耳に小さな声が届いた。
『……いきますよ……椿木さ、ん』
それは、目の前の男の声ではなく、自分のアシスタントの声だった。どこか
うっとりとしたような彼女の言葉を理解した途端、今までのそれが夢だったこ
とに気付いた。目の前から雅人が消えて、そして周りが暗くなる。雅人はいな
いのに、下腹部のじわりとした熱さは消えない。
(……!? 飛鳥さん、あなた何して――)
思考が追いつかない。ゆっくりと目を開けると、そこには自分のアシスタン
ト――飛鳥望美の顔のどアップがあった。どこか虚ろな目に、自分の驚いた顔
が映っている。まさか、どうして。回転速度の上がった春香の思考回路はよう
やく、望美がこれから行おうとしている行為を認識した。
だが、その事に気付いたのが遅かった。
「んっ……あ、んんっ……あああっ!!」
望美が春香の秘所へ自分のそこを擦り付けて、一度小さく仰け反る。その彼
女の表情からは、もう快感しか見えない。何度も擦り付けられると、その内に
春香にも心地よさが押し寄せて、思わず息を吐いた。
(……まだ、寝てるって思ってるの? ねえ、飛鳥さん)
今ここで、自分が彼女に声を掛けたらどうなるだろう。彼女の名前を呼んだ
ら、どんな反応をするだろう。気持ちよさで僅かにぼやけた意識で考える。
(……するなら……最後までやってよね……!)
一定の間隔で押し寄せる快感に小さく声を上げながら、春香の思考は結論に
至ったのだった。彼女が気付くまで、抱かれてやろう、と。
「――っ、ん……はぁ……っあ……」
陰核が擦れるたびに、電流のように快感が背筋を抜ける。指でされるのとは
また違う感覚に、意識がどこかに飛びそうになる。もっときつくして欲しい、
と思うのだが、やはりそれは恥ずかしくて口にできない。春香はただ、単調な
刺激を受け入れながら、望美の声を聞いていた。
しばらく単調な行為が続いたが、ふと望美の動きが止まる。
(……? 何、もう終わり?)
物足りなさから、少し恨めしく望美を見やると、彼女の頭がだんだんと下へ
下がっていくのが見えた。されるであろうことが薄らと予想できて、つい目が
真ん丸くなる。
(初めてっぽいのに、そこまでする? 普通……)
完全に落ちている、と春香は思った。望美が自分の様子を窺うことなく行為
を進めているという時点で、もう体しか見えてないのだろう、と察することが
できる。十歳も歳の離れた、しかも女の子に抱かれている、ということに何故
か今更思い至り、情けなくなった。止めることもできるのに、それをしようと
しない所で、自分もこの行為に溺れているのだ、と実感する。
春香が色々考えているうちに、望美の指は陰毛に触れていた。やわやわと撫
でられて、それだけで腰が浮きそうになる。
「んっ……ふ、あ……」
どこで覚えたんだか、そんな皮肉を心の中で言いながら、快感に声をあげた。
軽く触れていた指が、不意に下へと滑る。その指が陰核を掠め、春香は急に
訪れた快感に背中を仰け反らせた。声も出ない位、気持ちいい。その快感に浸
るのもそこそこに、次の刺激はやってくる。どろどろになっているであろう割
れ目に、指が触れた。何度もそこをなぞられて、体が小刻みに震える。小さく
立てられる水音に、顔が熱くなった。
「んんっ……はぁ……んっ!!」
意識してかせずか、時折指が陰核に触れる。その刺激はなぞられるよりも強
く、鳥肌が立つような感覚すら覚えた。自分の中から、液体が溢れ出している
のがわかる。きっと、それは望美の指を濡らし、シーツに染みを付けているの
だろう。
自分の、で指を濡らしている望美を思い浮かべて、ぞくりとした。淫らな顔
をした彼女が自分のそこを慰めているシーンは、酷くエロティックで、また液
体が溢れ出す。
立てられる音が少しだけ大きくなって、春香は更に顔を赤くした。
自分でするのとは違う的外れな快感が、逆に心地いい。粘ついた水音が、耳
を突く。その音にさえ感じきっている自分を、厭らしいと思う。腰を揺らして
もっと、とねだっている自分を、淫乱だと思う。それでも、快感に太刀打ちし
てまでそんな自分を消そうとは、思えなかった。
「……ふ、あっ……ん、あ……」
腰を貫ける快感に、涙が滲む。求める声にすら、泣き声が混じりだした。指
を入れて欲しい。中に、入ってきて欲しい。男のものとは比べ物にならない位
の細さでも、よかった。早く、中をめちゃくちゃにして欲しかった。
そんな春香の願いが届いたのか、それともただ次に進もうとしただけなのか
、望美の指が浅く春香の中心に差し込まれた。
「んんっ!! あ、はぁ……っ!!」
そのまま、ゆるりと壁を擦られる。待ち望んだ刺激が、体中を巡っていく。
入り口で浅く抜き差しされるだけで、それだけで、達しそうになった。たった
一本の、――それも華奢な女性の指で。
フェードアウトしそうな意識を必死で捕まえながら、春香は思う。どうして
、雅人としていたときよりも、善いのか、と。雅人となら、指ぐらいでは物足
りなかったはずだ。雅人自身が欲しくて、もっと腰を揺らしていたはずだ。な
のに、今は。
(も、いきそう……っ)
入り口を浅く擦られるだけで、目の前に火花が散るような錯覚を覚える。限
界が近いのだということを悟って、春香は更に腰を揺らして指を奥へと誘い込
んだ。中を擦っていく指が、溢れた液体で濡れてどんどんと奥に滑ってくる。
「は、あ。ふ……んっ」
中をかき回されると水音が一層激しくなって、それだけで快感が増した。指
先で内壁を引っかかれると、背中が仰け反るほどに善い。もっと乱暴にしてく
れてもいいのに、と思いながら、春香は極みへと上り詰めていく。